※この作品はR-18です。

東方蟲蔵録   作:玉蹴り男

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第二十三話

弾幕を撃つ音が響き、遅れて岩壁が弾ける音が通話から聞こえてきた。

そこで俺は自身の致命的な失敗に気が付き、慌てて叫ぶ。

 

『ちょ、ちょっと魔理沙!?』

「ーーっ、すまん、止めろ!殺さなくていい!」

『……そいつ退治するのは賛成だけど、えらく怒るのね。何か気に触る事でもあったの?』

 

アリスとパチュリーの声が聞こえてくる。アリスは魔理沙を止める声。そしてパチュリーから聞こえるのは、困惑だ。

当然だ。彼女からすると、魔理沙が多少よく分からない発言ーーアリスに言わせると「魔理沙は誰にも嫉妬しない程の自信家だ」という揶揄ーーを聞いた瞬間に、魔理沙がパルスィを攻撃したのだから。

それはきっと、明確な違和感だ。

俺は自身のミスをどうにかカバーするべく必死に頭を巡らせ、思いついた言い訳を告げた。

 

「話はよく分からなかったけど、隙を晒してたから攻撃した」

『……ああ、何言ってるのかは分かんなかったけど、動きが止まってたから楽に倒せそうだなって』

 

俺の言葉に従い、魔理沙が言い訳を口にする。

それを聞いたアリスは、パチュリーの抱く違和感を払拭すべく、真っ先にそれに同調した。

 

『…まあ、どうせ敵だしね』

『いや、意外と重要参考人かもしれないでしょ。魔理沙もアリスも結構血の気多いわね。いつもこうなの?』

『うーん、そうだな』

『やっぱり気が狂っているのね……!?急に攻撃してくるし、1人で会話してるし!』

 

パチュリーはやはり魔理沙の発言に同調を示さなかった。しかしそこに含まれる訝しみの感情は収まっており、魔理沙達の強引な敵への対処の仕方への呆れが殆どに感じられる。

これはーー最悪の結果は回避できたのだろうか。

 

『どちらにせよ、これで明確に敵ね。魔理沙、さっさと懲らしめてやりなさい。情報なんてその後で考えれば済む話よ』

『はいはい、言われなくてもそうするつもりだぜ』

『アリスも意外と過激派ね…』

『心外ね、都会派と言って頂戴』

『ああ、地上の人間はみなこうなのね……その厚かましさ、自信、全てが妬ましいわ』

 

先程の魔理沙の行動が、日頃の過激な異変解決への取り組み方によってカモフラージュされる。

通話から聞こえるパチュリーも、「取り敢えずボコボコにしてから考える」という、東方主人公にありがちな非平和的ムーブに呆れるばかりだ。

それは俺のミスを誤魔化すのに充分であったらしく、3人の会話は先程までの雰囲気へと戻っていた。

 

魔理沙とパルスィの戦闘音が聞こえ出し、パルスィとの会話は打ち止めとなる。ここまでいけば、再度パルスィから魔理沙に対して変な発言はされなくなるだろう。

念の為魔理沙に向かって「話せなくなる程度にはボコボコにしておけ」と指示し、ひとまず俺は胸を撫で下ろした。

 

「……危なかった」

 

パルスィの発言も。

その後の俺の短絡的な発言も。

 

どちらも俺の思慮の浅さが招いた結果だ。

常日頃から俺の身に迫りうる危険を避ける事だけ考えているというのに、これだけのミスを同時に起こしてしまった。

強く反省をしなくてはならない。そして今回、非常に重要な情報が得られた。

 

ーー水橋パルスィ。

彼女が今回、おそらくだが催眠された魔理沙の異状に気がついたのは、彼女が嫉妬のという感情を司る妖怪だからだろう。

俺は今回の異変解決にあたって、明確に古明地さとりという地雷に気を取られすぎて、パルスィがそれを見抜きうる存在だと思い至らなかった。

だが、当然どこかで考慮していて然るべき懸念事項だった筈だ。

 

何度も俺自身が不安視していたように、俺が行なっている催眠が明確にどう作用しているのか等、俺には分かっていない。

分かっているのは、命令には絶対に従うようになること。そして彼女達の個性や思考はそのまま保存されていて、その上で彼女達なりに真剣に命令を遂行するという事だ。

嫉妬の抑制なんて起こっていたとは、全く知らなかった。

 

「効果の検証か、より多機能な催眠が要る」

 

今使っている催眠アイテムは、効果としては最も低いものだ。

色々確かめた結果、それでも戦力として働かせる上で何も弊害は無かった。長期間使う事を考えると、あまり大きな出費はしていられないこともあり、そのランクの催眠アイテムを用いていた。

だがこのような落とし穴があるのなら、再考の必要が生じるだろう。俺はマニュアルの催眠アイテムの欄を開き、再びしっかりと各種説明に目を通す事にした。

 

『おっと、倒してしまった。なあパチュリー、結局こいつは何だったんだ?』

『……嫉妬に駆られたペルシャ人かな。よく分からない』

『なんでそんなのがここに居るんだよ』

『あくまで推測よ。…地底もなかなか面白いわね』

『ふむ。お前もしかして、怨霊を口実に地底妖怪の調査をするのが目的じゃないよな?』

 

そうこうしていると、また魔理沙とパルスィの戦闘が終わっていた。

俺はマニュアルから意識を戻し、移動し始めた三魔女の会話に耳を傾ける。

何はともあれ、ここからが本当に気をつけなくてはならない段階だ。

おそらく今から地底世界の街中に入り、そして地霊殿へ突入していくことになる。

霊夢がどこまで進んでいるのかによるが、場合によっては軌道修正もしていかなくてはならないだろう。

因みに先程まで射命丸が萃香に絡まれており、何となく霊夢は順調に進んではいるらしいことは分かっていた。問題は彼女が順調に脇道へそれていないかだが、それは魔理沙が出会うだろう霊夢の犠牲者から聞けば分かるはずだ。

 

取り敢えず魔理沙がその場を離れたのを聞くと、俺は射命丸のスマホにバイブレーションを送った。

少ししてから、射命丸の声が聞こえてくる。

 

『こちら射命丸。何か御用でしょうか』

『八雲紫の動向は分かるか?』

『あ、それなら先程萃香さんのもとに来てましたよ。それに乗じて私が抜け出したので、今もそこに居るはずです』

『…そうか。なら、今すぐにバレないよう地底の穴に入って、その洞窟の中でのびてる妖怪を拾ってきてくれ。金髪で茶色の服を着たやつだ』

『分かりました』

『出来るだけ急いでくれ』

 

俺は言うだけ言うと、魔理沙達の会話に意識を戻した。

人事を尽くして天命を待とう。

因みにこの段階で、また俺は誤ちをーーというか誤解を生じる伝達ミスをしていたのだが、それが目の前に現れるまで全く気付かなかった。

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