数日振りに、魔理沙さんの家へとやって来ていた。
私は基本的に、ここから離れて普段通りの生活を送っている。
仕事はその中で新聞のネタ探しを兼ねての聞き込みであり、逐一報告せずとも肌着のポケットに入れた通信機でマスターに伝達されている。
また先日から永続の催眠アイテムーー急におへそにピアスを開けられ「付けたままにしろ」と言われたーーとやらを渡されており、ここへ来る目的は身体の中の蜘蛛を取り除いてもらう事のみとなっている。
今日もご多分に漏れず、その用事でやって来ていた。
「魔理沙さーん、居ますかー?」
家の玄関の前に立って、中にいるであろう魔理沙へ声をかける。
これによって通信機越しにマスターへ、私がここへ着いた事が伝わる筈だ。
少ししてからパタパタという足音が聞こえてきて、玄関が内側から開かれた。
そこに居たのは寝巻きを着た人間の魔法使い、霧雨魔理沙の姿だ。
「おお、来たな天狗」
「じゃ、お邪魔させてもらいますよ」
「はいはい」
軽く断りを入れて、家の中に入る。
数日前に起こったダンジョン襲撃未遂のような事件から、この家周りの警戒網は更にグレードを上げられている。
加えて私自身も周囲に誰もいない事を確認しているが、それでもここのマスターは安心出来ないらしく、「簡単な取材の為にお邪魔する」という体を毎回会話で示していた。
しち面倒くさい手順を踏まずとも、スッと来てサッと家に入りたいのだがーーやれと言うのだからやるしかない。どれだけ嫌だろうと、命令は命令なのだから。
勝手知ったる他人の家で、私はいつものように廊下を突っ切って寝室の扉へ向かおうとしーー開かれたままの研究部屋の中から、アリスに呼び止められた。
「文、今日はここで待ってろだって」
「え、そうなんですか?聞いてないですけど…」
「あいつの事だし何かあるんでしょう。貴女が来たら伝えておくように言われたのよ」
なるほど、そう言うならそうなんだろう。
私は寝室の扉からダンジョンへ入るのをやめ、アリスのいる研究部屋へと入る事にした。
そして足を踏み込むとーーそれなりに長く生きてきた妖怪の何となくの感覚だが、肌を撫でる空気が変わったような感覚がした。
私は部屋の中を見回してみて、その正体を探そうとする。そんな私の様子を見てか、アリスが人形を使って近くの椅子を引いて私の座る場所を用意しながら口を開いた。
「この部屋だけだけど、肉体を持つ者の位相を引き上げる結界を張ったのよ。多分貴女が感じている違和感はそれね」
「位相、ですか?えーっと?」
「ごめんなさい、分かりやすく言うならーー存在感が上がる、って感じかしらね。ほら、目を瞑ってみても、私がここにいる事が何となく分からない?」
わざわざ噛み砕いて説明してくれるアリスに従い、目を瞑ってみた。
すると、確かにーー普段よりも、そこに誰かいるという気配を強く感じるような気がする。
そしてそれを確認したところで、私は二つほど抱いていた疑問が胸の中で氷解した。
「なるほど、これが例の『認識出来ない妖怪』とやらの対策ですか」
「ええ、これが実際に効果があるのかよく分からないんだけどね」
「あはは、効果が無ければ認識出来ないままですしね。成功した場合だけ分かるとは、トライアンドエラーにもなりませんねぇ」
「そうなのよ。……ねえ、もし文と一緒に入ってきてるなら、お話したいから出てきてくれない?」
「え」
急なアリスの呼び掛けに、私は椅子に腰掛けようとしていた動きを止めた。
慌てて意識を鋭敏にして周囲を見回しーー何も反応が無い事を確認して、ホッと胸を撫で下ろす。
「ちょ、ちょっとやめて下さいよ。ビックリする……というか危ないじゃないですか」
「ごめんなさい、でも『認識出来ない』ってそういうことでしょ?それに……あの男が言うには、その妖怪にそこまで邪気も力も無いらしいもの」
「は、はあ……厄介ですね…」
その妖怪もーーこのような部屋で、そいつの「餌」としての役割を与えられているアリスも。
私は人形によって机の上へ用意されたティーカップを摘み、中のお茶を口に運んだ。紅茶は普段からあまり飲まないから分からないが、とても香りが良くて美味しい。きっと上手に人形で淹れてくれたのだろう。
そんな人形操作も、この恐らく高度な技術で整えられた結界も、目の前の人形のような美貌を持つアリスが行った事だ。
