今よりちょっと昔……そう、これは今から14年前のお話。ある金持ちの家にて……ストレス発散のための防音室。そこに閉じ込められた男の子が1人……言わずもがな、ご存知の守男だ。
「オラァ!!」
「っく……」
「無能はこうやって利用してやるのが1番なんだよ……いい加減わかれよ、なぁ?」
残虐な言葉。それに対し、守男は……
「ふざけるな……だぁりゃあ!!」
「が……痛ぇだろうが!!」
「っ……がぁっ!!」
今度は噛み付いて抵抗……生まれてこのかた、ずっと戦っている。ここから出て助けを求めるために……必死で鍛えて、痛がる部分を覚えた。昔からこうなのだ……そして最後には決まって。
「野郎!!」
「っぎ……」
「くそ……お前みたいな、魔法も使えない野郎に銃を使わされて……銃弾の費用が馬鹿にならねぇよ……」
こうやって撃たれて終わるのだ。魔法が使えない、それは魔法が使える人間より弱いことを意味する。求人で給料が高いのも、決まって魔法が使える人間だ。そのせいで、魔法が使えない人間……普通の人間は、スラムなどに追いやられた者もいる程だ。
「そりゃ、よかったな……」
「くそったれ……明日も来てやるぞ!」
「来いよ……」
この男は、これでもまだ4歳なのだ。余りに大人びている……精神性が高すぎると言う他ない。
「っ、くそ……うぐ!!」
無理矢理銃弾を引っこ抜き、ライターで炙って止血する……残酷な方法だが、これしかないのだ。
「俺は諦めんぞ、きっとここを出てやる!!」
4歳に相応しくない闘志と殺意。これこそが守男なのだ。虐待に抵抗するクソガキ、それがこの男である。一方その頃、親達は……
「……隠蔽は?」
「済んだ。マスコミを掌握するのは簡単だ、金で簡単に自由にできる……偉かろうがなんだろうが、情報1つで立場を上げるも落とすも自由自在だからな。批判食らったら自分達の弱さを盾に出来る、本当にいい世の中だよ」
「全く便利よね……そういえば、あの社長は少し契約を渋ってたわよね?」
そして、邪悪な笑みを浮かべる2人。
「そうだな……1つ、株価を暴落させて脅すか。そうすれば契約だって簡単だ……」
「さっさと契約して、新商品開発を進めましょう。金のためにもね」
「あぁ、そうだな……機嫌がいいのは、奴を撃ってきたのか?」
そう聞かれ、肯定を返す『母親』。
「また抵抗してきたのよ、アイツ。弾がなくなったから変えといて」
「またか……ストレス発散にはなるが、如何せんサンドバッグでないのが気に食わん」
「サンドバッグは買い換えるのがもったいないわ、あいつが一番よ……コスパ的にもね」
人の命をコスパで考える、邪悪な人間達。成功者が正しいとは限らない、常識だ……そして、守男はというと。
「……好き嫌いが多くて助かるぜ……残飯をこんなに捨てやがって、勿体ねぇな……」
これがホントの残飯処理。目を盗んで全てを食らったあと、自己流のなってないトレーニングをした後に床で眠る……これが1日だ。悲惨としか言いようがないが……それから同じことが続いて2年。守男は6歳だ……そんな時、変化が起きた。ただし、最悪な形でだが。
「来い」
「っ、放せ……が!?」
「また銃弾が切れた……」
あまりに早い発砲。音を立てて引きずられてゆく……そして告げられたこと。
「金のために戦争に行ってもらう。自国だけではなく、同盟国にも徴兵を出してる国があるんだよ。これが召集令状だ、さっさと行け」
「子供だけど、サバイバルなどに長けてるって言ったら許可されたのよ。さっさと行きなさい」
「……わかった」
拒否できないことくらいわかっている、撃たれていては尚更。いつも通り、銃弾を抜いて焼いたあと、戦場に向かっていった。ここからが地獄の始まりだったのだ……
「……新入りか……って、ガキじゃねぇかよ!? まぁ仕方ねぇか、お国様は本当に何を考えてるか分からないねぇ……とりあえず、これを持て」
「……銃?」
「そうだ。ガキだからって加減はしねぇぞ……これで人を殺すんだ」
余りに残虐な真実。だが、それを理解する間もないまま、その男が席を立ち……
「さっさと行け、行かねぇなら……」
「わ、わかりました」
「それでいいんだ……ったく、ガキを寄越すとはついに出せる男が居なくなったか?」
