※この作品はR-18です。

東方蟲蔵録   作:玉蹴り男

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第三十五話

タイマーが減っていく。

10分なんてあっという間だ。現状を殆ど把握出来ていないのに、勝手に始めていいような時間ではない。

 

「10分ってなんだ、俺は何をすればいい?」

「質問に対して応じる時間です。延長されたいのであれば、再び10000DPをお支払い下さい」

 

俺の質問に対しては、即座に回答が返ってきた。

どうやら、GMコールという名前から想定していた通りの機能らしい。

となると本当に時間を浪費は出来ない。俺は頭の中にリストアップしていた質問を思い浮かべ、真っ先に聞きたかった事を急いで口にした。

 

「最短で強くなる方法はなんだ」

「ガチャで最高レアのものを引き当てる事です」

「…その確率は?」

「100回ガチャを引く毎にガチャ自体がレベルアップをしていきます。レベル5になれば、最高レアが0.0001%で出現するようになります」

「無理じゃん」

 

質問の仕方を間違えたか。

そもそもガチャを一回引くのに必要な費用は1000DPだ。まずガチャのレベルを5にするのに50万DPかかるし、そこから0.0001%を当てるというのは現実的どころの話ではない。

俺は目減りしたタイマーを横目に捉えながら、言い方を変えて質問をした。

 

「他に効率良く戦力を強化する方法はないのか」

「DPの回収量を増やすという意味なら、『侵略』によるダンジョンの入り口の増加、捕らえた侵入者の肉体からDPを産み出す『生成機』等の施設の導入が挙げられます。また、他のダンジョンと自身のダンジョンを繋げて勝利すれば、そのダンジョンの戦力を丸ごと奪うことも可能です」

「どっちも俺には意味が、……他のダンジョン?」

 

DP獲得量の増加策の無益さに眉を顰めーー次に聞こえた言葉に、俺は動きを止めた。

他のダンジョン。それはつまり、別の俺みたいなダンジョンマスターが経営するダンジョン、という事だろうか。

確かに薄々そういった存在もいるのだろうとは思っていたがーーそれらは俺と全く関わり合う事はないと思っていた。

俺は驚愕のあまり、時間制限の事を忘れて浮かんだ質問を投げかける。

 

「俺以外のダンジョンが幻想郷にあるのか?」

「ありません。一つの世界に存在するダンジョンは原則一つのみです」

「じゃあ、繋げるってどういうことだ。どうやってーー」

「他の世界のダンジョンの入り口がそれぞれのダンジョン内に設定されます。『戦争』についての説明を要求しますか?」

「あ、ああ」

 

声は淡々と俺の質問に答えていく。

そして俺は思わず頷きーー声が非常に長ったらしく『戦争』とやらの説明を始めようとした為、慌てて「手短に頼む」と付け足した。

 

「『戦争』とは異なるダンジョン間で戦力を奪い合う対戦形式の『侵略』です。勝利条件はコアの確保、ダンジョンマスターが相手のコアに手を触れた時点で勝利となります。」

「勝つとどうなる?ダンジョン丸ごと貰えるのか?」

「敗北したダンジョンの保有する施設とモンスター、DPが勝利側のダンジョンへと付与されます」

「ダンジョンマスターはどうなる?」

「勝利側に付与されずダンジョンに取り残される為、纏めて消滅します」

 

スラスラと声は説明を行う。

端的にと言っただけあって、ざっくりと『戦争』について把握出来てきた。

勝てば相手のダンジョンの戦力を軒並み奪えるが、負ければ全てを失う。非常にハイリスクハイリターンでーー確かに効率の良い戦力強化策だ。

だが、これが行う価値のあるものかを考慮するにあたって、絶対に知らないといけない事がある。

 

「相手はどう決めるんだ?自分より弱いやつを選べるのか」

「『戦争』は希望したダンジョンよりもランクの高いダンジョンが、ランダムに対戦相手として選ばれます。選ばれたダンジョンは、私が直接対戦に合意するか確認を行い、合意が得られるとマッチングとなります。マッチングしたタイミングから丁度一週間後、互いのダンジョン内に入り口が設置され対戦が開始されます」

「……ランクが高いっていうのはどういう基準だ?モンスターの強さか?」

「私の各ダンジョンの評定値です。そのダンジョンがどれほど繁栄しているのかを評価した値となります」

「……繁栄…」

 

俺のダンジョンは、恐らくだが相当弱い筈だ。ヤマメを確保した事で蜘蛛をはじめとした蟲達もかなり強化されたが、それでも同程度のDPを消費した場合の他の種をメインとしたダンジョンに勝るとは思えない。

