※この作品はR-18です。

東方蟲蔵録   作:玉蹴り男

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第二十八話

敵情偵察が必要だ。

その為の駒として、魔理沙と射命丸は非常に優れたキャラであった。

それぞれ幻想郷でも屈指の機動力を誇り、どこへずけずけと入っても「それらしい」と思われる性格の持ち主。

特に射命丸などは、新聞のネタ探しという最強無敵の理由を盾に、怪しまれずに各所を偵察する事が可能である。

 

しかし今回やりたい事は、魔理沙にしか務まらない役回りだった。

なにせ、それはーー。

 

「いいな、サンドイッチ理論だ。キメラや虫に関する魔術書を、偶々間違えて紛れ込みました〜という体で盗め」

「なくなった本なんて、そんなしっかり把握してないと思うけどなー」

「されてたら問題だろ。それでも5冊中の1冊くらいなら言い訳が通る。そんで次からは、『間違えて盗んだ本だけど読んだら面白かった』とか言えば済む話だ」

「ははは、盗んだ事じゃなくて、盗んだ本の種類が妙な事に対しての言い訳か。まったくおかしな話だぜ!」

「自覚はあるんだな」

 

そう、これから魔理沙には紅魔館へ行ってもらう。

いつものように、図書館から本をくすねてきてもらうのだ。

それは彼女にとっての日常であり、俺にとって非常に好都合な事情であった。

 

魔理沙に伝えた要件は三つ。

いつも通りに本を盗みに行き、その合間でパチュリーの様子を伺い、俺が指定したジャンルの本を探してもらう。どれも可能な範囲でと伝えているが、特に重要な二つ目は確実に達成できる筈だ。

パチュリーが魔理沙トラップを用意していようと、会話を交わすくらいは出来るだろう。そこでパチュリーが魔理沙へ何か探りを入れてこないか、特に地底での違和感の正体を解明しようとしてこないか、等を確認しておく必要がある。

最悪なのは、魔理沙に問答無用で状態異常治癒なりをしてくる可能性だがーーそれを恐れては魔理沙を出歩かせる事自体が不可能だ。

DPに余裕が出来て、より高位の催眠アイテムを購入出来るまでは、そのリスクは常に付き纏うのだから。

 

「まだ本格的な冬が始まっていない今、パチュリーの蔵書盗みくらいしか取れる手はない。しっかり頼むぞ」

「おーう。まあ大船に乗ったつもりで、この魔理沙さんに任せるんだぜ」

 

ちょっと不安だ。

 

 

◇

 

 

「ほら、これとこれ、借りてきたぜ」

「2冊……?」

 

お前俺の話聞いてた?

そう目で訴えかけるも、魔理沙は顔の前で手をひらひらと振りながらあっけからんと答える。

 

「いや、虫系の棚見てる時にパチュリーが私を捕まえに来てさ、慌てて引っ掴んだフリして逃げてきたんだよ」

「あー、いや、まあ、それなら…?」

「パチュリーも、特に変わらず普段通りだったぞ?いつも通り体調悪そうだったぜ」

「ふむ」

 

それなら誤魔化せているのだろうか。

詳細な状況は分からないから何とも言えないが、マニュアルではしっかりと魔理沙は催眠下に置かれているし、パチュリーに何かされて二重スパイの様な状態となっている訳でもなさそうだ。

そもそも盗聴器の様なものがあれば分かるように、アリスと魔理沙の技術の粋を集めてセンサーを玄関に用意してある。魔理沙が特に問題無しと言うのなら、それを信じるしかないだろう。

 

まあ今ある現実を受け入れるしかない。

俺は魔理沙の手から本2冊を受け取ると、その表紙を見た。

『魔界寄生虫学大図鑑』と、『生物の合成と進化の基礎II』。

最初のものは今求めているものと少し違いそうだが、二つ目は確かに良さそうだ。

 

「いいね。次図書館行く時はまた言ってくれ。欲しいものを伝える」

「あいあい。私はまた魔法の研究に戻っとけばいいのか?」

「ああ、家にいる時は出来るだけそうしてくれ。……あ、そういえば今のベッドは寝心地どうだ?ちゃんと眠れる?」

「あれふかふかで良い匂いするし、前のより快眠だぜ」

「それならいいよ。また無くて困るものがあれば直ぐ言ってくれ、用意するから」

「おお、ありがとな!」

 

