※この作品はR-18です。

東方蟲蔵録   作:玉蹴り男

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第十三話

「魔理沙さーん?中に居るのは調べがついているんですよー。開けてくれないと扉破って入っちゃいますよー」

 

ヤバい。

何がヤバいって、大丈夫な要素が一つとして見当たらないことがヤバい。

 

「さっきアリスさんが家に入ってましたよねー?アリスさんはよくて、この無害な烏天狗は駄目だって言うんですかー?」

 

ヤバい。なんでコイツはこんなに押しが強いんだ。人の家だぞ、こっちの都合とか考えて遠慮とかしろよ。いや、それは俺だけは言っちゃいけない台詞か。

そんなことはどうでもいい。本当に入って来られるぞ。こいつはーー射命丸文は、そういうキャラだ。

 

射命丸文。

東方Projectではかなり有名なキャラで、それ以外でも「うぜぇ丸」などという別個体キャラでも知られていたりする。

その言葉から分かる通り、二次創作における射命丸は所謂マスゴミのように描かれる。

新聞のネタのために様々な事に首を突っ込み、その押しの強い性格でヘイトを撒き散らしていく。彼女自身は幻想郷でも屈指の実力者であり、かつ頭脳明晰であると原作で設定されていた。その事が彼女の得体の知れない印象に拍車をかけているらしく、話せば慇懃無礼、戦えば勝てない、という厄介なキャラになっている訳だ。

俺は前世では結構好きなキャラではあったがーーこのタイミングで遭遇するには、最悪とも言っていいキャラである。

 

俺は近くに横たえていたアリスと魔理沙に近づいて、顔を何度か強く叩いた。しかしアリスは昏睡スプレーの影響で、そして魔理沙は魔力枯渇と疲労の影響で、どちらも目を覚さない。

つまり彼女達を用いた射命丸の撃退は不可能ということ。

俺は一人で、射命丸の襲来をどうにかしないといけない。

 

何か方法はないかと考え、魔理沙に作ってもらっていたマジックアイテムの武器を思い出し、慌ててそれを取りに行こうとする。

今いる部屋から廊下へ向かい、研究部屋で回収するだけだ。走っても防音結界で音は響かないだろうと、立ち上がって走り出そうとしーー。

 

「よし、じゃあ入りますよー」

 

射命丸が玄関をこじ開ける音が聞こえて、俺は慌てて立ち止まった。

扉を隔てた廊下の奥に、射命丸がいる。今出れば一発で見つかって、その瞬間に敵と見做されて殺される。

 

「あ、やっぱり居るじゃないですか。……って、何ですかこの臭い。うーん、これなら新聞のネタになるかな……?」

 

射命丸が呟きながら、廊下を歩いてくる。それは明らかに、扉の近くにいる俺の気配を感じてのものだ。

まずい、このままここに来られたら結局終わりだ。

何も出来ないまま殺される。

 

一か八か、ダンジョンの部屋を全て撤去してボス部屋に入るか。そうすれば、寝室にさえ入られなければ俺が見つかる事はない。

いや、駄目だ。それだとこの部屋に横たわるアリスと魔理沙が見つかって、結局怪しまれる。俺の気配は既に気付かれているし、射命丸の機動力なら何処へ逃げても撒けはしないだろう。

 

出会い頭に、射命丸の顔へ向けて昏睡スプレーをかけるしかない。

これが今出来る最善策で、唯一見える勝ちの目だ。

 

射命丸の正確な位置は、魔理沙に命令して設置させた各種センサーで把握出来る。

彼女が扉の前に来た瞬間、そこへ設置した攻撃用の罠を全て起動させ、それに紛れてスプレーをかけよう。

 

「おーい、魔理沙さん聞こえてますか?」

 

射命丸が一人で喋りながら、こちらへ歩いて近付いてくる。

もうあと少し。まだ、まだだ。あと3歩、2歩、1歩ーー。

 

ガチャ、とドアノブが軋んだ。

その瞬間、俺は全ての罠を起動させる。

 

床から火が吹き、扉が廊下へ向けて爆発した。蜘蛛の糸で誘導された幾筋かの稲妻が、射命丸が立っている位置を貫く。

俺は爆風に耐えながらスプレーを射命丸の顔の位置へ吹きかけた。

 

「馬鹿ですねぇ」

 

それらが、全て一陣の風によって跳ね除けられた。

炎は風に防がれ、スプレーは缶ごと吹き飛ばされ、雷は彼女が身体を半身逸らすことで空を切る。

そして俺の貧弱な身体は、その風に打たれただけで部屋の後ろの壁まで吹き飛ばされた。

 

