「ここは……?」
男は真っ白い空間をふわふわと漂っていた。
どうしてこんな所にいるのか分からず、記憶を辿ろうとするがモヤがかかったように思考が定まらない。
「……」
どれくらい漂っていただろう。
ふと気づくと、すぐ隣に誰かが立っていた。
褐色の肌に腰まで届く黒い髪。
豊満な乳房にくびれた腰、すらりと伸びた長い足を惜しげもなく晒し、金色の瞳で男を見つめている。
抜群のプロポーションを誇る美女の全裸を目の当たりにしているのに、男は不思議と落ち着いていた。
しばらく見つめ合った二人だったが、褐色の美女が口を開く。
「私はフェニム。運命を司る星晶獣。しかし、私の力は強大すぎて創造主たる星の民でも制御できなかった」
フェニムと名乗った美女はどうやら自己紹介を始めたらしいが、名前以外の情報について男は何も理解出来ないでいる。
「力を持って創造されながら、私は私の力を行使した事が一度もない。私は何故存在している? 私は何故存在し続けている? 私は私である意義を見出したい」
フェニム自身は淡々と語っているだけだし、男は語られる内容を全く理解出来ていない。
しかし、その言葉に哀しみだけは感じ取れた。
「異世界の適合者。どうか私の力を使って欲しい。それがどのようなモノであっても、どのような結果を招いても構わない。ただ、私が私たる存在意義を示して欲しい」
一方的にそう言い終えるとフェニムは両手を広げ、漂う男を抱きしめる。
自分の胸板に柔らかい2つの乳房を押し付けられ、男は少し興奮した。
「んっ……」
フェニムにされるがまま、二人の唇が重なる。
触れ合った唇から男の中にナニカが流れ込み、それと同時に真っ白だった空間が蒼く蒼く、どこまでも蒼い空へと染まっていく。
そうして、男は再び意識を失った。
───────────────
「どこだ、ここ……?」
男が再び意識を取り戻した時、そこは人類の手が入っていない未開の森だった。
未だ自分の身に何が起きたのか理解出来ないでいたが、とりあえず意識はハッキリしている事もあり、男は森を当てもなく歩きはじめる。
(見渡す限り、木しか見えないな)
男にはサバイバル経験も知識もなかったので、とにかくどこかに通じる道か、話のできる人を探して足を動かす。
方向も適当で、ただ何となくで歩きつづける。
途中でスマホの地図アプリの事を思い出したが、ポケットのどこにもスマホはなく、それどころか身につけている衣類以外何も持っていなかった。
(参ったな……)
途方に暮れながら歩き続ける事数十分。
太陽が頭上に輝く頃、少し開けた場所に辿り着き、そこに人の姿を確認した。
(角……? 変な格好だ。コスプレってヤツか?)
その人は開けた場所の中で座禅を組み、目を閉じて瞑想しているように見えた。
なぜコスプレイヤーがこんな森の中で座禅を組んでいるのかはわからないが、ともかく人に会えた事を喜ぶ。
ひょっとして何か撮影でもしているのかと、キョロキョロと男は周囲を見渡すも、それらしき人影は見当たらない。
兎にも角にもやっと見つけた人だ。
ここはどこなのか道を訪ねようと近づく。
(寝てる……)
と思ったものの、ある程度近づいた所で女性の頭が船を漕いでいるのに気づいた。
さて、どうしたものかと逡巡し、改めて女性をみる。
座禅をしているため正確にはわからないが、小さい。
立ち上がったとして、150はないだろう。ひょっとしたら140もないかもしれない。
小学生、それも中学年前後しかないように見える。しかしそれをもって『幼い』ではなく『小さい』と男が感じた理由は、身長に反比例するかの如く巨大で豊満な乳房のせい。
眠りによる浅めの呼吸で、緩やかに前後へと動くソレは、片方だけでも女性の頭部より大きく見える。小さな身体には余りにも似つかわしくないものだったが、不思議と全体としての調和が取れており、男に小さくない劣情を抱かせた。
とは言え、こんな状況でそのような劣情を表に出すわけもない。
他に特徴的なのは、やはり頭部側面より伸びる2つの角だ。
側面から生えた角はカーブを描いてやや上向き気味で前方へと曲がり、円を描いて自らの頭部を傷つける前に、再び外側へとロールしている。
それと、エルフを思わせる尖った耳。腰に携えた刀。
(コスプレ……だよな? 凄いリアルだけど)
耳はともかく、角はコスプレ用の小道具とは思えない程にリアルだった。
……と、いつまでもジロジロと観察していても仕方ない。
男は気を取り直し、未だ座禅を組んだまま眠る女性に話しかけようと一歩踏み出す。
「えっ?」
しかし、その一歩を踏み出した瞬間、女性の姿が煙のように揺らぎ、大量の胡蝶となって飛散する。
その内の一匹が背後に回り込んだのに、男は気づかなかった。
