【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
サリータとくれば、次はサナの番だ。
ただ、一目見た時から何か違和感があった。
いや馬鹿なそんな!
まったくもって―――
「か、可愛い!!」
もう出会って半年以上は経過しているので、今ではだいぶ見慣れた彼女だが、今はやたら可愛く見える。
出会ってすぐに一目惚れしたくらいだ。もともと顔の造りも好みだし、美しい黒髪に浅黒い肌、柔らかい身体、身長も低いので申し分ない。
しかし、そういった外見では表せない魅力もひしひしと伝わってくる。心底から愛情が溢れ、「可愛い」と思えるのだ。
ありえないくらい可愛い。怖ろしいほど可愛い。おかしいほど可愛い。その全部がとにかく可愛い!
「サナちゃんっ!! かわいいぃいいいいいいいいいいいいいい!」
と叫び、抱きついたのは言うまでもない。
「可愛いねぇ、可愛いねぇ。すりすりすりすり」
「…ぎゅ」
「あぁーん、お兄ちゃんをぎゅっとしてくれるの? 嬉しいなぁ!」
「………」
相変わらずサナの表現は乏しいものの、抱きつくアンシュラオンの服を握っているので、彼女も嫌がってはいないことがわかる。
(なんだ? なんでサナがこんなに可愛く見えるんだ? 出会った頃から美少女でオレ好みだったのは間違いないが…ああ、やっぱりサナが一番なんだよな。うん、そうだ。サナが一番だ)
「サナ、話には聞いたけど『黒い雷』が出たのか?」
「…こくり」
「あの時の黒い雷狼の力が出たんだろうが…大丈夫か? 身体に異常はないか? 魔石は無事か?」
「…こくり」
サナも全裸にしてチェックしてみたが、サリータ同様に異常なし。完全なる健康体である。
「気のせいか、肌がさらに綺麗にきめ細かくなったような…ぷにぷに、ぷにぷに。すごい! 手が気持ちいいぞ! お尻も可愛いなぁ。ねぇ、お兄ちゃんにも尻尾見せて! 見せて!」
「………」
「耳は!? 猫耳は!? ねぇ、ネコミミは!?」
「………」
「うぉーーーん! なんでオレはあの時にいなかったんだぁああああああ!! 女王蜘蛛なんて後回しでよかったのに!! うおおおおおおおおお!」
サリータから話を聞いた時は狂喜乱舞したものだが、一方でその場にいられなかったことが心底悔やまれる。
彼女も意図してその状態になれるわけではないため、次はいつ見られるのか不明だ。仕方ないのでサナの可愛いお尻を撫で回すしかないが、その姿は完全に変質者である。
ちなみにネコミミではなく犬耳だ。いや、狼耳だろうか? まあ、どちらでも可愛いことには変わりない。
若干しょんぼりしながらサナに『情報公開』を使用すると―――
―――――――――――――――――――――――
名前 :サナ・パム
レベル:42/125
HP :990/990
BP :400/400
統率:D 体力:D
知力:D 精神:D
魔力:D 攻撃:D
魅力:A 防御:E
工作:D 命中:C
隠密:D 回避:D
【覚醒値】
戦士:3/7 剣士:4/7 術士:2/7
☆総合:第六階級
異名:白き魔人に愛された意思無き闇の少女
種族:人間
属性:雷、闇
異能:トリオブスキュリティ〈深遠なる無限の闇〉、エル・ジュエラー、観察眼、天才、早熟、黒雷強化(未完)、即死無効、闇に咲く麗しき黒花、黒き魔人の姫
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「サナちゃんは、どこに向かってるのぉおおおおおおおおおおお!!?」
サナもしっかりと強化されてました。
HPの低さは子供ゆえに仕方ない面があるが、能力は全体的に向上し、因子レベルも上昇している。限界値も5から7に上がっていた。
もう統率に至っては、兄が足元にも及ばないレベルに高くなっている。魔石でさらに+1されるため、実質Cだ。永遠に追いつけないかもしれない。
その結果、第七階級をすっ飛ばして第六階級にランクアップ。
(今までの流れの通り、バランス良く向上している感じだな。ここで止まっていれば器用貧乏と呼ばれるかもしれないが、まだまだ発展途上だ。このまま全体的に高くなれば相当な武人になるかもしれないぞ)
武人の特徴は数字だけでは測れないものもあり、特にサナはスピードに関しては現段階でも高いレベルにある。魔石が加われば一流の武人にも匹敵する。
もし仮にすべての因子が最大値の7になれば、もはや『超人』の仲間入りも夢ではない。魔戯級以上になれる可能性がある。
そして、サナにも『黒き魔人の姫』のスキルが追加されていることに注目だ。
実際に見ていないのでなんともいえないが、サリータを凌ぐ成長っぷりなのだから何かしらあったのだろう。ともあれ「姫」であることは重要だ。響きが良すぎる。
(サリータが騎士ならサナは姫か。こんなに可愛いんだもんなぁ! 姫は当然だよな! ほんと可愛いよ!)
