【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
朝から始まった戦艦救出作戦は、太陽が真上からやや傾きを見せた頃に終わった。
これが夜ならばそのまま寝たいところだったが、まだ明るいのでそんな気分でもなく、生き残った者たちはただただ疲労で座り込んでいた。
毎日あれだけの訓練をしている者たちが、この短時間でここまで疲れきっているのだ。それだけの激戦だったといえるだろう。
亀裂から出たアンシュラオンとガンプドルフは、すでに地上にいる戦艦部隊と合流を果たす。
「メーネザー、よくぞ無事に脱出してくれた!」
「はっ、閣下もご無事で何よりであります!」
「ナージェイミアはどうだ?」
「脱出の際の戦闘で損傷した箇所もありますが、通常運行は可能となっております」
「なんとか上手くいったか。詳細報告は落ち着いてからでかまわないが、死傷者の特定は最優先で頼む。できるだけ遺品も回収したいからな」
「了解しました」
蜘蛛との遭遇および今回の戦闘で、戦艦側では十八名が死亡。ガンプドルフ側の死者は十四人。蜘蛛での奇襲で死んだ者たちを加えると、二十三名。
合計で四十一名が死亡となる。
負傷者はアンシュラオンもいるので時間をかければ全員治せるが、すでに死んだ者についてはどうしようもない。人員の補充が難しいDBDにとっては手痛い被害だろう。
だが、本来ならば半数の二百五十人以上の犠牲を想定していたのだ。これだけのハプニングで死者がたったこれだけであることは、逆に奇跡的。軍事的には大成功である。
その立役者は、当然あの男。
「あの御仁が、アンシュラオン殿ですね」
メーネザーがアンシュラオンを見る。
誰もが疲れている中、彼だけはピンピンしており、女性たちとの再会を喜んでいた。
彼女たちの安全確認が終わると、今度は鬼怒獣の死骸をこねくり回してもいる。どうやら使える部位がないか調査しているようだ。
アンシュラオンにとってこの程度の戦いは普通。日常茶飯事でやっていたことなので疲労はまったくなかった。せいぜい軽いジョギング程度のものだろう。やはり規格外だ。
「不謹慎な物言いになるが、少年を見ていると真面目にやっているのが馬鹿らしく思えてくるな。良い意味で犠牲を嘆く気持ちが湧いてこない」
「おっしゃりたいことは理解できます。物の価値観がだいぶ異なるようですね。我々も戦争でだいぶ鍛えられたと思っていましたが、まだまだ若輩者だったようです」
戦争では文字通り、万の屍を踏み越えてきたが、アンシュラオンはその何百倍も踏み越えていると思われる。
だから死生観そのものが違うし、殺すことも殺されることも当然の権利として受け入れている。
むしろ死を愛しているかのように優しく抱きしめる姿は、生物を超越しているようにさえ思えた。
「しかし、それこそまさに英雄の器。いや、【王の器】でしょうか。閣下が気に入られるのも当然かと」
「私は今日のことで確信した。彼こそ聖剣王国を救う太陽だとな。異論はあるか?」
「これだけの成果を見せられれば異論などありません。騎士たちも彼のことは尊敬し、畏怖するでしょう。ただし共闘する場合は、指揮系統を分ける必要があるようです」
「好き勝手やらせたほうがいい、ということだろう?」
「ええ、あまりに規格外です。あの女性たちも侮るわけにはいかないようです。侮った結果がこれです」
そう言って、メーネザーは破壊された甲板に視線を向ける。
「これは…また随分と派手にやったな」
「あの黒い少女がやったものです。魔獣を倒すためとはいえ危ういところでした」
「サナの仕業だというのか? …末恐ろしいものだな」
戦艦自体は無事だが、サナの黒雷によって外装の損傷が激しい。それが攻撃によるものならばまだしも、彼女はまとった黒雷を制御しようとしただけなのだ。それでこの被害である。
強いがゆえに、アンシュラオンともども扱いにくい側面があるのは事実だ。出会ったばかりのメーネザーも、いきなり身をもって味わうことになったが、付き合う前に理解できたことは幸運だろうか。
そこに当人のアンシュラオンがやってくる。
「おっさん、『掃討戦』のことなんだけど、少し待ってくれるかな。ここの蜘蛛を全部殺したくないんだよね」
「蜘蛛は敵だろう? しかも術式の影響で凶暴になっているはずだ。放っておけば亀裂から出てきて、また襲われてしまうぞ」
脱出したとはいえ倒したのはあくまで一部であり、大空洞内部にはいまだ多くの蜘蛛が残っている。正確な数はわからないが、カーモスイットだけでも五万以上はいるだろう。
