「ディアドラ様、何かありましたか?」
アルスター島にあるアイルスト旧王城──今は議会を執り行う会議所の一室に、頭頂部に大きな獣耳をピンとたたせ、長く美しい銀髪を大きめの三つ編みに纏めたエルーンの女性が入ってくる。
部屋の中にいたのは同じくエルーンの少女。
しかし、入ってきたエルーンが成熟した大人の女性だったのとは違い、身体の起伏は乏しく身長も低い。たがそんな彼女に対し、ディアドラ様と敬称をつけて敬うだけの理由があった。
それは、その少女がこの島に根付く真龍と呼ばれる存在の化身だからである。
今は諸事情で少女の身体となっているが、本来であれば巨大な体躯を誇る龍の姿こそが彼女の正体なのだ。
「来たか、ヘルエス。ともすれば緊急事態かもしれぬ」
「緊急事態……ですか?」
部屋の主であるディアドラが深刻そうな顔でヘルエスに告げた。
その言葉を聞いて、ヘルエスの顔も強ばる。
ヘルエスがディアドラに呼び出された段階では、そのような内容であるとは思っても見なかった。
なぜならば、アルスター島の危機にあたるような事態であればヘルエスのみではなく、セルエル──ヘルエスの弟──にも一緒に声をかけるだろうからだ。
「……何か、巨大な力を持った存在が近づいておる。数日の内にこの島に上陸するであろうな」
ディアドラは窓から外を見つめて告げる。
「巨大な……力を? まさか、マフィアが?」
「どうであろうな? この力は恐らく星晶獣。マフィアとかいう勢力がそこまでのツテと、島そのものを手に入れたいと考えているかどうかだが……」
このアルスター島では、真龍ディアドラ討伐に端を発するアイルスト王国の崩壊、それに伴って急増する魔物と、その魔物を良いように利用して国民から暴利を貪るマフィアの流入と台頭に頭を悩ませている真っ最中であった。
そこへ得体のしれない星晶獣が上陸してくるとなると、ディアドラの警戒も当然の事だろう。
「わかりました。ではセルエルを向かわせ、早急に対処を」
「待て。まだ敵であるかどうかはわからん。セルエルでは事を急くかもしれん」
そう言われてヘルエスは思案する。
確かに敵であるかはわからない。
真龍ディアドラ復活の儀を目前に控えたこのタイミングを考えると、マフィアが何か手を打ってくる可能性は高い。
しかし、だとしてもマフィアに星晶獣を使役する程のツテがあるとも考えにくい。
それに、弟のセルエルは聡明ではあるが、島の……それも危機に関する事となると少々短絡的な行動に出る節がある。
国が崩壊しなければ次期国王だった事もあり、アルスター島の平穏と再興に対し、気負いがちな程に並々ならぬ思いがあるせいだろう。
ディアドラの言う通り、害意ある存在かどうかわからないままでも、その可能性があるならば排除してしまえば問題ないと行動に移す可能性はあると思えた。
「……確かに、そうかもしれません」
「うむ。だからお主のみを呼び出したのだ」
「……と、言いますと?」
「わからぬか? 我とお主で見極めるのだ。そして、我らに害意がないのであれば、いっそ取り込んでしまえばいい」
島の守護を担ってもらいたい真龍ディアドラ復活の儀において肝心要である化身体のディアドラ本人が自ら出向くなど、本来であれば否応もなく却下だ。
しかし、星晶獣のような強大な力が迫っているのは決して見過ごすことの出来ない事態である。
だが、もし目的がアルスター島への害意であった場合、一般兵では戦力として心許ない。
加えて、この提案を却下したところでディアドラは従わないだろう。
まず間違いなく1人で調べに行ってしまう。だったら、護衛役として自分が付いて行くのは妥協点としては上等である。
「わかりました。しかし、取り込むとは?」
「ふっ。人の子の間では“身体でたらしこむ”という文化があるのだろう? ヘルエス、お主の身体で垂らしこんでみてはどうか?」
「なっ……」
なんて事を言うのだろうか。
かつてアイルスト王国が崩壊する前ならば、島の平和の為に政略結婚として他国へ嫁ぐ覚悟も気概もあったが、今となってはそれも昔の話。亡国の元王女の純潔などと引き換えに得られる利は少ない。
……しかし、それと引き換えに星晶獣の加護を受けられるとしたら?
