【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
さらに調査を続けることで、蜘蛛の生態についても多少わかってきた。
まずは一番懸念されていた『電波』に関してだ。
なぜ彼らが電波に反応していたのかまでは、いまだわかっていないが、いくつか考察することはできる。
一番ありえそうな原因は、彼らが常時使っている思念糸にはいくつかの周波数が存在し、それに引っかかると反応するというもの。連絡用、警戒用、戦闘用、それぞれ何種類か存在するはずだ。
その証拠に戦艦が襲われたのは、長距離通信のために強い電波を発した時だった。それ以前にも細かい無線は使っていたのに反応していないのだから、それが警戒網に引っかかった可能性は高い。
また、超越者を保護する観点においても、特定の電波あるいは思念を発する人間を確保する習性が『与えられた』と考えられる。
とにもかくにも、この習性は重要だ。
もし彼らが依然として電波に反応するようならば共存は難しい。ここを軍事拠点として利用する際も頻繁に通信を行うだろうから、いちいち反応されていたらたまったものではない。
しかしながら実験として小さな電波を発信したところ、わずかに興味を示して近寄ってきたものの、それ以上の反応はしなかった。
特に対応する必要性がないと判断すると、すぐに戻っていく。その一匹が他の蜘蛛に情報を伝達することで群れ全体として情報を共有するので、ぞろぞろと集まってくることもなかった。
襲撃の時のように相手を殺してでも持ち帰る、といった激しい衝動が完全に消えている。(あの時は騎士に攻撃されたので防衛本能が刺激されていたことも大きな要因である)
これに関しては、魔獣に詳しいアンシュラオンの言葉が正しいだろう。
「前は女王蜘蛛が命令を出していたからだと思うよ。もう死んだから忘れたんじゃない?」
そんなにすぐ忘れるのかと言いたいところだが、これは蜘蛛だ。虫だ。忘れていたとしても不思議ではない。
戦艦を襲ったのも女王が繁殖期だったからであり、苗床に相応しいものを探せという命令が出されていたからだろう。今回の騒動は、さまざまな不運が重なった結果であるといえる。
その女王が死んで統率者が消えた今、彼らは『待機状態』にある。そこに新しい巨大ジュエルを使った術式によって精神制御が施されたことにより、さらに安全性が高まった。
こうして蜘蛛が無力化されたことで、アンシュラオンがとんでもないことを言い出す。
「おっさん、オレが提出した【ファーム計画】のことなんだけど、もう書類は見た?」
山積みになった報告書を確認していたガンプドルフが、ものすごく嫌そうな顔をした。
満面の笑みのアンシュラオンとは対照的だ。
「なにさ、今にも死にそうな顔をして。で、読んだの?」
「読んだからこんな顔になっているのだ」
「よかった。読んでくれたんだね。感想は?」
「さすがに無茶があると思うのだが…考え直しては…」
「駄目駄目。これは譲れないよ。試してもいないのに諦めるなんて、おっさんらしくないじゃないか」
「しかしな、さすがにこれは問題があるのではないか? そもそもそんなことが可能なのか?」
「だから試すんじゃないか。オレの目的はスレイブ・ギアスの『量産』だ。今回の作戦のおかげで媒体が大量に手に入ったとはいえ、こんなもんじゃ全然足りない。大事なことは生産し続けることなんだよ!」
「それはわかるが…まさか【蜘蛛を養殖する】など普通は思いつかないぞ」
そうなのだ。アンシュラオンが思いついた方法とは、蜘蛛を養殖する『ファーム計画』であった。
ファームは牧場という意味なので、まさに『家畜』にするのである。それによって安定的にギアス用のジュエルを手に入れるのだ。
この旅のアンシュラオンの目的は、スレイブ・ギアスに使えるジュエルの確保にある。
その目的は一応達した。女王蜘蛛の心臓は高品質で、最低でも千人分のジュエルは確保している。
また、通常のカーモスイットの眼も汎用型とはいえ十分優れた媒体といえる。逆に汎用型だからこそ一般的なスレイブ・ギアスとして使いやすいのだ。
なぜスレイブ商のジュエルが汎用型なのか前から疑問だったのだが、一般人の大半はそこまで精神が強くないので専門のジュエルである必要がないことと、質が良すぎて精神感応波が強すぎると精神が傷つく恐れがあることがわかってきた。
ホロロたちはアンシュラオンの支配下にあるので、その精神は一般人とは比べ物にならないほどタフだが、使い捨ての男や労働者、一般戦闘員、ラブスレイブ程度ならばカーモスイットでも上等の部類に入る。
当然そういった下々の人間のほうが多いわけで、もっともっと数が欲しいのが本音だ。
死んだカーモスイットから眼の結晶を回収はしているものの、取れる数は一匹につき一つだけだ。眼は三つあるのだから三個欲しいものだが、力が凝縮する都合上そうはいかない。