となると俺のダンジョンのランクとやらは低めになると予想出来るがーー繁栄、という単語からは少し嫌な予感がする。

俺はその正体を定かにするべく、更に食い下がって質問を続けた。

 

「繁栄っていうのはどう評価するんだ。具体的な指標を教えてくれ」

「公平性に関わる為詳細は開示出来ません」

「クソ」

「『クソ』とは生物から排泄される食物の残滓です」

「質問じゃねえよ」

 

意味の無い問答をしている内に、残り時間は2分を切っていた。それに気付いてこれ以上の追及をする暇は無いと判断する。

しかし、可能ならば詳細とやらを僅かでも聞き出したかった。何故ならーー「繁栄」というのが、「DPをどれくらい稼いでいるのか」を示している可能性があるからだ。

俺のダンジョンは、最高効率でDPのみを回収する事に特化したものと言える。その反面戦力の整備が整っておらずーー最悪の場合、ランクは無駄に高いのにとんでもなく弱いダンジョン、という鴨のような状態になっている可能性があるのだ。

 

「……そのマッチング期間中に相手のダンジョンが勝手にやられたらどうなる?」

「コアが破壊されるとダンジョンが消滅する為、『戦争』は無かったものとなります。例外としてダンジョンマスターが先に死んだ場合、その瞬間任意の場所へダンジョンの入り口を設置する事が可能となります」

 

仮に『繁栄』がDP獲得量を反映していた場合、俺が『戦争』で勝つのはほぼ不可能だ。

その為僅かな可能性は相手が自滅する事だったがーーそんな都合の良い話も無いらしい。

仮にマスターが死んだとしても、コアとやらが破壊される前にそいつを殺すだけの力量を持った侵入者の前へいって何をしろという話だ。

残る質問時間は僅か1分程度。

長々と『戦争』について質問してきたが、どうやら俺にとって価値の無い情報で終わりそうだ。非常に悔しいが、諦めて別の質問をするしかない。

 

俺は失望を胸に満たしながら、必死に元々する予定だった質問を頭に思い浮かべる。しかし新たに得てしまった情報が思考を邪魔し、何を質問するべきかうまく頭が回らない。

結局優先順位を付け直す事が出来ず、浮かんだ側から矢継ぎ早に質問を投げかけた。

 

「ダンジョンの特性は変えられないのか」

「私が改めて評価した際、より適したものがあると判断すれば変更されます」

「マニュアルの情報、もっと詳しくしてくれ」

「ダンジョンのランクが一定以上となれば随時バージョンアップされます」

「ランクって…」

「評価項目の詳細は開示出来ません」

 

タイマーが残り10秒を切った。

俺はそこで最後に何か質問をしようとしーー無意識に、ポツリと呟くように質問が溢れる。

 

「何で俺、ダンジョンマスターなんてやってんだ?」

「私が適性を持つ者からランダムに選出しました。これにて時間となります、ご利用ありがとうございました。益々のご活躍をお祈りしています」

 

 

ふと目を開けば、俺は再び牢屋の中にいた。

ぼんやりと周囲を見回し、ここ一週間で増えた新顔達が手枷に繋がれているのを確認する。

どうやら、自分のダンジョンに戻ったようだった。

 

スマホを確認すると、GMコールを始めた時から数秒しか経っていなかった。おそらくあの空間は時間が進んでいないのだろう。十六夜咲夜のような例もあるしーー何より他にも色々別の世界が存在する事が分かった時点で、時間が止まっていたことくらい驚きには値しない。

 

俺はのそのそと部屋を出て、隣に設置している研究室へと入った。

そこは様々なSFチックな機材が立ち並び、しかも多種多様な蟲を現在進行形で改造している為、空間的にも視覚的にもあまり寛げるような場所ではない。

それでも俺は部屋の中央に設置してある机に近付くと、椅子を引っ張って腰を下ろした。

 

「……疲れた…」

 

ボソリと呟く。

緩慢な動きでマニュアルを開き、そこに表示されている現在のDP量を確認した。

58369DP。

丁度、GMコールの1万DPが消費された形となる。

そしてそれに見合うだけの情報はーー得られたとは言い難い。

 

だが、少なくとも一つ分かった事がある。

それは、

 

「ダンジョンのコアって、もしかしてボス部屋の綺麗な石のこと?」

 

椅子として使ってたけど、そんなに大事なものだったのか。

壊れるとダンジョンが消滅するとか言ってたよな。

怖すぎ。戸締まりしとこ。

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