この、危険なシェアハウスでの生活も一ヶ月が経った。最初は、手を出してきたらどうしてくれようか――そんな血なまぐさい心配しかしてなかったが、案外何とかなっている。
ヘンタイ上司は相変わらずヘンタイだが、自宅から一歩出れば極めて常識的だ。今日も会議会議に、合間で部下から相談を受けつつ、直行直帰と多忙を極めている。おかげで私たちが一緒に通勤することはそう多くもないのだが――ちなみに、入社日も道案内のために会社の前まで寄っただけで、建物には立ち入らずに駅の方へ行ってしまったもんだから、どこ行くんだよ!? と焦ったけど――それでも、徒歩三分の自宅である。他の同僚から気づかれないはずがない。
「わ、浅山さん、今日もお弁当可愛い~」
「そのトンカツ、冷凍とかじゃないですよねー」
昼休み、食堂に弁当箱を持ち寄り、新人同士で和やかなランチタイム――といいたいところなのだが、同僚たちはコンビニの冷麺とかサンドイッチだ。そんな中、私だけ上司謹製の凝りに凝った手作り弁当である。てか、初日のティータイムでも思ったが、アイツそこはかとなく少女趣味じゃないか? おかげで、いまも地味に浮き気味である。
「き、昨日の残り物ですってばー」
トンカツが好物だってのは深海さんにも伝えてある。なので、二日連続で出てきたとしても不満はない。それどころか、昨日食卓に並んでいたそのまんまではなく、下拵えだけ済ませていたものを今朝揚げたというのだから驚きだ。
こんな感じで、今日も羨望の眼差しを集めている私ではあるが、その理由は弁当だけではない。
「と、いうことは……深海部長も同じお弁当、なんですかね~?」
その話題には触れないでほしいのだけど……まあ、徒歩三分なのだから仕方ない。私が深海さんとシェアハウスしていることは周知の事実になっている。何しろ、あの好条件であの立地だ。社内でも問い合わせた人は多い。それでも、入居に至ったのは私だけ。なので、同僚たちの興味も尽きない。
「ワタナベ君から聞いたんですけど……浅山さんの家って、露出狂の男が管理人やってるって話じゃないですか」
まったく、会社近くにシェアハウス構えて、とんでもない募集をかけてくれやがるぜ。なのでそこは、私と深海さんとは別にもうひとり、深海さんの遠縁の親戚が住んでいる――という言い訳を、ヤツ自身が用意していた。共同管理なので、掲載用の近影には歳若い深海さんの写真を使わせてもらった、ということで。ただ、入居条件として、その親戚には露出癖があるので、それでも良ければ――女子は言うまでもなく、男子も――多分、あまりの好条件のため、逆に必要以上に身(というか尻穴)の危険を感じてしまったのだろう――ともかく、ヘンタイハウス、もしくは、アナルハウスという名が、社員の間ではまことしやかに広まっている。ヘンタイはともかく、アナルはさすがにやめてほしい。
とはいえ、深海部長自身の人望は絶大で――いや、だって、あの若さで部長やってるイケメンよ? 女子はもちろん、メンズから見ても、その実力については疑いようがない。なので、そんな優秀な部長の遠縁の親戚は本当に全裸なのか――というか、深海さんの尻穴は無事なのか――みんな寄ってたかって面白がり、こうして同居者である私からほじくり出そうとしがちである。あのイケメン、服を着た自分が社内で相当目立っていることに気づいていなかったらしい。
「……さ、さぁねぇ……? なんか、夜の仕事してるみたいで、顔を合わせたことないんですよー……」
この設定も深海さんが決めたものだが――この場合は、私の表現が良くなかったのかもしれない。
「夜の仕事、っていうと……やっぱり、アッチ系?」
「ってことは、深海部長も……?」
「知らないって! 興味もないし!」
一応小声で話してはいるけど、ここ、会社の食堂だからね? 注目の話題だけに、周囲からも聞き耳を立てられている気がする。私、こういう辻褄合わせ得意じゃないから、どっかでボロ出しそう。あー……日々不安の種しかないわ。
不安の種といえば、午後からのミーティングにも不安しかない。
「それより、今日の会議……私も意見言うことになってるんだけど……」
「あー、前回、思いっきり船漕いでたってやつ?」
「気を緩めすぎですよー」
