「なるほど、大体の事情は把握したかな」
刻は既に深夜、だが朝日が登るまでまだ数刻と言った所で、ディアドラやヘルエスの話を聞き終えた。
3人寝られる広めの部屋だったのが幸いし、部屋に5人──正確には7人──いても座るスペースは確保出来ている。
ユーマがベッドの縁に座り、ナルメアとフェニムの2人が後ろに座り込む形で、向かい合ったもう一つのベッドにディアドラ、椅子にヘルエスが座っていた。
侵入者の男二人はドアの前でひれ伏したままだが、そろそろ折りたたんだ足が限界のようで身体を小刻みに震わせている。
もちろん、だからといって命令を取り消したりはしないが。
それにしても、先のアイルスト王国最後の王コノールの乱心により真龍ディアドラが討伐されたせいで、それまで抑えていた魔物が急増し王国が崩壊したという話は事前に知っていた。
そこからマフィアの流入と台頭についても同様だ。
そこから先、ディアドラが仮初の肉体としてエルーンの姿になり、今こうして目の前にいるというのは素直に驚いた。
それに、美人だとは思っていたが、ヒューリと名乗ったエルーンの女性が目的だったヘルエス元王女である事も。
「それで、こうして全てを話してくれたって事は、俺たちは信用に値すると判断されたって事でいいのかな?」
「試すような真似をして、申し訳ございませんでした……」
外套を脱いだヘルエスが改めてユーマたちに頭を下げる。
……のだが、外套を脱いだヘルエスの格好は非常に目の保養になる姿であった。
首から肩にかけてはほぼ完全に肌を露出しており、胸元は鎧を装着しているが、それも半分程度のもので谷間を惜しげもなく晒している。
しかもその鎧は前貼りのように身体の前半分のみであり、なんと背中は丸出しだ。
スカートこそ長いが、ドレスのようなデザインのそれは右太もものかなり高い位置からスリットが入り、健康的な太ももが目に入る。
そんな格好のヘルエスが前かがみになって頭を下げるものだから、それはまるで私の谷間をどうぞご覧下さいと差し出しているようだ。
どうやってあの鎧は張り付いているのだろう?
「……いえ、それはもういいんです。大変な時にフェニム……星晶獣が来るから警戒したというのは納得のいく理由でしたから」
ヘルエスの胸の谷間から目を逸らせぬまま、ユーマは答える。
そんなユーマをジトーッとした目で見るディアドラの視線には気付かなかった。
「うぉほん。……こちらの事情はすべて話した。良ければ、そちらの事情と……アレはどういう事なのか聞いても?」
ディアドラがベッドの上に立ち上がり、ドア前でひれ伏す2人を親指で差す。
背の低いディアドラだが、ベッドの上に立った事でちょうど腰回りがユーマの視線と同じ高さになる。
そこそこ良い仕様のベッドスプリングが少し軋む音をたてて弾むと、それにあわせてディアドラの身体も軽く揺れる。
そしてディアドラの身体が上下に小さく跳ねるたび、チャイナ服のような前垂れと、その下に履いている超短いスカートがふわりふわりと浮き上がる。
元々、ほぼ丸出しな太ももは更に露出し、あわや鼠径部すら見えそうだ。
ヘルエスの格好も大概エロかったが、ディアドラは更に上をいくかもしれない。
何せ外套を脱いでしまえば身につけているのは細長い布が身体の前面を覆い、その下に短いスカートを履いているだけだ。
エルーンだからか、やはり背中は剥き出しだし、前面を覆う布地は細く、慎ましやかな胸の膨らみが横からはみ出ている。
あの格好で少しでも前かがみしようものなら、少し横からのアングルであれば恐らく可愛らしい乳首が丸見えになるのでは無いだろうか。
そんなユーマの視線を感じたディアドラは、わざと身体を横に向ける。
更に僅かに膝の曲げ伸ばしをして、ベッドの上で小さく跳ね続けていた。
そんな事をすれば、今にも胸の膨らみや、それこそ本当に乳首さえも見られてしまう。
