※この作品はR-18です。

獅子ユー   作:ネコシマれーな

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第1話

「今よりも大きな力だと?」

 

それはユーインが自身の獅子王灰燼を手入れしていた時の事だった。

獅子王の名の如く獅子があしらわれたその打面を、隅々まで細かく丁寧に磨きをかけている最中、獅子王から打診があったのだ。

ユーインは、武具である獅子王と心を通わせることがたびたびあった。はじめて手にした時にも獅子王はユーイン自身の力を試してきた。そしてユーインの成長を見届けてきた。ユーインも獅子王を大事に扱った。

主と認められただけでなく、いつも寄り添おうとするその意志、そしてともに成長する喜び。武器を扱うことを生業としているユーインにとって、自分専用の、それも自分を試し、その力を認めた武器がこの世に存在する事、それを持てる事、それ自体が特別であり、ブローカーとして扱う武器とは一線を画してきたのは云うまでもない。

「無論、ユーイン様がお望みになればの話ではありますが」

「その、『ユーイン様』ってのやめろよ」

「では主様」

「あーこの言い合いもいい加減何度目だ?呼び捨てでいいってのによ」

「そうはいかぬのが私の性分でして…どうです?お望みでしたら以前のように私と拳を交えていただき…」

ユーインは念のようなもので獅子王の言葉を聞いている。その手が獅子王をぺちっとはたいた。こうでもしないと、いつまでも懇切丁寧に説明が続くのを、ユーインは身をもって知っているからだ。

獅子王は見た目の荒々しさとは全く逆の「正座をして頭を垂れているような対応」をユーインに示してくる。

獅子王を見下ろす形になっていたユーインは、下げていた頭を持ち上げ、首をひねるようにして高く結わえた髪を軽く振った。

手入れをすることに集中していたため、少々首が凝った気がしたからだ。

「そうさな…力は兎も角テメーと久しぶりに手合せ出来るってなら大歓迎だ」

獅子王と初めて手合せした時、全身の血が滾ったのを覚えているユーインは、好戦的な目を獅子王に向けて言い放つ。

それに獅子王が呼応した。

「ユーイン様がそのお心算になられているのでしたら是非に。…どうか私の持つ未だ秘められている力を貴方様の手で引き出してくださいませんか」

 

重い一撃。人の姿に具現化した獅子王は精悍な顔つきの、しかし静と動を混在させた、どこかしらの部隊長でも務めているかのような筋骨隆々な存在感のある男だった。ユーインに言わせてみれば「堅物」と言ったところ。その威厳のある風体でユーインの前に立ちはだかる。

きりっとした顔立ちはどことなくユーインに似ている。分身である上にユーインの為の存在だからなのだろうか。

だがユーインの力強い目以上の険の強さをもつ表情。小ざっぱりした髪をきっちりとあげているのはまるで双子が異なった環境で育ったかのようだ。おそろいの蒼く編み込む三つ編みに、ユーインも獅子王を他人と思えない程だ。

 

獅子王の打撃はユーインのものと同じくらい重い。いや、今回ばかりは、ちと分が悪いか、とユーインが思うほど重かった。

獅子王の放つ一撃一撃を武器の柄で受け流しながら押されているのはユーインの方だった。だがユーインが負けている訳ではない。うかがっているのだ。獅子王の動きと攻撃が未だ本気でないことを見越して。

「本気で、来てください!ユーイン様ッ!」

ズシン、と獅子王の持つ槌が地面にめり込む。そのめり込んだ槌にユーインがさっと足をかけ、自身の身体を引き上げざま両手を組むようにして獅子王の背を叩き捕らえた。骨に響くほどの叩きつけに、獅子王が歯を食いしばり、起き上がりざまユーインの足首を掴む。

掴まれた足を軸にして身体を半回転させたユーインが、獅子王の肩を踏み台に、地面に置いた武器を獅子王めがけて打ち上げた。

「本、気じゃねぇのは、どっち、だよ!オラ!」

「そう、こなくては!」

めり込んでいた武器を軽々と持ち上げると、獅子王の全身に火花が散った。視覚的に弾ける其れは、ユーインの持つ火の力と同じ物だ。

獅子王の髭のない顎をチっと掠めたユーインの武器はそのまま宙を舞い、転がるように受け身を取ったユーインが、その手を突き上げると、狙ったかのようにその手にキャッチされる。それを見送る形で獅子王は高く振りかざした槌を打ち据えてくる。その攻撃がユーイン自身の身体を狙い始めたのに気づき、ひらりと身をかわし続けるユーインが言葉を放った。

 

「獅子王!」

「なん!です、か!」

ブオン。

 

「俺を殺る気で来い!」

 

「…っ御意」

 

声と共にユーインの重い一撃が、そして獅子王の重厚な一撃がクロスして互いの横腹に叩き込まれた。ユーインは足を踏ん張ったが、意に反して、衝撃に身体がくの字に曲がり、吹っ飛ばされかけて靴底が砂煙を上げた。

「ぐっ…は…」

何とか持ちこたえるが、打撃のダメージは大きかった。ガクンと片膝をついて横腹の鈍い痛みを堪えるものの、意識が混濁して朦朧としてくる。

ダメージを受けたのはユーインだけではなかった。

ゆらりと立つ獅子王の槌がゆっくりと振りかざされ…

降り降ろされるとともに大きな炎がユーインを包み込み、轟音を立てて散り散りに爆発した。

 