「……こんにちは」
「うわっ」
背後から声をかけられた男は慌てて振り向く。
そこには、先程まで座禅を組んで居眠りをしていた女性が立っていた。
「こんなところでどうしたのかな? もしかして、迷子?」
おっとりとした感じながらも、どこか色気のある声で女性が問いかける。
「え、あ……っと」
しかし、男は目の前で起きた超常的とも言える現象に理解が追いつかず、問いかけに答えられないでいた。
「大丈夫? 落ち着いて、深呼吸してみよっか?」
「あっ、はい」
恐らく身長が140cmにも満たないであろうコスプレ少女だったが、不思議と溢れる包容力のようなものの前に、男は素直に従う。
「すぅー……、はぁぁ……」
何度か深呼吸すると落ち着く。
「大丈夫?」
「ああ、もう大丈夫。……それで、さっきのは一体? こんな所で手品の練習でもしてたのか?」
「手品? なんの事?」
男はとりあえず素朴な疑問をぶつけてみたが、少女は首を傾げる。
「いや、さっき消えて後ろから……」
「え……? 普通にただ移動しただけ、だけど」
(普通に移動しただけ……?)
どうも会話が噛み合わず、二人は互いに疑問符を浮かべていた。
「まあ、いいか……。それより、ここはどこなんだろう? 近くに電話……いや、財布もないんだった。だったら、交番? とか、ないかな?」
目の前の疑問は棚上げし、より緊急な問題を解決すべく少女に尋ねる。
「交番? ……っていうのはわからないけど、キミ、やっぱり迷子なんだね? いいわ、お姉さんが街まで案内してあげるね」
少女がにっこりと微笑む。その微笑みは、先程までよくわからない森の中をさまよっていた時の不安を打ち消すような、慈愛に満ちた微笑みであった。
(お姉さんて)
男の胸元にも届かないような身長の少女がいきなり姉を主張する事に苦笑しかける。
だが、男は不思議と嫌な感じを受けず、むしろしっくりくるような気分になり、特に否定はしなかった。
「ふふっ。じゃあ、こっちよ」
(その格好のままなんだ)
先導して歩き始めた少女に、男は黙って従う。
「そう言えばキミ、お名前は何て言うの? 私はナルメアよ」
「ナルメア……」
(外国人か。確かに日本人離れした顔立ちをしてるもんな。しかし流暢な日本語だ)
「俺は仙堂。仙堂悠真です」
「センドー、ユーマ……。ふむふむ。ユーマちゃん、ね」
「えっ……ちゃん付け?」
ナルメアは一人で何かを納得すると、くるりと身体をこちらに向け、満面の笑みを浮かべながら右手を差し出す。
「よろしくね、ユーマちゃん」
「え、あ……よろしく、ナルメア……ちゃん?」
男──ユーマはちゃん付けで呼ばれるのには流石に鼻白む気分だったが、道案内をして貰う手前、受け入れる。
そして差し出されたナルメアの右手を握り返した。
ナルメアはナルメアで、ちゃん呼びされ返された事に若干不服そうな顔をするが、握り返された手を見て再び笑顔を見せる。
「それじゃ、行こっか?」
「頼む」
そうして、二人は森の中を歩き始めた。
────────────
「う、うわ……マジか」
ユーマは目の前に広がる光景に絶句する気分だった。
まず驚いたのが、森を進んでいると突如現れた猪らしき化け物だ。
最初、熊かと思う程の大きさに驚き、異常に発達した長い牙に驚く。そしてユーマの知る猪とは決定的に違う要素として、背中に大きなキノコが生えていた。
そんな化け物が興奮した様子で襲いかかって来たのだから、ユーマは恐怖で漏らすかと思った程だ。
次に驚いたのがナルメアだった。
ナルメアは襲いかかって来たイノシシの化け物に全く動じる事もなく、手に持っていた刀を抜くと……ゆらりと揺れた。
抜き放った刀が煙のように霧散したかと思ったら、剣や槍のような残像を見せる。そして次の瞬間、襲いかかってきていたイノシシの化け物が断末魔を上げながら地面に倒れ込んだのだ。
「さ、行こっ」
まるで何事も無かったかのように、ナルメアが刀を鞘にしまい、再び先導し始める。
「い、いやっ、ちょっと待ってくれ。今、何をしたんだ? それにこの化け物は一体……?」
この森にこんな化け物がいるなんて。
もし、一人でさまよっている時に遭遇していたら……と考えて、ユーマの背中に冷たい汗が流れる。
「大丈夫、お姉さんに任せて。このくらい、朝ごはん前だから」
ナルメアは事も無げに言う。
「凄いな……」
「凄くなんて、ないよ……」
ユーマの呟きをナルメアが否定する。
その表情には、先程までの天真爛漫な笑顔からは想像もできない程の影が落ちていた。
「いやいや、どう見ても凄かったでしょ。動くときなんか消えるし、剣筋は全く見えないし、余裕だし。……てか、その刀、本物なんだ」
(銃刀法違反では?)