ボヤく男を背に、大きな銃の持ち方を知らない守男は理解できないまま歩を進めた……するとゲートがあり、そこにはふりがなが振られていた。
「……戦場? ここを通ると……? これが奴らのいつか言ってたゲートか?」
そう呟きながら、中に入ると……
『魔術回路起動、座標指定完了。移動します』
「な……」
浮くような感覚がしたと思えば、一瞬で景色が変わった。疑問を覚えずにはいられないだろう。だが、それよりも何よりも、守男が見て聞いたのは……銃声が耳を貫く、爆発音や爆撃機の音が耳を劈く、この世の地獄だった。
「……!? 大丈夫ですか!?」
「バカ野郎。とっくに死んでるよ、なんでわかんねぇんだよ? って……ガキか? 何考えてんだか……ここに銃置いて、敵が見えたら引き金を引け。いいな」
「え、どういう……」
理解が追いつかない様子の守男……だが、余裕のない軍人は守男を強く怒鳴りつけた。
「やれっつってんだよ!!」
「……わかりました」
「おう、それでいいんだ……ったく」
従った理由は単純……自分の同族だと思ったからだ。生きるのに必死な気持ちが伝わってきたから……もっと野性的に表すなら、群れのボスからの指示のように感じたのだ。
「……あれ、か?」
引き金を引いた途端、何かが弾けるような音がして……人が倒れた。
「……おい、何やってる!? 銃を手放すな!!」
「いや、人が倒れたんですけど……」
「それでいいんだ、そのまま続けろ!」
そう言われ、また構え直す守男……守男は3年間撃たれ続けたからか、飛んでくることがなんとなくわかったため、飛んできそうになったら避けた。
「……やけに上手いな。ガキの癖に……なんでわかる?」
「ずっと撃たれてきたので」
「……おかしなガキめ」
そう吐き捨てて戦闘に戻る軍人……そして、ある程度時間が経った頃。
「出てこなくなった……?」
「……全員死んだようだな。あそこに基地がある、物資を根こそぎ奪い取れ!!」
「え……どうするんですか!?」
そんな子供を、またも怒鳴りつける軍人。
「行くんだよ!! 死にてぇのか!?」
「は、はい」
「チッ、イライラさせやがって……」
だが走っていく途中で……守男は、足を止めた。止めざるを得なかった……人の死体が大量に転がっていたのだから。
「な、なんだこれ……どうして……」
「何やってる!?」
「だ、だって人が、死んで……」
山積みの死体の山。動揺して当然だ、戦争の概念すら知らないのだから……
「そりゃ死体はあるさ、俺達は殺し合いをやってるんだ……まさかそれも知らねぇで来たのか?」
「そ、そんな……この人達が悪人なのか……?」
「そんな訳ねぇだろ、一般市民だよ。泥沼の殺し合いなんだ、受け入れろ。そういうもんだ、戦争なんてのはな」
無感情に告げられた言葉。だが、それは耳に入っていなかった。飛び散った血、脳髄液……それは吐き気を催させるのに十分だった。
「あがっ……あ゛」
「貴様何をやってやがる!!」
「っ!?」
大きな音を立てて、守男は地面に叩きつけられた。
「吐くとはどういうことだ!? 死体を見る覚悟くらいしろ!! それが戦争だ!! ガキだろうが、なんだろうが、初めてだろうが……泣くのも吐くのも許さん!! 今度は殺してやるぞ!!」
「それが、現実なのか……」
「チッ……ガキはこれだから!! 死んじまえよ、こんな奴!!」
溢れ出そうな涙を堪え、吐き気を首を絞めて抑えながら……守男は立って、歩を進めた。更なる地獄へと……
「……これを撃ちながら進めばいいんだな?」
手が震えて仕方がない、死体の山を作ったのは自分なのだから。だが、仕方の無いことだ。無理矢理自分を押さえつけて、守男は銃を強く握った。手の震えが気にならない程に……
「開かないな、この扉……これならどうだ!?」
鍵が掛けられた時のことを思い出し、何発か蹴りを入れ……扉を開けた。すると……
「これは……銃じゃないか。他にも……尖ったもの、光る薄い武器……丸い消火器のピンのような何かがついた武器……武器が沢山ある場所なのか」
「おい、どうした? って、武器庫じゃねぇか! ラッキー、取ってけ!」
「は、はい!」
とにかく取れるものを取り、守男は部屋から出た。そして、全ての探索と殲滅が終わったあと……
「爆破!!」
ズガッシャアァァン!!
