【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
魔獣ファーム計画についてはガンプドルフから了承を得た。
この計画には女王が必要不可欠なため、まずは新個体が孵化するのを待つしかない。
その後に女王の繁殖期や出産ペースを見極めないといけないし、契約自体が成功するかはわからない。最低でも数年から数十年、あるいはもっと長い期間が必要になるだろう。
だからこそ面白い。
(難しいけど、やり甲斐はある。試す価値も十分あるな。上手くいけばプライリーラがやっていたように戦力にすることもできるかもしれない。オレの支配は人間だけにとどまらないって証明してやる)
サナに相応しい国を作るためには多様な人材と戦力が必要になる。魔獣も使えるのならば使いたい。
そしてさらにいえば、目の前にいる『アレ』のような存在も味方にしたいところだ。
「それが雷妖王シャクティマだよね?」
「気づいてしまったか…」
「そりゃ気づくよ。あの時からずっといるじゃん」
ガンプドルフの背後には雷妖王が立っていた。
若干透けてはいるものの半物質化しているらしく、物に触れることもできる。どうやら常に雷を放出しているわけではなく、自分の意思で完全に制御して止めることもできるようだ。
このシャクティマだが、ガンプドルフがゴールドナイトを降りて『精霊憑依』を解除した時からずっと後ろに立っていた。見た目も奇抜で背も高いので某漫画の死神のように目立つ。
まるでストーカーだが契約で縛られており、そもそも剣から遠くに離れることができないのだ。せいぜいガンプドルフから二メートルくらいが限界だろう。
ただし当人が意図的に物質化しない限りは、術者の目が無いと見ることができない。当然声も聴こえないので周囲が困ることはない。
困る人間はガンプドルフ当人か、ロゼ姉妹のように術士として覚醒している者たちであろうか。セノアに至ってはシャクティマを見た瞬間に凍りついていたものだ。
(そりゃ、こんなのがいたら怖いよな。小百合さんたちが見えないことも怖さを助長させているんだろうし)
―――〈怖いとは失礼だね。お前のほうこそ、よほど危険な存在であろう?〉
シャクティマが上から覗き見るようにアンシュラオンに視線を向ける。
「あっ、聴こえてた? 心まで読めるんだね」
―――〈隠す気がないのならね。術式と同じさ〉
「ねぇ、シャクティマと話をしてもいい?」
「私に止める権限はない。一度顕現した以上、シャクティマは自分の意思で何でもできる。そういう契約だからな」
「なかなか面白い契約だね。具体的にはどこまでできるの? 人殺しもできる?」
〈人間は物騒なことを言うものだ〉
「あれ? 実体化した?」
〈せっかく物質世界に来たのだ。このほうが気分が盛り上がって楽しいものだよ〉
「どういう原理? ああ、そうか。おっさんの生体磁気を使っているのか」
〈そうだよ。ガンプドルフの幽体を利用している。擬似的な肉体というわけだ〉
シャクティマが物質化。これによって声帯が生まれ、音を使っての会話が可能となった。
原理としては、高位術者が使う【複体〈ダブル〉】と同じだ。
複体とは、肉体と霊体を融合させている『半物質体』を多めに使用して生み出した仮の肉体のことである。術者でなくても無意識に生み出すことがあるため、一般的に生霊と呼ばれているのはだいたいこれである。
シャクティマの場合、エネルギー源は当然ガンプドルフであり、こうしている今も彼から生体磁気を吸収している。
聖剣を通じて力を貸す代わりに、今度はシャクティマが物質世界に顕現できる条件を整える。それが両者の契約なのだ。
物質化したシャクティマは会話が楽しいのか、今までよりも饒舌に話し出す。
〈さきほどの質問だが、私に特別な制限はない。やろうと思えば人殺しもできる。が、やる必要もないことはしないな。無意味であるし、むしろマイナスだ〉
「仲間が襲われていても?」
〈聖剣の所有者であるガンプドルフに生命の危機が迫れば、できる範囲で力は貸す。あとは依代の剣が破壊されそうならば力は使う。が、それ以外の人間が襲われていたとしても人の世での出来事。関与はしないよ〉
「もしオレがあんたに攻撃を仕掛けたら?」
〈当然対応はするが、所詮は仮初の身体だ。本体がここにあるわけではないから徒労に終わるであろう。その分だけガンプドルフが痩せ細るだけだ〉
「けっこうちゃんと質問には答えてくれるんだね」
〈私は人間が好きだからな。人間と話すことは嫌いではないよ〉
「シャクティマは変わり者の『精霊王』なのだ。普通はここまで協力的ではないぞ。精霊は基本的に人間が嫌いだと聞くしな」
〈変わり者だからこそお前に力を貸してやっているのだよ。たまには感謝してほしいものだ〉
「そうしたいが……距離がな」
