【旧版】「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」※全話掲載完了 作:ぷるっと企画@園島義船
ガンガンガンッ!!
何かを強い力で叩く音が、部屋中に響き渡る。
室内は高温らしく、働く者たちは誰もが汗を流していた。
そこに大声が響き渡る。
「馬鹿野郎! こんなナマクラ、よく打てたな!! 作り方を忘れちまったのか? ああ!?」
「す、すみません、おやっさん!」
「謝って済むかよ! てめぇが失敗するのはいいが、これを使ったやつが死んだらどうする!! あいつらはタマ張ってんだよ! てめぇも死ぬ気でやれや! さっさとやり直してこい!」
「は、はい!」
「ふんっ」
怒鳴っていたのは老人。
どうやら彼はここで一番偉いらしく、部下である若者を叱っていたようだ。
その老人は、今しがた生まれた『ナマクラ』を鉄くずの上に放り投げる。
一度失敗したものは、もう駄目だ。溶かしても失敗の痕跡が残ってしまうため普通の資源として再利用するしかない。
「ったくよ、最近の若いやつらには誇りってもんがねぇ。命張らなきゃ、金属ってのは応えてくれねぇよ」
老人がハンマーを手に取り、転炉から流されて固まった鉄を、ぶっ叩く!
ゴーーンッ! ゴーーンッ!!
彼が鉄を叩くたびに不純物がさらに少なくなっていき、次第に色味が変わっていく。
それを納得いくまで繰り返すと、鉄は【鋼】へと変化。
「うーん…柔らけぇな。もう少し絞ってやらなきゃいかんか。待ってな。今、美人にしてやる」
老人が壷の中に入っていたジュエルをハンマーの窪みにはめ込んでから、再び叩く。
ゴーーンッ! ゴーーーンッ!
ジュエルが輝き、赤い粒子を放ちながら鋼の中に吸収される。
それによって色味がまた変わり、より『堅く』なっていくのだ。
「お前さんは何になりたい? 剣か? 剣なら小剣が似合いそうだ。斧だったらそうだな…思い切ってでかいのにしてみるか? 鎧? 鎧なら普通のプレートアーマーだな。まあ、焦るな。しっかりと見極めてやるからよ」
鋼と語りながら、老人は楽しそうにハンマーを振り続ける。
彼が触れたものは他のものとはまったく違う。同じ素材にもかかわらず、さきほどの青年が持ってきたナマクラとは本質的に違うものになるのだ。
なぜならば、彼こそ本物の【鍛冶師】。
DBDでも最上位の『
「おやっさん、やってるね」
「ん? おお、『白いの』か」
「今日も一杯やろうよ。いい酒を持ってきたんだ」
そこにやってきたのはアンシュラオン。
両手に酒瓶を持っての登場である。
ずかずかと
そして隣に座ると、老人が打っていた鋼を見る。
「いい色合いだね。鉄が喜んでいる」
「はは、わかるか」
「オレは鍛冶のことは素人だけど、良いものはわかるよ」
「最近の若いやつはどうにも駄目だが、お前さんは見る目がある。何が違うんだろうな」
「彼らだってオレからすれば貴重な人材だ。あとは場数を踏めば良い鍛冶師になるよ」
「だといいがな」
「まあ、軽く一杯やろう。気分が乗ってくるはずだよ」
アンシュラオンがコップに酒をなみなみと注ぎ、渡す。
それを老人は一気に飲み干した。
「カァッ! いいな、焼け付くようだ! 酒はこれくらいでないとな!」
「気に入ってくれてよかったよ。こんな酒ならいくらでもあるからね」
「お前さんは、いいやつだ! 気に入ったぞ!」
「いやー、照れるなぁ」
この酒は、もうすっかり出番のない『眉毛じいさん』の店のものである。
都市内部はゴタゴタしていても彼の店は普通に上級街で営業しているので、出立前にいくらか仕入れてきたのだ。(仕入れ=強制的にもらってきた)
そしてなぜかアンシュラオンは、やたら年上のおっさんや老人と仲良くなれる資質がある。
もともと姉のような年上女性が好きなので、男も年上のほうが気楽に話せるのかもしれない。俗にいう「可愛がられる年下タイプ」であろうか。
電車内で若いきゃぴきゃぴした女より、中年のおっさんの近くのほうが安心するのと同じだ。(冤罪も怖れてのことだが)
というわけで戦艦を奪還した初日の対面で、すでに彼と仲良くなってしまった。アンシュラオンが白い容貌なので、『白いの』と呼ばれているくらいだ。
もちろんアンシュラオンも自分の目的のために接近したのだが、今ではすっかり老人を気に入っている。
優れた人間は、優れた人間を愛する。
両者ともにその道では達人である。分野は違えど、感覚と雰囲気だけでわかり合えるのだ。
(この人は本物の鍛冶師だ。本当の職人ってのは雰囲気でわかるんだよな。しかしまあ、おやっさんには本当に苦しめられたよ)
どういう意味かといえば、この人物こそガンプドルフの鎧や盾を作った【名工ザンクルーシュ】その人である。