だって、こちとら新入社員だぜ? よくわからん専門用語ばっか並べられても、眠気しか頭に入ってこない。その対策として緊張感を持つように、と発言の機会を用意されたってわけだが……それはそれで、真っ当に話せる気がしねぇ。
……はぁ、もしかして私、入る会社間違えたか? 別の勤め先なら、こんな噂話に気を使うこともなかったのに。
さて、ミーティングについては――まあ、寝なかったよ。それだけは助かったけどな。どうやら私は一人前にカンペを読み上げることさえできないらしい。漢字どころかカタカナ用語の読み間違いに始まり、一行飛ばして次ページのスライドの内容読み上げちまうし、最悪だったのは、来客の名前を間違えてしまったこと。あとで聞いた話だと、社内で不倫やらかして更迭されたことで急遽代役となった後任者だったらしい。け、けど……私は脚本通りに読み上げただけだし! って、舞台のお芝居じゃねーから、コレ! 脚本じゃねーよ、カンペだよ! ホントは自分の言葉で喋んなきゃいけねーんだよ!
一応、新人だってことで大目に見てもらえた……? のか……? 同席してくれたミズシマさんの顔色から、相当やべぇ、ってのは伝わってきたけど……何というか、本当に……入る会社、間違えたかもしれない……。
こういう日は、深海さんに励まして……じゃなくて、相談すれば少しは気も紛れるのだが、そういうときに限ってひとり飯だ。深海さんは夜遅くまで打ち合わせが入っており――まあ、食事は深海さんの善意であって、ホテルみたいなサービスじゃない。今夜はどこかで食べてきて欲しい、という話は聞いていたので……同僚とぶわーっと呑みに行ってやったわ!
まだ残業が積み上がるほどの仕事を任せられることのない新人だけに、ほぼほぼ定時に上がってみんなで駅前のチェーン店に突入じゃい! 呑みホはつけてないけど、ビールを浴びるように煽る私。
「あ、浅山さん……明日も仕事あるんだし……」
「大丈夫大丈夫! 私、お酒強いから!」
学生時代はバイト仲間と毎晩のように呑んでたからねー。自分の許容量とかも熟知してるし、失態も粗相もすることはない。むしろ、仕事よりも得意なのではなかろうか。……あー……何の自慢にもならねーよ。
ってことは承知の上で!
「ともかく、今宵は仕事の話は無し! 家の話も無し! もっと楽しい話をするってことで!」
酔いが回ってるところでシェアハウスのことツッコまれたら、うっかりボロが出そうだしね。
こんな感じで、最初は私を励ます会、から始まったはずだったんだけど。気づけば同僚の恋愛相談に乗っ取られてたわ。曰く、気になるメンズが、もしかしたらゲイなのかもしれないとか何とか。彼女も作らず男友達と遊び歩いてばっかだし、エロい話にも全然乗ってこないし、とのこと。いや、女子からエロバナ振られても、男子だって困るでしょ。とはいえ、私も身近にゲイか否かで悶々としてる男がいるので、つい食いついてしまった。
気づけば九時を回っていたのでさすがに解散。しかし、私は徒歩三分。いや、会社より遠いからもう少しあるか。ともかく、帰路に何の憂いもない。やっぱすごいわ、この立地。
この際、帰って布団に直行したいわー! ……とも思うが、それはさすかに社会人としてどうかと。シャワーなら明日の朝に……なんて後回しにして、これまでの人生、うまくいった試しはない。学生ならともかく、社会人が大失敗した翌日に酒臭いまま出社するとか、さすがに終わってる。
ということで、これは最低限の身嗜みとして。私は玄関からまっすぐ脱衣所へ向かい、ポイポイポイと上から下まで脱ぎ散らかして、髪はどーっすかなー、とか考えながら浴室へと踏み込んだわけだが――
「……ッ!?」
「あ、浅山さん……っ!?」
さすがにこれは、酔った頭でもすぐ気づく。私の入浴時間は九時まで――それがこの家のルールだった。とはいえ互いの使用頻度を考えれば、鉢合うような事故はそうそうないだろ、と一〇時だろうが日付が変わってようが、日頃時間を意識せずに風呂ってたのがマズかった。もちろん、明かりが付いてるとか、物音がするとか、そういうところで気をつけてはいたけれど。今日に限って完全にスルーしちまった。
自分から素っ裸で扉を開けて胸を張ってしまった以上、いまさら恥ずかしがって逃げ帰るってのも――自爆というか誤爆というか、カッコ悪いにもほどがある。なので、腰に手を当てこうして直立不動で敷居を跨いでいるのだが――私、どうすればいい?
