アリスの撃退。
その為に欠かせないのは、魔理沙とリグルから得られる情報だ。
魔理沙からはアリスの戦力の推定を、リグルからは効率的に蟲を用いた戦力の運用法を聞き出す。これらは可能な限り正確に、かつ引き出せるだけ大量に得る必要がある。
そのために、寝入ってからワームの産卵を中止して、朝方に催眠スプレーを吸わせ、頭がスッキリした状態で目が覚めてから質問していくことにした。
まずは魔理沙から。
アリスの戦闘力、覚えている限りの使える魔法、彼女の使う人形の種類。そして魔理沙から見たアリスの性格や、生活スタイルなど。思いつく限り全ての情報を聞き出していきーー予想以上の完璧ウーマンっぷりに、俺はつい匙を投げなくなる。
流石、都会派を謳うだけはある。優しいくらいしか隙が見当たらない。
「アリスの家に泊めてもらって、寝込みを襲うのはどうだ。仲の良い魔理沙なら油断するし、警戒されないだろ」
「いや、私はよくあいつに迷惑かけてるから、そもそも泊まりに行った時点で何か企んでるのかと警戒されると思うぜ」
「えええ……。じゃあ逆に、面倒見良さそうだし、妖精とかと結託して悪戯企んでるって風に誤認させてから、色々武装解除をして家に来てもらうのはどうだ。リグルとか居るし、弱い妖精に危険が及ばないようにって理由つければ、魔法封じのアイテムとか着けてもらうことも出来るんじゃないか?」
「まあ出来るだろうけど、それでも大人しくやられるのは想像つかないぜ。というか、そもそもこっちからアリスやっつけにいく話じゃないと思ってたんだけど、違うのか?」
「違わないです」
非常に正論である。
不意に魔理沙ハウスへ訪れてきそうな最高戦力の目安としてアリスを挙げているだけで、こちらから倒しに行くのは本末転倒だ。
あまりにもアリスを打倒可能な戦力の目安が立たなくて、ムキになって倒す方法を考えていただけである。
気を取り直して、彼女の戦力と弱点を炙り出すための質問を再開した。
しかし困ったものだ。
アリスが常に本気を出さない主義というのも相まって、彼女の戦力としての全体像があやふやなのが輪を掛けて厄介だ。
何をやっても「でもあいつなら涼しい顔で何とかしてそう」と魔理沙が言うので、俺の中のアリス像が無敵最強都会派魔女となりつつある。
最早躍起になって色々聞き出すが、好みのお茶だの、彼女から聞いた魔法結界の理論のうんちくだの、使い道のあるのか無いのかよく分からん情報が出てきたあたりで、俺は本当に匙を投げた。
これではいつまで話しても水掛論になる。無理矢理にでもあたりを付ける必要があるだろう。
「魔理沙が2人いれば、アリスは倒せると思うか?」
「当たり前だ!」
ふむ。
小学生のような想定質問をしたが、意外と本質をついた質問だったかもしれない。
つまり魔理沙を倒せるだけの戦力を自前で用意出来れば、催眠魔理沙と合わせて撃退可能ということか。
とは言え魔理沙はそもそもが自信過剰の無鉄砲女だ。
実際それだけの実力は兼ね備えているのだが、やはり殺傷力の低い弾幕バトルが幻想郷の根底に備わっているからという面が強い。
二次創作では、よく最強サイヤ人の博麗霊夢と自身を比較し、その弾幕バトルに限らない無敵っぷりに自信を失くすといった展開が見受けられた。しかしそんな作品であっても、元々の彼女は自分の実力をとても高く評価しており、強者に対しても臆せず立ち向かっていく姿がよく見られる印象がある。
魔法使いというだけあって彼女の頭脳は非常に明晰であり、自他の戦力分析は優れているはずだ。しかしそれでも自身の勝利を疑わない、そんな良く言うと主人公気質が彼女の特徴である。
本当に魔理沙2人でアリスを撃退出来るんだろうか。
でも、アリスの手札を正確に把握出来ないなら、明確なカウンターを用意することもまた不可能だ。搦手等でアリスをコスパ良く撃退出来ない以上、単純な戦力として上回る必要がある。そうなると最も正確な指標となるのは、魔理沙1人の戦力だ。
催眠してこの程度の情報しか集まらないなら、速やかに行動に移すしかない。取り敢えず当面の目標はこれだ。
「魔理沙を倒せるだけの自前の戦力を用意しよう」
◇
「あ、この261番強いよ。これにさっきのムカデとか……どこだっけ、あ、これこれ。403番とか組み合わせると、人間程度何人だって殺せると思うね!」
「ん?ムカデはまあ分かるけど、このバッタと……なにこれアメンボ?なんで強いんだ?特に特殊能力とか書いてないぞ」