そこで考え出したのが、今回のファーム計画というわけだ。
「いいアイデアだと思わない?」
「すごいとは思うが魔獣だぞ? 危険ではないのか?」
「一般人だって食用の家畜を飼育するし、番犬として動物を使うでしょ? 普通の人間は弱いから最下位魔獣しか飼えないけど、騎士団は強いからもっと強い魔獣を使役してもおかしくはないよね」
「ううむ、一理あるが…我々が管理するのだろう?」
「オレは常時いるわけじゃないし、おっさんたちがここを拠点にするんだから、そうなるね」
「…そうか」
ガンプドルフが思わずうつむく。ものすごく嫌そうだ。
ただでさえ魔獣に免疫がないうえに、蜘蛛との戦いで犠牲者も出ている。嫌がるのが普通である。
が、アンシュラオンは猛烈にプッシュ。
「やれるって! 戦艦が中にいた時も餌付けしてたって聞いたよ! 適当に余ったクズ鉄でも食わせておけばいいんだし、面倒なら放っておけば勝手に食べるから大丈夫だって! 管理にそんなに手間はかからないよ!」
「少年のスレイブにかける情熱はすごいな…」
「おっさんがここに国を作りたい気持ちと同じさ。これだけは譲れないってやつだね。最初は少数でいいんだ。十匹とか二十匹とか、それくらいでさ。ね、いいでしょ?」
「わかった。わかった。君の好きにすればいい」
「やった! 楽しくなってきたぞ!」
アンシュラオンのことだ。絶対に諦めることはないし、断っても自分単独で勝手に始めてしまうだろう。
それよりはDBD側で管理したほうがまだ安全である。それによってアンシュラオンとの協力関係を維持できることもメリットになる。
しかし、問題がないわけではない。
「ただ、君も言ったように彼らは集団で動く。【新しい女王】次第では破綻してしまうかもしれないぞ」
「わかってるって。失敗しても文句は言わないよ」
現在いる蜘蛛はストックとして管理し、必要になったらジュエルにすることは決めている。
しかし女王が死んだ今、いずれは枯渇してしまうだろう。女でなければ子供が産めないのは人間と同じだ。
数の暴力に徹底的にやられた側としては納得しづらいが、女王がいたからこその数の力なのだ。
そう、この養殖においてもっとも重要な存在は『女王』である。
そしてガンプドルフが述べた通り、すでに【新女王】は存在していた。
「格納庫の様子を見てきたけど、孵化まではまだかかりそうだね」
「あのままで大丈夫なのか? 中で死んでいるといったことは?」
「オレが調べた結果、ちゃんと中で育っているようだよ。二匹とも順調だ。おっさんたちには悪いけど、あの格納庫はこっちがもらうってことでいいかな?」
「それは問題ない。もともと廃棄したものであるし、鉄資源はあるから必要なら新しく作ればいいだけだ。それはいいが、新女王をどうやって従えるつもりだ?」
戦艦の格納庫に産み付けられた、ひときわ大きな二つの卵を覚えているだろうか。
あれは新女王と、そのつがいとなる新紅蜘蛛の卵である。命気を浸透させて調べたので間違いない。
カーモスイットたちは女王の統率の下で動く本能を持っているし、増やすためにも女王と紅蜘蛛は必要不可欠な存在だ。利用しない手はないだろう。
ここで問題となるのは、どうやって新女王を手懐けるかである。
「いろいろと魔獣を支配する方法を実験中なんだ。一応小型の魔獣には、脳にジュエルを埋め込んで支配する方法は成功しているよ」
「では、女王にもそうするつもりか?」
「貴重な存在だからこの方法は怖いね。失敗したら全部が壊れちゃう。だから女王とは『契約』を行うつもりでいる」
「魔獣と契約? それができれば一番だろうが、可能なのか?」
「普通ならば難しいだろうけど、あの女王には『超越者の守護者』っていうスキルがあったんだ。どうやら前文明の人間と契約を交わしていたみたいだね。だったら、オレもそうしようかなって」
「超越者! まさか本当に実在したのか!?」
「あくまで相手の情報を見た限りではね。あの女王はすごい古い蜘蛛で、前文明から長生きしていたと考えるべきだ」
「そんなに長く生きていたわりには、代替わりが遅いのだな」
「そういう種なのか、あるいは今まで術式で支配されていたから産めなかったのか。そのあたりはまだわからないね。ただ、誰かと契約していたのは間違いないよ。総合的に判断して超越者だと思う」
「では、ここは前文明の遺跡なのか?」
「うーん、どうだろう。そう考えるのは早計かな」
「しかし、これだけの鉄資源が眠っていたのだ。守っていたのではないのか?」
「おっさんから聞いた前文明の技術体系からすると、鉄はさほど重要な資源には思えないな。やっぱりたまたま餌場として適していただけなのかもしれないね。ただ、あいつらが【利用】されていたのは間違いない。ここに人間を近づけさせたくないやつがいるんだ」
「それは君が言っていた『影』のことか?」
「そう、あいつだ。女王蜘蛛が巨大ジュエルの近くにいたことは偶然じゃない。意図的に配置されていたんだ。少なくともあいつは、オレたちが先に進むことを簡単には容認しないだろう。性格も悪いし厄介なやつだよ」