「あなたが魔理沙さんじゃないことくらい分かりますよ。天狗嘗めてます?」

 

息を吸うだけで、血の味が口の中に広がった。肺か食道あたりが傷ついたのか。あんな、防御のための風に当たっただけで。

ーーこれだから、さっさとダンジョンに入りたかったんだ。

俺は震える腕を動かして、マニュアルを開く。そしてアイテム購入欄を開き、今買える最高の鎮圧用アイテムを探した。

しかし、どう急いでも間に合いはしない。なにせ相手は幻想郷最速の女なのだから。

 

「さて、何をしたかったのか知りませんが、お縄について新聞のネタになってもらいますよ。あ、写真撮るので悔しそうな表情してください」

 

諸々の衝撃で撒き散らされた煙の中から、射命丸のこちらを馬鹿にした声が聞こえてくる。それは元々扉があった場所から聞こえており、不意に舌打ちが聞こえて、風が再び巻き上がった。

それによって煙が晴らされ、黒髪の美少女が姿を見せる。

 

「ふぅ、これでよく見えますね。では早速記念写真をーー」

 

射命丸が俺を見た。

カメラを構える腕の動きが止まり、次の瞬間には俺への敵意で顔が塗り替えられる。ああ、やはり俺を見てどんな悪感情を抱くかは個人差があるんだなと、そんなどうでもいい事を思いながら死を予感してーー、

 

射命丸は、パシャリと写真を撮った。

 

「……驚きました。私とした事が、こんなネタの塊を殺そうとしてしまうなんて」

 

射命丸はぼそりと呟き、カメラを弄り始める。そして一瞬だけチラリと俺を見て、手に持っていた扇をビクリと震わせ、慌てたように視線を外して息を整えた。

これはーー俺を反射的に殺してしまわないように、敢えて視線を外しているのだろうか。

 

それならとマニュアルを弄ろうとして、その瞬間俺の頬の一部が裂けた。

 

「見なくても分かるわよ。これから死ぬ程尋問するから、大人しくしていろ」

 

無視してマニュアルを見ようと目だけ動かすと、今度は喉に鋭い風が当てられた。

息が止められ、今度こそ俺は何も出来なくなる。

朦朧とする意識の中で、漸く冷静に俺は考えた。

ふむ。

なるほどね。

これはどうやら、本当に詰んだのかもしれないな。

 

「この私に精神干渉…?こんなに弱くてどうやって…」

 

射命丸が色々考えている様子が聞こえる。

俺に、考えるだけでダンジョンの機能が使える権能があれば、今でもどうにか出来るのかな。そんな取るに足らない皮算用を考えながら、射命丸の声に耳を傾けた。

 

「魔理沙さんはともかく、アリスさんが……ねぇ、あな」

 

射命丸が俺に声をかけてきた。

喉を押さえつける風も消え、ようやく息を満足に吸えるようになる。質問に答えられるようにしてくれたのだろうか。

かなり楽にはなったが、ここからは尋問が始まるのだろう。

俺は億劫な気持ちで顔を上げた。

 

……。

 

「ん?」

 

何を、しているのだろう。

射命丸が床にしゃがみ込んでいた。

内股で膝を床につき、尻を持ち上げた状態で上半身を前に倒している。身体を震わせて頭を床につけていて、なんかこうーー辛そうにしていた。

 

「お"、ふっ、ぇ?」

 

苦しそうに熱っぽい声を漏らし、困惑したように射命丸は自分の股の方を覗き込んだ。両手とも股の間に突っ込んでいて、そこに何かがあるようだ。

俺は状況が飲み込めないながらも、取り敢えずマニュアルを操作して昏睡用の麻酔銃を購入する。

そしてそれを即座に射命丸に撃ち込んで、彼女の身体からダラリと力が抜けるのを確認した。しかし尻は依然として持ち上がったままであり、俺は何が起こっているのか確認する為に射命丸の尻を覗き込んでーー漸く全てを理解した。

 

射命丸の尻の穴に、細く伸びるピンク色の触手が突き刺さっていた。

 

それは廊下を伝って浴槽まで伸びている。

俺の目の前で、浴槽のドアがゆっくり開いた。そこからのっそりと大きな影が現れる。

 

「……し、触手ワーム君…」

 

それは、魔理沙を脅す為に200DPで購入した、触手ワーム君に他ならなかった。

効果は超シンプル。速攻の催淫効果のある神経毒を触手から流し込む。

モンスターにして『罠』というジャンルに属する、殆ど忘れかけていた俺の戦力であった。

 

「…しゃ、射命丸撃破」

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