地霊殿異変が終わり、魔理沙達はそれなりに忙しくしていた。
だが俺には全く関係の無いことだ。そのため優雅にダンジョン生活を謳歌するーーことはなく、関係なしに様々な仕事で忙殺されていた。
そもそも元からそこまで暇していたわけでもないのだ。
金策という単純な肉体作業が殆どの時間を使い潰しており、その合間の時間でマニュアル等を弄る。それの繰り返しの合間に頭と身体を休ませており、現在はその憩いの時間を削る羽目になっている。
それもこれもこいつの所為ーーいや、言うならばこいつのお陰だ。
俺は眉頭を指で揉み解しながら、牢屋に繋がれる水橋パルスィを見た。
「感情、ね」
俺は通話越しにパルスィが放った言葉を思い出し、その問題の厄介さを再認識する。
『変なやつね。それだけ我が強いのに、嫉妬が伴っていないわ。まるでーー言動が制限されていて、自由意志が無いみたい』
この言葉の真意は、確保したパルスィから改めて聞き出した。そしてそれはやはり、言葉通りの意味だと認識するだけに終わった。
嫉妬というのはーーというより感情というのは、人間の言動を規定する様々な要因となる。だからこそ東方世界において、それを自身の根底に据える妖怪といった存在が成立するのだ。
それなのに、魔理沙の言動には殆ど嫉妬の感情が伴っていなかったらしい。無かった訳ではなく、常に一定量の嫉妬を周囲に向けているーー例えるなら、目にしたもの全てに嫉妬するパルスィに近い状態となっていたそうだ。
なぜそのような状況となるのか。あまり無駄遣いはしてられないが、魔理沙に使用する催眠アイテムを変えてみて、それぞれの状態をパルスィに確認させた。
そしてその検証の結果、一つの仮説が出来上がる。
催眠アイテムの作用は、より高価なほど人格の根本まで効果を及ぼせるようになるということだ。
因みにそれなりの値段のものまで一日使い切りのものを試したが、最高ランクのアイテムーー例えば催眠アプリ等は流石に買えなかった。その為本当に催眠アイテムによってどこまで出来るのかは分からないがーーおそらく、全く別の人間として記憶から変えられたり、指定した2人の人格を入れ替えることすら可能なようだ。
そしてそうした効果を考えると、最安価の催眠アイテムは非常にレベルの低い代物としか言えない。
「命令を絶対に遂行させる」、現状確認できる限りでは、それだけしか保証されていない。
確かに命令を絞れば自身でも考えた上で無条件に俺へ協力してくれるし、俺はそれで充分ーーというか、ある種疑いもせず信頼していたと言っていい。
だが、それでは元の人格に自生する思考や感情が消えた訳ではない。現に、今回地霊殿異変の解決を行っていた魔理沙達の会話の中でも、ダンジョン内での行為が影響を及ぼしたと思われる言動があった。
普段通りに過ごす為に邪魔になるものを頭の片隅へ追いやってるだけで、きっとその奥で感情は溜め込まれているのだ。
とは言え、使うアイテムをどの程度グレードアップさせるかも悩みどころだな。
やはり考えたところで、この欠陥が落とし穴になりそうな存在には限りがある。そしてそういったものは、ちょっと高価なものに変えたところで意味が無いように思える。
パルスィ程度であれば誤魔化せるようになるが、俺が試したものでは結局完全には無理だった。それに、仮に八意印の自白剤みたいなのが使われることがあれば、記憶がある限り意味は無さそうだ。
結局今のところは、次にランクの高い催眠アイテムに変更してお茶を濁すことにした。それでも週に3800DPだ。これを魔理沙と射命丸の2人分用意するだけで、リグル1人から得られる収益が相殺される。正直なところかなり痛い出費であり、苦渋の決断であった。
どこかで永続の何かに変更したいが、最高ランクの催眠アイテムがいずれは必要になる気がしてならない。
そうした目処を立てることも、やらないといけない事である。
「うーん、次はどうしようか…」
さて、催眠についてはひとまず置いておいて、俺にとっての永遠の課題がある。
そう、戦力の増強だ。
今回改めて様々な物事がきっかけとなって俺に牙を剥く可能性を認識し、更なる戦力の増強の必要性を強く感じていた。
しかし、幻想郷におけるチート達を相手にするには、DPがいくらあっても足りやしない。
そもそも概念に触れるような能力が多過ぎて、どう対策すればいいかも分かったものではないのだ。
それこそ最も俺が危険視している八雲紫などは、どれだけダンジョンを丹念に作り上げたところで、全てのギミックを無視して突破なんてやりかねない。スキマとかいう空間移動能力を使えば、スタートからボス部屋という荒技も可能なのだから。
高いDPを払えばそうした能力を限定する事も可能ではあるが、『瞬間移動制限』や『精神干渉妨害』などそれぞれDPを支払う必要があるのに加えて、各部屋に設定できる制限にも数の限りがある。
勿論どうにか対策は必須だが、闇雲にダンジョンを強化するのは避けるべきだしーーやはりというか、目先の仮想敵は設定すべきだ。
そして今回のそれは、恐らくレミリア・スカーレットとなるだろう。
「シュロッブタランチュラは終わったし、次は……レグの悪魔か」
レミリアは運命を見るとかいう能力を持っていて、とある漫画のぼんち揚げのように、あらゆる策が弄する前から気付かれる可能性がある。