様々な人妖を記者として見てきた私からしても、非常にできる女と評価せざるを得ない。
そんな、仕事人としても女性としても魅力的な彼女だがーーだからこそ、現在の彼女の扱われ方は非常に劣悪だった。
私が思わずアリスの方をまじまじと見ていると、その視線に気付いたアリスが顔だけをこちらへ向ける。
「?どうしたの?」
「あ、いや……それ、不便というか、痛かったりしないんですか?」
「ああ……大丈夫よ、魔法で抵抗しなければ噛まれないから。…心配しなくても、薬のせいで抵抗しようって考えすら起こせないんだけどね。あいつは私をーーというより魔法使いってものを警戒し過ぎだわ」
「あ、あはは…」
そう呆れたように呟くアリスは今、上半身に肌着だけ身につけた上で、全身を大きなムカデにグルグル巻きにされていた。
アリスの太腿くらいの太さのムカデが、下半身から上半身までを腕ごと締め上げており、アリスが動かせる部位は指先と首から上だけとなっている。そしてムカデの頭部はアリスの綺麗な胸の間に収まっており、大きな牙が首をマフラーのように挟んでいた。
アリスは指先さえ動けば、人形によって何でも仕事が出来る。その為この状態であっても結界の構築作業に支障は無くーーそれをやらなかったり許可していない行動を取れば、即座にムカデがアリスの首へ毒を打ち込むのだろう。
そしてそもそも、何故今アリスがここへ居るのか。
それは、万が一例の妖怪が再び現れた時、彼女がそいつを捕らえる為だろう。
その事は、アリスの側に彼女が上海と蓬莱と呼ぶ人形ーー少し以前と見た目が変わっているような気がするが、気の所為かもしれないーーが控えている事から分かる。そしてその為、万が一アリスが催眠を弾いて抵抗した場合に備え、即座に鎮圧できるようにムカデで拘束しているのだ。
加えて言えば彼女の頭には黒い革製のベルトが巻かれているのが見える。あれは牢屋にいた他の妖怪達の顔に装着されていた目隠しに似ているし、もしここでも機能しているならアリスの身体の自由を制限しているのかもしれない。
何というこき使われ具合だ。アリスという戦力を、最大限に警戒した上でしゃぶり尽くそうという気概を感じる。
というかムカデと牢屋の目隠しのようなものでアリスを対策するくらいなら、私に使ったものかそれより強い催眠アイテムをアリスに使えばいいと思うのだがーーまあ、きっとそうもいかない理由があるのだろう。知らないけど。
そうこうしていると、魔理沙が研究部屋に入ってきた。
そして椅子に座っている私に目を留めると、ふるふると辺りを見回して口を開く。
「なんだ。この様子だと、結局妖怪Xは来てないのか」
「ええ、この結界が機能しているならね。あと魔理沙、早くドアを閉めなさい。蜘蛛が出て行こうとしてるわ」
「わっ、あぶね」
アリスの指摘に、魔理沙は慌てた様子で研究部屋の扉を閉める。
私はその様子を何の気なしに見ていてーーその会話の中に変な単語があった事に気がつき、首を傾げた。
「蜘蛛?アリスさんも、私みたいに外で産卵してるんですか?……あ、もしかして魔理沙さん?」
「いや、どちらも違うわ。そうじゃなくて……あの黒い泥を出せる蜘蛛が、この部屋に潜んでいるのよ」
「保護色って言うのか?ほぼ透明で見えづらいけど……ほら、ドアの上の方にいるぜ」
「え…ーーうわっ、ほんとだ。きもちわるっ!?」
魔理沙が指で示す方へ目を凝らすとーー確かに、意識して見ないと分からないが、手のひらサイズの透明な蜘蛛が壁に張り付いていた。
音も無く、動きも無く、殆ど置物だ。
というかそれこそ、この部屋の存在感を増す結界が無ければ言われても気が付けなかった可能性すらある。
ムカデといい透明な蜘蛛といい、変な虫ばかり出すマスターだ。おへそに付けるピアスへ催眠アイテムを変更してから、彼を見ると沸いてきていた嫌悪感は消えたがーーどうしても、こうしたゲテモノ虫に慣れることは出来そうにない。
しかしそれを含めての「普段通り振る舞え」という命令なんだろうなと、私は少しため息を吐いた。
そんな私の様子を脇に、ムカデに拘束されたアリスへ魔理沙が話しかけた。
「もう3時間経ったな。そろそろやった方がいいんじゃないか?」
「……そうね、やらないと。じゃあ、悪いんだけどよろしく頼むわ」
「はーい。そうだ、文もまだ暇なら手伝えよ」
「え、何を?」
「アリスのワーム孵化」
え、ここでもやってるの?