ディアドラ自身、本来の真龍としての姿の時に衣類を纏う習慣など無かったので、乳首を見られるという事に対する抵抗は少ないのだが、しかしユーマに見られるかもしれないという状況により、不思議な高揚感と少なくない羞恥に心臓が高鳴っていた。
「こっちの事情か……」
跳ねるディアドラの胸元やスカートの裾から何とか視線を切ったユーマは、後ろに座るナルメアとフェニムを一瞥する。
二人とも黙ったままであり、どうやら全ての決定権をユーマに委ねるつもりのようだ。
(まあ、いいか)
本来、フェニムの力については公言するような事ではないのはユーマも重々承知している。
他人の運命を好き勝手改変できるだなんて知られたら、世界から疎まれ命を狙われかねないのは火を見るより明らかだ。
だから、その事実を共有するならば自分のモノにした女……ハーレム内だけの秘密にすべきだろう。
その点で言えば、ユーマはもう完全に2人をハーレムに加えるつもりである。
話してもいいだろう。
最も、保険はキチンとかけておくが。
「説明してもいいが、これからする話は絶対に他言無用だ。如何なる理由や方法をもってしても誰かに伝えようなどとは一切しないと約束できるか?」
「……わかった」
「もちろんです」
その答えを聞き、2人に話す前にフェニムの力で2人の運命に干渉する。
干渉する内容は“ユーマたちの事情について誰にも伝えることが出来ない”というモノだ。
事前に本人たちにも伝えて了承を得たのだから構わないハズだ。
これで2人は如何なる手段をもってしてもユーマの秘密を暴露する事は出来ない。
「簡単に言うと、俺はフェニムという星晶獣と契約した存在だ。フェニムは運命を司る星晶獣で、他人の運命に干渉できる。つまり、俺はあの2人の運命を、俺に絶対服従するという運命に書き換えた……ってワケ」
「……」
ユーマの話を聞き、ディアドラとヘルエスの表情が強張る。
まぁ、当然の反応だろう。
「運命に……干渉……」
ヘルエスが思案している。
「彼女も……?」
そして、ナルメアを見て呟く。
つまりナルメアも自分に絶対服従するように運命を書き換えたのか? という疑問だ。
「……いや、ナルメアにはそういう干渉はしてない」
本当だ。
ナルメアにしたのはあくまでユーマの匂いが好きになる、というモノと、ユーマから与えられる快感が倍増する、という2点だ。
「女の子をそんな風に服従させるのは趣味じゃなくてね」
これも本当だ。
結果的には自分の事を大好きになって貰うつもりだが、それはあくまでキッカケのような干渉を経ての話だ。
最初から力を持って服従させるつもりはない。
「そうですか……」
こんな口だけの否定など信じるに値しないだろうが、ヘルエスは取り敢えず信用する事にしたのか、引き下がった。
「うんうん。お姉さんはお姉さんの意思でユーマちゃんの事を大好きになったんだよ♥」
後ろのナルメアは完全に信用しきっていた。
「ありがとう。俺も好きだよ」
その信用に対しユーマは笑顔で礼を言う。
「ユーマちゃん♥」
砂糖をぶちまけたようなやり取りをするユーマとナルメア。
「むぅ……」
何か敗北感のようなモノを感じるディアドラ。それは初めての感情だった。
「……で、だ。俺たちに出来る事は話したけど、それでどう協力して欲しいんだ?」
ディアドラとヘルエスに向き直り問う。
その後ろでフェニムが『あれ? 私は?』と絶望していた。
「それは……星晶獣であるフェニム殿に島の加護をお願いしたかったのですが……」
ヘルエスが背筋を伸ばし答える。
「島の加護?」
ユーマは知識を参照する。
星晶獣は島そのものと契約する事でその島全域を己の支配下に置く事が出来る。
そうすると星晶獣は島の全域で己の能力を自在に行使出来るようになる……ようだ。
「そんな事、できるのか?」
先程のはあくまで知識。取らぬ狸の皮算用のようなものだ。
