ほんとにどうしよう。
これはもうーー絶望だ。
俺は最終章の一護のような顔でマニュアルを眺めていた。
ダンジョンには最初から部屋が一つだけ用意されているため、きっとここにモンスターを設置して戦えという事なのだろう。だが、そこから躓いた。
まず、初期で使えるDPが少ないのだ。
数にして10DP。
参考としては、最底辺ゴブリンが5DPで召喚できる。いや、そいつらの強さは知らないけど……ねぇ?多分、普通の人間くらいしか殺せないでしょ。大きさ1mもないし。
因みにちょっと大きめの虫とかは1DPくらいで召喚出来る。気休めかよ。
「へ、へへへへ……」
そうこうしているうちに、残り時間10分だ。
これはまずいですよ本当に。
適当な場所に設置して、DP稼げずに発見されて、どこかの紫色の大賢者とかに殺される。そんな未来が目に浮かぶようだ。
死にたい。
いや、死にたくないから必死に方法探してるんだけど。
俺は藁にもすがる思いでマニュアルを見る。
DPで交換できそうなものをザッと流し読みする。細かい説明なんて見てられない。兎にも角にも、何か俺が生きていける術を探すのだ。なにかないのか、なにかーーー!
「ーーん?」
おや?
おやおや??
なにか、あった。
総じて必要DPの少ない虫のページ。その最低レアリティの欄で、何故かポイントが高い群がある。
その虫達の設定を見て、ポイントの高い理由に納得し、俺はある下劣な策を思いついた。
思いついて、しまった。
とても下劣で、醜悪でーー有効な策を。
「ーーいや、待て」
その策を実行するか否か、を悩む前に、俺はそれが実行できないことにも同時に気付いてしまう。
俺が今までの人生で学んだ倫理観を踏み越えるか否か、それを悩む以前に、DPの問題で不可能だったのだ。
DPがあれば、ややもすれば達成出来るかもしれないがーーそのためには、10DPでは足りる訳もない。虫だけでは駄目なのだ。人里にダンジョンを作るリスクを考えると、やはり外しか無くて、その場合は敵が強すぎる。
だから、成功率を上げるには、隙があるやつにこのアイテムを使うしかなくて、それには50DPというアホみたいなポイントが必要でーー。
「あ」
あるじゃん方法。
やべ、いけるかも。
タイムリミットはあと1分。
迷っている時間は無かった。
◇
今日も魔法の森は平和である。
私は日課のキノコ採集を終え、ホクホクした気持ちで箒に乗っていた。
自身であつらえた白黒の衣装に、ジメジメとした森。そして私の美しい金髪とくれば、世界中の画家達が放っておかない光景だろう。
うーん、今日も今日とて良い1日だ。
自分の家に着き、担いでいた荷物を下ろした。キノコは大事な魔法研究の材料であり、それらを材料部屋に運び込む必要がある。
毎日大量に消費するため、やはり採集してくる量もそれなりの量だ。
うんしょと荷物を持ち上げ、家の中に入った。
「ーーふぅ。まったく、乙女には重労働だ」
自分しかいない家で独り言を呟きながら、キノコを保存用の入れ物に仕分けていく。
これまで使ったことのある種類は、その用途別に。そうでないものは、まあ適当だ。
ポイポイと無造作に作業を進め、やがて全てのキノコを仕分け終える。毎日やっていることなので、手慣れたものだ。
さて、次は一先ずご飯の準備ーーの前に、汗を流すためにシャワーだ。
私は着ていた服を脱いで脱衣所の籠に投げ込むと、着替えとタオルを取りに自分の部屋に向かう。
とは言っても、本来の自室は研究部屋として使っているため、アリスなどから言わせると「とても汚い」部屋だ。これから向かうのは着替えなどが置いてある狭い部屋で、ベッドのある所謂寝室である。
魔理沙は欠伸混じりに寝室に入り、扉を閉める。そして暗闇の中で、電気を点けるためのスイッチを探した。
「…あれ?」
スイッチが無い。
魔理沙は暗闇の中目を凝らしてスイッチを探すが、全く見つからない。
参った、これでは着替えが取り出せないではないか。一体どうしたものかーー。
ーー暗い?
状況の異質さに気付いた魔理沙は、一瞬で頭が冷える。
廊下は普通に見えていたのに、寝室に入った途端全ての光源が無くなった?そんな訳がない。
それではまるで、ここだけ異空間のようなーー。
「え、えぇ……なんでもう下着……?」
キィ、と扉が開いた。
廊下からの光が入ってきて、魔理沙は直ぐに後ろへ振り向く。
そこに居たのはーー。
居たのは。
「……は?」
「めっちゃごめん。霧雨魔理沙」
人生で最も、悍ましい「なにか」だった。
ーーシュー、と。
恐怖で思わず動きを止めた魔理沙の顔に、何かスプレーのようなものが吹きかけられる。
それは彼女の意識を瞬時に奪い、そして、霧雨魔理沙という人間を地獄に叩き落とした。