耳を劈く音が鳴り、基地が粉々になった。
「あの、いいんですか?」
「いいんだよ、残しとくリスクの方がデカい」
「……あの穴はなんだ?」
草むらに隠れた小さな穴。それを見つけて、守男が近寄る……
「ん? あれは防空壕だな……中に敵がいる。戦えない奴らがな」
「そうなんですね……じゃあ、連れていけませんかね?」
「降伏した場合、連れ帰る命令が出てるが……最近は捕虜収容所もいっぱいで、餌の予算もないらしいから殺してもいいらしい……殺すか」
冷酷な言葉。降伏の権利を与えずに殺す、残酷な行動だ。
「そ、そんな……生きるチャンスくらいあげても……」
「黙れ」
「がっ……!?」
突然、顔面にとんでもない衝撃が走り……守男は吹っ飛んだ。その勢いは木にぶつかってようやく止まる……
「ふざけるな。降伏なんて面倒なことやってられっかよ……ぶっ殺した方が早い」
「や、めろ……! っ!?」
「黙ってろ」
また、銃弾が撃ち込まれた。いつもと変わらない、こっちでも。そして、穴の中から声が聞こえる……
「え、軍人!?」
「こ、降伏するんだ! 捕虜になれば命は助かる!!」
「炎魔法搭載の焼夷手榴弾……派手に死にな!!」
ピンの外されたそれが投げ込まれる……中から悲鳴が聞こえる。這って助けに行こうとする守男、だが間に合うはずもない。
「し、手榴弾!? 嫌だ、死にたくない!!」
「こ、子供だけは……!!」
「おかあさーん!! おとうさーん!!」
「おぎゃあ! おぎゃあぁぁー!!」
ズガドォォォォンッ!!
轟音が響いて、防空壕が崩れてしまった……間違いなく、生存者ゼロだ。煙が上がり、中が燃えていることを示してくる……
「赤ちゃんも子供も……死んだ、のか……」
「これが戦争だよ、よく見とけ?」
「う、あぁぁぁ……」
残虐すぎる真実。それが突きつけられ……次の基地に向かうことになった。無論、足は動かないまま。
「おい、遅いぞクソガキ」
「っく……」
「まさか銃弾のせいだとか言わねぇよな? 自己責任だよ、クズ野郎」
自己責任。それは戦場でも使われる、悪魔の言葉。人を狂わせ、殺す立派な武器だ。
「……ぐぅ……」
「野郎、さっさと歩け! オラ!!」
「ぎっ……」
思い切り蹴られる。子供の背中が、大人の蹴りで。こうして、守男の戦争が始まった。場面は変わり、味方側の基地にて。医者は女性であった。流石は医者の手腕、手際よく治療を進めていく。
「……摘出します。回復魔法器具を」
「回復魔法……?」
「多少の傷を消し、その周りの痛覚を一定時間切るものです」
それがかけられると、本当に痛みが消え去り……弾が摘出され、その部分が縫われた。
「ありがとうございます……」
「後がつかえています、さっさと出ていきなさい」
「あ、はい」
部屋から出ると、次の人に守男は拳を食らった。
「ぎっ……」
「遅いんだよクソガキ!!」
「全くだぜ……」
次に来るように言われていた食堂室。そこに行くと……
「お前はこれでも食っとけ」
「これは……」
「タイヤ味のジャーキーだよ。クソ不味いから処理に困ってたんだ。満場一致でお前が食べることに決まったからな」
そう言われて口に含むと……とてつもなく不味かったが、文句を言ってはいけないと悟って、全て齧りきった。
「……食いやがった。こりゃ使えるな……」
「ごちそうさまでした」
「寝床はあっちだ。さっさと寝ろ」
その後はすぐに眠らされ……次の日が来た。また撃ち合い、不味い飯を喰らい、眠る……それを繰り返し、守男も慣れてきていた。だが、そんなことを続けて1年程経ったある日のこと……全員の様子がおかしいことに気づいた。常に目は血走り、歯を強く食いしばっている……自分は意味のない暴力を振るわれるようにもなった。抵抗すれば撃たれて、治療の世話になる日々だ。
「……オラ、ムカつくんだよ!!」
「何するん……がぁ!?」
「この野郎……くそ、イラつく……!!」
また治療室の世話になりつつ、この事について守男は考えた。
「いい加減抵抗をやめなさい。抵抗すれば撃たれるのですから、無抵抗でいなさい。いいですね」
「お断りします」
「拒否権はありません、今度は治療しませんよ」
医者までおかしくなってきている気がする。なんだ、これは? 戦争とは人をここまで狂わせるのか? そう思っていた時……事件は起きた。戦争の一環で、街を襲撃することになり……街に向かい、突撃した時のことだ。
「死ね死ねぇ!!」
「まだまだぁ!!」
「……やっぱりだ、なんで楽しそうなんだ……? おかしいぞ、こんな状況が楽しいだなんて……」
