「ふー、厳しい戦いでしたねこれは……」
いやほんとに。
ずっと浴室に隠れていたからダンジョン内の様子は見れていないが、どんどん削れていくモンスター達の戦力はトラウマものだった。
ただ、最後には魔理沙に予め伝えていた指示通りの状況となっていたし、中の様子も粗方想定通りだったのだろう。
ムカデに意識を向けさせ、魔理沙のマスパで自動人形を焼き切り、全て消えたのを確認したら逃げの一手で魔力を消耗させる。
蛾の嫌がらせで対物理結界から対非物理結界へ魔力の割合を偏らせてくれたら、魔力を消耗した状態になれば昏睡スプレーも貫通して効いてくれるだろう。ただ実際は全てスプレーが顔にかかっていたように見えたし、魔力すっからかんだったか、結界自体を消していたのだろう。どちらにせよ助かった。
そして相変わらず俺の姿を初めて見たら硬直するみたいだし、スプレー吹きかけるための隙だけなら作れるようだ。
言葉にすればそんだけの単純な作戦であり、今の俺に出来た精一杯の作戦だった。
DPが足りずに環境を調整出来ず、かつ想定よりアリスが強すぎて結構紙一重だったような気がするが。しかも俺が危険を冒さないといけないカス作戦だが、まあ終わり良ければ全てよし。
俺の勝利だ。
「アリス撃破!」
さて、楽しい楽しい事後処理の時間だ。
すっからかんのDPを見て、俺は涙を零した。
◇
やる事は色々ある。
なにせ時間が無い中なけなしのDPを掻き集めるため、必要以上に産卵用のモンスター達を売却しまくったのだ。
もともと設置していたモンスター召喚のためだけの小部屋に僅かなワームと蜘蛛がいる筈だが、アリスを加えた4人で最高効率の金策を行うには全く足りていない。
そして何より、最高効率にするためには相応の作業と時間が必要だ。これだけで大仕事である。
次に、まあ、DPをほぼ使い切ってしまったことで、今後の方針を一から考えないといけなくなった。
こと戦力の面ではアリスという最高の駒を手に入れた訳だが、同時に危険すぎて常に催眠下におく必要がある。そのためのDP消費は、現状に於いてはかなりの負担だ。現実的に考えると、まだ何日かは常に昏睡させたままにして金策に徹するしかないだろう。
安寧の日々は遠そうだ。
「あれやこれや、考えないといけない事が一杯だな……」
マニュアルを弄りながら、俺は深く溜め息をつく。
突如アリスが訪問してきた場合に備えて、暫く前から大部屋を設置し蜘蛛に巣を作らせていた。そこはつい今日の朝まではワームや蜘蛛で一杯だったというのに、今やもぬけのからである。
仕方ないのだ。純粋にフィジカルの強いムカデを購入しないと、アリスの対策なんて何一つ出来なさそうなんだから。
彼は頑張ってくれた。なんせあの俵藤太伝説をモチーフとした大ムカデらしく、それに恥じない力を奮ってくれただろう。いずれはまた彼を召喚し、我がダンジョンに住まわせてやりたいものだ。本来想定していたような、彼に適した『環境』も整えた上で。
その姿を想像し、ちょっと元気が出てきた。
「……ふー、よし。気を取り直して頑張りますか」
映えある未来のために。
俺は自分の顔をパチンと叩き、再びマニュアルと睨めっこを再開した。
「こんにちは!いつもご贔屓にありがとうございます!清く正しい文々。新聞をお届けに参りましたよ!!」
「…………は?」
本日2人目の、魔理沙ハウスへの来訪者が現れた。
主人公は賢くも強くもなく、ただカスなだけです。