魔理沙とアリスとパチュリーの会話が通話越しに聞こえてくる。
魔女3人で積もる話もあるのか、何やら賑わっているようだ。特にアリスとパチュリーは同じ場所にいる事もあり、友人が家に来ているかのような和やかな空間が形成されている。もともと性格も近そうだし、互いに魔法に卓越した者同士であること、そして魔理沙という共通の困った友人がいるためか、お茶を飲みながら非常に会話を弾ませていた。
そんな二人の様子に魔理沙は抗議の声を上げ、そこに漸く第一の地底の住人が現れる。
『おお、また人間とは珍しい。しかも1人で騒いでて変なやつだね。やっぱり地底のお祭りが目当てなの?そんな顔しているし』
『確かに』
『気をつけて。地底の妖怪は私達とは違うわ』
『なんだ、普通の妖怪じゃないか。別に土の下に興味なんかないぞ。そんな顔してるだろ?』
『だったらなんでここに居るんだい?今度は友好的な来訪者であって欲しいんだけど』
『うーん、どうなんだ?』
『調べたわ。そいつは土蜘蛛。危険な妖怪よ』
『何をごちゃごちゃ独り言を……最近の地上の人間はみんなそうなのかしら』
『ふん?私以外の事は知らないが、これはお前を倒す独り言だぜ』
最初に出会ったのは黒谷ヤマメらしい。
かつて日本で猛威を振るった事で有名な病の化身、土蜘蛛だ。東方ではかなり友好的なキャラだが、元ネタを考えると相当の危険度と考えるべきだ。
曲がりなりにも俺のダンジョンは虫ダンジョンとなっているし、彼女は謂わば俺が目指すべき一つの強さの指標と言えるかもしれない。
しかしキスメとは出会わなかったのか。
あと魔理沙以外の人間に会ったような口ぶりだし、おそらくは霊夢がしっかり異変解決に乗り出してくれているようだ。
『パチュリー、ちょっと古くなってるかもしれないけど、クッキーがあるわ。良ければどうかしら』
『あら、気が利くわね。いただくわ』
『お前ら、私が戦っている間に、くつろぐな!』
うーん、暇だ。
魔理沙の戦闘音が聞こえるが、特に苦戦している訳でもなさそうだし。
前回のアリス戦とは異なり、今回の魔理沙は体調が万全だ。どれくらい万全かというと、健康的な生活を催眠によって強制しているほどだ。
しかも今回はアリスとパチュリー2人によるサポート付き。危うさのカケラもない。
『よし、倒したぞ。で、こいつは今回の地下調査に関係あるのか?』
『無いわね』
『なんだよ、無駄骨じゃないか』
『別にいつものことでしょう』
『それもそうだな』
ヤマメを撃破したようだ。
魔理沙ってやっぱり強いんだな。今後の健闘を祈る。
◇
『おい、流石に深すぎないか?今地下何階なんだよ』
『何階って……その洞窟に階段はないでしょ?』
『そうか?探せばダンジョンってもんには……いや、別に階段があると決まってはいないよな』
『……そうね、限らないわ。でも、階段が無くても階は存在するかもね。……ダンジョンには』
『なんでテンション下がってるのよ。貴女達のダンジョン像が分からないわ…』
魔理沙とアリスの会話に、少し呆れたようなパチュリーの声が混じる。
半ば通話を聞き流していた俺は、何やら聞き覚えのある単語を耳にして意識を戻した。ダンジョンとはまたえらく俺に馴染みの深い言葉だが、そういえば原作でもこんな会話があったなと思い出す。
そして会話について聞き覚えがあるということは、と論理を働かせてーー案の定新しい声が聞こえてきた。
『ここは地下666階。逆さ摩天楼へようこそ』
『おん?なんだ、やっぱり階数があるのか。まあ階数が無いと深さが分からないもんな』
『あら本当ね。というか魔理沙、それ敵じゃないの?』
『そうだな。ちゃちゃっとやっつけるか』
『また独り言の多い人間か。そのおめでたい頭が妬ましいわ』
これは、水橋パルスィかな。
嫉妬の妖怪。嫌われ者の地下妖怪らしい、ドロドロとした嫉妬の感情の妖怪だ。
つまりまだ第二面。
注意を払わなくてはならないのはまだ先だ。俺は持ち上げかけた腰を、再び深く沈み込ませた。
『妬ましい、ねぇ。まあ私のことは羨んでくれていいぞ。めでたさなら赤白巫女の方が上だけどな』
『その自信、本当に妬ましい……ん?』
そこで、パルスィの声が不自然に途絶える。
しかし俺はそれを特に気に留めずーー次に聞こえてきたパルスィの言葉に、身体が硬直した。
『変なやつね。それだけ我が強いのに、嫉妬が伴っていないわ。まるでーー言動が制限されていて、自由意志が無いみたい』
『?なにそれ』
空気が凍った。
1秒か、2秒だったのかもしれない。
しかし俺には無限に感じる時間、パルスィの言葉へ純粋に疑問を返したパチュリー以外の声が止まる。
それはその場にいる魔理沙もであり、パチュリーの横にいるアリスもだ。
そこには当然俺も含まれておりーー俺とアリスが同時に動いた。
『ーー魔理沙、貴女はもう少し謙虚になった方が良いってことね』
「ーー魔理沙、」
それは今思うに、俺とアリスの知力の差が明確に現れただけなのだろう。
彼女はパルスィの発言を「なんてことない魔理沙への揶揄い」にすり替えた。それは、怪しまれない事を目的とした上で、きっとその場の最適解だったのだ。
そして俺の最適解は、アリスという知性に任せて黙っておくことだった。
しかし俺は口にしてしまった。
直ぐにアリスが魔理沙を止めてくれたとはいえ、確実にパチュリーに疑問を残した、その命令を。
「ーー魔理沙、そいつ殺せ」