全員が笑っていることに疑問を抱く、純粋な守男……まだ7歳だ。狂気に染まらなければ、永久に同じことを、それも殺しをやり続けるなど出来はしない……守男は人一倍優しかった。自分が痛いことをされて嫌だったから、他の人も嫌なはず。だからしないし、そんなことがあったら守ってあげたい……純粋に思うほど、守男は優しかった、優しすぎた。だからこそ、狂えなかった。
「……え、なに、して……」
「や、め……てっ」
「何って……女を犯してんだよ。お前はまだ早いぞ、ガキの貧相な竿なんざで出来るかよ」
それは、ロシア兵が行っていたのと全く同じ行為。必要のない虐殺、強姦。それをこの者達もやったのだ……
「な、何故そんなことを!? 必要ないでしょ!?」
「うるせぇ!! ストレス発散だよ!! これも戦争だ!!」
「そ、そんなわけ……!」
こればっかりは、おかしすぎる。そう思って文句をつけようとした時だった……
「あ゛、あ゛っう……あなた……あ゛ぁっ!!」
「ぁ……ゆ、り……」
「なんだ、生きてやがったか。おいガキ、そいつを処理しとけ。今忙しいから」
まるで子供が遊んでいるかのように。遊びの邪魔をされて不機嫌な子供のような声色。正に狂気……これが、戦争の産むモノ。
「む、無理です……できませ……がっ!?」
「や、めろ……ぁ」
「チッ……折角楽しいとこだったのに。邪魔しやがって」
その男は撃たれて死んでしまった。足を撃たれた守男は、それを見て銃を取り出した。仲間だろうと、撃つ。容赦はしない……そう思っていた時だ。腕に弾が突き刺さり、銃を奪われたのだ。
「仲間を撃とうとするなんてなんて奴だ……反吐が出る。拘束しておこう……魔法器具起動」
「お、お前も来たか!」
「邪魔されたから撃ったんだろ? 正当防衛だ……俺も混ぜろ!!」
最早、何も出来ない。声すら出せない。拘束魔法で身体中を雁字搦めにされ、輪姦を行われることを見ることしか出来なかった。守男は何度も吐いた、吐きすぎて血も吐き出した。吐くものもなくなってえずいても、終わらなかった。他の場所でも悲鳴が聞こえる。街の真ん中なので、他の場所でも行われている狂気が見えた。これが現実だと、その景色が冷酷に告げる。7歳の子供に。
「……おしまい、っと」
「ぁ……」
「ふぅ、スッキリした! うわ汚ねぇ……こいつどうする?」
なんの罪もない女の人は、ついに殺された。それに飽き足らず……
「拘束解いて放置でいいだろ。もう動けやしねぇさ」
「それもそうか。じゃあな、クソ野郎」
「……」
全員が笑っている。笑い声が反響し、それが守男の耳に染み付く……
『アヒャヒャヒャ! イィッヒヒヒヒヒヒ!!』
『これが戦争だよ!!』
「……な、ぜ」
結局、基地まで這って戻り……治療を受けた。
「……馬鹿らしい。何故止めるのか……正義の味方にでもなったつもりですか? ふざけないでください。あなた……否、もう敬語は疲れた。貴様、ここは仮面ライダーや戦隊モノの撮影現場でも、実写版ガンダムをやってるんでもない。ここは現実だよ。貴様の面倒を見る私の身にもなれ!!」
「……」
「クソがよ……ペッ!!」
守男は唾を吐かれて、部屋を出る。戦争の現実を知り、苦しくなって……苦しすぎて声も出ないのだ。笑おうとしたが……口角が上がらなかった。そして、更に1年後……食料が無くなった頃、また恐ろしいことが起きた。
「そ、それは……」
「なにかって? 人肉だよ、お前にはやらねぇぞ? 案外うめぇな、おかわり!」
「……やめろ!!」
解体されて喰われる市民達……そこに割り込もうとしたが、結果は分かりきっていた。
「はぁ……」
「っぎ……」
「あっち、行っとけ!!」
投げ飛ばされ、食堂の外の壁に激突する。もう治療もして貰えなくなったので、いつも通り引っこ抜いて焼く。もう、痛みが消えてきていた。父島事件を目の前で見せられれば、精神的ダメージも凄まじいものがあるだろう、少なくとも、まだ8歳の子供に見せていい光景でないことは確かだ。
「……っ」
守男は、また吐いた。そして、時は経ち……
「……」
「う……ベッ」
「オラ、死ねぇっ!!」
1人死んだ。敵も1人死んだ。もう、人間らしい感情も消えてきていた頃……時が経って、もう守男も15歳だった。死にかけの仲間に、男が回復魔法をかけて、無慈悲に言う……
「……ぐぅ」
「回復魔法をかけたから動けるはずだ……特攻しろ。腹の中に入れた爆破魔法で自爆するんだ、できるだろ?」
「……」
守男は文句が言えなかった。言っても意味が無いことを、完全に理解してしまったのだ。
「あぁぁぁー!!」
「な、なんだ!?」
「う、撃て! こいつは……」
ズドォォォォン!!