思ったが、ユーマは遵法精神がガチガチなタイプではないので、スルーする事にした。
「そんな……私なんて、誰かに認められるほど凄くなんてない。『彼』にだって……」
ナルメアの表情がどんどん曇っていく。
(『彼』……? 彼氏とかか?)
「意外と卑屈なんだな? 俺からしてみれば、とんでもない次元で凄いんだが」
「からかわないで……」
ユーマは素直な称賛をあくまで否定するナルメアに少しムッとする。
「大マジで感心しての感想だったけど、まあいいか。俺なんかの言葉は信用に値しないだろうし」
所詮出会ってまだ10分程度の関係だ。
彼氏に認められないと嘆くナルメアの感情をどうこうできる発言力なんてないのだ。
「えっ、あっ……ち、違うの、キミの言葉が信用できないとかじゃなくて……その……えと……」
ユーマの言葉にハッとしたナルメアは、あたふたしながら言葉を紡ごうとするが、上手く言語化できずに黙りこんでしまう。
「いや、気にしないでくれ。ただ、俺は凄いなって思ったってだけだから。その、彼氏に早く認められるといいな」
「彼氏……? ん? 彼氏……? あっ……うふふ、『彼』って言うのは別に彼氏とかそんなんじゃないわ。私の師匠の一人……みたいなものかな」
「師匠? あぁ、そうなんだ。ナルメアちゃん可愛いし、『彼』とか言うからてっきり……」
「か、可愛いっ……? 私が? そんな事……」
剣の腕についても、自分の美貌についてもだが、どうやらナルメアの自己評価はとんでもなく低いようだ。
「いやいやいや、腕前についてはド素人だから何も言えないけど、可愛らしさについては分かるよ。ナルメアちゃんが可愛くないって、そこまでいくと謙遜や卑屈を通り越してもはや傲慢でしょ」
「ご、傲慢……?」
「そうでしょ。ナルメアちゃんで可愛くないなんて、ほんの少しでも顔のバランスが悪いと人として認められないレベルに落とす事だよ」
「そ、そんな事は……」
「なんでそんなに自己評価が低いのかは知らないけど、良いところは良いと認めてあげないと、周りを含めて不幸になるよ」
……と、そこまで言ってユーマは我に返った。
凄いと思った感情を否定されてムッとしたからとて、出会ったばかりの、それも自分を助けてくれている少女に説教のような事を言ってしまった事を恥じる。
「……ごめん。俺は何様だ、って話だった」
「う、ううん……いいの。私こそ、ごめんなさい」
ユーマは恥じるように目を逸らす。
そんなユーマの目を見て、ナルメアは初めて抱く感情を胸の奥で感じていた。
(真っ直ぐな瞳だった……。キミは、嘘なんてついてないのね)
ナルメアの想う『彼』も真っ直ぐな瞳だったが、そんな『彼』とはどこか違う瞳で、真っ直ぐに凄いと認めてくれ、素直に可愛いと褒めてくれた男を見て、何故か頬が熱を帯びるのを感じていた。
「その、ね? ユーマちゃん。……ありがとう」
「えっ? いや……ど、どういたしまして……?」
───────────
「ユーマちゃん、ユーマちゃん。疲れてない? お腹空いてない? 何かあったら、すぐにお姉さんに言ってね? お姉さん、何でもしてあげるから!」
ユーマは困惑していた。
ナルメアに説教じみた事を言ってしまった後から、どういう訳かナルメアの距離感が異常に近くなったからだ。
自分では反省したが、あの説教じみた言葉がナルメアにとって良い方向で響いたのだろうという事は察した。