ディアドラが強大と称する力を引き込むことが出来たなら、アルスター島の平和は盤石になるのではないか?
そんな風に考えてしまったヘルエスはかぶりを振る。
いやいやいや、何を考えているのか。
アルスター島の為に自分を犠牲にする事に文句はないが、だからと言って星晶獣と……?
そもそも、その星晶獣が男であるとも限らないではないか。
……だが、星晶獣と?
未だかつて想像すらしていなかった事を意識した時、ヘルエスはお腹の奥がきゅんと熱を持った事に頬を赤く染める。
それを見ていたディアドラは『存外、まんざらでもなさそうではないか』と思いながら小さく笑った。
──────────
「はむっ♥ れろれろ……んっ、ちゅっ♥ ぢゅぷっ、ぢゅぷっ♥」
間もなくアルスター島へ到着する定期便の客室で全裸の男が仁王立ちし、その前に2人の美少女が跪き、むき出しになった男性器に顔を埋めていた。
「んんぅ……。ナルメアお姉ちゃんズルい。私もつよつよおちんぽ咥えたいのにぃ♥ はむはむ……」
ぱんぱんに勃起した肉棒を先端から咥えるナルメアを羨ましそうに横目にしつつ、フェニムは横から竿部分にむしゃぶりつき、ハーモニカを吹くように顔を左右に移動させてぺろぺろと肉棒を舐めている。
「んぶぅ……♥ ごめんね、フェニムちゃん。ユーマちゃんのおちんちんさん美味しくて夢中になっちゃった♥」
「ううん、大丈夫。お兄ちゃんのおちんぽに夢中になっちゃうのは仕方ないもんね♥」
「うん……♥ ユーマちゃんのおちんちんさんの匂いを嗅いだだけでお姉さんの頭よわよわになっちゃうの♥」
「あは♥ わかるー♥」
などと会話をしつつ、2人は分け合うように亀頭へ舌を伸ばし絡ませる。
その姿は実に仲睦まじく、まるで本当の姉妹のようだ。──いや、本当の姉妹は弟または兄のちんぽを分け合って舐め回したりはしないだろうが──
とにかく、自分の肉棒を美少女2人に絶賛されつつ舌で刺激を受けたユーマに射精感が込み上げてくる。
「くっ……もう、射精すぞ……!」
2人の頭を掴み、その間から肉棒を引き抜く。
「らひへぇ♥」
「あーん♥」
2人は示し合わせたように『精液射的のマトはここです』とばかりに大きく口を開き舌を目一杯突き出す。
ぶぴゅっ! びゅーっ! びゅるるっ!
あまりに淫靡な光景にたまらず射精する。
まずはナルメアの顔に。
勢いがありすぎて上手く狙いが定まらず、開かれた口ではなく鼻に直撃し、次に頬、それからやっと口の中に当たり、真っ赤な舌の上を白く染める。
そのまますぐに隣のフェニムにも肉棒を向け、同じように、頬や唇を汚しながら口の中に精液を吐き出した。
「んふうぅ……♥ ユーマちゃんの精液、美味しい♥ それに匂いも凄くて、鼻から抜ける感じが……んんんっ♥」
ナルメアが口の中に出された精液をごくりと飲み込み、顔にかかった分も指で丹念に拭き取ると、その全てを口元に運び、舌でぺろぺろと大切そうに舐めとっていく。
ナルメアに対して匂いについては好きになるように干渉したが、味に関しては特に何もしていない。
だが、ナルメアは本当に美味しいと感じているようだ。
ユーマの味と匂いに包まれたナルメアが腰をガクガクと震わせる。
どうやらイッたらしい。
それでもまだ残った精液をぺろぺろと舐めている。
「んふ♥ お姉ちゃん、私の顔にかかったお兄ちゃんザーメンも舐める?」
「い、いいの?」
「いいよ♥ その代わり……ちゅ♥ ぢゅううぅ〜ッ♥」
フェニムは精液まみれの顔でユーマに近づき、どろどろの鈴口に口づけすると、中に残った精液を吸い上げる。
そんなフェニムの顔についた精液をナルメアが嬉しそうに舐めとっていく。
その光景を見下ろしながら、満足感に浸っていると挺内放送が流れた。
『間もなくアルスター島に到着致します。お降りの方は速やかに下部デッキまで起こしください。繰り返します──』
