※この作品はR-18です。

東方蟲蔵録   作:玉蹴り男

34 / 51
第三十四話

今回の異変における射命丸の役目は、新聞による宗教闘争の煽りの他に、大詰での新人としての参戦がある。

魔理沙は最初から参戦して早めに人気をーー「希望」を集めておき、いずれ現れるだろう古明地こいしが挑んでくるのを待っておく。しかし他の者に敗れてしまい、人気の集め直しをしている時に古明地こいしが現れるかもしれない。その場合に射命丸が新人として参加し、人気が増して存在感の増した古明地こいしに挑むという寸法だ。

まあ存在感が増しているなら普通にこいしに話しかけるのも良いのだが、可能なら戦闘中の、周りに会話が聞こえないタイミングで接触を図りたい。人気が増すと互いにファンが付いてしまうため、ただ会話していたら関係無いものに聞かれてしまう恐れがあるのだ。

という訳で、射命丸には暫く人攫いに従事してもらう余裕があるーーと思っていた頃。

 

魔理沙が参戦してからそろそろ一週間が経過しようとしていた。

既に守矢一家も参戦しており、その他の参加者も出現してそれなりに東方心綺楼は盛況しているようだ。

そしてそれなりに数が集まってきた研究材料達も落ち着いてきて、本格的にモンスター化を行おうとしていた矢先のことだった。

スマホから、何となく聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

『いいなー、あなた人気があって格好いいね!私と戦って!』

『むむ?何か聞こえたか?』

『聞こえたよー』

 

魔理沙への挑戦者のようだ。

だが多少様子がおかしい。声はそれなりの音量で通話越しに届いているが、魔理沙は声を掛けられるまで聞こえていなかったようだ。

かく言う俺も、魔理沙が反応するまで声を声として認識していなかった。聞こえてはいるのだがーーそれを意味のあるものと認識していなかった、と言えば感覚的に近いだろうか。

そこまで考えたところで、この声の主が誰かを直感的に悟る。

古明地こいしだ。遂にかかった。

 

『ねー、あなた悪い吸血鬼を倒した魔法使いでしょ?町の人が白黒の人が凄いって褒めてたわ!』

『レミリアのことか?まあな、調子乗って人里来てたから懲らしめてやったぜ……って、ビックリした。気配も無く近付いてくるなよ』

『対戦しましょー!』

 

暢気な間伸びした応答に、ふわふわとした可愛らしい声色。

俺のイメージする古明地こいし像と大差は無くーー何より、少し耳馴染みがある。そう思うだけの気の所為かもしれないが、やはり俺はこいつの声を以前聞いた事がある気がするのだ。

 

『ふふふ、これでもくらえ!』

『うおっ…こいつが例のやつか?取り敢えずボコしてやるぜ』

 

戦闘音が聞こえ始めた。

魔理沙は「ボコしてやる」と息巻いていたが、指示した通り、これまでのそれより勢いは弱められているように感じる。

しかし元々聞こえていた観客の歓声をかき消すには充分であり、魔理沙も弾幕を放ちながらこいしへ声を掛けていた。

 

『おいお前!前に私の家に来たことあるか!?』

『わーい、楽しいー』

『聞いちゃいねえ』

 

暖簾に腕押しとはこのことか。

魔理沙が話しかけるも、こいしは意味のある返答をしようとしない。聞こえていない訳ではないだろうが、彼女の無意識は目の前の楽しさを無視出来ないのだろう。

これは、まだ情報を得るのは無理かもしれないな。

 

「魔理沙、それなりに競り合ったら負けろ」

『……ええー』

 

焦る必要はない。

今こいしが参戦しているというなら、その間彼女の動向はある程度把握出来るという事だ。

彼女にはこれから人気を得てもらって、その価値をしっかり感じてもらおう。そして負けた場合に失う人気を認知してもらい、あらためて話を聞きにいけばいい。

願わくばそのまま長く東方心綺楼を楽しんでくれ。

 

 

◇

 

 

古明地こいしが見つかったなら、今からは射命丸は可能な限りこいしの行動を監視する事にしてもらう。

つまり人攫いはここで打ち止めだ。

 

この何日かで集まったものはそれなりの数にのぼる。

妖精はミニが5体に、後程多少強力な個体を1体確保した。とはいえミニは産卵には適していないし、大きな個体も研究に使いたくて攫わせたものである。つまり全て金策には使えない。

その分、妖怪は殆どがDP回収の為に蟲蔵へぶち込んでいた。

得られた個体の総数は4体であり、その内の鬼人正邪以外は全て金策に用いている。勿論モンスター化のサンプルは沢山欲しいのだが、思っていたより妖精を金策の当てに出来なかった事でそれを余儀なくされていた。

 

そうして最終的な現在の日当たりのDP獲得量は、遂に1万の大台を目前としていた。

蜘蛛は孵化までのタイムラグがあり、漸く今日あたりからその回収が始まったという状態ではあるがーー既にトータルでおよそ68000DPが貯まっている。

これは過去最高の貯蓄額であり、古明地こいしの出方に対応する為の生命線である。

 

明確な脅威が間近にある以上、未来を見据えての最高効率の戦力増強策を取っている余裕は無い。

アリスの対策をしていた時のように、その時その時のDP量で行える対抗策を机上で整えていく作業が必要だ。

その為にやっておきたい事柄は多々あるがーーDPに少し余裕が出来た今、今後の方針を大きく変えるかもしれない「ある事」を試してみたい。

それは以前も言及した事のある、『GMコール』という機能だ。

 

「一度の使用で1万DPか」

 

一度の使用、というのは何を示しているのだろうか。

そもそも使用すると何が起こるのかも説明が無く、ぶっつけ本番で試してみるしかない。ドブに捨てる可能性があるチャレンジには高い費用だが、それでも俺はこの機能に期待を寄せていた。

 

ーーポチ、と。

マニュアルに表示される『GMコール』を押した。

 

 

「うおっ」

 

次の瞬間、俺の視界は真っ白に塗り潰されていた。

雪嵐に巻き込まれてホワイトアウトするのとは違う、ただただ単色の白しか視界に映っていない状態。おそらくそれは、俺が真っ白な影の無い空間に居るから起こっている現象でありーーやはり、既視感のある光景であった。

 

「『GMコール』のご利用ありがとうございます」

 

突如として俺の耳に声が聞こえてきた。

発生源は分からない。前から聞こえているような、耳元で喋っているような、空間の概念の無い声だ。

しかしこの抑揚が少なく感情の感じられない声は、同じく既視感のあるものだ。

 

それは俺がダンジョンマスターとなった最初の日、白い空間で矢継ぎ早に俺へと説明をしてきたものと同じ声。

つまり今聞こえている声が、『GM』という事で相違ない。俺を無茶苦茶な難易度の幻想郷へ送り込み、ダンジョンマスターなんてやりたくもないことをやらせている張本人という訳だ。

俺は僅かに跳ねる鼓動を落ち着け、声に向かって話しかけた。

 

「お前がGMか。言いたい事は沢山あるけどーー」

「それでは只今より、10分間のカウントを開始します。3、2、1、開始」

「ちょ、待って待って」

 

俺の目の前にタイマーが出現した。

それは最初10分を表示していたが、1秒1秒カウントを減らしていく。

急な状況に俺は焦りーーそういえば前もそうだったなと思い出した。

うん、やっぱりこいつ同じやつだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。