「おぉ、大分死んだな……」
「……」
……守男が戦争をやり続けて、もう9年になる。だが、それは突然起きた。
「まずい、弾が……」
「敵がこっちに来ます!!」
「な……武器を投げろ、使えるものを全部使え!!」
剣や槍も、この9年間で何度か扱ったため、扱いにも慣れてきていた。守男は上手い人の技術を目で盗み、密かに練習をしていたため……剣や槍、他にもハンマー、メイス、ダガー、ナイフ……全て扱い方はわかっていた。手榴弾を投げて殲滅していくが、それでも数が減らない。死を恐れぬ特攻、それはこちら側に届いた。届いてしまった。
「うぉぉぉぉー!!」
「ひっ!? ぎゃあっ!!」
「この野郎、死ね、死ね!!」
味方が全員やられていく。武器を奪われ、殺されそうになっている……何かないかとポケットを漁ると、フラッシュグレネードを見つけた。
「お前も死ね、ガキ!!」
「……っ!!」
「ぐぁっ!? ま、眩しい……!!」
その場から離脱し、逃げる守男……そんな中、守男が見たのは。
「や、やめ……あ゛!!」
「こっちもやられたんだ、お前にもやらせろ!!」
「俺も混ぜろって!」
輪姦。
「人肉って美味いらしいぜ?」
「喰ってみるか!」
「お、美味いじゃねぇか!!」
人肉喰らい。
「逃がすか!!」
「嫌……ぁ」
「へっ、地獄に落ちろってんだ!!」
基地にいた、罪なき者達も虐殺された。全てやり返されたのだ。文字通り……
「……」
逃げる途中で守男は思った。これが戦争なのだな、と。やって、やり返されて、女の人の股に無理矢理股を入れるのも、必要なく人を殺すのも、人の肉を食べるのも……全てやって、やり返されてを繰り返す。そして終わった時には何も残らない……それが戦争だと、『理解』してしまった。純粋な心が消えてゆく。人としての心が削れてゆく。誰も気にせぬ、世界の暗部にて。
「……」
守男の感情が、消えてゆく。
それからは魔法兵器が投入され、それを撃ち合う日々になった。1発で大量に人が死ぬ、味方も同様に。守男も、顔はボロボロだし身体中傷だらけで戦争を続けていた。そんな中……ある噂を聞いた。
「……知ってるか? 『元素融合爆弾』、略して融爆の噂」
「あぁ、敵国は急いでるとか言ってたけど……国ひとつ吹っ飛ぶんだろ? あれ」
「四元素の反発作用を利用して、無理矢理融合させた元素の反発エネルギーをぶつける……全てが消し飛んだ後、高濃度の風元素による竜巻と炎元素による爆炎で確実にトドメを刺し、水元素で消火と隠蔽を行ったあと、土元素で埋めて無かったことにする……隠蔽能力も、破壊能力も抜群って……化け物かよ。核も真っ青だぜ」
元素融合爆弾。核よりも恐ろしく、隠蔽性の高い兵器。懺悔も、後悔もさせない。国ごと無くなるのだから。
「金がかかるらしいぜ、兆……いや、ウン十兆くらい」
「マジかよ、それも惜しくねぇってか?」
「そうなんだろうな……とんでもない兵器作りやがって」
そんな噂を小耳に挟みつつ、今日も撃ち合う。そんな時……
「……戻ってこい?」
「あぁ、お前に次の仕事を課すから戻れってさ。そういうわけだ、戻れ」
「わかりました」
そして、守男が戻ろうとしていた時……
「……なんだ、何を運んでるんだあれは……大きな球……?」
それを見ていた守男は……猛烈に嫌な予感がした。逃げろと全本能が叫ぶ。もう、体は走っていた。
「……間に合え!」
飛び込んだすぐ、後のこと。ゲートから轟音がして……眩しくなったと思ったら、ゲートの接続が切れてしまった。もう、うんともすんとも言わない。
「……どうなったんだ?」
その疑問は、すぐに解決された。家に歩いて帰る途中の家電屋にて……ニュース速報で、流れてきた。
『臨時ニュースです。突如ラミア国はフィオル国に無条件降伏しました。原因は全く分かりません……繰り返します』
「……まさか」
守男は察した。察してしまった。あれは融爆だ。フィオル国は、本当に落としたんだ。これを知る人は誰も生きていない。俺が、最後?