するしないはともかく、当事者であるフェニム本人に尋ねてみるのが一番早い。
「うーん?」
フェニムは何かを探るように下を向きながら思案すると、顔を上げる。
「無理……かな? この島には既に別の力が染み込んでるみたい。そこの女の子の力かな、これは? ……でも、お兄ちゃんがしろって言うなら、無理矢理に上書きしていく事は出来る、かも? やってみないとわからないけど」
「だ、そうだ」
「そ、そうですか」
フェニムの言葉を聞き、ヘルエスはしょぼんと気落ちする。
「ふむ、なるほど。吾が契約していたのはアイルスト王家とであったが、吾の力は島そのものに影響を与えていた。あれが星晶獣で言うところの島との契約に近い代物であったか」
つまり、既に先約があるから後乗りは難しいという事だ。
「あ、でも例えばだけど、お兄ちゃんを通じてその子に私の力の一部を貸すくらいなら出来るよ?」
さも名案とばかりにフェニムが提案した。
「? どういう事だ?」
「ほぅ」
フェニムの言っている事がイマイチ分からなかったユーマとは裏腹に、ディアドラの目が妖しく光る。
「そもそも、私の力はお兄ちゃんがいないと成立しないもん。だから、お兄ちゃんを通じてなら、私の力を行使出来るようにはしてあげてもいいよ♥」
そう言うと、フェニムはユーマの背中から抱きつく。
抱きつきながらも、向かいのベッドに立つディアドラをまっすぐ見据えた。
その視線を受け、ディアドラはフェニムが口にしなかった事を察する。
フェニムは『お兄ちゃん──ユーマ──を通じてなら、力を貸す』と言った。
つまり、ディアドラ側から見れば『ユーマと繋がる』必要があると言う事になる。
この『繋がる』というのは、男女関係に留まらず、心も──だろう。
有り体に言えば、フェニムやナルメアのようにユーマに屈服するという事だ。
過去に干渉して絶対的な運命を刻むというフェニムの力は絶大である。
その力の一部というのがどの程度になるのかは分からずとも、生半可な次元ではないだろう。
そんな力の加護を受けたいのであれば、ユーマと繋がらなければならない。
それをフェニムが口にしなかったのは、それをディアドラたちから提案し、ユーマに媚び、許しを貰えと言う事だった。
そんな不可逆な主従関係を求めろと言っている。
ユーマとフェニムの力を持ってすれば、本来そんな駆け引きをする必要はない。問答無用で支配下に置けるからだ。
しかし、それはユーマ自身が求めていない。
それをよく理解しているフェニムは、あくまで己の意思でユーマに媚びへつらい、主として崇める事を求めている。
ディアドラはその求めを正確に理解した。
強大な力を持った星晶獣を従えているとは言え、あくまでユーマ自身はただの人でしかない。真龍たる自分が人の子に跪き主と崇める光景を想像し……思いの外嫌悪感を抱いていない事に気付く。
その事実が気付きとなり、自身の感情にもユーマによる何らかの干渉が行われている可能性にも気付いた。
そしてそれは事実であり、実際にユーマは自身に対してある程度の好意を持つように干渉をしている。
だが、それはきっとキッカケ程度の干渉なのだろうとディアドラは考える。
そうでないのならば、今このようにユーマに対する疑念を持つ事も出来なかったハズだ。
人がフェニムのような圧倒的な力を手に入れたなら、もっとエゴを肥大化させ、手当たり次第好き勝手に振る舞ってもおかしくない。
しかしユーマはそうはせず、あくまで女と仲良くなるための起点を作る程度に収めている精神性に、ディアドラは誠実さを見出してしまった。
(これもまた、ユーマとフェニムによって作られた感情だろうか?)
答えの出ない自問自答に可笑しくなったディアドラが笑う。
「ははっ! 吾は承知したよ、星晶獣の少女」
ディアドラがベッドから飛び降りる。
その勢いで今までで最大級にスカートが翻った。
(王道の白……! しかも紐!)