「ここまで、ですか…」

息を切らしながら、切れ長の獅子王の目が捉えたのは、掻き消えていく業火と煙だった。本気で来い、殺る気で来い…ユーイン様の声が脳内に響く。まだ、「その時」ではなかったのだろうか。私の読み違えか──────

獅子王が喪失感に愕然と、膝を折ろうとしたその時だった。

「甘ぇな獅子王」

と、頭上から声が聞こえ、ハッと顔を上げると

ユーインが武器を振りかざして風を切るのが見えた。

重力をも味方につけたユーインの一撃は、獅子王の頭蓋骨を砕かんとばかりに打ち下ろされた。

 

 

 

「──────…」

「…」

頭骨ギリギリで寸止めされたユーインの武器はピクリとも動かない。

敢えてそうしているのだ。屈服させるわけでもなく従わせるためでもない。ケリの付け方と言うのをわきまえて居るユーインだからこその行動だ。

「……私の負けです…ユーイン様」

 

 

 

ユーインは人生を武器に振り回されてきた。初めは自ら選んだ道でもなかった。この道を歩む以外の選択肢がなかったのだ。それでも不勉強なことはしなかった。その筋の教えを説いてくれる者には、食らいついてでも教示を受けた。ユーインは蛇の道は蛇という人生を体現していた。一笑に付す者、あざける者、裏切る者、だます者、すべての話にあえて自ら乗り、その中のほころびや隠された真実を暴くことも多々あった。

必要な事はあますことなく行った。空振りの連続だろうが、ユーインは其の一つ一つの仕事や生き方で迷うことはなかった。なぜなら、信じていたからだ。自分自身と、そして──────獅子王の生きざまを。

今までも、これからも、ユーインに悔いが残るようなことはほぼ訪れないだろう。

そして今回も揺るがぬ信念のもと、獅子王を打破したのだ。

獅子王もそれを承知の上だ。

 

──────本当に、主としてふさわしい方だ。

獅子王は潔く負けを認めると、立ち上がり辞儀をする、と、なぜか少々困り果てた顔をユーインに向けてきた。ユーインの目の前に正座したその姿勢から、頭をひねり、眉を寄せては戻し、なんだか一人で照れているようにも見えた。

「なんだよ獅子王、ハッキリしねぇな」

「いえ…あの…なんといいますか…」

「?」

「ち、力をユーイン様に…そ、注がせていただきたいのですが」

「おう」

「ちょっとばかり、アレでして…」

ユーインが腰に手を当て、前かがみになって獅子王を覗き込んだ。少々口が尖っている。

「まさかとは思うがよ、獅子王、俺に注ぐってんは」

「は、あ、あの、ユーイン様、私がそうしたいのは色々と、色々と訳がありまして、その方法でしか私の力を引き出すことは不可能でして…」

獅子王がさも申し訳なさそうに、それでも膝を立て、ユーインの羽織ものをそっと落とす。そして、いつもユーインが米結びにしてしまって、いつも直してやる腰ひもに、おそるおそる手をかけた。

「何、なにっ、してる、ししお…」

「ユーイン様、堪えてください、恥ずかしいのは私もなんです…っ」

今までみてぇに武器に宿るのとは違う、宿主への力の受け渡し方。

つまるところ獅子王がユーインを抱くことがその儀式の一環なのだが、獅子王からすれば、敬い憧れ心ときめかせていた自負があるため、儀式とはいえ拒否されたらユーインに袖にされる…フラれるようなものだ。だからこそ、おそるおそるといった慎重さが全面に出てしまう。

 

口をへの字にして獅子王の頭部、高く結わえた髪が細く流れているその、結び目辺りをじっと見ているユーインの心境も複雑だった。なんせ、獅子王がしようとしていることは男同士の性交である上に…

突っ込まれるの俺なんだろ…

愛しい相棒がそう求めてくるのだから応じるのはやぶさかではないが、どうする事が男同士の行為なのか予想もつかない。ただ、尻を使う事と、獅子王の性器をナマで尻穴に挿れられることなんだというところだけは、「恐らくそうなんだろう」という程度の理解を持っていた。

しかし、その行為は…

「獅子王、ちょいと待ってくれ」

「は、はっ、何か失礼がありましたでしょ…」

畏まる獅子王の恋心を知らないユーインは、やけに緊張している獅子王の言葉を遮った。

「オメーがどんな気持ちで俺と関係もちてぇのか、お前さえよけりゃ教えてくれ。知りてぇ。俺は察しの悪い方でな、お前いつも俺にかしずくだろ?ギシキだからヤろうとしてんのか、俺を、も…求め、てる、から抱こうっつーのか…わかんねぇしどう対応、して、いいものやら…なんだよ」

うつむいたまま目下に見える獅子王の頭が、上を仰ごうとするのに気づいて、目線を斜め上に反らしながらユーインが言う。

「愛だの恋だのってやつにゃ慣れがあんまなくってよ、だからっつって童貞じゃねえぞ…遊びならそう理解したうえで抱かれっから…」

「…ユーイン様」

する、と腰ひもがほどけ落ち、獅子王がユーインの腹に顔をうずめ、何度か戸惑った後───────

腹部にそっと、丁寧にキスを落とした。

 

 

 

 

 

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