そう疑問に思う私を置いて、人形達が部屋の外からタオルやらバケツやらをせっせと運び込んでいる。
そこから見るに、本当にここで始めるようだ。
私もここに居た頃は何度もやったが、情けない喘ぎ声は出るし全身から汁が飛び散るしで、絶対に他の人の前でなんてやりたくない。アリスは平気なのだろうか、と疑問に思いながら彼女の顔を見て、直ぐに視線を逸らした。
アリスの綺麗な金髪の隙間から見える耳が、真っ赤に染まっていた。
なんでもない事のように振る舞いながら、準備を進めているがーー恥ずかしくない訳ないのだ。
普段取材として様々な私生活に乱入している流石の私も、見なかった事にした。
ムカデもこの事を想定してか、下半身はあまりキツくは拘束していないようだった。
アリスは腕一本入るくらいまで足を開き、股に魔理沙が手を突っ込んだ。
「よし、じゃあ水入れるぞ」
「……ん」
魔理沙がアリスに声をかけ、膣に指先を差し込む。それに対して、タオルを噛みながらアリスは頷いた。
すると膣の中から、蛇口から出る水のような音が聞こえ始める。先程の魔理沙の台詞から察するに、文字通り水をアリスの膣内に入れているのだろう。
私がワームで産卵させられていた時は、そんな事はしていなかったがーーと疑問に思うや否や、アリスの様子が急変した。
「ふ、ゔゔぅんン"ん"!?」
急に身体を震わせ、タオルを噛み締めながら呻き声を上げ始める。
そのタイミングで魔理沙も指を抜き、足元に置いていたバケツをアリスの股の下に構えた。
そして状況をあまり飲み込めていない私に、魔理沙がタオルを何枚か渡してくる。
「今から沢山ワームが孵化してくるから、いい感じにタオルでアリスを拭いてやってくれ」
「へ?わ、分かりました…?」
言われた通り、タオルを受け取ってからアリスの近くに寄る。
そして彼女の様子を近くから観察してーー何故一人でこの孵化作業をしなかったのかが分かった気がした。
アリスは目をぎゅっと瞑りながら、タオルを強く噛み締めて声を堪えていた。身体は強張らせており、全身が緊張していて指先の繊細な操作なんて出来なさそうに見える。
人形の操作に指先をどの程度用いるのかは知らないが、兎に角自分で作業を完遂できないから手伝いが必要なのだろう。
「む、ぅゔ、んん"」
アリスのお腹がゴロゴロと鳴り始め、再び我慢出来ずに声を漏らし始める。太腿をぎゅっと擦り合わせ、身体を前にくの字に曲げようとした。
しかし魔理沙がそれを手で押さえ、逆に膣を指で押し広げる。それによってアリスは膣を括約させる事が出来なくなりーー堪えていたものが吐き出され始めた。
ーービュ、ブヂュヂュ、プシュ
「ん"ん"ン!?む"、ん"ぅ、ふゥゔウゥ!?」
溢れ出したのは、大量の白濁液とワームだ。
それは自身の身体でも見た事のある光景であるがーーやはりその時より、勢いも量も格段に多い気がする。
それはアリスにかかる負荷も例外ではないようで、見た事のない乱れ様を目の前に晒していた。
タオルを咥えるだけでは抑えきれない、喉から迫り上げるような嬌声をあげている。それは悲鳴に近かったが、やはり快楽による悦びの色は隠しきれていなかった。
「ふゔゔ、んン"ん"ー!」
アリスは絶え間なく襲いくる快感から逃れようと、身体を捩って暴れようとする。
私は慌ててその身体を押さえ、それ以上動けないように固定した。
嫌がっているのに無理矢理拘束するようで可哀想だが、もし暴れた事でムカデがアリスの首に噛み付いたらもっと悲惨な事になる。そのリスクは彼女自身分かっている筈だが、それでも身体の反応を抑えられないのだろう。
ボトボトと、ワーム達がバケツの中へと落ちていく。その度にアリスは悲鳴をあげ、彼女の身体が大きく震えた。
それが十数秒経った頃には、私の手で触れる彼女の肌はしっとりと汗ばんでいた。
その頃には膣から溢れる液とワームの勢いも弱まり、アリスも荒い息を零すのみとなっている。