そこまで使い勝手が良くないのかもしれないが、現に今回魔理沙に対して絡んできていた。大人しく過ごすにあたって、急に敵として現れ得る存在として留意すべきだろう。
また、まだ対策の糸目すら見えない八雲紫と違い、単純な物理戦力で弾き返せそうな事も都合が良い。
これはある種逃げの選択にも思えるがーーしかし、レミリアを危険視する理由はまだあるのだ。
現在俺は、既にレミリアに存在を勘付かれている可能性がある。
最大の理由は、パチュリーの前でのパルスィ騒動だ。その場では何とか追及は避けられたが、思い返されると明らかに不自然ではあった筈だ。
そして加えて、そもそも魔理沙が異変に関わらざるを得なかった経緯もおかしく感じる。
レミリアは魔理沙が大きな運命に居なかったことを妙だと言っていたが、本当にそうなのだろうか。
どこまで運命とやらを見えるのか知らないが、仮にそれが映像なりなんなりだとしてーー原作の霊夢や魔理沙ですら、地霊殿異変は乗り気では無かったのだ。そこに魔理沙が居なかったとして、それはそこまでおかしい事なのか。
そもそも見えたとして、ぱっと見で分かるのは間欠泉の噴き上がりのみ。あとは地下をふらふら聞き込みしている様子だけで、唯一最後にお空と戦闘した時だけが「何か大きな出来事」らしく見える光景だろう。
何か釈然としない。
考え過ぎかもしれないがーー優先してレミリアに対抗し得る戦力が欲しいという、原動力の一要素ではあった。
「これがレグの悪魔か。まあ、ただのデカい蜘蛛だな」
「……な、なんだいそいつは……」
裸にひん剥かれたヤマメが、目の前に出現した巨大な蜘蛛を見て顔を青くする。
既に何度も繰り返した事だ。新しい種類のモンスターだが、これから行われる事を察したのだろう。
現在俺が戦力の増強の一つの策として試しているのが、ヤマメという優れた蜘蛛の妖怪とダンジョン産モンスターの掛け合わせだ。
ゲーム風に言うと、『モンスターの合成』ーーの準備段階になるか。
『合成』にはその為の設備が必要だが、それは手軽に買える値段ではない。近い内に導入したいが、それまでに出来る事をやっておこうというやつだ。
「よし、いいぞ」
「やめっ、止めろ!その大きさは無理だよ!やめ…っんお"う"!?」
黒と赤のマダラ模様で肥大した腹が特徴的な、レグの悪魔ことデカい蜘蛛をヤマメにけしかける。
ヤマメは自由の利かない身体で逃げようと身体をよじるが、あえなく膣から蜘蛛の陰茎を突き込まれた。
蜘蛛の性器なんてかなり小さいとは言え、覆い被さるとヤマメの姿がほぼ見えなくなる程度には図体がデカいため、小さいヤマメの身体には充分以上の負担だ。
少し中程が膨らんだ性器が膣を無理矢理押し広げながら抜き差しされ、そこに生える剛毛が膣を内側から乱暴に擦り上げる。ワームの分泌液による催淫作用でも賄いきれないのか、嬌声に時折苦痛の声が混ざった。
「あ"、ん"ぐ!?ぇあ、はっ、お"!?」
これはただの産卵だ。
それを行うモンスターが戦力としても数えられるレベルとなっただけで、ワームの金策となんら変わらない。
しかし、強力なモンスターが強力な母体で孵化をするという事が、非常に重要なのだ。
気が付いたのは射命丸のお陰だった。
彼女は外で生活しながらも、毎日蜘蛛を身体の中に産卵させて孵化を繰り返している。
それを全て回収して分解する為に目を通しているうちーーその個体の中に、時々元のものとは異なる種類の蜘蛛がいる事が分かったのだ。それらは全てもとの蜘蛛よりもランクが高く、そしてマニュアルから直接召喚するよりもステータスが優れていた。
ここで前世のゲーム知識から直ぐにピンと来た俺は、元の種類の個体や、リグル等の違う母体から産まれた個体も全て確かめてみる事にした。
そして分かったことは二つ。
より強力な母体からはより強力なステータスを持った個体が生まれる事。そしてその強化のされ方は、ある程度ランダムとは言え母体によって方向性があるようだった。例えば射命丸から産まれた蜘蛛は敏捷性が高い傾向があり、魔理沙から産まれたものは攻撃性が高かったという風に。
また、より強力な母体からは一定確率で突然変異のような強化個体が産まれることも分かった。しかしこれは現状射命丸からしか確認されておらず、一定以上の種族的ランクの高さが求められる可能性もある。
これはワーム等の弱いモンスターであればただの誤差であるが、値千金の情報である。
その時は地霊殿前であった為、突然変異個体を産卵用の蜘蛛とする等の試行錯誤しか出来なかったがーー今は、存分に検証できる。
「い"ぃィ、あぎっ!?も、もゔお"っとなじぐ!?しでよ"!?」
ヤマメが蜘蛛に必死に呼びかける。
もしかすると土蜘蛛だから意思疎通が取れるのかもしれないが、俺が産卵行為を命令している為意味は無いだろう。
俺は泣き喚くヤマメから視線を外し、手元のマニュアルに目を落とした。
マニュアルによると、レグの悪魔はとある世界の地獄のような空間に棲む蜘蛛だ。狂気を撒き散らす性質と強力な毒を持ち、高い知性は言語を解するとも説明されている。
これが純粋に強化されるにしろ、別種類として進化するにしろ、レミリア陣営に相対した場合に大いに活躍してくれる筈だ。
「元気な子を産んでくれよ」
「なん"、で、んお"ぅ!?ご、こんな"目、に"ィい"!?」
リグル達では、戦力配備する為の強力なモンスターによる産卵に身体が耐えられない。
強引な誘拐にはなったが、ヤマメはかなり良い拾い物だったな。