「おっと、ちょうど良いタイミングだったな。2人ともありがとう、気持ちよかった。ほら、顔を拭いて。下りるぞ」
気持ちよくして貰った後はちゃんと頭を撫でて褒める。そうするととても喜んでくれるので、締めの合図のようになっていた。
「ふぁ♥ んっ、やだぁ……♥ せっかくユーマちゃんの匂いが染み付いてるのに、拭くのやだぁ♥」
「せっかく精液マーキングしたのにね♥」
ユーマが思っても見なかった不満が二人が漏れる。
「えっ、うーん……そりゃあ確かにそうだけど……。うぅん、そうだなぁ……そうしたいならそのままでもいいけど、その場合、夜、風呂に入るまではキスしないからな」
本当にマーキングのように自分の精液の匂いをぷんぷんさせたままの2人というのも興奮しないでもないが、流石にそのままの状態でキスしたりするのは遠慮願いたい。
情事の途中で、フェラの後にディープキスする位は勢いでなるとかなるが、平常だと……。
「拭くね!」
「うん……!」
キス禁止を言い渡した瞬間、2人は用意しておいた濡れタオルで顔を拭き始めた。
その様子を見て、可笑しくなったユーマは笑った。
──────────
「どうですか?」
「少し待て……。いた、あやつだ。あの褐色肌に黒髪の……」
定期便から下りる乗客たちを物陰から見つめる視線があった。
ディアドラとヘルエスだ。
「あの少女が星晶獣なのですか?」
「そうだ、間違いない」
ユーマたち3人の姿を見つけ、ヘルエスは目を細める。
ヒューマンの男とドラフの女剣士、そして星晶獣らしい黒髪の少女。
それを見て、ホッと胸を撫でおろしていた。
「女で残念だったな?」
「んなっ!?」
茶かしたように言うディアドラに、頬が赤く染まる。
星晶獣が女で残念だったなど、断じてない。……ハズだ。
「ふっ。しかしそうなると、色仕掛けは通用せぬか? いや、男がいる。あっちから籠絡するか?」
「……色仕掛けから離れてください」
ディアドラは仮の肉体を得てから人の世界と深く関わるようになり、人の営みというモノに大層な興味を示している。
だからそういう男女の色恋というモノにも興味津々なようだが、島の危機に関するかもしれない懸案で興味を発散しようとするのは勘弁してもらいたいヘルエスだった。
「……とにかく、しばらくは様子を見てみましょう。マフィアに接触するようなら対処を」
「分かった分かった。お? 移動するぞ」
ユーマたちは預けていた荷物を受け取り移動を開始する。
「近くの宿場町に移動するのでしょう。……先回りしますか?」
「そうだな……。先回りはするが、その前に少し思いついた」
ディアドラが何か悪巧みでも思いついたのかニヤリと笑う。
「ヘルエス、宿場町までの護衛を雇うぞ。見繕うがいい」
「護衛を……?」
ヘルエスとディアドラの2人がいれば護衛などは必要ない。
事実、会議所からここまで護衛無しでやってきている。
「ヤツらを見極めるのさ」
なんだか面倒そうな予感はしたが、ヘルエスはとりあえずディアドラの話を聞くことにした。
──────────
「ユーマちゃん、大丈夫? お姉さんがおんぶしよっか?」
「いや、流石に大丈夫」
アルスター島への降り立ったユーマたちは、早速ヘルエス元王女がいるであろう旧王城へ向かうため発着場にある簡易的な宿泊所でやすより、少し離れた場所にあるらしい宿泊街を目指し出発していた。
今のうちならば、暗くなるまでには辿り着けるだろう。
「それにしても、本当に治安が悪いみたいね。港でも『魔物注意!』ってあちこちに貼ってあったけど、もう5回も遭遇してるし」
フェニムがユーマの腕に抱きつきながら文句を言う。
街への移動の際、魔物の襲撃がどのくらいあるものなのかユーマには判別できないが、多いと言うのならば多いのだろう。
そう言えばナルメアと隊商の護衛任務に付いていったときは魔物との遭遇は1回だった。