しかし、だからといってこれ程までに距離を詰めてくるのは異常である。
これはもう信頼した相手だとかそういう次元ではなく、恋人……それも頼めばどんな事でもしてくれそうな……そんな次元だ。
現に今、森で目覚めてから通算で小一時間、森の中を歩きっぱなしで足が痛くなってきたので少し休憩がしたいと伝えたところ、ナルメアは否応もなく受け入れ、なおかつ靴も靴下も脱がされた状態で足のマッサージを受けている。
とても出会ってまだ30分程度の男女が行う行為ではない。
しかしナルメアは心配そうにしつつも、嬉々とした様子でユーマの足を両手を使って揉みほぐしている。
そんなナルメアの様子を見ていたユーマは、じわじわと情欲が湧き出てくるのを感じていた。
ユーマは目の前のコスプレ少女──武芸は想像もつかないレベルでガチ──が、どこまで従順に聞いてくれるのか、少し試したくなってくる。
しかし、ユーマは喉元まで出かかった言葉を飲み込む。
万が一にでもナルメアの不興を買って、化け物が闊歩する森に置き去りにでもされたらたまったものではない。
自分の命と天秤にかける程の事ではないと思い直し、今はただ、ナルメアから言い出した足のマッサージを享受するだけで満足としておいた。
そらから10分程ナルメアによるマッサージを受けた後、二人は再び森の中を歩き始める。
そして程なくして森を抜けると、ユーマの眼前には平野が広がっていた。その平野の中に、街らしきものも見える。
しかし、その街は遠目ながらどう見ても日本の風景とは思えないもので、例えるならばヨーロッパの古い町並み。いや、それでも違和感がある。より近いものを挙げるならばファンタジーゲームの町並みか。
(???)
ユーマは混乱した。
「ユーマちゃん、どうしたの?」
隣でナルメアが心配そうにユーマの顔を見上げている。
「いや……っぐ!?」
ユーマが自身の戸惑いを口にしようとした瞬間、脳に針でも刺されたような鋭利な痛みが走る。
次の瞬間には視界がホワイトアウトし、森で目覚める前に見た真っ白な空間へ意識が飛んでいた。
「お、おぉ……?」
この一時間程度の間に次々と起こる不可思議な現象に、いい加減脳のキャパシティが限界を超えそうだ。
最も、最初の真っ白い空間の時点で、ユーマの脳では理解の範疇を超えているのだが。
「起動……完了。初期設定、入力。接続、良好」
機械音声のような抑揚のない声が聞こえ、ユーマはそっちへ頭を向ける。
身体は相変わらずふわふわと浮いているような感覚だったが、その程度の方向転換は可能なようだ。
そして、声のする方へ向けたユーマの視界に、やはり、あの褐色肌の少女が立ちすくんでいた。
……いや、少し……いやいや、かなり違う。
前に見た時は、少女というよりは美女。グラビアアイドルも顔負けしそうな美貌と凹凸のある美しい肢体に、見る者を虜にしそうな色香を醸し出していたが、今、目の前に見えるのは少女だった。
褐色肌に黒いストレートの髪は同じだが、胸は申し訳程度の膨らみに、なだらかな曲線を描く腰回り、そして幼さを感じる顔立ち。
身長も先程のナルメアと同じか、少し高いかと言ったところ。
つまり、小さい。色々と。
「えっと……」
「改めましてだね、ユーマお兄ちゃん。私はフェニムだよ。運命を司る星晶獣フェニム!」
フェニムと名乗る褐色美少女が、えへんと胸をはりながら自己紹介する。
(お兄ちゃん?)