そしてまだ暫く待った後、膣からワームが続けて出てこなくなったタイミングで、魔理沙がバケツを見ながら口を開いた。
「よし、これだけ出れば大体終わりか?」
「……ぇ、ええ、もう……おわり、みたい」
気が付けば、アリスが噛んでいたタオルが股の上に落ちていた。
アリスは息も絶え絶えに魔理沙へと答え、ぐったりとしながら息を整え始める。
そこで私も長いワーム孵化が終わった事を把握し、タオルで汗だくのアリスを拭き始める事にした。
「…ありがとう、あや」
「いえいえ」
緩慢な声で感謝を伝えてくるアリスへ、私は何とも言えない気持ちで答える。
彼女は元々仲の良い存在だったわけでもなんでもない。精々が顔見知りというだけであり、偶々同じ日にこのダンジョンで支配下に置かれただけの存在だ。
それなのに、外で役割がある私は結構自由に生活し、アリスはこんな生活を強いられている。それが何だかとても理不尽でーーアリスに少し申し訳ないという気持ちも浮かんでくる。
あまり自分らしくない考え方だ。
だがそんな気持ちが一瞬でも湧いたのは本当であり、気持ち優しめにアリスの身体を拭いてあげることにした。
魔理沙はアリスの股の下にバケツを置いて、タオルで大量に液体が撒き散らされた床を拭いていた。
自分の時もそうであったが、ワームの産卵は何というかーー非常に気持ちがいい。
頭の中では生理的な嫌悪感が警報を鳴らしているのに、下半身だけが全く言う事を聞かずに快楽を享受してしまうのだ。
その為、やはりそういった液体はアリスの身体からも出てきていた。それらはワームの分泌液に混じって外へ噴き出し、身体と床を汚している。
そもそも白濁した分泌液や黒い泥も、アリスの股の間に大量に付着している。黒い泥は一応毒性があるらしいーーマスターは以前試しに触って痛がっていたーーが、私達には影響無い。ただ純粋に汚いし、それらも拭いてやらないといけないか。
私はそう思って、アリスの内股をタオルで拭き始めた。
「ーーんっ、ぁ」
肌が鋭敏になっているのか、太腿をタオルで拭き始めると、アリスが小さく声を漏らした。
身体はダラリと力が抜けており、意識も朦朧としていたのだろう。不意に敏感な肌を布で擦られ、驚いたのかもしれない。
太腿を綺麗にし、下腹部も拭いてやる。
そして最後に残ったのは、1番白濁した液がべっとりとこびりつく、アリスの膣部だ。
私はそこを拭いてあげるか少し悩んだ。
ここは、タオルで擦るのは良くない気がする。しかし汚いままも良くないし、綺麗にはしたほうがいいだろう。
となると、動かさずにタオルを押し当てて汚れを取るか。
私はまだ使っていない綺麗なタオルを手に取ると、ゆっくりとアリスの股に押し当てた。
「え、そ、そこ、今は」
「大丈夫ですよ、当てるだけですから」
「…そ、そう。なら…お願い」
アリスが慌てたように声を上げるが、私の言葉に勢いを無くす。
その様子に、感覚が鋭敏だからというだけではない理由もありそうだと、この私の優れた記者の勘が囁いた気もするがーーまあ、アリスがいいと言うのだからいいか。
私はそのままポンポンとタオルを当てて、アリスの股の掃除を進めーー。
ーーポトリ、と。
目の前に何かが落ちてきた。
それが何かと、私は天狗の動体視力で咄嗟に目で追い、瞬時に落ちてきたのは壁に張り付いていた「透明な蜘蛛」である事を認識する。
その事実に、最近蜘蛛嫌いになりつつある私は思わず身体を逃しそうになりーータオルをアリスの膣に押し当てながら少しだけ擦ってしまった。
「ん"ん"!?待っ、ん、ふゔ!?」
それだけで、アリスの様子がおかしくなる。
私は慌ててタオルを彼女から離そうとしーー更に事態が動き出した。
アリスのお腹に落ちてきた「透明な蜘蛛」に、ムカデが噛み付いた。
バリッと硬質なものが砕かれる音が響き、ムカデが蜘蛛を噛みしだく。