そう考えると既に5回は確かに多い。
最も、魔物の襲撃そのものは全てナルメアが一瞬で片付けている。
これでよく『自分は凄くなんかない』などと本気でのたまうモノだ。
「────ッ!」
「────!!」
しばらく街道を進んでいると、どこからか言い争うような声が聞こえてきた。
「なんだ?」
「あっちから聞こえるみたい」
ナルメアは声が聞こえてきた方へ何の躊躇もなくスタスタと歩き出す。
(明らかに揉め事っぽいのに……)
ユーマ自身の考えならば、わざわざ揉め事に絡みに行くような事は決してしないが、ナルメアはそういう正義感が強いのだろう。
重ね重ね、それでよく『凄くなんかない』などと……。
ともかく、ユーマもナルメアの後に続く。
その先では、屈強な肉体の男と外套で身体を包みフードを目深に被った2人が向かい合っていた。
「どういう事です? 宿場町まではもう一息というところで」
「うるせぇなぁ……ごちゃごちゃ言ってないで、さっさと金を払いな!」
男の方は筋骨隆々の肉体に2mを超える程の身長で、頭部から2本の角を生やしている。
(ドラフか)
前の島の街でも見かけたが、アレが男ドラフしては平均的なのが凄い。
アレがナルメアと同じ種族であるとは未だに信じられない。
ユーマとナルメアでさえ犯罪臭がするのに、アレとナルメアが並ぶとなると、それはもう即通報モノだ。
だが、この世界の種族的にはそれが正常であるのだから恐ろしい。
対するフード姿の2人はユーマの感覚的には普通だ。
片方はフェニムと同じくらい小さいが、男と、言い合っている方は170前後か?
フードと外套のせいで性別すらわからないが、さっき聞こえてきた声からすると女性ぽかった。
「約束が違いますね。前金で半分、街に着いたら残りを支払う
「だからァ……あんなハイペースで護衛させられたんじゃ割に合わねェって言ってんだよ。追加料金を要求するのは当然の権利だぜェ?」
原因はよく分からないが、どうやら護衛の追加料金を要求されているらしい。
「……それも含めての料金設定だったハズです」
「料金が払えねぇってんなら、身体で払って貰ってもいいんだぜェ?」
「……下衆が」
ここで初めて小さい方の人物が一言吐き捨てる。
低く背筋が凍りそうな威圧感がある声だったが、しかしこちらも女性らしい。
女二人という事で足元を見られたのか。
「あぁン?」
「……」
3人の間に剣呑とした空気が走る。
まさに一触即発といった感じだ。
「こらーっ! 事情はよくわからないけど、喧嘩はダメよ!」
しかし、そんな事はお構いなしとばかりにナルメアがズンズンと前にでる。
「なんだァ、てめェ……?」
ドラフの男が苛立ったような声をあげる。
しかし、割り込んできたナルメアの姿を見て下卑た笑みを浮かべた。
「へェ……こいつぁエラいべっぴんじゃねェか」
ナルメアを上から下まで舐め回すように見た後、何を考えたのかぺろりと舌なめずりをする。
「うわ、きも……」
それを見たフェニムが、ユーマの腕に纏わりつく身体をぶるりと震わせる。
ユーマもその意見には全面同意だ。
女の子なら大歓迎の仕草でも、男の舌なめずりなど気持ち悪いだけである。
自分は舌なめずりをしない男になろうと心に誓った。
……だがしかし、フェニムやナルメアなら自分が舌なめずりをしても『ワイルドで素敵』とか言って肯定してくれそうだ。
「ふふっ」
そんなくだらない事を考えて少し可笑しくなり、小さく笑いが溢れた。
「おい、お前、何笑ってんだ、アァ?」
自分が笑われたのかと思ったのか、男ドラフが眉を釣り上げ怒鳴る。
沸点が異常に低い。
そのままズカズカと、少し後方にいたユーマめがけて歩き初めた──
「ッ!」
──刹那、胡蝶が舞いナルメアが消える。
そして次の瞬間には男の喉元に刀をあてがった状態で姿を現していた。