つい先程、何故か姉を自称する少女と出会ったばかりなのに、今度は記憶にない妹が。
「フェニム……。その、同一人物……なのか? それに、なんか口調が」
名乗った名前は同じだが、同一人物というよりは姉妹と言われた方が納得できる。
「ん〜? あぁ、この姿? これはお兄ちゃんと魂を接続するのに力を使い過ぎだ結果なの。回復すればちゃんと元のようにも戻れるよ。この口調は……お兄ちゃんの記憶が好ましく思う要素を抽出してインストールしたの。えへへ♥ 可愛い?」
フェニムは、はにかみながらユーマに問いかける。
「確かに、めちゃくちゃ可愛い」
「あは♥ お兄ちゃんってば、凄くストレートだね♥ でも、嬉しい♥」
ナルメアに対してもそうだったが、可愛いものには可愛と臆面なく評価するのはユーマの美点と言えるかもしれない。
そんなユーマの真っ直ぐな評価に、フェニムは嬉しそうに身体をくねらせる。
「それはいいんだけど、いい加減どういう状況なのか教えてくれないか? 何がどうしてこんな事になってるんだ? 出来るんだろう? 説明」
可愛い女の子を愛でるのは吝かではないが、理解の範疇を超えた出来事の数々もいい加減解決したい。
なぜフェニムが説明できると確信しているのかはユーマ自身にもわからないが、それは正しかった。
「うん、そうだね。再起動に思ったより時間がかかって、説明が遅くなってごめんね。じゃあ手っ取り早く、知識をお兄ちゃんに送るから」
そう言うが早いか、フェニムはユーマに近づくとおもむろに唇を重ねる。
「んっ、ちゅっ♥」
「むぐっ!? んんっ!?」
次の瞬間、脳に情報が叩き込まれるような痛みが走った。
空の世界、浮かぶ島、赤き地平、空の民、星の民、星晶獣。
ヒューマン、ドラフ、エルーン、ハーヴィン……そういった知識がユーマの脳を駆け巡る。
「ぷは♥ お兄ちゃんとのキス気持ちいい♥ って、それは置いといて……とりあえず基礎的な知識は送り込んだけど、どう?」
「ぐっ、う……」
いきなり大量の知識を植え付けられた脳がズキズキと痛む。
しかしそれも程なくして収まり、ユーマは現状を把握した。
「本当にゲームにでもありそうな世界に来た、って事か」
荒唐無稽な出来事だが、与えられた知識は確かに真実を告げていると思った。
それが事実なのだから否応もない。ユーマは現状を受け入れた。
その思い切りの良さはユーマの美点であり、過去への執着の無さは欠点なのかもしれない。
「それで、お前はフェニム。運命を司る星晶獣」
「うん、そうだよ、お兄ちゃん♥」
与えられた知識にはフェニムの事も含まれていた。
フェニムは覇空戦争時に星の民によって創られた星晶獣である。
個体の運命の因果を捻じ曲げ、想定した運命へ作り変える事が出来る力を持つ星晶獣。
しかしその強大すぎる能力を制御できる存在がおらず、一度もその能力を発揮することなく封印された存在。
フェニムは自分が創られた意義を求めて、ずっと自分の能力を制御できる存在を探していた。
そして数百年ごしに見つけた適合者が異世界のユーマ。
ユーマに自分の能力を使ってもらう事が彼女の望みであり、存在する意味になる。
最初に出会ったグラマラスな身体をしたフェニムも、確かにそのような事を言っていた。
「大体わかった。……それで、フェニムはその能力で俺に何をさせたいんだ?」
「なんでもいいよ♥ 世界征服でも、世界を滅亡させても。あ、田舎で私と二人きりで過ごすだけでも……きゃっ♥ とにかく、お兄ちゃんが望むがままにしてくれれば、それで良いの。お兄ちゃんの望みが私の望みだから♥」
フェニムは自分の頬を両手で押さえ見悶える。
(田舎暮らしだと能力を使わなそうだが、いいのか……?)
「世界征服やら滅亡やら、フェニムの力があれば出来るって事か?」
「ん〜……わかんない。でも、お兄ちゃんがやろうと思えば、絶対できるよ」
フェニムは自我をユーマの好みから構築したと言っていたが、そのお兄ちゃん至上主義の全肯定マシーンのような崇拝っぷりは確かにユーマの好みであった。
「そうか……だったらまずはフェニムの能力がどのくらいのものなのかを実際に試してみてからになるが……俺の望みは───」
ユーマの目が鋭く光る。
「世界中の美女を俺のモノにしたい」
それはある意味、世界征服を宣言する魔王の如き望みだった。