その一瞬の捕食シーンを目と鼻の先で見る羽目になった私はーー遂に、全力で身体をそこから離してしまった。
タオルをアリスの股に押し付けながら。
「ーーぁ」
ザリュ、とタオルがアリスの膣を擦り上げる。
その感覚は、必死に何かを堪えようとしていたアリスにとって、致命の一撃となってしまった。
「ぁ、だめ、待って、ぅ、ふゔ」
アリスは目を見開きながら、両足をぴっちりと閉じた。それによってタオルを股に当てる私の手が挟まれる。
そしてモジモジと足を擦り、押し寄せる何かを我慢しようとしーー決壊したようだった。
私の手が、タオル越しにじんわりと温かくなる。
チョロロロ、と水の音が部屋に響き渡った。
それは、アリスの太腿から伝ってバケツの中へと流れ落ちる、少し黄色い水が奏でる音であった。
「やめ、うそ、うそ、とまらな、んん"、みな、見ないで!?」
アリスはワームの孵化の時よりも取り乱した様子で、顔を真っ赤にして首を振っている。
自身に起きている事が信じられないようで、「うそよ」とうわ言のように茫然と呟いた。
アリスが、お漏らししていた。
「ぅうう、なんで、止まらないの…!」
アリスは必死に足を閉じて、流れ落ちるおしっこを止めようとしている。
しかしその勢いはむしろ増すばかりで、遂にバケツから外側へと飛び出した。
研究部屋の床へおしっこが降り掛かり、近くにいた魔理沙の足にも水滴が飛び散る。
「ーーわっ!?だ、大丈夫かアリス!?」
目を丸くして動きを止めていた魔理沙も、そこで息を吹き返したようだった。
声を掛けながらアリスへ近付き、何をすればいいか分からずアワアワしている。
私は手に温かい湿気を感じながら、アリスへと声を掛けた。
「あの、すみません、驚いてしまって…」
「ふっ、ゔ、い、いいの、それより、汚いものを、かけてごめんなさい…」
アリスは顔を真っ赤にして言葉を途切れさせながら、私に謝ってくる。
確かにタオルでは吸いきなかったアリスのおしっこが、私の手に降り掛かっている。しかしこの事態を招いた一因は私であり、それに怒ることは流石に無理だ。
私は手をアリスの足に挟まれながら、彼女の様子が落ち着くのを待つことにした。
「……もう、止まったわ。2人とも、本当に…ごめんなさい」
10秒くらいが経過すると、聞こえてくる水温が、ポタポタという水滴のものだけに変わった。
アリスが私と魔理沙に頭を下げ、私は魔理沙と顔を見合わせる。
「いや、大丈夫ーー」
『何かあったのか?』
不意に、机の上の通信機からマスターの声が聞こえた。
アリスへフォローをしようとしていた魔理沙の言葉が途切れ、私達の意識が通信機へと奪われる。
そして何と返せばいいのかと私が悩んでいると、アリスが少し声を震わせながら口を開いた。
「ワームの孵化をした後で、私が、その…漏らしたの」
『…ん、それだけ?』
「それだ…ええ、そうよ。……あ、それと、ワームを入れていたバケツにも入ったわ」
『おお、なるほど』
恥ずかしそうな表情で報告をするアリスに対し、通信機越しのマスターは淡々と返答をする。
それを前までは気味悪く感じていたな、と他人事のように思っていた私は、続いて放たれた言葉に思わず吹き出した。
『そっか、尿ってまだ何の活用もしてなかったな……何か使えるかもしれないし、それそのまま持ってきてくれ』
「……その、まま?」
『ああ、どうせバケツに入ってるんだろ?』
鸚鵡返しに呟くアリスへ、マスターは不思議そうに答える。
それを聞いたアリスは、最早恥ずかしさを通り越して顔を真っ青にしていた。
そして何か湧き上がる感情を堪えるように唇を噛み締めてーー「分かったわ」と一言だけ返した。
『射命丸、折角なら後で使えるかもしれないし、お前もこっち来たら小便出せ』
「ーーえ"え!?」
続いて向けられた矛先に、思わず叫び返した。
ああ、そろそろ私たちの尊厳が心配だ。