「世界征服をしてください」
「はい?」
白い世界にいた。
声が聞こえる。
「あなたは今からダンジョンを運営していただきます。まずどこに設置するかを決め、その後どのように発展させていくかを決定していただきます」
「ちょっと待ってちょっと待って」
「成長させていけば、あなたの思う通りの世界を創造出来るでしょう。モンスターを育て、罠を作り、侵入してくる者達を撃退するのです。それを糧にダンジョンを発展させ、戦力を強化してください。その先に、世界征服が訪れます」
「全然待たないじゃん」
早い早い早い。
高速道路で急に前の車が停まって急ブレーキ踏んで、ギリギリ止まれたかと思ったら多分後ろの車がぶつかって来て、次の瞬間ここで、
「では、早速なんの世界を征服するか決めてください。希望はありますか?」
「夢?夢見てるの俺?」
「夢のような世界ですね。該当する中で推奨されるものをリストアップしていきます」
「待てやマジで」
「ストップ、ここですね。あなたが征服する世界はーー幻想郷。現実から消えつつある幻想が残る、最後の夢幻の世界です。難易度はルナティック。苛烈なダンジョンライフが予想されるでしょう」
「ん?んんん???」
ほんとに待ってくれないじゃん。
まずここどこだよ。というかこの声誰だよ。
いやそんなこと考えてる暇無い気がする。思い出せ、こいつ何言ってたっけ。
幻想郷とかいう聞き覚えのある単語が聞こえたし、ダンジョン作れみたいな話をしてたような気もする。あとなんだーー。
矢継ぎ早に叩き込まれる情報量に頭が追いつかない。俺は頭を抱えようとしてーー身体が無いことに気がついた。
ーーんんん??
「それでは、あなたのダンジョンマスターとしての適性を測ります。あなたはーー『芸術家気質』です。一般的な企業就職には向いていませんが、ダンジョンの運営ではその限りではありません。上手く発展させれば花開くものも無くはないでしょう。精々頑張って下さい」
「ん?馬鹿にされてる?」
「イントロダクションを終わります。マニュアルを送付しました。これにてチュートリアルを終わります」
「雑すぎだろ」
「それでは、よい世界征服を」
「え、ほんとに終わーー」
そこで俺の視界は消えた。
目が覚めると真っ黒な世界だった。
ほんとに黒い。何もない世界だ。だが先程の白い世界とは根本的に違う点がある。
それは、俺の身体があるという事だ。
「ふむ」
声も聞こえる。
手をグーパーしてみると、しっかり掌に感触も伝わってくる。
あたりは真っ黒で光源が無いにも関わらず、身体の色や凹凸の影も見えるのは意味が分からないが、とにかくこれは俺の身体である。
ちょっと落ち着いた。
「ん?なんだこれ」
落ち着けなかった。
胸の真ん中、胸骨のあたりに変な紋様のようなものがある。俺はそれを触ってみてーー目の前に、光るタブレットのようなものが現れた。
急に出て来た光源に俺の目が眩むーーことはなく、何の違和感もなくそこの文字が目に入ってくる。
『マニュアル』
「マニュアル?」
マニュアル。
……あ、声がくそ雑にチュートリアルとやらを飛ばした時に言ってたやつか。
もう色々事が起こりすぎて何が何やらだが、取り敢えず状況に流されて光る画面に触れてみた。
マニュアルという文字が消え、新しい画面が現れる。
それはなんだか、典型的なソシャゲのマイページみたいな画面だった。
色々項目がある。
『発展』、『モンスター』、『GMコール』、『ガチャ』、
……ガチャ?
ついそれに目が引かれてしまうが、理性で無理矢理それを押さえつける。ざっと全体に目を通し、『ヘルプ』という文字を見つける。
そしてその画面を開きーー俺は、自分が置かれている状態をあらかた把握した。
ざっと説明しよう。
結論から言うと、俺はまあまあ詰んでいた。
まず、俺はこれからダンジョンを作る。
作り方は簡単。
初期位置を決め、そこに俺の陣取るボス部屋を置き、もう一部屋設置する。
そしてダンジョンポイントーー略してDPを消費して、モンスターを消費したり罠を作ったりする。
侵入者が来て撃退すればDPは増える。単純な話だ。一応モンスターを分解するとか他にも細々方法はあるみたいだが、どれも余剰となる何かがあってはじめて可能な方法のようで、最初はほぼ不可能だ。
因みに侵入者は虫とか生き物とかは駄目で、マニュアル的には『一定以上の知能レベルのある存在』らしい。ざっくりと、人間以上の存在と考えればいいだろう。
あと、声も言っていた通り、このダンジョン運営のゴールは世界征服らしい。
平和的な共存は無理なようだ。なんか俺の姿を見たやつは、とてつもない嫌悪感や敵意を覚える仕様だそうだ。つまり世界最高の醜男ってことだな。失礼しちゃうわ。
まあ、まとめると極めて単純。
ダンジョン作って、侵入者倒して、また作る。
じゃあ何が詰んでるのか。
それは、ここが『幻想郷』という事だ。
舞台は幻想郷ーーそう、ちょっと二次元文化に触れているなら名前は誰もが知っている、『東方Project』の世界だ。
俺はちょっと作品をプレイしたり、ニ○ニ○動画全盛期に思春期を送っていたこともあって、ざっくり全体像程度は知っている。
そんな俺が、この世界の詰み要素を説明しよう。
まず一つ目。この世界には、序盤の餌となる侵入者が存在しない。
幻想郷では、人間は妖怪によって飼われている。
人間が人外の存在を現実のものと認識し、恐怖し、敬うために、わざわざ妖怪達が作ったのが幻想郷だ。つまりここで最も弱い侵入者となり得る存在が、人里にて最も丁重に保護されているわけだ。
人里にダンジョンを作れば解決するが、そんなことしたら餌を活用する前にダンジョンが見つかって俺がぶっ殺される可能性が高い。なんせ人が飲み屋帰りに1人居なくなっただけで、それが噂となって霊夢の耳に届くくらいだ。
うーん、厳しい。
二つ目。人里以外に住む輩は、大抵ぶっ壊れのチートが多い。
東方のキャラって、なんか色々設定がおかしいのが多いんだよな。主人公の博麗霊夢とかは最たるもので、外部からの全ての干渉を受け付けないって無敵の能力とか持ってる。
どの陣営にもそういうヤバいのがいるから、そこに属する奴らに手を出すと、そのヤバいのを引っ張って来そうでこれまたヤバい。
纏めると、引いたら終わりに直結しそうな地雷キャラが多い。
うーん、厳しい。
他にも色々あるけど、ざっくりと問題点はこの二つに纏められるだろう。
これらを考慮しつつ、俺はダンジョン運営を開始しないといけないようだ。どうすんのこれ。
ちなみにだけど、ダンジョン運営を開始しないという選択肢は無いらしい。
マニュアルに、これ見よがしなタイマーがあった。
時間にして30分。
まあ、これは……時間制限だろう、どう見ても。
一旦開始すれば世界征服までの時間とかはいくら掛かろうが関係ないらしいが、初期地点をのんびりとは決めていられない。あとここまで把握するのに15分くらいかかったから、考える時間は残り半分しかなかったりする。
うーん、厳しいねぇ??先に説明してくれてても良かったよねぇ???
タイマー切れたらどうなるのかの説明は無かったけど、初期位置がランダムになるかもしれないのでそんな大博打はやらない。
「よし、詰んだ」