この家の風呂場は、まるでラブホのような広さがある。男の管理人が、男性限定で募集をかけながら。それも、私が嫌疑の目を向ける要因となっていたのは否めない。
そんなゆったりとした湯船の中で、深海さんは申し訳なさそうに俯いている。
「ご、ごめんね。すぐに出るから……」
いまは男湯の時間帯なのだし、本来の使用者として、もっと堂々としていてもいいと思う。なのに、こんなに恐縮されては、私の方が申し訳ない。もしここで、私が甲高い悲鳴でも上げていたらパニックになっていたかもしれない、ってほど深海さんは消沈している。そんな叫びが私の喉からこみ上げてこなかったのは、これが自分の失態だと自覚していたからか。むしろ、深海さんの方が悲鳴を上げておかしくない雰囲気である。
湯船に浸かる深海さんは……むしろ、風呂場で全裸ってのは普通だし、揺らめく水面のおかげで肩から下はよく見えないし――けど、足は閉じ、両手で股間を隠しているようだ。呑み屋での話の所為か、私はこのとき、自分の裸体より深海さんの方が――深海さんの噂の方が気になっていた。当然、遠縁の親戚なんて嘘っぱちだ。なので、尻穴兄弟なんていないことも知っている。
けれど、本当にどこにもいないか――何しろ私は、深海さんが勃起しているところを見たことがない。ヒラヒラしたエプロンの前掛けくらいでは、その裏側で変調が生ずれば丸わかりのはず。毎朝毎晩顔を合わせているのに――猛っていたのは、あの夢で見た一度だけ。
男は穏やかな方が好みだ。が、それは時と場合による。目の前で全裸で対面して、それでも平然としていられるのは――我ながら、この感情はよくわからない。やや苛立っていることはわかる。が、何に苛立っているのか。
深海さんは、いまも自分の膝を見つめている。その姿勢は反省している子供のようで、可哀想やら可愛らしいやら。私がここでこうして立っている限り、ずっとそうしているのだろう。だから、本来私がすべきことは、速やかに脱衣所に引っ込むことだ。
が、しかし。
何というか……どっちも悪いからお互い様ー、ってのはどうにも性に合わない。はっきりいえば、今回の件は全面的に私に非がある。なのだから、いつものように『いまはボクが入る時間のはずだけど』と諭してくれれば、こっちだって『あ、間違いました。すいませんー』って大人しく引き返しただろう。
なのに……被害者の方が謝ってしまっては――いや、こっちもこっちで『こちらこそ失礼しましたー』って背中を丸めて踵を返せば済む話なのだろうけれど――謝ってる相手に謝り返す、というのが、私には不自然すぎるように感じるのだ。
かといって、私の方が正しいのだから――と、後から来ておきながら先客である深海さんを追い出せるほど図々しくもない。
ということで。
「いえ、お構いなく」
これには深海さんも、視線を合わせないまま驚愕している。自分で言っといてナンだけど、我ながらビックリだよ! お構いなくって何? じゃあ、私ナニしに来たんよ。かといって、自分が外に出るという退路も用意していない。
ということで、答えはひとつ。
「――日頃お世話になっているお礼に、背中を流しに来ただけですので」
私がじっと睨むと――どうやら不退転の決意は伝わったらしい。少し迷った後、男はザバっと腰を上げた。両手で股間を隠しながら。なので、そこがどうなっているかはわからないが――一先ず、裸のつき合いなどまっぴらだ、というほど私に悪い印象は持っていないらしい。
深海さんのことだから、身体を洗わずに湯船に浸かるようなことはしないだろう。だからこれはおそらく、二度洗いだ。ゆえに実質的な意味はなく、いってみれば――猿の毛づくろいのようなものか? ボスと認めて服従するつもりもないが、かといって字面通りに日々のお礼として軽く扱われても困る。なので……日々に加えて、この先も色々と仕事上フォローしてもらうこともあるだろうから、その前払いも含めている、と思ってもらいたい。