黒いスカートの奥に隠された白いショーツを目に刻むユーマ。
フェニムとディアドラの間で交わされた無言のやり取りなど気づきようもなかった。
「ユーマ。……いや、吾が主と呼ばせて貰おう。どうか、このディアドラと契約して欲しい。対価として、このディアドラの身体と心を捧げる」
ディアドラがユーマの前に跪きうやうやしく頭を垂れる。
「ディアドラ様!?」
あの自尊心の高いディアドラがヒューマンの男に頭を下げた事にヘルエスが驚きの声を上げる。
「黙れ、ヘルエス。これは吾が、吾の意思で決めた事だ」
鋭い視線にヘルエスは口籠る。
もともと、真龍であるディアドラを父王コノールが討伐した事によりディアドラは力を失い、ヘルエスとセルエルの魔力を使って作り上げたエルーンの肉体でなんとか核を保護しているような状態だ。
そんなディアドラに、復活の儀によって真龍としての力を取り戻してもらい、再びこの島の守護を押し付けようとしている。
だからヘルエスはディアドラの行動を非難することが出来ない。
真龍としての力と姿を取り戻させるのは、コノールの子として最低限果たすべき絶対条件だ。
それを恩に着せる事など出来ようハズもないし、そのつもりもない。その後のディアドラの行動を強制する事もまた出来ない。
この島に愛想を尽かし島を後にするとしても、それはディアドラの自由なのだ。
「……安心せよ。吾はこの島を愛しておる。この島の人の子たちの営みをな。だから……どうか、頼む。主殿。吾を眷属にして欲しい」
前半はヘルエスに、後半はユーマに向けてディアドラが告げる。
「良いのか?」
ユーマもディアドラの真剣な様子を見てベッドの縁から立ち上がる。
真っ直ぐ立つユーマとその前に跪くディアドラ。
それはこれからの関係性を端的に示したような位置関係だった。
「勿論だ」
「……わかった」
ユーマとしては元々ディアドラの事は手に入れる腹積もりだったので、申し出を断る理由は無かった。
脳内に直接フェニムから『契約した場合、ディアドラがフェニムの力の使用権限を得る範囲』の説明があり、問題ないと判断した。
「お待ちください……!」
ヘルエスが慌てて声を上げる。
「なんだ、ヘルエス。お主、まだ吾の決定に──」
口を挟むのか、とディアドラが続けようとするが、ヘルエスはそれを遮る。
「──いえ、ディアドラ様の意思に口を挟むつもりはありません。ですが、そうであるならば……ユーマ殿、私にもお力をお貸しください……! 私は、私もディアドラ様と共にありたいのです」
「ヘルエス、お主……」
「それに……私も、ユーマ殿に……その、捧げたい……と、思ってしまうのです」
ディアドラに続き、ヘルエスも同じように頭を垂れてユーマを求める。
ディアドラだけに守護の根幹を担わせるのではなく、その一端を自らも努めたいと思ったのだ。
それに、自分の中にある──あるなどと思いもしなかった──女ではなく、メスの部分が叫んでいる。
今この瞬間を逃せば、もう自分はこのまま一生メスとしての幸せを取り逃がす事になる……と。
ヘルエスはずっと心のどこかで漠然と感じていた。
おそらく自分はこのままアルスター島のために人生を消耗していくのだと。
それに不満はない。
しかし今、島のためになり、かつ、手に入らないと思っていたメスとしても満たされるどあろう選択肢が手の届くところにある。
そう思ってしまえば、もうそれを抑える理性は投げ捨てていた。
ユーマにして見れば『気になる異性』程度に好感度を上げただけで、何もしない内にこうも2人から求められて驚くばかりだ。
だが、据え膳食わねば──とも言うし、拒否する理由は無かった。
「それは、もちろん──」
「ダメよ」
しかし、フェニムが口を挟んだ。
「フェニム?」
「えっ」
驚く。フェニムがユーマの行動に反した事に。
「あぁ、ごめんなさい。別にいじわるを言ってんじゃないの。ただ、エルーンの貴方じゃあ、私の力に耐えられない。一端だとしてもね。精神に多大な負荷がかかって、きっと心が壊れちゃうわ。だからダメなの。ディアドラちゃんは真龍だから大丈夫だけどね。あっ、でもそういう意味では今のままじゃあディアドラちゃんもムリだよ。ちゃんと真龍としての力を取り戻してから、ね?」