どのみち水場の調査もあるので、DBD隊はしばらくここに滞在する必要がある。そうなるとやはり蜘蛛が怖い。できれば完全に倒してしまうのが一番なので、順次掃討戦を展開する予定だったのだ。
「女王がいなくなった蜘蛛は、完全に統制を失っていた。戻る時はほとんど襲ってこなかったでしょ? きっと混乱しているんだと思うよ。今すぐの危険はないはずだ」
「たしかにな。しかし、奇襲された側としては放っておくのは怖いぞ」
「それについてはオレが対応するよ。このまま亀裂を命気で塞いでおけば出てこられないからね。試したいこともあるし、オレに任せてくれないかな」
「何をするつもりだ?」
「一番奥に大きなジュエルがあったよね。あれを利用できないかなって考えているんだ。今までは人間に敵意を持たせるように作られていたけど、オレが女王にやったように違う感情にすり替えることができるかもしれない」
「逆に人間側に好意を持たせる、ということか?」
「そこまでは難しくても、落ち着かせることはできると思うんだ。もう少し解析してみないとわからないけど、やってみる価値はあるよね。もしそれが駄目でも試したいことがあるんだよ」
「ふむ、何か考えがあるようだな。私はかまわないが、ミーゼイアにはすぐに迎えに行くと言ってしまったぞ。あいつはAIのくせに、なかなか根に持つやつだ。遅れると何を言われるかわからん」
実はゴールドナイトは、エネルギー切れとオーバーヒートで機能を停止して大空洞内部に放置されている。
あの時ガンプドルフが外に出てきたのは、べつにハイタッチをするためだけではない。単純に機体がもう動かなかったのだ。
そのため仕方なく置いてきたのだが、「蜘蛛に喰われたら祟る」「絶対に喰われるから置いていくな」と散々文句を言われたので、すぐに迎えに行くからという条件で渋々残ってもらったというわけだ。
戻る際にアンシュラオンの命気球で包み、さらに命虎を五頭ほど護衛に付けているので安全だが、ミーゼイア自身は不満に思っているだろう。
文句を言う機械兵器。それが魔人機なのである。
「魔人機はオレがトラクターを持っていって引っ張ってくるよ。今から行けばそう時間はかからないさ」
「今すぐに亀裂に入るのか? 元気すぎるだろうに。私などフラフラだぞ」
「だからおっさんはここに残って、戦艦の指揮を執ってほしいんだ。まだ明るいし、他の魔獣だってこのあたりにはいる。安全には気を遣うべきだよ。オレは単独で動いたほうが気楽だから何も問題はない。どうかな?」
「少年がそれでよいのならば任せる。目的はギアス用のジュエル回収なのだろう?」
「バレたか。最深部はいつ陥没するかわからないし、早めに地盤の補強を行いたいんだよね。巨大ジュエルはもちろん、女王や大きな赤い蜘蛛の死骸も調べて使えるものは取り出しておきたいのさ。あれは絶対役立つっていう確信があるんだ」
「それならば逆にお願いしよう。我々も地盤の調査がしたいからな。だが、女性たちの傍にいないでいいのか?」
「サリータが寝込んでいてサナも付きっきりだから、今のところは放っておいてもよさそうだね。それに女性ってのは輪を作って群れるもんさ。もうチームワークが出来ているから大丈夫だよ。そんで、男は稼いで女性に貢ぐものだ。稼ぎがないと怒られちゃうよ。それじゃ、さっそく行ってくるね。いやー、楽しみだなー!」
アンシュラオンは死にそうな顔をしている騎士たちを尻目に、意気揚々と再び大空洞に入っていった。
まるでお宝探しに行く探検家、あるいは盗掘屋だ。目が輝いている。
「安全確保でも…いたしますか」
「そうだな。私も少年が作ってくれた風呂にでも入るとしよう。このまま倒れては指揮も執れないからな」
アンシュラオンを見ていると休む暇さえ惜しくなる。
嘆く時間などない。常に前に進み続けた先に成功と繁栄があるのだ。
∞†∞†∞
四日後。
DBD隊は、引き続き亀裂にとどまって調査を続けていた。
この間にさまざまなことが判明したので順次報告していくとしよう。
まずは意識が戻ったサリータを全裸の状態にして、隅々までチェックする。
「し、師匠!! く、くすぐったいです!」
「我慢しろ。いろいろと調べているんだ」
「は、はい……うひぃっ!」
「おっと、すまん。ついつい股に手がいってしまった。ここは大丈夫か? 中は無事か? あぁん?」
「ぶ、無事です! うふううううっ!」
「ふーむ、大丈夫そうだな。脳や臓器は無事。神経も筋肉にも異常はない。病気もないし精神干渉の痕跡も消えている。むしろ健康体だな」
サリータの身体に異常はなかった。まったくの健康体だ。
ただし、今までとは明らかに異なっている点がある。
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名前 :サリータ・ケサセリア