タオルでボディソープを泡立てて、私は深海さんを後ろから撫で回す。それにしても……やっぱこの男の背中は広いな。常時裸エプロンなので見慣れたものだったとはいえ、実際に触れるのは初めてのこと。湯船で寛いでいたこともありほんのりと温かくて……つい寄りかかりたくなってしまう。が、ここはお互い裸だ。もし深海さんが同性愛者だったら……じゃなかったとしても、何の好感も持ってない相手からベタベタされたら嫌だよな。
とはいえ……ここまでしてるわけだし、いまさら毛嫌いされるとも思えない。ということで、膝の方に手を伸ばす体裁で――
――あ。
頬に当たるしっかりとした感触に、ついドキドキしてしまう。手の平だけでなく胸全体で感じる背中は力強いのに、どこか優しい。酒も入ってるし、このまま眠れたら……と言いたいところだが、何故か目はどこまでも冴えてくる。それは、胸の鼓動が私を叩き起こしているからだろう。ここで眠ってしまうなんてもったいない、と。
だが。
肝心の深海さんはどう思っているのだろう。全裸の女子と密着していて――
……いや、しかし待てよ? いまは不完全なセクハラだというのか? もう、完全にアウトだろ。本来深海さんが利用する時間に全裸で乗り込んで、相手を逃さず、自分も出ず、こうして際どいところに指を這わせて――うん、もうダメだ。これまでさんざん『手ェ出したらコロス』くらいの勢いで威嚇してきたのに、自分から手を出してるんだから目も当てられない。退去を命じられても当然な事案だ。
なら――最後に確認しておきたい。私のことを――どんな目で見てたのか……ッ!
――ギュッ!
「……!」
一番安心したのは――深海さんが何も言わず私の両手を受け入れてくれたこと。そして――ちゃんと、勃起していてくれたこと――!
背中もポカポカと温かいけれど、そこからはタオルに包んでなおそれ以上の熱が伝わってくる。そして、硬さも。それにほっとしている自分に気づいて――もう、後戻りできないところまで踏み込んでしまっていることを自覚した。
この男は、ヘンタイである。が、それを差し引いたら――最初の晩の夢に出てくるくらいなのだから、私は相当やられていたのだろう。おそらくは、不動産屋で管理人近影を見た瞬間から。その後、裸エプロン姿で対面しても、私の気持ちは変わっていなかったらしい。
だから――これは、最初に言った通り、日頃の感謝だ。けど、背中を流すわけではなく。タオルは手の内からするりとこぼれ、泡まみれになった手の平で、直接――
「……んっ」
深海さんが小さく呻いた気がする。その声に合わせて、ビクン、ビクンという脈動も。はぁ……すごい……やっぱり身体の大きさに見合ったモノを持っていたらしい。こんな激しいモノをエプロンみたいな布一枚の向こう側で抑えていたなんて。
「はぁ……はぁ……」
石鹸で
「……ふぅ……んん……」
深海さんの息が荒くなってきた。胸の音が強くなってきたのも、自分の胸で感じている。きっといま、深海さんのすべてが私の両手の中に集まってきているに違いない。それはもう、抑え切れないほどに。
「浅川さん……ボク……っ」
無防備な袋の方に軽く力を入れると、男の切なげな懇願が浴室に響いた。
「深海さん……我慢しなくて、いいですから」
言って、私はなだらかなうなじに唇を這わせる。いまは、部下と上司とか、管理人と入居者とか、そういう関係は忘れて欲しい。私は、私のしたいことをしている。だから、深海さんも、自分がしたいことを、したいように――
ビクンッ、ビクンッ!