「……クソッタレ」
守男は、誰に向けたわけでもない愚痴を呟いた。そして、家に戻ると……執事に、違う場所に移動するよう言われた。移動するとそこは、二階建ての家であった……
「どういうつもりだ」
「ご主人様の意向です、降りなさい」
「……何があるかわからんな」
車は走り去ってしまった。もう後戻りはできない……守男は覚悟を決めて、家のドアを開けた。
「……いるんだろ!? 出て来やがれ!!」
しん、と。静寂だけが帰ってきた……そこに、誰かが歩いてくる。
「私、彼の代理人です」
「……顔も見たくないってか」
「そう仰られていました。では、説明をさせていただきますね」
それは、とんでもないことだった。扶養義務、介護が必要な時はする、毎月指定額を口座に入れる……しないことは犯罪となる。契約書を書いた時点でもう契約済み、判断能力がないとして、親が勝手に契約書を書いたと。そう告げられた。奴らが法律を弄ったのだ。守男はそれに気づいて怒る。
「くそ……戦争の道具の次は奴隷か」
「法律ですから。守ってくださいね、罰則は死刑となっております。あと固定資産税なども払っていただきますので」
「……この家はなぜ与えたかわかるか?」
そう聞くと、その男は声色を変えずに言った。
「テレビをご覧になってください」
「……テレビ? 悪い、使い方がわからんのだが」
「……はぁ、あの人が面倒を見たくないのも納得だ……まるで赤子じゃないか。こうするんですよ」
テレビの電源がつき……そこに映っていたのは。
『堀川コンツェルン社長、堀川さん! 超聖人! 欲しいと言ったらポンと与えちゃう!』
『いや、家が欲しいと強請られたので、買ってやったんです。安かったのでつい、ね(笑)』
「なんて素晴らしい人だろう! こんな素晴らしい人が運営する会社なんですし、きっといいところなんでしょうね!」
悪行を誤魔化すために、善行をした事にしたのだ……評判が上がれば利益も出るし、株価も上がる。守男を利用したのである。
「利用されたってわけか……」
「それでは私はこれで。家電については説明書を読んで理解してください、私は介護士じゃないのでね」
「……あぁ」
そして……ここからもまた、地獄だった。逃げ出した先に楽園などない……あるのはまた戦場だけだ。
「……」
「さぁ、どんどん働けよ!! そこ、手を止めるな!!」
「……」
提示された金額は、毎月10万円。とても払える金額ではなかった……まるで年貢だ。それを払うため、過労死ラインなど無視して働いた。流石に眠い日もあったので、そんな日はこうして冷水を被る……
「うらぁ!! っく……捕まったら死ぬんだ……まだ死ねないんだよ……!」
奴らに殺されるなんてゴメンだ……そう思いながら、守男は必死に働いた。まともな飯も食べられなかったため、生ゴミを漁った。
「何あいつ、気持ち悪……」
そして……この男が18歳になった頃、それは起きてしまった。
「……もう払わなくていいだと? 何のつもりだ?」
「はい。その代わり、この学園に入学してもらうそうです」
「……ホロライブ学園だと? 今頃学校に通えって、遅すぎるだろ……」
学校に通う気などない……そう言おうとした、その時。
「……行かないなら考えがある、と言っていましたよ」
「フン、かかってこいよ。俺は行かない」
「そうですか、それでは」
そして、次の日……テレビを見ていると。
「……なんだと? 俺が犯罪者? 戦争で強姦の命令をした!?」
その他にも、戦争で起きた狂気を全て自分の責任にされていた。そして、SNSアプリによる拡散……世界中に、ワルモノを叩ける正義の棒が渡された。あとはもう、わかるだろう。
「……家から出られんな」
「死ね、クソ野郎!!」
「開けろ臆病者!!」
違うと言おうとした、その時。言って意味があるのか? ないだろう。奴らはもう、真実を作ってしまったんだ。易々と変えられるものか……正義を得たら、もう止まることはない。『正義の味方』が、私の間違いでしたごめんなさい……なんて言うわけない。敵は悪い悪者、自分はそれを殺す……人間の本能を、止められるわけがない。味方が誰1人居ない状況で、尚且つ虐殺や強姦と罪も死刑確定の役満だ。どっちにしたって、殺される。