サナを抱きしめ、その温もりに酔いしれる。
ただ、やはり彼女は『黒』のままだ。
(なんでサナは『白』じゃないんだろうな。もういいや。考えるのが面倒くさい。強くなったなら、それでいいじゃないか。うん、そうだよな。すごいすごい、サナちゃんはすごいよ。それでいいんだ)
「サナちゃんはオレの可愛い妹だもんな!! 強くていいんだよ!! ちゅっちゅっ」
「…むぎゅ」
「鬼獣のボスも倒したんだって? いいね、いいね! すごいぞ、サナ!」
「…こくり! ぐっ!」
「可愛いぃいいいい!」
手をぐっと握り締めるポーズも可愛い。全部が可愛い。可愛いのは正義だ。
ということで、万事解決である。
思えば、あれだけの数の蜘蛛や鬼怒獣と戦ったのだ。レベルが上がらないほうがおかしい。しかもグァルタを討ち取ってもいる。大金星であった。
ここで少し補足すると、戦闘経験はすでにサナのほうがサリータより上だが、両者のレベルはほぼ同じになっている。
このことからレベルアップに必要な経験値は、「この魔獣を何匹倒す」という単純なものではなく、各人それぞれによって定められていることがわかる。
もっとも大切なことは、同じレベルアップでも結果に違いが出ることだ。
たとえば下位の魔獣を何千匹も倒してレベル四十になるのと、強い魔獣と死に物狂いに戦って四十になるのでは、成長度合いがまったく違うのは自然なことだろう。
それだけ死力を尽くしたのであり、生と死の狭間で因子が刺激されて、さらに力を引き出す結果になる。同じレベルであってもサナのほうが、ぎゅっと経験が濃縮されているということだ。
そして、アンシュラオンがサナに対して今まで以上の魅力を感じているのは、彼女が『魔人に近づいた』からである。
人間が哺乳類に愛情を感じるのは、それが霊的に近しい存在だからだ。犬や猫といったペットになればもっと愛情を抱き、逆に遠ざかって鳥や爬虫類、魚類になっていけば薄れていく。
それと同じように魔人因子が覚醒すればするほどアンシュラオンは親しみが湧き、サナがもっともっと可愛くなる。そうしてさらに愛情を注げば、またサナが魔人に近づき、もっともっと好きになる。これが永遠に繰り返される。
なんとも怖ろしいことが着実に行われているわけだが、その危うさと凄さにまったく気づかないアンシュラオンも大概である。
だが、これでいい。
意思すらなかった彼女が世界を見返してやるためには、これくらいのことがなければいけない。
話は変わって、この四日間で得られた新情報をお伝えしよう。
まずは亀裂内部の調査の話だ。
蜘蛛との決戦があった日、アンシュラオンは再び大空洞内部に入った。
生き残った蜘蛛の様子を探ると凶暴性はかなり抑えられており、人間が目の前にいるからといってすぐに襲ってくることはなかった。
これは女王討伐の帰路でも同じだったので、『統率者に従う』という彼らの習性が色濃く出ているといえる。
(女王が死んだ影響は大きかったな。もともと虫型だから感情が強いわけでもない。いくら憎しみを植えつけられていても、統率者がいないと積極的には動かないんだ。良くも悪くも眷属ってことだ)
次にアンシュラオンは第八階層に行き、女王蜘蛛の死骸から素材を集める。
激しい戦いだったが身体が大きかったこともあって、いくつか良質な素材を手に入れることができた。
その中でまっさきに狙っていたものが『心臓』だ。
ガンプドルフがとどめを刺した時に狙った心臓は、あの巨大ジュエルを噛み砕いて彼女の中で再生成されたものであり、似ているが違う石として生まれ変わっていた。
(精神系の魔獣が体内で再生成したジュエルは、もちろん『精神適合』したジュエルに決まっている。汚染もない。確実にギアスに使える!)