「それ以上、ユーマちゃんに近づかないで」
「ひっ!?」
そこには数時間前に精液を浴びて蕩けていた女の面影はなく、敵対者を全て切り伏せる修羅のようだ。
荒事に慣れていないとは言え、後ろから見ているだけのユーマでさえも震え上がる殺気を放っている。
それを直接向けられた男ドラフは恐怖に震え、その場で微動だにせず硬直している。少しでも動けば自らの命を取り零す事になるのを理解しているのだろう。
そして、突然の乱入者に対して沈黙していたフードの二人組もナルメアの豹変ぶりに息を呑んでいた。
「わ、わわ悪かった。金はいらない。……いや、全部返す。持ってる金も全部渡す。勘弁してくれ」
男ドラフが震える声で絞り出す。
「お金はいらないわ。あの人たちに返すだけでいい」
そう言うと、ナルメアは刀を引く。
開放された男ドラフは慌てて腰にぶら下げたポーチからお金を取り出すとフードの二人組に渡し、謝罪の言葉もままならぬまま急いでその場を立ち去った。
それを見届けたナルメアが刀を鞘にしまうと、ユーマの元へと駆け寄ってくる。
「ごめんね、ユーマちゃん。お姉さん勝手な事しちゃった? お金、必要だったかな?」
先程までの修羅の如き殺気は見る影もなく、捨てられた子犬のような不安そうな目でユーマを見つめるナルメア。
「……い、いや、そんな追い剥ぎみたいな事はしなくていい……よ? それにしても、凄かった……な」
いつもであれば頭を撫でてあげる所だったが、ユーマは少し──いや、結構ビビっていて、手が出なかった。
「えへへ♥ ユーマちゃん、優しい♥」
今の会話のどこに優しさがあったのかはわからないが、ナルメアは嬉しそうに破顔した。
ユーマはその笑顔にホッとしつつ、これからはあまり無茶な事をナルメアにするのは控えようと誓う。
「うんうん、凄かったよナルメアお姉ちゃん♥ これからも一緒にお兄ちゃんを守ろうね♥」
「フェニムちゃん……。うん! お姉さん頑張る!」
自分を認め、頼ってくれる事を実感し、ますますナルメアの頬が緩む。
「……」
その会話を聞いていたフードの二人組──ディアドラとヘルエス──は、呆然としつつも頭をフル回転させていた。
褐色肌星晶獣はフェニムと呼ばれた。
しかし、残念ながらフェニムという星晶獣の名に聞き覚えはない。
その能力は未知数のままだ。
また、先程圧倒的な力と殺気を見せた剣豪はナルメア。
こちらは聞き覚えがあった。昨今、近くの島に滞在しているという噂の大剣豪の名前が確かナルメアと言ったハズだ。
曰く、十天衆に比肩する実力である。
それは先程の動きを見れば違わぬ事と理解した。
曰く、温厚で優しい性格をしており、頼まれれば嫌だと断れない程であるが、不正行為には断固として拒否する心の強さを持つ。
それも見ず知らずの他人による揉め事に積極的に介入してきた事から見て事実であると感じた。
間違ってもマフィアと通じているとは思えない。
しかし、最も謎なのが最後のひとりである。
ユーマと呼ばれたヒューマンの男は、見る限り武芸の才能はないし、服装こそ少し変わったデザインの物を纏っているが王族貴族らしき威厳も気品もない。
つまり、平々凡々とした一般的な庶民としか表現しようがない。
たが、未知なる星晶獣は片時も離れまいと男の腕に抱きついているし、剣豪のナルメアも男の言葉に一喜一憂している。
3人の中心にいるのは間違いなくヒューマンの男だ。
ナルメアの心酔ぶりを見れば、当人が噂通りのドラフであったとしても男の指示一つでどんな悪逆さえも果たしかねないと思えた。
要するにユーマだ。
2人がなぜこの平凡な男に組みしているのかは謎だが、ユーマの考え一つで、この未知なる星晶獣と圧倒的武力を誇る剣豪は最高の味方にも最悪の敵にも成りかねない。
短いやり取りを見ただけでそれを確信したヘルエスは背筋に冷たい汗が流れるのを感じていた。