「まずい、まずすぎる…!」
俺は真っ先に牢屋に駆け込んで、泥デーモンへ指示を伝える。
一刻の余地もない。
直ちに戦力を用立てなくてはーーその瞬間、俺の死が確定する。
やる事は一つ。
アリスとヤマメを戦える状態にして、大部屋に配備する事だ。
ダンジョンに入って直ぐは、ゴチャゴチャとした迷路状の構造の部屋を用意してある。大部屋に簡易的な仕切りの壁を作っただけのお手製迷路だが、力づくで壁が破壊されない限りは時間を稼げるだろう。
その合間合間に蜘蛛の罠と魔法によるトラップを配置してあり、弱い妖怪程度ならそれで撃退出来る可能性はある。
しかし逆に言えばそれまでであり、一度仕切りの壁を破壊されて次の戦闘用大部屋への扉を見つければ、それで終わりの張りぼて部屋だ。
つまり、それまでに戦闘用大部屋へ俺の持つ最大戦力を配備出来なければ、抵抗すら叶わず俺は侵入者に殺される。
そう、こうしてダンジョンに侵入せしめた何者かにーー。
「妙だ」
俺は必死に部屋の監視カメラを確認しながら、ぽつりと疑問を呟いた。
「どうやって、今ここへ侵入出来たんだ?」
そうだ、それが最も不可解な点だ。
俺は今不意をつかれて必死に準備する事を余儀なくされているが、決してただただ余裕こいてた所を横から刺されたという訳ではない。
魔理沙とアリスで作り上げたセンサーで一杯の魔理沙ハウスが、ダンジョンの入り口周りにあるからこそ油断出来ていたのだ。
もし何者かが居たのなら、ダンジョンに侵入するより先に魔理沙の家へ入ってくるタイミングで気が付ける筈だった。
それなのに、センサーに反応は全く現れていない。
今準備を始めてもらっている魔理沙も、何も気付けていなかったようだ。侵入者が出たという俺の報告に、通話越しの魔理沙は非常に困惑していた。決してサボっていたとかではなく、全く気が付けなかったのだろう。
「そんなことが、あり得るのか」
そう問い掛けた時、幻想郷をある程度知る者からするとーーやはり「あり得る」という結論しか出てこない。
だが、だとしてもそれは極めて可能性が低い。
なにせ、このようにセンサーをすり抜ける為には、それこそ「急に魔理沙の家の中へ出現する」くらいしか方法が無いのだから。
そしてそれが出来るものの代表格がーー八雲紫に他ならない。
「それなら、俺は…」
ほぼ間違いなく死ぬ。
数週間ぶりの死の感覚に、俺は自身の精神が削れる音が聞こえーーより鋭敏に頭が働き出すのを感じていた。
そこから3分後。
俺は未だに侵入者の姿を見つけられずーータイムリミットがやってくる。
ーーピロン。
「ーーな」
訪れた通知は、『侵入者撃退成功』の文字。
慌ててダンジョンの入り口を見ると、確かに扉が閉まるのが見えた。
確かに迷路用の大部屋は侵入者を閉じ込める機能を追加していないし、そのまま出ていく事は可能だ。だが、そんな問題ではない。
「ーー魔理沙、今誰か出なかったか!?」
「うぇ!?い、いや、誰も見てないぞ…?」
俺も魔理沙も、ダンジョンに出入りする存在を『全く認知出来ていない』。
目を皿にして部屋内をくまなく探しても、出てくるかもしれない寝室の扉を張っていても、その姿を見る事が出来なかった。
俺達は、ただ透明人間を探していたのだ。
こちらの被害はゼロ。
そして、130DPを獲得した。
結果だけ見ると完全勝利のーー俺の初の黒星となった。
◇
「考えられる犯人はーー多すぎる」
だが、その中で最も矛盾無く説明出来るのはーー俺の知るキャラの中だと、かなり絞られるだろう。
まず、下手人は透明人間だ。
しかしこれは、魔法による隠蔽、能力による透明化、河童等の道具を用いたステルスなど、どうとでもなりそうだ。
瞬間移動も同様だ。
この場合は道具だとあまり出来そうにはないが、否定出来ないという意味で何も絞られはしないだろう。
「魔法で姿を隠せば、お前が家に帰ってくるタイミングで一緒に家に入って、センサーを誤魔化す事は可能か?」
「出来る筈だぜ。誰であろうと鳴るのは一緒だからな。だけど、そんな玄関をずっと開けっぱなしにはしてないし、よっぽど小さいやつじゃないと確実に気配は感じられる筈だぞ」
「そうだな」
だが、一つだけ確実に異常な点がある。
それは、
『でもそんな事より、寝室の扉が開いたことに魔理沙さんが気付けなかったのは絶対変ですよ』
スマホ越しに、射命丸が会話へ入ってくる。
そう、そこだけはただの透明人間では不可能な点だ。
魔理沙には、ダンジョンから出ていくかもしれない奴を寝室の外から見張ってもらう役割があった。
その為彼女はずっとドアを注意して監視していた筈で、それなのにーー俺が言うまで、ドアが開いている事にすら気が付けなかったのだ。
その後魔理沙は平謝りしていたが、彼女の怠慢の所為で片付けられるのならどんなにいいか。確実に魔理沙の瑕疵ではなく、敵の能力によるものだ。
ここで、確認出来た敵の能力を整理してみよう。
そいつはカメラで確認出来ない透明人間であり、
何かしらの手段でセンサーを掻い潜って魔理沙の家へ侵入でき、
目の前でドアを開けて通過しても、認識出来ない存在である。
そして更に言えばーー最初の迷路部屋で進むのを諦める程度には、猪突猛進な暴力を備えていない。
「………一人、いるな」
丁度いい能力を持った、東方原作のキャラクターが。
何のこじつけもいらない、一刀のもとに説明出来るやつがいる。
だが、仮にそいつが犯人だったとしてーー考えたくもなかった、嫌な想像が湧いてくるのだ。
「……魔理沙、お前が本を持ち帰ってから、ダンジョンに侵入されるまでどれくらいの時間があった?」
「んぁ?30分くらいじゃないか?」
「その間、何か動かした覚えの無い物の場所が変わってたりしなかったか」
「んー?いや、あったような無かったような…」
俺は、あった。
思い返せば、何度か変だと思う事はあったのだ。
魔理沙に聞いたように物の場所が動いている事、気が付けば開いている扉、そして動けない筈なのに場所が変わる赤蛮奇の頭。
気の所為だったり、虫が当たって動いたのだろうと考えていたが、もしその中に「そうでない」理由があるとしたら。
それらは、俺がダンジョンに篭るより前の、アリスが来るよりも前の話なのに。
その時からずっと、そいつは俺の近くに居たことになる。
「古明地こいし」
こいつの対策が必要だ。