魔理沙はニカっと人好きとする顔で笑い、手を振りながら部屋を出ていった。

その様子からも分かる通り、意識の上層では俺への嫌悪感等は消失している。催眠アイテムのグレードを上げたおかげだ。

 

さて、俺もここに用事はない為、踵を返してーー寝室のドアノブに手をかける。

そう、既に俺は自由にダンジョンの内外を行き来出来る様になっていた。

俺と俺に触れている者だけがボス部屋とダンジョンの入り口を直通出来る権能であり、これによって今も魔理沙の家に出てきている。まだボス部屋と牢屋以外の部屋には入れないがーーかなり生活する上での利便性が増していた。

 

その一つとして、ダンジョンで購入したベッドを魔理沙の家へ運び込んだ。

ダンジョンの入り口を魔理沙の家に設定したせいで、寝室が丸ごと消失してしまっている。そこにあったベッドは勿論、箪笥に入れていた着替え等も軒並み無くなったのだ。

魔理沙が通常通り生活するにあたって、その影響はそれなりに大きい。

着替えはなんとかやりくりしていたものの、寝る場所は如何ともし難い。硬い床で寝るのは身体への負担が大きく、次の日の調子に大きく響くだろう。

その為今までは耐久性を上げたワームを床に敷き詰めてそこへ寝てもらっていたがーーこうして俺が直接出歩ける様になった事で、問題なくダンジョン内の資材を運び込める様になった。

これからも適宜魔理沙の衣食住を整えて、彼女には快適に暮らせる環境を用意していこうと考えている。

 

「まあ、今は魔理沙は一旦よくて」

 

そう、ここからの俺の仕事は、ダンジョンの強化に頭をうんうん唸らせる事だ。

ヤマメを用いての各種蜘蛛の突然変異に、泥デーモンによる強化と作業効率化。様々な進歩を遂げたとは言え、我がダンジョンの単純戦力は殆ど無い事に依然変わりはない。

だが真っ当に育てられないこのダンジョンでは、俺に出来るのはより速やかな技術革新を進める事だけ。

その為にも、幻想郷で最も魔術に詳しいであろう魔法使いの、叡智の一端を掠め取らせてもらおう。

 

俺はボス部屋に戻ると、その中央に設置されている綺麗な石に座り込んだ。

ツルツルとした青く発光する丸い石で、高さも座りやすくて丁度いい為椅子として活用している。ダンジョンマスターになってから身体の不調は殆ど感じることは無いし、長時間座って本を読んだところで問題はないだろう。

俺はその横に置いてある机の上へ、持ってきた二つの本を置いた。

そしてどちらから読み始めるか悩み、やはり『生物の合成と進化の基礎II』を手に取る。

 

「II、か。いかにも適当に取ったって感じだな…」

 

気になるものはそれなりに網羅的に知っておきたい性格としては、Iから順番に読みたいところだ。

だが、だからこそ魔理沙がこの本を盗んだことのカモフラージュになるだろう。

俺は魔理沙に対して僅かな感心を抱きつつ、ページを捲り始めた。

 

 

◇

 

 

読み始めてから、大した時間は経っていない。

まだほんの触りだけを読み進め、その文章の難解さに早くも独力の厳しさを感じ始めていた時、それは起こった。

 

ーーピロン、と。

マニュアルに通知が来た。

 

「ーーえ」

 

マニュアルへの通知。

それは、当然ダンジョンに関しての何かしらの情報である。その種類は幾つもあるようだが、殆ど俺は利用したことは無かった。

しかしそんな俺でも、この通知は以前見た事がある。

なにせそれは、ダンジョンとしては最も順当で当然の機能だからだ。

至極当たり前だからこそ、何も通知の設定をしなくても、最初から備わっている機能。

 

「……侵、入者」

 

それは、ダンジョンに侵入した者がいる事を告げる、警告用の非常アラートであった。

唐突に、何の前触れもなく。

アリス以来の、ダンジョン防衛戦が始まった。

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