「どうぞ、持ってきました」
「……あ。あー、確かに…」
流石の速度と言うべきか、瞬く間の内に射命丸が魔理沙邸にやって来た。
その足元には、ごろんと転がる意識を失った金髪の妖怪。
それは水橋パルスィであり、
横には黒谷ヤマメがいた。
「俺、なんて説明したっけ」
「え!?す、すみません、金髪で茶色の服だったので、この2人のことかと……もしかして緑色の髪の桶妖怪も必要でした…?」
俺の質問に、射命丸は叱られたのかと勘違いしたのか、僅かにビクつきながら答える。
そうか。金髪で茶色の服ね。
俺は黒谷ヤマメを見下ろした。
紛う事なく、金髪に赤茶色の服を着た妖怪であった。
2人に昏睡スプレーをかけながら、思わずぼやく。
「うろ覚えで、黒い服の印象しかなかったな…」
「え、えーと」
「いや、ありがとう。もう元に戻ってくれ。余裕があれば萃香に合流して、霊夢の様子を通話に聞こえるようにしろ」
「ゲッ……分かりました」
射命丸は頭を下げて後ろに下がると、次の瞬間には姿がかき消えた。その後風が舞い上がり、彼女が猛スピードで立ち去った事が分かる。
俺は通話から魔理沙達の声に耳を傾けながら、2人の妖怪を牢屋へと運び込む作業を開始した。
この2人を回収したのは決して褒められた経緯ではないが、少なくとも戦力の拡充となったことは喜ぼう。
◇
あれから時間は更に過ぎた。
その間に特別な事はあまり起きていない。
妖怪が出て、魔理沙がボコして先に進む。
途中で山の四天王が現れたが、彼女はさしたる問題ではない。特に魔理沙などは星熊勇儀が特に好きそうなタイプの人間であるし、しっかりと弾幕勝負をした後に魔理沙が勝利した。
ここで原作では今回の怨霊騒動の容疑者として、勇儀から地霊殿が紹介される。
今回も例に漏れず、偉そうなのがいる場所として地霊殿の名が挙げられた。
そして期待通り、先に通過した霊夢についても触れられる。彼女も同様に地霊殿に案内されたらしく、既にそちらへ向かっている事が伝えられた。
だが、それは既に射命丸の持つスマホから情報が聞こえていた。
彼女は指示通り萃香のもとに合流したらしく、そこでの会話や陰陽玉からの霊夢の声を届けてくれている。
そしてそこによると、丁度そのタイミングで古明地さとりと弾幕勝負を繰り広げている最中なようだった。
それを知った俺は、魔理沙に可能な限り急ぐように伝えた。
それを聞いた魔理沙は地霊殿へと直行する。そしてそこから時間が経過し、現在に至る。
『ーーおお、霊夢じゃないか。なんだ、そいつが今回のラスボスか?』
『魔理沙、あんたも来てたの……もしかして私、地下来なくてよかった?』
魔理沙と霊夢が合流した。
それは霊夢がさとりとの弾幕勝負を制したタイミングであり、ペットについての話をしている最中であった。
『(おー、魔理沙じゃないか!はっはっは、霊夢居なくても良かったな)』
『(魔理沙さんですか。この人はラスボスではないそうですよ。心を読むさとり妖怪で、この屋敷の家主です。黒幕は彼女のペットだそうで)』
『さとり妖怪?よし、さっさとズラかるぞ。乙女の心はデリケートなんだ』
射命丸のスマホと魔理沙のスマホがそれぞれ声を拾うせいで、萃香と射命丸の声が反響して聞こえる。霊夢はそれぞれ音が小さいから気にならないが、これなら射命丸側をミュートした方がいいかもしれない。
『ふむ、「面倒だからもう戦っちゃうか」ですか。他にも色々考えてますね、温泉…さっき見た猫…ペット…虫…玉ねぎ……本当に色々考えてますね…………え、強盗しようとしてます!?』
『本当に私の考えてること分かるんだな。気分が悪いんだぜ』
『霊夢、さっき言ってたペットが黒幕っていうのはどういう意味?』
『おや、あなたも誰かと通信しているんですね。ええ、間欠泉のことなら、私のペットがしたことかもしれません』
魔理沙も交えて、霊夢陣営とさとりが会話をする。
原作等から見た限りでは、通常の会話の中ではさとりは表面的な思考を拾っているようだ。かなり博打に近かったが、適当な思考をする事で不用意に踏み込まれるのは防げると考えられる。加えて強度の強い催眠は「何を考えていいか」も制限出来る為、深層心理を覗こうとされなければ危険は少ないだろう。
仮にそうなった場合でも、霊夢側との会話に集中させたり、アリスや射命丸からさとりに話を振ることで意識を逸らす事が出来れば対応出来る。
催眠がバレうる非常に危険な妖怪の1人ではあるが、場を整えた上での接触なら特別恐れる必要も無いのだ。
ーーとはいえ、想定していなかったパルスィのような例もある。そもそもリスクは消し去れないさとり相手で、尚の事俺の心臓はバクバクと早鐘を打っていたがーーこの様子だと何とかなったようだ。
『今からこいつに中庭への道を開けてもらって、もっと地下深くに潜るのよ。そこに温泉作ってくれるペットがいるんだって』
『本当かよ。もっと沢山作ってもらおうぜ』
『貴女達、まだ怨霊の危険性を分かっていないようね。遊んでいる場合ではないのよ、さっさとそこに行って解決してきなさい』
『『はいはい』』
アリスのお叱りによって、霊夢と魔理沙はその場から動き出す。
それによって、さとりとの会話イベントもここで終了だ。
あとは正直なところ、俺にとって気をつけるようなポイントもない。順当に魔理沙と霊夢で東方地霊殿という異変は幕を下ろすだろう。
「……ふー、これで大体終わりか。俺もそろそろ元の作業に戻らないとな」
霊夢達が加わってより賑やかになった通話を聞きながら、俺はひとつ背伸びをした。
今回の騒動で、またやらなくてはならない仕事が増えた。
催眠が万能の手段ではない事を再確認し、その対策を打つこと。そして想定外の水橋パルスィと黒谷ヤマメという戦果に、逆にそれによって生じうる事態ーー2人とも個人で動く妖怪だし問題無いとは思うがーーへの処理。
「色々やらないと」
『うひー。中庭がこんなに暑いとか聞いてないんだぜ』
『本当よ、魔理沙あんたがここからは頑張りなさい。私はさっさと上に戻るわ』
『(おい霊夢ー。私は紫からお前をサボらないよう監視を命じられてるんだ。私の目が黒いうちは、帰らせる訳にはいかないねぇ)』
『えー、お姉ちゃんの出番もう終わりー?』
『だから、それ私がやる必要ないでしょ?いいよもう。魔理沙来てるんだからサボったっていいじゃん』
『おい、それなら私の方こそ帰りたいんだぜ。お前は巫女なんだからサボるなよ』
「……ん?今なんか…」
ふと、半ば聞き流していた通話の中に違和感を覚えた。
俺は顔を上げてスマホに耳を傾けるが、特に不自然な点は見当たらない。
暫く注意して聞いていたが、やがて時間の無駄だと頭を振って作業に戻った。
「気の所為か」
『地上を核の炎で溶かし尽くす!お前たちはもう、この地獄の釜からは逃げ出せないわ!』
地霊殿のラストバトルが始まった。
そして暫くして、あえなく戦闘が終結する。
東方地霊殿の幕引きだ。