「そんな……。し、しかし、ユーマ殿は」
ユーマもただの人のハズだ。こう言ってはなんだが、ユーマよりはヘルエスの方が精神的な強度は勝っているハズだ。
「ふふ♥ そうなの♥ お兄ちゃんは凄いんだよ♥ 唯一無二なの♥ 特別なの♥ 素敵だよね♥」
フェニムはここぞとばかりにユーマの特異性をアピールし始めた。
うっとりとした表情でユーマの手をとり、自分の頬にあててすりすりと頬ずりをする。
更にその後ろでは、ずっと黙って成り行きを見守っていたナルメアが「うんうん」と首を上下に振っていた。
「……そう落ち込むな、ヘルエス。力を借り受ける事は無理でも、お主には吾の護衛を頼む」
肩を落とすヘルエスにディアドラが優しく声をかける。
「護衛……ですか?」
「そうだ。吾は真龍としての力と身体を取り戻した後も、この仮の肉体はそのまま使用する。そして、ユーマと共に行く。その吾の護衛として、お主もついて参れ」
それはディアドラからヘルエスへの助け舟だ。
フェニムの加護を受けるためという理由──言い訳──を失ってしまったヘルエスに、新しい理由を提示した。
それは別にヘルエスがユーマに身体を捧げる理由にはならないのだが、元来男女の間に理路整然とした理屈など必要ないのだ。
ただ一歩を踏み出す理由さえ存在すれば、それだけで十分だった。
「それなら、別にいいけど」
フェニムが言う。彼女にしても、ユーマのハーレムが増えるのであれば、そこに理由は問わない。肝心なのはユーマであり、全てはユーマのためだ。
「では、主殿。吾とヘルエスともども、どうか主殿のメスにして欲しい」
改めて、ディアドラがユーマに頭を垂れる。
その物言いは最早フェニムの力を借りたいというよりも、ただただユーマに己を捧げたいだけのように聞こえた。
「……もちろん、構わないよ。大歓迎だ。じゃあ2人とも、これからよろしく」
ユーマは2人に手を差し出す。
ディアドラとヘルエスはお互いの顔を見合わせた後、小さく頷き合い、2人でユーマの手を握った。
「さて、主殿。ひとつわがままを言っても構わぬか?」
「わがまま? 何?」
「吾は真龍としての力を取り戻した時、ディアドラとしてはこの島にとどまり、借り受けた力も使って島の守護を担う事になる。しかし、この身はユーマ殿と共にあり、全てを捧げよう。故に、この身体にユーマ殿の眷属としての名をつけて欲しいのだ」
「名前……か」
ディアドラの申し出にユーマは考える。
その申し出自体に問題はないが、名前と言われても思いつかないのが問題だ。センスが求められる。
しかし、フェニムと知識を共有しているとは言え、それは経験のように引き出せる代物ではない。
何か新しい単語を聞いた時、その単語について考えると思い出すように知識が湧いてくる感覚なのだ。
例えるならばインターネットの検索だろうか。
だから、何もない状態でこの世界にまつわる何かを考えるのは困難を極める。
だからユーマはフェニムの力を使い、ディアドラの運命を視た。
何か干渉するのではなく、ただ繋がる。そうする事で、ディアドラの事がわかるのではないかと思った。
「……スカーサハ」
ふとそんな言葉が口から溢れる。
「スカーサハ?」
ディアドラが首を傾げた。
「たしか、おとぎ話の女王の名ですね。武勇に優れた賢者だったと言われています」
ヘルエスが補足する。
それは当然ユーマ自身も由来を知らない名前だった。
しかしディアドラの運命と繋がった時、そんな単語が視えた気がした。
それは、ユーマが関わらなければディアドラに訪れたのかもしれない運命だったのかもしれない。
しかしそれを証明する手段など存在しない。
ディアドラはユーマの眷属となる。それが事実であり現実だ。
「ふむ……スカーサハ。良い名だ。気に入った。何しろ吾が主より賜った名だ。気に入らぬハズもない。吾はこれよりスカーサハとなる」
こうして、ディアドラ──いや、スカーサハとヘルエスに新たな運命が刻まれた。