「……ん?ごめん聞き間違えたかもしれない。なんて??」
「だから、魔理沙さんが居ないことを霊夢さんが不審がっていましたよ」
「なんで???」
催眠掛け直しのために次の日やってきた射命丸から告げられた内容は、半ば俺への死刑宣告であった。
俺は思わず自身の命の終わりを悟ってジーザスと叫びそうになりーー「俺の死並びにダンジョンの存続を至上の命題にせよ」という命令を受けている射命丸が、何故直ぐにこの報告をしに来なかったのかを疑問に思った。
催眠の効果が弱く無意識に俺を裏切ったかと第一に考慮する。しかし俺の所有するモンスターの管理画面によれば、あれだけ嫌がった蜘蛛の産卵作業はしっかりと行なっていた。それでなくとも射命丸は原作からかなり頭が回る設定であるし、そもそもこんな中途半端な裏切りはしないだろう。
とすれば、他の物事を振り切って俺へ報告しにやって来る程の緊急性は無かったと考えるべきだ。
俺は少し落ち着きを取り戻し、射命丸に詳しい話を聞くことにした。
「とは言っても今の魔理沙さんがどうこうではなく、今後の事を踏まえての不審と言いますか……」
「今後?魔理沙は特に予定とか無いって言ってたぞ」
「はい、そうみたいですね。なので霊夢さんも今度魔理沙さんに会った時に話を聞こうとしているみたいです。私がネタ探しを兼ねて話を聞いていた時に、思いついた様子で魔理沙さんの様子を聞かれたんですよ」
「……そうか。他に何か言ってたか?流石に事情も聞かずに返答した訳じゃないだろ」
「うーん、何でもレミリアさんの言葉が発端のようです。『今後起こる大きな運命の中に、魔理沙の姿が見えなかった。あいつが首を突っ込まないのは、何かもっと面白い事があるからに違いない』とか言って、霊夢に魔理沙の様子を聞いてたみたいですね」
「…出たよチート。いくら気を付けてもそんなのされたら無理だな」
運命を見ますとか、今俺がミスをしているか等関係無い。
ただ逆に、まだ致命的なやらかしをしていた訳ではないようだ。仮にそうならもっと大事になっているだろうし、幻想郷大好きな八雲紫なりが絡んでくる可能性は高い。
レミリアは悪魔らしく面白がって様々な問題に首を突っ込んでくるタイプのキャラだが、二次創作等でも自ら出張って来ることは少ないイメージがある。確かにそれ程緊急性の高い事態ではなさそうだ。
「なんて答えた?」
「『特に最近話した訳ではないですが、逆に変なことも無かったと思いますよ』って言っておきました。何かあるならネタの匂いを感じている筈ですって言えば、少し納得した様子ではありましたね。今度取材してきますとも言ったので、なんて報告すればいいか教えてください」
「うーん」
良い誤魔化し方だ。
下手に答えると霊夢の勘とやらで気付かれそうだし、仮にそうなったとしても、自らの日頃の鬱陶しい記者ムーブから質問役を買って出れている。元々わざわざ魔理沙の家まで聞きにいくほどではないようだし、射命丸の取材に巻き込まれるのを嫌がって尚の事家に来なくなるかもしれない。
しかし、大きな運命か。
これは異変の事だろうか。俺が知っているものであれば、上手く理由を付けられる可能性はある。
ということで当初の予定通り、現在の時系列を射命丸から聞くことにした。
以前あった異変は何か、最近のキャラの動向、その他気にかかる情報はないか。
それらを大まかにではあるが幅広く聞いていきーー1つの結論に至る。
「次に起こるのは地霊殿だ」
確かにそれだけ大きな異変ならーーあの出しゃばり魔理沙が騒動に首を突っ込まないのはおかしい。
地霊殿は今後のストーリーに多大な影響を与える重要な異変だ。
始まりとなる間欠泉の噴き出しは、怨霊と共に星蓮船まで地上に持ち上げる程大規模なものだ。いくら幻想郷の外れに住む魔理沙と言えど、それに全く気付かないのはよっぽどの理由でないと考えられない。
そして何よりーーこの異変の解決には、アリスと射命丸も参加する。
レミリアの見た「魔理沙が地霊殿に参戦しない運命」が俺による影響だとすれば、それは恐らくアリスと射命丸にも影響する。彼女達が普段から異変に参加しないから違和感を持たれていないだけで、恐らくレミリアの見た運命の中にこの2人も参戦はしていないだろう。
なんというかーーピンチとチャンスが同時にやって来た感じだ。
ここから魔理沙を地霊殿に参戦させたとして、運命との齟齬をレミリアは訝しがるだろう。
しかし、その理由としてアリスと射命丸の関与があればどうか。射命丸が魔理沙の様子を聞きに行って、加えてアリスも何かしら関わる事で魔理沙が地霊殿に参戦出来る様になる。
この運命の転換のきっかけはレミリアからの言葉であるし、むしろ原作の本筋に戻ることは大局的には運命の修正に他ならないのではないだろうか。
というより、この状況から魔理沙を地霊殿に参戦させないままでいる事の理由付けが思いつかない。
「これから大きな異変が起きるのにお前が参加していない」などと射命丸から伝えられた魔理沙が、それを無視したままでいる姿はキャラ的に想像しづらい。何とかしてその運命の原因となるであろう問題を解決しようとーーそれこそ近くに住む友人のアリス等に助力を要請して、来たるお祭りごとに参戦する準備を行う方が自然ではないか。
つまり、後は「現状魔理沙だけでは解決出来ないor解決に時間がかかる問題」を設定してやれば済む話だ。
俺はそれをどうするか悩みーーシンプルに今俺が悩んでいた問題を思い出した。
そう、射命丸の襲撃で破壊された、魔理沙ハウスの廊下の修復である。
扉や床などか大きく崩れ、どう元に戻したものか悩んでいた。そして考えた解決策は、「いずれアリスの人形による人海戦術で直す」というもの。
なんてーー。
「なんて都合が良いんだ……」
「?」
思わず一人で呟く俺に、射命丸が不思議そうに首を傾げた。
◇
後日談として、レミリアが「今見たら魔理沙が大きな運命の中に見えた。折角フランに土産話が出来たかと思ったのにつまらない」と霊夢にぼやいていた事が伝えられた。
問題は半ば解決したようで、俺は一先ず胸を撫で下ろす。
そして、幻想郷に間欠泉が噴き上がった。