※この作品はR-18です。

東方蟲蔵録   作:玉蹴り男

20 / 51
第二十話

射命丸から報告を受けておよそ1週間後。

通話にて、博麗神社の近くに間欠泉が噴き上がった事が知らされた。

 

魔理沙とアリスを異変解決に参加させる事を決めてから、俺はその為の準備を進めていた。そしてそれは済んでおり、地霊殿開始自体に問題ない。

魔理沙、アリス、射命丸にはそれぞれやる事と懸念事項を伝え終わっている為、今後勝手に対応を開始してくれるだろう。

だが、少し引っ掛かることがあった

 

「時期が早くないか」

 

今はもう肌寒くなってきた季節であり、既に分類するなら冬になるだろう。

地霊殿も原作では冬に起こっていたし、一見問題無いようには思える。

しかし。

 

「本当に、博麗神社には雪が積もっていないのか?」

『ええ、というかまだ雪なんて降ってませんよ』

 

それは、おかしいな。

原作のあらすじでは、明確に「雪が降る」という描写がされていた。

高温の間欠泉によって雪が溶け、温かい温泉に霊夢が喜ぶ。その為彼女は異変解決に乗り気ではなく、現にさとりから気持ちと行動がそぐわないと指摘されてすらいたのだ。

ただ時期のズレと言えばそれまでだが、自分の知識との差は不安な気持ちにさせる。

 

「この世界はこの世界ってことなのかな…」

『?幻想郷ですが…?』

「気にするな、もう音を切っていいぞ」

 

射命丸がスマホを操作して、聞こえてくる音をゼロにする。しかし射命丸側の音は常に俺のスマホから流れており、それは魔理沙のスマホが拾う音も同様であった。

俺は常に彼女達のスマホが拾う音を聞こえるようにし、彼女達は指示があるかバイブレーションがあれば音を聞こえるようにする。

今のように大きな問題が無い時は、基本的にこの体制を取っている。これは1週間前にスマホを導入した時から想定した運用でありーーそこから更に変更した点があった。

 

俺の耳には、射命丸のポケットにあるスマホが拾う、衣擦れや風切り音が聞こえている。それは机に置いたスマホがスピーカー状態で音を出しているためである。これは射命丸の持つスマホも同様であり、彼女が俺の指示を聞く時はスマホを耳に近付けて音を聞いている。

しかし、魔理沙の持つスマホはそうではない。彼女が通話の音声を聞く時、それは彼女のスマホから音は出てはおらず、魔理沙の耳にーー頭の中に直接聞こえてくるのだ。

「こいつ、直接脳内に…!」というやつである。

それを可能としたのは、やはりDPを消費して購入した新機能、謂わば「見えないイヤホン」だ。

 

魔理沙の首の後ろ側には、小さなバーコードのような刺青が彫られている。

実際に墨を入れた訳ではないが、洗っても消えないので同じようなものだ。皮膚を剥がせば消えるみたいだし、刺青と言っていいだろう。

これをスマホに読み込ませれば、その人間はスマホと同期されるらしい。すると、そのスマホから聞こえる音はバーコードのある人間に直接聞こえてくるという仕組みだ。

音は近くにいる人間にすら全く聞こえず、スマホがいくら身体から離れても関係無いらしい。

つまり、高性能な見えないイヤホンということだ。

 

『温泉事業を始めたんだって?私も入らせてくれよ』

「ん」

 

魔理沙の声が通話越しに聞こえて来る。

その内容から察するに、彼女は博麗神社にいるようだ。

適宜指示を出している訳ではないが、しっかり以前命じたように動いてくれているらしい。

 

『別にいいわよ。いやー、最近寒くなってきたし本当に有難いわ』

『間欠泉さまさまだ。これでこの冬は乗り切れそうだぜ』

 

魔理沙に対して、のんびりとした調子の綺麗な若い少女の声が聞こえてくる。

これが東方Projectの主人公、博麗霊夢の声だろう。

かなり今更ではあるが、やはり少し感慨深いものがある。

そうか、何かやらかせばこの声の持ち主が俺を殺しにやってくるんだな。

 

『あ、でも霊夢、お前知ってるか?なんか間欠泉と一緒に怨霊も出てきてるみたいだぞ』

『え、なにそれ。んー、まあどうにかなるでしょ』

『ふーん。じゃあいっか、取り敢えず温泉入って来るぜ』

『あいー』

「やる気無いなこいつ」

 

ここは原作通りだろうか。

温泉を目当てに神社に来る人が増えるんじゃないかなどと、地霊殿の霊夢は普段に増してのほほんとしている。

確か原作では、パチュリーあたりが怨霊の危険性に気付き、八雲紫に直談判したといった流れの筈だ。それを受けてやる気のない霊夢を異変解決に向かわせるが、事態の重さから妖怪達が地上から霊夢と魔理沙を援護する。不可侵条約で地上の妖怪が地下に入れないからとか、そんな理由であった。

 

今回俺の催眠下にある魔理沙が地霊殿異変に関わるにあたって、留意しておくべき点が幾つかある。

まず、地霊殿では魔理沙側の音声がパチュリーもしくはにとりに筒抜けになる可能性がある。これは怨霊の危険性を危惧した彼女達が、アリスよりも先に魔理沙へ話を持ち掛けた場合に起こる。

そうなると、もしさとりと遭遇した際に何か変な事を言われた場合、魔理沙への疑いを持たれるかもしれない。さとりは考えている事を読む為、とにかく異変の解決の事を考えたり過激に攻撃を行えば対策は可能だ。しかし催眠がどこまで心の中に影響を及ぼせるか分からないし、いくらでも落とし穴はあるだろう。

だから、そもそもさとりとは遭遇したくない。しかし異変解決の為にはさとりからペットというキーワードを貰う必要があるし、お空の場所へ案内してもらわないといけなかった筈だ。

 

アリスと魔理沙が組むなら問題は無い。

どちらも俺の支配下にあるため、原作知識でさとりをぶっちぎればそれで済む話だ。彼女はこちらから戦闘を仕掛けなければ大人しい筈だし、最短でお空の下へ向かわせる。

だが、これはこれで今後行う異変後の宴会などで、手際の良さを怪しまれる可能性はある。その為理想を言えば、魔理沙より先に霊夢に異変解決へ向かってもらいたい。そうすればどうとでも言い訳できるし、手間が省けるだろう。

 

『ここだけじゃなくて、もっと沢山温泉が沸いて欲しいもんだぜ』

「正直、出遅れたっていいんだしな」

 

レミリアは魔理沙が騒動に首を突っ込まないことを訝しんでいたが、そもそも原作からして魔理沙は乗り気ではない。

霊夢共々、なぜ自分が地下に送り込まれたのかと愚痴を言っているほどだ。

だから今回の異変の最低ノルマは、怪しまれないように異変に関わりを見せる事だと言える。どれだけ魔理沙が出遅れたりしたところで、やる気が無いことは魔理沙の自然な在り方だからだ。

 

つまり、殆ど現状で俺にとっての地霊殿は解決されている。

「温泉を楽しんでいる」という状態を霊夢に見せておくだけで、疑いの目は向けられなくなるのだから。

後は射命丸を使いつつ、霊夢に異変を解決してもらおう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。