「どちらにせよ殺すんじゃねぇか……いっそ全員殺して、親を殺して逃げるか? それとも、ワンチャンに賭けて無実を訴えてみるか?」
そう思ったが……理性がそれを止めた。言ったはず、守男は人一倍優しいと。優しすぎるのだ……だからこそ、訴える作戦を切った。戦うのも無理だ、敵は銃や剣、槍、メイスにハンマーと……重武装で来ていたのだ。守男は武装解除させられている……ボクシングに銃を持ち込まれたら、勝てるか? 無理に決まっている。
「……そしたら、その人も同じ目に遭うのか……?」
守男は想像したのだ。同じように中傷されるところを。何の関係もない人が後ろから刺されるところを。様々な殺され方が、鮮明に浮かんだ。目の前で飛び散る血。罪のない人が虐殺される、強姦される……脳内に浮かぶ、『最悪の光景』。戦争が頭をよぎる……そんな守男のとった行動は……
「……もしもし、代理人か? ……行ってやるよ。お望みのホロライブ学園とやらにな……」
そこから、代理人が来た。そして、暴動を起こしていた者達は……雇われの暴力団に殺された。やり過ぎだ、とは言えなかった……悔しさで、いっぱいだったから。負けたのだ、守男は。何も出来ずに、奴らに……
「では説明を致します。ここには国の姫や貴族の令嬢、強い力を持つ鬼の令嬢など様々な種族が通っています。建設目的は戦闘能力の向上。元々は男子と女子に分かれていましたが、力のレベルの差が開きすぎたため、お互いの力を高め合うために、やむを得ず男女共学となりました」
「学校の歴史はいい、俺は何をすりゃいいんだ」
「はい、受験を受けて受かり、その人達と懇ろになってください。できなかった場合、さっきのようなことをまた起こすとのことです。今度は自分が主導で……あと伝言です、『正義ってのは麻薬みたいなモノだ……1度やったら止められない。果たして、被害が貴様だけで済むかねぇ? マスコミに頼んで適当な他人の噂だって流せるんだぜ? 正義の前に優しさなんてなんの意味もないのさ! 優しさなんて馬鹿な事を抜かすのはやめるこったな!!』とのことです」
守男は怒りを通り越して呆れた……利用したい、利用できないならぶっ殺したい……考えが見え見えだ。本音が見え見えなのに、よく会社なんて運営できるな……そう思いながら話を聞く。話を聞かなければ……本当に、関係ない他人まで死ぬことになる。守男は考えた、そんなの俺と一緒に死ねと言うのと同義じゃないか。その場で撃たれても仕方ない暴虐だぞ、と。
「また、それに伴って傷を隠すために、皮膚回復手術を行うとのことです。これも強制なのでそのつもりで」
「……」
「あと、その人達は全員女です。死なないよう頑張ってくださいね」
顔を直すってそういうことか……そう思って、守男はため息すらつけずに心を痛めた。誰かが、自分のために巻き込まれる。でも、死ぬよりまだマシなはずだ……奴はやるって言ったらやる。真実を勝手に捏造して……人を殺す。
「……一番恐ろしいのは、戦争じゃなかったな。生きてる人間……その中でも、『弱者』が一番恐ろしい」
本当に恐ろしいのは敵でも、銃でも手榴弾でもない……奴らのような力のある弱者が、一番恐ろしいのだ。力のある強者なら戦える、戦争なら銃で撃てばいい。だが、奴らにはそれができない。『弱いものイジメ』になるから。そういうことに『してくる』から。だからこそ厄介なのだ。
「……では、そういうことなので。病院に向かってください」
そう言われて、何も言う気が起きずに病院に送られ……やったことは単純であり、体と癒着して皮膚を上書きしてくれる人工皮膚を貼り付け、回復魔法で接着する……だけ。なんの痛みもなかった。顔を綺麗にして、『見える部分は』全て綺麗になった。まぁ、金をケチったのか、他の部分は一切やってくれなかったのだが。その後受験のために徹夜で勉強をしたが、徹夜が辛くない守男にとっては余裕だった。そして、試験にも無事受かり……
「受かったな……よし、始めよう」