抱きしめていた背中がフルフルと強張った。そして、ぺとり、ぬるりと私の手に今日一番熱いものが流れ落ちてくる。これ……アレだよね……? ふふ……私、深海さんを……。
当初の宣言と内容は変わっているけれど、これはこれでお礼になったんじゃないかと思う。けど、これは……これからどうすればいいんだ? 深海さんの大きな背中にもたれかかったまま、私はぼんやりと考えている。一度爆発したにも関わらず、深海さんは疲れを知らない。溢れ出してきたものは止まっているけれど、未だ私の両手を押し返すほどの力強さでうごめいている。だから、に違いない。私が、何も考えられなくなっているのは。
「浅川さん――」
「はいっ!?」
その名を呼ばれただけで、私の心が目を覚ます。そして、続く言葉は――
「――今度はボクが、浅川さんの背中を……」
「……はい」
それは覚悟――いや、期待だったのかもしれない。
私の両腕から力が抜けて、だらりと垂れ下がる。
そして床に膝を立て、彼の方に背中を向けた。
間違いなく、洗い流すだけで済むはずがない。
何故なら、私の方から先に至らしめたのだから。
それを理解していながら、私はこの背を差し出している。
だから――
普通に背中をこすられると、不安と期待が鳴り止まない。
深海さんともなると、本当に何もしないことも考えられる。
本当に、文字通り背中を流すだけ、とか。
変なところで遠慮して。
そこは、遠慮しないでほしい。
私の気持ちはとっくに定まっているというのに、どうしてここで焦らすのか。
早く……もっと後ろから……
――ぎゅ……っと。
あぁ……っ!?
きっと私、とんでもなくだらしない顔してると思う。硬い胸と優しいお腹、そして太い腕で身体を抱かれて――この力強い拘束感は浴室の熱気よりもなお熱い。私の心はすっかり弛緩して、身体を男に委ねてしまっている。
深海さんはもう、タオルを使ってない。大きな手の平で、私の胸の――その先の――
「んっ……ん……っ」
うわ、浴室って結構声が反響するのね。自分が声を抑える立場になると、ものすごく気になってしまう。ただ摘み上げられているだけならまだしも、私のお尻の下に潜り込んだ深海さんが――これまでの疑いをすべて払拭するように、足の付け根の間を力強く押し上げている。ウズウズと――私の浅いところを埋め尽くして。
「ん、ん……はぁ……っ」
ほんの小さなため息のはずなのに、こんな大きく……それが、恥ずかしい。
けど、深海さんの右手がぬるぬるとお腹を撫で下りて来ると――
「はぁ……っ」
こんなの……もうダメ……っ! マズイところを指先で狙い打たれたら……!