情報公開で見た限り、超良質な精神媒体として扱えることがわかった。
ガンプドルフの攻撃によって半分は消し飛んだが、サナと同じ魔石のサイズにしても千人分は軽く用意できる量が残っている。
ついにギアスに向いたジュエルを見つけたのだ! こんなに嬉しいことはない。
だが、それも当然。今のアンシュラオンに裏の事情はわからないが、あの巨大ジュエルは魔獣や人間を管理するために超大国が設置したものであり、それを魔王たちが奪って封印に再利用したものだ。
オリハルコンさえ大量に持っていた超大国が最初から精神制御用に作ったのだから、それが精神に向いているのは自然なことだ。
ただ、女王蜘蛛を倒さねば入手は不可能だったため、やはり討伐が正しい選択だったのだろう。あくまでこちら側からすれば、だが。
(素晴らしい。まだ実験は必要だが、最低でも千人にギアスをかけられるってことだ。これは重要人物に使うものとして大切に使おう。さて、次は『眼』だ)
続いてアンシュラオンは、女王の『眼』を探す。
襲撃を受けたあと、アンシュラオンは蜘蛛の皮を被っていたわけだが、その間に蜘蛛の身体の構造や部位に関して調査を行った。
結果、蜘蛛は心臓よりも眼に力が集まるらしく、死後は眼が結晶化することがわかった。(心臓も結晶化するが眼ほど重要ではない)
惜しくも下位のカーモスイットの場合は『汎用型』だったが、スレイブ館で使っている緑の汎用ジュエルよりも数段上の質を誇っている。
なぜ汎用型なのかといえば、さまざまな形態に脱皮進化するからだと思われる。進化した蜘蛛に関してはこれから調べるが、その中に精神型があればなおありがたい。
アンシュラオンが蜘蛛を全部殺したくない、と言ったことは、そのことも影響しているというわけだ。
そして、女王蜘蛛の眼であるが、しっかりと結晶化して残っていた。
(綺麗な白い魔石だ。なんだろうな。とても落ち着く色合いだよ。うん、純粋なラノアにぴったりだ)
女王蜘蛛はラノアを守ろうとしていた。ならば、彼女にこそ相応しい魔石となるだろう。
このままだとサイズが大きいが、マザーに頼んで力を凝縮してもらえば問題はない。
あとは使える部位、綺麗に残っている脚や外装の一部を頂戴して終了だ。こちらはまだ何に使うか未定だが、ラノア用の装備に加工するのもいいかもしれない。
次は最深部に向かい、地盤の補強を行う。
地盤は紅蜘蛛撃破の際にだいぶ壊されているため、命気結晶で崩れないように固める。
そのついでに紅蜘蛛の死骸を漁り、女王同様に結晶化した眼と素材を手に入れた。
(赤い魔石か。こっちは力強くて慎ましい感じかな。女王よりは少し劣るけど殲滅級の魔獣の力が集まっているんだ。悪くはない。セノアに似合うかな?)