「こいつ脆いから死ぬ時大体腹裂けて体液撒き散るんだよね。それがまた臭いしヌルヌルするし多いし、このサイズならたまったもんじゃないよ。速度は速いから、何匹か突撃させて近くで粉砕させたら、その辺りは体液で水浸しになるんじゃない?このムカデくらいデカかったり、アメンボとかなら関係ないけど、人間サイズなら足取られて結構嫌だと思うな」
「ほーん、コンボ技だな。流石蟲の大将」
「ふふふ、まあ大体の虫の種類は知り尽くしてるからね!ここの始めの方に載ってるのは大体知ってる種類のデカい版みたいだし、それくらいわけないからね!」
「へー。じゃあお前に卵産み付けてるこいつらは?」
「………そ、それは知らない。や、やめてよ近付けるの……」
リグルの情報は非常に役に立った。
マニュアルにない様々な虫の生態に、それを用いた戦法の説明など。
こいつバカルテットの一員だよな、と疑問に思うほど、虫についての知識は豊富だった。
説明する戦法は非常に実践的であり、おそらく全てやった事や見た事がある生の情報を元にしていた。
それそれそういうのが欲しかったんだよ、と思わずリグルを好きになってしまいそうだ。
質問タイム終わったら苗床へ逆戻りだけどな。魔理沙と違ってその他の活用法ないし。
因みにだけど、リグルは俺に対して特別嫌悪感や敵意を持っていない。ダンジョンマスターへのそれは「姿を見たもの」という説明であったため、リグルが目を回しながら家に来て直ぐに目隠しをしたのだ。
俺を見さえしなければよいのかという検証であったが、実際リグルも赤蛮奇も特別異常な嫌悪は抱いた様子が無かった。赤蛮奇に頭を増やさせた際に、その頭に目隠しが無かったことで俺を見てしまい、急に顔色が変わってガタガタ震え出していたので、おそらく条件が視覚情報という仮説は確定だ。
ただマニュアルを見てもらわないといけないので、今はリグルの目隠しを外して俺が全身毛布にくるまっている。いちいちマニュアルを移動させて、毛布から出し入れするのが面倒くさい。
因みにその状態で魔理沙と話したが、既に俺を認識しているためか嫌悪感は消えていなかった。弱まっていた気もするが、催眠時にも嫌悪感は残っていた為、まあその程度ということだ。リグルは今後も目隠し継続である。
とまあ、そんなこんなで召喚する蟲とその配置、あと優先すべき部屋の設定などを、リグルと話し合いながら詰めていった。
基本的に彼女はあまり色々考えるのは苦手なので、俺がじっと悩む時間が多い。そのため浮かんだ疑問や知りたい知識などを、適宜聞いていく形となる。
こうした話し合いは予想よりも有意義で長引いたため、リグルのみ次の日も催眠を継続することにした。
そして3日超えたあたりで、リグルの催眠はほぼ常に必須となると考え、一週間持続の催眠薬を購入すると共に、リグルでのワーム産卵も開始する。ほとんど時々アドバイスを貰いに行くのみとなっていたため、多少産卵周期を遅らせれば充分となっていた。
俺が考え、それを魔理沙に見せて弱点を指摘させ、リグルに相談して対策する。その結果必要となるDPはじわじわと増え、それに従ってダンジョン入り予定日も遅れていった。しかしそれはリグルと話し合って出した結論であり、残念には思えど必要な事であった。
そして更に何日か経ったあたりで、魔理沙打倒が視野に入る戦力編成が出来上がった。
ここからはリグルに質問する頻度もかなり下がると考えられる為、彼女には全力で金策に励んでもらう。赤蛮奇と同じく子宮と消化管全て余すところなく使用した、最大効率のDP回収だ。
その上で、ダンジョン入りの予定日は約1週間後。
その間に貯められるDPを考えれば、如何に全力を賭して戦力を整えようとしているかが分かるだろう。
DP金策。
魔理沙の魔法研究の進行。
そしていざ彼女がアリスと戦う際に、どのようにダンジョンの戦力と共闘するかのブラッシュアップ。
これらを同時に行う、それはもう忙しい日が始まった。
◇
その、1日目のことだった。
「魔理沙ー?居るんでしょう?ドア開けてちょうだい」
アリスが、前触れもなく来訪した。
そして、気付いた時には遅かった。
「ああ、居るぞ!アリス!!」
魔理沙が勢いよく返事をする。
俺がまだ見たことのない、満面の笑みを浮かべて。
催眠スプレーを魔理沙に吹き掛けつつ、俺は天を仰いだ。
最悪の事態が起きてしまった。
全く準備の出来ていない状態で、始めなくてはいけないのだ。
我がダンジョン初めての防衛戦を。
チマチマ出していきます。