キャンプで対戦した際のガンプドルフの台詞、「まだローンも終わっていないのだ」は軽いジョークではあったが、嘘ではなかったのである。
事実、盾や鎧の修理に赴いたガンプドルフが、使い方の荒さを指摘されて怒られていたものだ。
司令官かつ聖剣長でさえ、名工に対しては頭が上がらないのである。
(そりゃそうだ。武器や防具は命を支えるもの。少しでも良いものを使いたいのが本音だろう。しかもおやっさんは、今回の入植に関しての最重要人物でもある。丁重に扱わないといけないよな)
現在この戦艦にいる鍛冶師は、ザンクルーシュを含めて五人しかいない。
それだけでも問題なのにザンクルーシュ以外は、まだまだ駆け出しの鍛冶師なのだ。
駆け出しとはいえ、そこらの街ならば一流の鍛冶師を名乗れるくらいの実力はあるが、DBDは鍛冶にも力を入れているため競争が激しい。
地元で有名な選手でも全国大会に行くと埋もれてしまうようなものだ。普通の一流くらいならば、そこらじゅうにいるので評価されない。それほど厳しい世界である。
その中で『聖槌』にまで至るには、いったいどれだけの才能と努力が必要になるのだろう。この状況下で経験豊かなザンクルーシュの存在は極めて大きいといえる。
彼がいれば、これからの計画もすべてが順調。武器や防具も作りたい放題で、売りたい放題だ!
と思いたいのだが―――
「おやっさん、【腕】は大丈夫?」
「うむ、治ったには治ったが、まだ感覚が戻らん。神経の話ではない。鍛冶の感覚が戻らんのだ。長いこと使っていなかったからな」
「そっか。オレでもそこまではどうにもできないからね…ごめんね」
「白いのが謝ることはない。十分感謝しておるよ。片腕より遥かに楽だ」
初めて出会った時、ザンクルーシュは【隻腕】だった。
しかも利き腕の右腕が、上腕部からばっさりと切られてなくなっていたのだ。
今回の戦いで負傷したわけではない。これは戦時中の事故によるものだ。
ルシアとの戦争の末期、急ピッチで武具を生産していたのだが、若い鍛冶師が工場で事故を起こしてしまい爆発事故が起きた。
それによって吹き飛んだ鋼材が、ザンクルーシュの右腕をすっぱり切り落としてしまったのだ。
すぐさま治療が行われたが、数多くの者たちが病院に運び込まれていたため、ザンクルーシュ自らが断った。もっと重症の若者を治療してくれ、と。
聖槌ともなれば最優先で治療されるはずだが、彼も治らないことを悟っていたのだろう。それよりは若い命が一人でも助かることを願っていた。
それによって戦後、引退。
東大陸にやってこられたのは、すでに引退した身であり、利き腕が無いことがルシアにも知れ渡っていたからだ。
そうでなければ、これほど偉大な鍛冶師が国外に出ることは不可能だったはずだ。
(西側においても再生まで可能な術士は少ないんだな。一応戦艦にも再生用の医療術具があるが、完璧に治すのは難しいらしい。戦争で貴重な術士も数多く失ったと聞くしね。でも、そのおかげでおやっさんがここにいる。オレとしてはありがたいよ)
「『黒いの』はどうしている?」
「サナは元気にしているよ。あれから一度も黒雷は出していないね。自分で操れないみたいだ」
「そうか。あの時はおったまげたもんだ。『アレ』があってよかったな」
「そうそう、そのことも訊きたかったんだよね。あの剣って何なの? 貴重なものなの?」
「素材自体は貴重といえば貴重だが、もともとは力を扱いきれない武人の『練習用武器』だ」
サナが魔人化した際、黒雷の制御に苦しんでいたところに剣を放り投げた老人こそザンクルーシュであった。
あの剣を持っていたことに理由は特にない。箱ごと使えそうなものを持ってきていたので、たまたまそこに入っていたにすぎない。
ただし、ああいったときに感覚で必要なものがわかることも優れた人間の特徴である。彼はサナの恩人、いや、他の騎士たちが巻き添えになることを防いだ人物ともいえる。
サナもザンクルーシュが気に入ったようで、たまにここを見学に来ているようだ。ザンクルーシュも孫のようにサナを可愛がっているようだ。
「あの金属には一定以上の力を吸収する性質がある。雷だろうが炎だろうが、戦気だろうが関係なく吸い取る。だが、あそこまで真っ黒になるのは初めて見たぞ。とんでもない娘だ」
「オレの妹だからね。特別なのさ。で、あの剣はもらっていいの?」
「かまわん。扱うやつもいないし、たいしたもんじゃねえ」
「刀に加工はできる?」
「一度打ったもんを新しく加工するのは難しいもんだ。お前さんが調整したっていう刀も折れただろう? 『芯』が重要なんだ。わしらはな、その芯を作るために命の火花を散らすのさ」
「なるほど。じゃあ、刀にするためには新しく作る必要があるんだね。その鉱物は手に入る?」