シャクティマは、ガンプドルフに覆い被さるように密着している。
近い。近すぎる。恋人ならばともかく、この距離はしんどい。
「この状態っていつまで続くの?」
〈私はセレテューヌスとの契約により、力を貸した分だけ地上に半物質化できるようになっている。今回使った量だと…そうだな。二十日といったところか〉
「あれで二十日か。おっさんが使いたがらないわけだ。だって、トイレや食事のときも一緒だし、寝るときも一緒なんでしょ?」
「…そうだ」
「おっさんが独身の理由って、絶対にこれと関係あるよね」
〈私のことは気にするな。好きな相手を見つけるといいよ。ぜひ生殖に関してもじっくり観察させてほしいね。人間の交配には興味があるのだよ〉
「だってさ、おっさん」
「…つらい」
うっかり本音が漏れる。心底嫌そうだ。
聖剣長は、家族を人質に取られないためという理由で独身を貫く者が多いが、実際はこうして各精霊たちに付きまとわれて、そんな余裕がないのが真実なのかもしれない。
いくら精霊とはいえ夜の営みをガン見されるのは厳しい。その気持ちは痛いほどわかる。
「他の聖剣の精霊王もこんな感じに一緒にいるの?」
「それぞれに性格があるからな。顕現できる条件が整っても外に出てこない者もいるようだ。光や闇はその傾向が強いらしい。羨ましいな…」
〈あの二人は真面目で根暗なだけだ。あいつらと付き合うほうが息苦しいと思うがね〉
「もっといろいろ質問していい? 精霊に興味あるんだ。オレはあまり見たことないからさ」
〈かまわない。人間との対話は私にとっても有益で興味深い〉
「シャクティマって男なの? 女なの?」
〈面白いことを言うね。人間と違って精霊に大きな男女の違いは存在しない。子供とは私たちにとって『分霊』であるから、その意味においては女しかいないともいえる。ただし陰陽の傾向性によって男性的なものと女性的なものは存在する。力と英知、どちらに偏っているかは見た目でわかることもあるだろう〉
「なるほどね。シャクティマが少し男性っぽいのは、雷の性質が力に偏っているせいか。じゃあ、生殖活動はしないの?」
〈生殖活動はする。与えられた本能だからね。今述べたように基本的には単体で生み出すが、両者が互いに力を与え合い、一つの個性を生み出すことも往々にしてある。それが人間にとっての生殖に近く、両者に強い快楽が伴うのも同じだ。愛がある場所に快楽が存在する。それこそが神の英知だと私は思うね〉
「自分の因子を与え合う自己放棄の愛ってやつだね。精霊にとって神とは何? どんな存在?」
〈お前たちと同じだ。絶対神は無限であり、不可侵であり、不可逆のもの。つまりは『よくわからないもの』だ〉
「ははは、はっきり言うね」
〈精霊といっても人間と大差はない。宇宙の秘密を知っているわけではないからね。仮に知っていると豪語する者がいたら、それは確実に嘘であり偽りだ。断言するが、少なくともこの星では絶対神の知識は手に入らない〉
「やっぱりもっと上の世界じゃないと駄目か。まあ、無理に知りたいわけじゃないけどね。この星の人間は女神様から生まれたらしいけど、精霊もそうなの?」
〈違う。女神はあくまで人間の母であり、一方で我らの母は同じく偉大なる者の一人である『
「原神?」
〈星の創成期、母なる星神より生まれ出でた『真なる神』の一人のことだ。その因子を使って生み出されたのが我々精霊となる。より正しく述べれば、私を生み出したのは桜御子の子の、さらに何代もあとの御子だね。だが、誰しも源流は同じ因子に行き着く。その意味で人間とは兄弟姉妹であるといえよう〉
「それぞれ担当が違うってことだね。精霊も人間みたいに成長するの?」
〈当然だね。しかし、より自由な人間のほうが伸びしろがあると思うよ。それゆえに人間は精霊より愚かであり、賢くもある。見ていて飽きない理由がそれだね〉
「ディーバってよく聞くけど、高級精霊って意味で合ってる?」
〈人間が使う上位の精霊の総称のようだ。その意味では私もその中に含まれるのだろう〉
「オレの周りにも精霊がいるみたいだけど、見える?」
〈いるな。原始精霊たちだ。私たちから生まれ使役される存在だよ。意識はなく無意識で動き、似た性質同士が集まる傾向にある。お前は水と風が多いようだね〉
「高級精霊が人間の前に出てくるなんて、かなりレアだよね。今まで見たことなかったし」
〈ガンプドルフが言ったように今の精霊は人間を嫌っている。その理由はいくつかあるが、この荒野自体がその理由を雄弁に物語っているね。心当たりはあるだろう?〉
「散々自然を壊しているからね。それも仕方ないか」
「少年、気のせいか普通にしゃべっている気がするのだが…」
「え? 会話していいんだよね?」
「そうではない。知識のことだ。それも錬金術師から教わったのか?」
「これは自前の知識だよ。ただ、知らないことも多いから補足しているだけ」