「君がそこまで言うほどの相手か。いったい何者なのだ? もしや超越者の生き残りか?」
「あいつ自身が否定していたし、女王蜘蛛の記憶で見た人物とは明らかに雰囲気が違う。異なる存在と考えるべきだ。しかもあの口調からすると単独じゃないね。手下か仲間がいるはずだよ。それも相当な力を持った連中がね」
「それがこの先にいる可能性があるのか。正体不明の相手との戦いはできれば避けたいがな…」
「それだけじゃないよ。この荒野にはあの巨大ジュエルみたいなものが何百とあるに違いない。そして、そこには最低でも女王蜘蛛と同レベルの魔獣が陣取っている可能性が高い。だからオレたちがここから先に進むためには万全の準備が必要になる」
「あの女王蜘蛛と同等…いや、下手をしたらそれ以上か。たしかに準備は必要だな。我々は蜘蛛との戦いだけでもこのありさまだ。戦力が絶対的に足りていない」
「おっさんの仲間、他の聖剣長が合流すれば戦力になるよね?」
「皆が万全の状態ならばな。しかし、移住がどれだけの規模になるのかはまだわからない。魔人機も持ち出せるかわからないからな。こちらから期待させるようなことは言えぬのだ。すまんな」
「それはしょうがないよ。その前にいろいろと継承問題で揉めそうだもんね。やっぱり独自に戦力を拡充する方向でいくしかない。だからファームは必要だね。それによって兵力が増やせるなら積極的に試すべきだよ!」
「少年、全部わかって言っているだろう?」
「そりゃそうさ。命をかけているからね!」
結局、ファームの重要性を説きたかっただけである。
しかし実際のところDBDの戦力は少なすぎる。荒野では下の上程度のグァルタにさえ苦戦していたのだ。サナがいなければ危なかっただろう。
今後はもっと上の魔獣も出てくるだろうし、四大悪獣だっていまだに三体も残っている。戦力の拡充は必須なのだ。
「正直、まだまだ戦力が足りないよね。オレやおっさんがどんなにがんばっても、やっぱり二人じゃ限界がある。今回は上手くいったけど、下手をすれば兵力が大きく減る危険性もあった。まずここを拠点にして確実な道筋を作ったほうがいい。今はこれ以上進まないほうがいいってことだね」
「それは同感だ。騎士の中には今回の成功で盛り上がっている者もいるが、実情はかなり厳しい。今は手に入った資源を有効活用するのが先だろう。あとは補給路が確保できれば、それなりに形になる」
「魔獣の狩場キャンプからここまでを優先して開拓すべきだね。それと同時に少しずつ周囲を探って、行動域を広げていくべきだ。大丈夫。一歩ずつ進めばいい。確実に勝ち続けることが重要だよ」
「そうだな。勝たねば意味がない。勝ったのだな…我々は」
ガンプドルフも部下を嗜めつつ、久々の勝利の味を噛み締めていた。今まで苦労しただけ甘美に違いない。
勝った者がすべてを得る。それがこの世界のルールだ。
ここにある鉱物資源だけでも、ガンプドルフの目的の一割は達成されたことになる。まだまだ先は長いが、目的が大きいゆえに一歩一歩進むことが肝要であろう。
「ところで資源のことなんだけど、うちの商会にも一枚噛ませてくれないかな?」
「アーパム商会か?」
「おっさんたちはグラス・ギースに警戒されているよね。あまりおおっぴらにやると摩擦が生まれるはずだ。べつにあいつらにどう思われてもいいけど、DBDの情報が他国に流れるリスクが生まれる。その点、オレが間に入れば安全だ。何も気にする必要はない」
「なるほど。それならば資源も売りに出せるか」
大量の資源があっても、今のところは自分たちのためにしか使えない。それでは宝の持ち腐れだ。
そこでアーパム商会の出番である。
もともと鉱山を発掘して鉱物資源を管理するために作った商会だ。DBDにとってもありがたい申し出だろうし、アーパム商会も儲かる。こちらも両者両得であろう。
「それはいいが、今度は君が目立つことになるぞ。グラス・ギースでは利権構造が確立されていると聞く。他の勢力が黙ってはいないだろう」
「実はその準備も済ませてあるんだ。実際の折衝は戻ってから行うけど、成功は間違いなしだよ。まあ、オレはもう散々目立っているし、いまさらって感じかな。ただ、今回はちゃんと筋を通すつもりだから安心していいよ。何があってもオレが責任を持つよ」
「君がよいのならばかまわない。我々は一日でも早く人が住める場所を作りたいだけだ。そのためならば利権の一つや二つくらいには目を瞑ろう」
「さすが聖剣長。器が大きいね」
(鉄資源は北部では珍しいみたいだ。資源だけならば買い叩かれるおそれもあったけど、おっさんたちの技術で加工すれば相当な儲けになるな。くくく、本格的に事業拡大が見えてきたぞ)
すっかり忘れそうになるが商会活動もしているのだ。
せっかくがんばったのだから、ここはしっかりと噛ませてもらうとする。