「西側じゃそこまで珍しいもんじゃないが、東側ではどうかわからん。それに、あくまで力を使いこなすまでの安全装置にすぎん。切れ味など最初からあってないようなものだ。剣のままでもよかろう」
「それもそうか。危なくなったら持てばいいだけだしね。予備扱いでいいかな」
あの剣に特に名前はなかったので、ここで『吸収剣』と勝手に命名しておくことにする。
実際アンシュラオンが持っても特に反応せず、剣自体はそこらの店でも買えそうなランクCの品質である。サナの暴走を止める手段の一つとして考えておけばいいだろう。
「で、どう? 新しく手に入れた鉱物類は使えそう?」
「いい話と悪い話がある。どちらから聞く?」
「素直にいい話から聞いておくよ」
「まず、ここの地盤から採掘できる鉄には二種類ある。一つは不純物が多いもの。もう一つは磁気を帯びてはいるが純度が高いものだ。前者は建造物とかの鉄鋼資源に適しておる。後者は武具の製造に適しておるな」
「高炉で不純物は取り除けるんだよね?」
「鉄自体はそうだ。が、伝導率の差によって【鍛冶ジュエル】との相性がある」
「鍛冶ジュエルって、そのハンマーに取り付けるやつだよね」
「うむ。鉄鋼の種類によって使い分けておる。それによって足りないところを補いつつ、さらに長所を伸ばしてやることができる」
ザンクルーシュの仕事場には数多くの壷が並んでいる。それぞれに鍛冶ジュエルが入っており、扱う金属によって毎回使い分けるのだ。
鍛冶師の役割は、単純に鉄鋼を変形させることではない。
その鉱物に見合った鍛冶ジュエルを選び、強化変質させて、より武具に適したものにする職業なのである。
(同じ鍛冶でも地球と違うのは、この世界には術式がある点だ。触媒を用意しなくても酸化や還元がその場でできるのは強みだな。さらに新しい元素や気質を加えることで、鉱物自体を大きく変質させることができる。そして、高位の鍛冶師であるおやっさんが打ったものは、もう普通の鉄鋼のままではいられない。『ザンクルーシュが打った鉄』になるんだ)
単純に良い金属が手に入ったからといって、そのまま良い物になるわけではないのがポイントだ。逆に悪い金属だからといって、そのまま悪い物になるわけではない。
なぜならば、彼らもハンマーを叩きながら鉱物に【
これは各鍛冶師特有の気質であり、戦気と同じく生体磁気を加工して生み出す各人固有の力だ。当然、鍛気が優れていればいるほど金属に与える影響は大きくなる。
同じ鉄を叩いても駆け出しの職人では鍛気が弱いため、大きな影響を与えることはできない。技術が未熟なこともあり『ナマクラ』になってしまう。
しかし、鍛気の質が良いザンクルーシュが叩けば、まるで金属が生きているかのように躍動し、優れた性質を帯びる。彼自身のオーラを吸収するからだ。
そうであるからこそ武具の詳細を見た際、名品に関しては作った鍛冶師の銘が刻まれるのである。
ガンプドルフの盾も鎧もザンクルーシュの気質が宿った、まさに魂の逸品といえるだろう。
そして名工ザンクルーシュこそ、アンシュラオンが求めていた人材なのだ。
■あとがき
旧版はここで終了となります。
もともとR15で出していたものなので、R18で置いておくにはいろいろと中途半端な表現があったとは思いますが、どうぞご理解くださいませ。
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〇旧版小説家になろう【最終掲載日時】
2018-5-25 ~ 2019-11-28 17:36:20
〇カクヨム【最終掲載日時】
2019/11/28 ~ 2021/10/18
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新版の「覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ」(2021~)がなろうで連載中ですので、続き(リメイク含む)はそちらをごらんくださいませ。
一章まではだいたい同じですが、その次の章から大きく流れが変わっていきます。こちらは旧版連載前に練習用として書いていた草案を軸に再構成し、バトルや展開重視の完全一般向けにしたものとなります。
★「覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ」★
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ほとんど宣伝していなかったにもかかわらず、たまたまたどり着いてくださった方々、ここまで追ってきてくださった読者の皆様方、掲載場所を提供してくださったハーメルン様に厚く御礼を申し上げます。
ではまた! 新版でお会いいたしましょう!