それから……守男がとった行動は、好かれる男の真似をすることだった。好かれなければ、まとめて処分される。行くのを辞めても、処分される。周りの人を多大に巻き込んで。それは、自爆テロだ。どのような事情があろうと、絶対にやってはいけないことだ……『バイバイテロリスト、そんなにこの世が嫌いなら二度とあの世から出てくるな!』とは誰の言葉であったか。
「……これが好かれる男か」
そういった本は読んだ、男らしいとされている『アニメキャラ』『漫画のキャラ』なども、全て模倣した。演技をし、その性格になろうとした。好かれる人の特徴を努力で『コピー』した。料理が美味いのも練習をしたからだ。全ては、好感を持たれるためだけに。過去の記憶を改変するために、普通の高校生らしく、エロ本を買って隠したりもしてみた。
「……誰も殺させない、俺が演技しきればいいだけの話なんだ……理想の人間になれ、皆のために……!!」
自分がどれだけ辛くとも、優しさだけは捨てなかったのだ。守男はまだ、誰かに手を伸ばそうとしていた。そのためにも、好感を持たれる必要がある。それからまた、時は経ち……完全に、仮面を被りきった。戦争屋の自分を、封じ込めて出て来れないようにした。
「……イヤッホウ! あと1ヶ月か……楽しみだなぁ~!」
本当は真っ赤な嘘である。だが、今作った『人格』の心では『本音』だ。だからこれは、本音だ。嫌な記憶も無理矢理蓋をして、思い出せないようにした……万が一にもバレないように。巻き込まないように……
「……なんだ? 訓練……しなきゃ? なんで俺、今しなきゃいけないって思ったんだ? まぁ、やるか……」
走者が、干渉を始めた。それから守男は軍人時代にやらされた行軍などを真似て修行した。ネットで技術の動画を見たりしながら、的を相手に剣を振ってみたりもした……そうすると、突然なにかを思いつくのだ。
「グレイト……スラッシュ? なんだそれ……サイクロンスラッシュ? ジャッジスルー2……何故だ、全部知らないのに……使い方がわかる……俺は強く、なってるのか……?」
そう思いながら、守男は修行を続け……
「死ね、クソ野郎!!」
昔の因縁に絡まれることもあったが……一瞬で片付けた。あの時の暴力団で恐怖を植え付けられ、行動する奴らが減ったからである。情報も嘘だったと声明が出され、マスコミの社長が黒幕として全ての責任を押し付けられ、1人だけ死刑にされた。余りに哀れだ。だが、守男になにかすることは出来なかった。そして、入学の日。
「こんなに楽しみなのはいつぶりだろう!」
嘘である。楽しみだった日など人生にない。捏造した記憶だ、皆のために。
「奴らがあの世でもう1回死ぬくらい、強くて幸せな人間になってやる!」
奴らというのは、無論味方の軍人達のこと……やはり、憎しみは消しきれていないのだ。全ての記憶に蓋をできたわけではないが……行くしかない。守男はそう思って……『元気に』登校した。
>トラウマ『最後の生き残り』
余りに惨たらしい光景を見せつけられ、戦争を続けていき……虐殺や強姦、人肉食など……史実に基づいた残虐を、次々と突きつけられ……最終的には誰一人同僚の生きていない状態となり、孤独となった。だが戦争はまだ、終わっていない。今度は魔王軍と、1人で戦争だ。
>トラウマ『被った仮面』
過労死ラインを無視して働き、自爆テロと敗北の2択を迫られ……好かれるために無理矢理『2枚目半』の仮面を被った。これも皆のため、皆のためなら、こんな人格はいらないと、自分すら捨ててしまった。力の強い弱者の傲慢は留まるところを知らない。
>『霆堺ココ縺ョ逶エ諢』『豁」鄒ゥ縺ョ貍疲橿』が変化しました。
>『軍人の勘』『正義の仮面』を獲得しました。
>『味覚消失』『嗅覚消失』『苦痛無視』『三大欲求消失』を獲得しました。
参考資料
映画『さとうきび畑の唄』
ロシア兵による暴行、強姦、虐殺、略奪が日本に示唆すること(JBpress)
原爆資料館
沖縄平和祈念資料館
占領期日本における強姦(Wikipedia)
父島事件(Wikipedia)