「あっ、あぁ……っはぁん……っ❤」
うぅ……私ってこんな声出るんだ……? 自分でも恥ずかしくなるような甘ったるい喘ぎ声に思わず膝も崩れそうになる。それをしっかりと両腕で――もしくは、下から逞しいところで――私の身体はすっかり深海さんに包み込まれてしまった。
「はっ、あっ、あぁん……やぁ……んっ❤」
さっき、深海さんが恥ずかしがることをやらかしたけど――こっちのはそれじゃお釣りが欲しいほどの恥ずかしさだ。こんなに……私がこんなになっちゃうなんて……自分でも信じられない。
きっと、こんな声を聞かせるのは深海さんだけなのだろう。そうであって欲しい。そうであってくれるのなら――私に拒む意思はない。
ふわりとした夢心地のまま、私はゆったりと重さを前に倒していく。逆に、お尻は深海さんの方に押し付けるように。
そして――深海さんが腰を引いた。そこから改めて突き出すと、異なる角度は彼を同じ場所に収めることはない。
「あ、はぁ……っ❤」
私の……私のナカに、深海さんが……!
ずっ、ずっ、と私の奥深くを掻き回されて――なのに、指先も止まらず私を攻め立て続ける。
「んっ、あっ、あぁっ、あはぁ……っ!」
こんなの、夢で見たのとは比べ物にならない。
だって、こんなに凄いなんて思わなかったもの!
結局、夢ってのはこれまでの記憶とか経験とか、そういう枠を超えられないらしい。
始めてもたらされた快感は、私の身体を溶かしていく。
「ふっ、深海……さん……わた……私……っ」
これ以上は耐えられそうにない。
きっと、耐える必要はないのだろう。
何しろ深海さんが耐え難いほどに至らしめたのは私なのだし。
だから、深海さんも。
「我慢しなくて、いいんだよ?」
言われなくっても、もう……ガマンなんて――!
「あぁっ! ああああああっ!?」
な、ナニコレ……!? 腰が……暴れて……っ!? はぁっ、あぁ……っ! 深海さんがしっかり抱きしめてくれてなかったら、床をのたうち回っていたかもしれない。こんなの……これが……? もし、これがそうなのだとしたら、これまでのは全部ウソか勘違いだったのかもしれない。
少しして、痙攣も収まった。ちなみに――二度目といえど、深海さんはちゃんと外に出してくれた。そこまで情とか流れとかに溺れることはないらしい。
抱き合っていた間は身体中熱かったけれど、一息ついたら急に寒くなってきた。ということで、ふたりして湯船へ。いや、ほんとラブホかよ、って感じの寛ぎっぷりだ。こうして、深海さんを背中に敷いてしまっているのは、いまだどんな顔して向き合えばいいのかわからないからかもしれない。
ふたりの間に挟まっているものは、未だ硬い。深海さんってもしかして……超絶倫……? さらに求められたらどうしよう……とか不安なフリして、実はワクワクしている自分もいる気がする。
いずれにせよ、さっきみたいに激しく抱かれるのも良かったけれど、こうして優しく寄り添ってくれるのも嬉しい。けどやっぱり、何て声をかければいいのかわからないので、私は相変わらず黙っている。そしたら、深海さんの方から話しかけてくれた。
「このことは、会社では秘密だよ」
「おいおい、外で下ネタ話すようなキャラか?」
私はもちろん、深海さんだって憧れの上司ってポジションに居座ってるんだ。ヤったヤラないって開かすタイプじゃないだろ。
なんて考えに結びついてしまったのは、我ながら品がなかったか。
「そうじゃなくて」
深海さんの苦笑が襟首にかかる。その微笑みまで見えるようだ。
「ボクたちが、付き合ってるってことを、だよ」
「……そいつは……ああ、そうだな」
改めてそんなことを言われると……ああ、本当に背中を向けていて良かった。どんな顔していいのかわからないし……目の前にいたら、思わず抱きついていたかもしれない。けど、この体勢でできることといえば――私のお腹に当てられていた大きな手をぎゅっと握りしめることだけ。優しく、温かく。
けど……あー……私の方は、さっきみたいにシてくれていいんだけどっ!? ……って……うー……深海さんに言われていた通り、私はやっぱり、欲望に忠実な性格だったらしい。