レベル:40/99
HP :1580/1580
BP :630/630
統率:D 体力: C
知力:E 精神: D
魔力:E 攻撃: E
魅力:D 防御: C
工作:E 命中: E
隠密:E 回避: F
【覚醒値】
戦士:3/5 剣士:2/5 術士:0/0
☆総合:第七階級
異名:サナ・パムの戦友
種族:人間
属性:火
異能:炎の体育会系、絶対忠誠心、熱血、護衛、身代わり、中級盾技術、物理耐性、即死無効、黒姫の騎士、白き魔人の騎士
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「サリータ…」
「は、はい、なんでしょう!」
「がんばったな…本当に」
「し、師匠! 泣いておられるのですか!! そ、そんなに泣かれたら…うう、じ、自分も……うぉおおーーーーんっ!!」
これを見た時の衝撃は今でも忘れられない。
感動して、思わず涙が溢れるほどであった。
(こんな不器用な子をよくぞここまで…本当にすごいよ。オレってすごい。よく見限らなかったよな。がんばったぞ、オレ)
違った。自分の努力に対して泣いていた。
(しかし、これはもう疑いの余地がないよな。薄々どころか、もう間違いない。オレと深く関わった人間は性能が強化されるんだ。もっと言えば【普通の人間じゃなくなる】のかもしれないな。どう考えてもあの時のサリータは『魔人種』になっていたからね)
エメラーダとの話で、魔人因子は(例外を除き)誰にでもあることがわかっている。
問題は、その覚醒率だ。
常人がどんなにがんばっても、どんな薬物を摂取しても、この因子が覚醒する確率はゼロに等しい。仮に覚醒しても微々たるものだろう。
一方で本物の魔人であるアンシュラオンに接すると、その覚醒率は跳ね上がる。
実際に触れて賦気を施されたり、命気や体液が体内に入ったりとさまざまな要素が考えられるが、最大の要因は―――【愛されるかどうか】
使い捨ての戦罪者は黒いオーラが出て強化はされたが、あそこで殺されなくても自壊して死んでいたはずだ。あれはオーバーロード〈血の沸騰〉と同じなので、因子の限界を超えて強化された人間は、いずれ死ぬ運命にある。
がしかし、サリータに後遺症はない。それどころか力を増したまま元に戻っている。
(人間自体、すべての因子が解放されることを想定しているようだから、理論上は誰しもが『デルタ・ブライト〈完全なる光〉』を持っていることになる。ただ、これも魔人因子と同じく使いこなすことが難しいようだ。その両方を持っているオレの影響を受けるとこうなるってことかな? まあ、あの『影』が一枚噛んでいるところが怪しいけどな…)
ともあれ、サナですでに実証されていたので、サリータが強くなることは想定していたことだ。強くなって損をすることはない。大いにありがたいものだ。
ステータスは順当に強化されているのでいいとして、やはりスキルに目が移る。
追加された『黒姫の騎士』は、サナと一緒に行動すると能力が向上するスキルだろう。
最後の『白き魔人の騎士』は、あの白く魔人化した姿のことだろうか。ただ、こちらも多少の予想はつく。
(要するにラブヘイアみたいな感じってことなのかな。一時的にオレや姉ちゃんの力が流れて、ああいった状態になる現象だろう。まあ、姉ちゃんがあいつを愛することは五億パーセントありえないから、捨て駒は確定だけどね。あんなやつにサリータが負けるもんか。絶対にあの変態より強くしてやるからな)
「サリータ、これからも頼むぞ」
「はい! がんばります!」
サリータの返事にも、今までの気合だけとは違う『自信』がわずかに含まれていた。
まったく自信がなかった彼女だからこそ、慢心の恐れはまだないだろう。ここは素直に自信にしてほしいものである。
能力値だけを見れば、マキと大差ないレベルにまで至っているのが成長の証である。多少劣った面も見られるが、もともとサリータは防御型の武人であり、重装備を身に付けられることも重要な相違点だ。
これによってアンシュラオンにも希望が見える。
(サリータでもこれだ。才能がなさそうな女性でも鍛えれば強くなれるんだ! オレの計画がさらに捗るぞ!)
女性の武人は弱いという風潮こそが、一番の懸念材料だったのだ。その解決の糸口が見えたのだから、それはもう大喜びだ。
使い捨てのスレイブの男たちもそれなりに鍛えれば、DBDの兵士役くらいにはなるだろう。魔人の兵、なかなかに興味深い「商品」だ。戦力補充を切望するDBDには高く売れるに違いない。
だが、勝者に与えられる褒美は、こんなものにとどまらない。