「どこでそんな知識を得たのだ?」
〈ガンプドルフ、この者は『異邦人』だよ〉
「異邦人?」
〈お前たちにわかりやすいように言えば、『女神が選んだ存在』だ。女神の地上での代行者と呼んでもよいのかもしれない〉
「へぇ、そこまでわかるんだね。すごいや」
「うーむ、たしかに少年は不思議な存在だ。そう言ってくれたほうが素直に納得できるか」
〈時折このような者たちが現れる。それもまた『宿命の螺旋』によるものだ〉
「ねえ、海の女神様もそんなことを言っていた気がするけど、宿命の螺旋って何?」
〈この星は少し特殊な成り立ちをしていてね、維持していくためにさまざまな枷がはめられているのさ。その中でより強い強制力をもったものが『宿命』であり、それらが螺旋によって構成されているらしい〉
「『らしい』ってことは、シャクティマにもよくわからないってこと?」
〈その通りだ。知らないものは知らない。それだけのことだよ〉
「ところで『精霊王』って、王の一人だよね? 偉いんでしょ?」
〈私は『雷の元素領域』を管理している王だから、偉いといえば偉いのかもしれないね。だが、人間社会のような傲慢な振る舞いはしないよ。単純な力量に見合った役割にすぎない〉
「シャクティマより上の存在はいる?」
〈もちろんいるが、地上に干渉できるのは私までがギリギリだ。それ以上の存在は『愛の園』、女神たちがいる高級神霊界におられるから会うことは難しい。いわば私は彼らの手足であり、中間管理職のようなものだね。だが、それは人間も同じだろう〉
「精霊の世界ってどうなっているの? たしか絶対階級社会なんだよね?」
〈こちらの世界も人の世と変わらない。短気な者、我慢強い者、真面目な者、怠け者、さまざまな者がいる。が、お前が言ったように階級は絶対であり、『基本的に』同属で殺し合う者はいない。争う理由がないからな。それぞれが役割を果たして生きている〉
「普段は何をしているの?」
〈自然界における雷の事象を管理している。多くは生み出した原始的眷族によって自動的に行われているから、基本的にはメンテナンスや人材管理、供給量の打ち合わせが主たる仕事だ。余った時間は修行や探索に使っているよ〉
「精霊王も修行や探索をするんだね」
〈今、お前とこうやって話していることもその一つさ。地上という世界を知るために探検しているようなものだろう? 常に未知の世界を知ることが『真理』に至る道といえる〉
「精霊が目指す先はどこなの?」
〈逆に問うが、人間が目指す先はどこなのだ?〉
「さすがにわからないや。女神様なら知ってるかな?」
〈それと同じだ。精霊の始祖に聞かねばわからないし、桜御子も知っているかはわからない。だが、進化は止まらない。そう生み出されているからね。それにしてもアンシュラオン、お前は面白い男だね。ガンプドルフは知識がないから、こういった会話はできないのだよ〉
「少年と違って無知で悪かったな」
〈だが、私は馬鹿で愚直な人間が好きだ。見ていて飽きないからね。ガンプドルフのような人間はあまりいない。その意味で面白いよ〉
「…それではただの遊び道具だろうに」
「ははは、いいコンビじゃないか。お似合いだよ」
精霊王との対話は、とても面白い。
シャクティマのような上位の高級精霊たちは地球でも『ディーバ』と呼ばれ、主に自然界の発展の仕事に就く者たちを指しているが、こうして話していると人間と変わらない存在であることがわかるだろう。
彼らも人間同様に仕事をして、娯楽を味わい、知的生命体として成長していくように作られた存在なのだ。
せっかくなので、もう少し切り込んでみよう。
「ねぇ、聖剣になった経緯を教えてくれるかな? 気になっていたんだよね」
〈だいぶ前のことだがね、私が仕事を終えて休息していた時、セレテューヌスと名乗る人間の娘から交信があったのだよ。聖剣を作るので守護者になってくれないか、とな〉
「ということは、セレテューヌスの能力は『交信』なのかな? たしかに任意の精霊を呼び出せないと上手く作れないからね」
〈精霊に直接呼びかける能力は希少だ。人間がいうところの『シャーマン』が近いかもしれないね。だがあの娘は、そんな生易しい者ではない。わが眷属を誘拐し、脅してきた〉
「え? 脅されたの? セレテューヌスに?」
〈そうだよ。この雷の精霊王を、たかが人間の小娘がね。いや、あの時は驚いた。我々にとって他者を害するということ自体が珍しい。そのうえ脅迫されたのは初めてだったから刺激的だった〉
笑顔で「守護者になってくれませんか?」と言いながら、誘拐した眷族にナイフを突きつける。(実際はナイフではないが)
まさにサイコパスのような人物。それがセレテューヌスであった。
ちなみにその脅された眷族は、トールガイアの剣に力を与えることを条件に解放されている。