白い女王蜘蛛のジュエルに紅蜘蛛の赤いジュエル。
まさに紅白で縁起もよいし、姉妹であれば悪くない選択肢であろう。特にセノアは物理的な力に対する怯えがあるので、力を与えることで克服させる狙いもある。
最後に、巨大ジュエルと対する。
「ううむ…」
しばらくアンシュラオンは、巨大ジュエルに触れたり眺めたり、生き残っていた蜘蛛の様子を観察したり、落ち着かない態度でいた。
その理由は―――
(前と違う気がする。あれからまだ二時間も経っていないはずだが…オレがいない間に何かあったのか?)
あの時は『接触が悪くて停止していた』のであり、術式そのものは動いていたわけだ。しかし今は術式そのものが停止している。
言っている意味が理解しづらいと思うが、アンシュラオンが行ったのはスイッチをオフにする操作であり、術式そのものには触れていないのだ。
それがなぜか術式自体に必要な『管理コード』が一部取り除かれているため、仮にスイッチをオンにしても起動しない状態にされていた。
(こんなことができるのは、この術式を作ったやつだけだ。とすると、あの『影』がまた動いたと考えるべきだろうな。そういうタイマーを仕掛けていたのかもしれない。全面的に管理を諦めたのか?)
この管理コードは以前も少し述べたが、術式を作る際に管理者だけが設定できるルールのようなもので、それぞれ専用のコードがあるからこそ簡単にコピーしたり改変ができないようにされている。
それが丸々無くなったということは管理者が術式を放棄したことを意味した。
こちらもすでに魔王が煉獄を破棄し、呪詛結界を解除したことで起きた現象だ。あれだけのことがアンシュラオンが往復する間に起こっていたことこそ、両者の世界における『刻の流れ』の違いを感じさせる。
しかし、そのおかげでガンプドルフにはああ言ったものの、実はあまり自信がなかった案が急速に現実味を帯びたのである。
(この状況はオレにとって好都合だ。代わりに自前の管理コードを埋め込んでしまえば、オレの好きなように改変することができる。ただ、やっぱり術式が大きすぎるからもう少し調整は必要だろうな。ひとまずこの亀裂内部を安定させてみるか)
なぜアンシュラオンが四日後にサナたちを調べたのか。この術式の調整に四日間かかったからである。
結果、成功。
完全制御はまだ難しかったが、大空洞内部において魔獣が人間に敵対しない程度には改変できた。
逆に他の魔獣が侵入してくれば蜘蛛も対応するため、巨大ジュエルがあるからこそ人間にとって安全な場所になった。まさにオセロがひっくり返ったのだ。
そうして地盤調査を行えるようになると、改めてこの地盤が鉄鉱床であることが判明し、リッタスの証言もあって地下の調査も進められているところだ。
まだ調査中なので断定はできないが、都市の一つや二つは軽く建造できそうな量があるそうだ。すべてに鉄を使う必要がないので、グラス・ギース程度ならば十以上は造れるに違いない。
そこで妙案。
大空洞内部はいくつもの広いエリアによって構成されている。その大きさは、もはや巨大な軍事基地レベルに等しいものだ。
蜘蛛が落ち着いたこともあり、【戦艦の隠し場所】にしてはどうか、との案が出る。
「心情的には複雑だが、使えるものは使う」
というのがガンプドルフの答えだ。
部下が死んだ場所でもあるので好きになれないのは当然だろうが、安全かつ膨大な鉄が採掘できるとあれば、もはや私情を挟む余地はない。
この場にとどまり、調査と発掘を続けたほうが入植に役立つと判断されたのだ。
アンシュラオンはギアス用のジュエルを入手し、ガンプドルフは大量の鉄資源を得た。
これこそ両者両得。互いにとって物的にも最高の結果となった。