※この作品はR-18です。

東方蟲蔵録   作:玉蹴り男

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閑話


第三十六話

少し時間は遡り、魔理沙がこいしと遭遇する前の日。

俺は牢屋へやって来て、普段通り一矢纏わぬパルスィの前に座っていた。

それはひとえに、彼女に仕事を頼まないといけないからだ。

 

古明地こいしの動向が分からない現状、最悪の想定はなんだろう。

それは、今この瞬間に古明地こいしが強力な助っ人を引き連れてここへ攻め込んでくる事だ。

だがその可能性は低いとも考える。

もし誰か有力者に相談しているなら、普通にフラフラと生活している魔理沙に疑いの目は向いている筈だし、日夜取材と称して幻想郷中をお邪魔している射命丸の耳にも何かしらが入ってくる可能性は高い。

勿論その有力者が陰ながらこちらを監視しているなら話は別だが、それなら現状俺が新しくやる事は無い。

となると警戒すべき事として次に考えられるのは、仮に大きく動いていても射命丸達の耳に入らないような場所での助力の要請だがーー第一に挙げるべきは地底だろう。

射命丸ではアクセス出来ず、魔理沙も用事が無いと行くような場所ではない。必然俺の下に情報は届かず、何が起ころうが分からない暗黒地帯となる。

古明地こいしはそもそも地霊殿が家ではあるし、どうにかそこへ情報のアンテナを張りたい。

 

手段は二つ。

既にあるものを使うか、新しく手段を作るかだ。

前者はーー地底の何かしらの存在を攫ってきて、催眠下に置く事だろうか。これは非常に有益だが、その分リスクは高い。

それなりに知性を持つ存在ならそいつで情報を取捨選択出来るという利点は魅力的だが、さとりの対策をしようと思うと非常にコスパは悪くなるだろう。

ヤマメとパルスィを地底に送り込む以上の優位性は感じられない。

 

後者は、まあ俺らしい手段だ。

単に偵察ドローンのような虫を作ってしまえばいい。

知性は要らず、マイクやカメラを搭載した小型の虫であればそれで済む。

情報のレベルは格段に落ちるが、警戒すべき箇所を抑えておけば補えるだろう。

 

「という訳で、こいつがその試作機だ」

 

俺は、掌の上でモゾモゾと蠢く試作機第36号を持ち上げた。

それは地域によっては食材にもなり得る腹足類ーーカタツムリである。

因みに俺のダンジョンの分類である『虫』だが、別に節足動物が該当するという訳でもない。それならカニ等の甲殻類も含まれている筈だし、カタツムリのような軟体動物が居るのはおかしい。そもそもものによっては2種類の分類がされたモンスターも存在しているし、結構曖昧だ。まあ、ダンジョン産の見た事ない動物に溢れている時点で、分類なんて適当なんだろう。

それなら俺のダンジョンの分類を『神話種』とかにして欲しい。あれならかなり理想的な迎撃体制を整えられそうなのだがーー今出来ない事を嘆いても仕方がない。

兎に角、カタツムリはダンジョンにおいて虫らしい。なら、有り難く活用させて貰うだけだ。

 

「地底って謂わば地獄なんだよな。ならカタツムリないし、ナメクジくらい見たことあるだろう」

「…その阿呆みたいな地獄観、妬ましいわね。地獄に落ちればいいわ」

「あー、コイツは地獄に落ちてもらうぞ」

 

カタツムリの殻を摘み、目の前で振りながら俺は軽口を叩く。

とは言っても誇張抜きでこのカタツムリは諜報活動の為に地獄へ行ってもらうのだがーー知性レベルは低いし、これからされる事を踏まえるとパルスィの方が地獄だろう。

というかこの世界の地獄は当然ながら四季映姫を代表として東方キャラが監督する一つの職場だ。それなら俺は変わらず親の仇のように憎まれるだろうし、ここと大して脅威は変わらない。そもそも俺は一度死んでいるし、今地獄に落ちて仕事をしている最中とも言えるかもしれないな。罪を重ねてるから贖罪にはなってないけど。

俺はこのカタツムリの説明を続けることにした。

 

「この36号は、謂わば空母だ」

「……は?」

「多数の偵察機を内蔵してる。地底の生態系も知らず、虫の活動範囲の限界に頭を悩ませた結果、編み出した解決策だ。馬鹿みたいだけど、面白いアイデアだろ」

「頭に蛆でも湧いたの?」

「ん?今のでよく分かったな。そう、コイツには蛆が湧いてるんだよ」

「ちが、そういう意味じゃ……」

 

俺は苦心の末に生まれた36号を持ち上げて、牢屋の天井から注ぐ光で虫体を透かす。

カタツムリの皮膚組織はヒトのそれより透光性が高く、内部の異物を僅かに透かして見ることが出来る。というよりそれで個体の識別を出来るよう調整したのもあるが、お陰で腹部に黒い塊があるのが確認出来た。

俺はそれを指で示し、パルスィに説明する。

 

「これが蛆。ハエの子どもだな」

「な、なに、気持ち悪いわね…」

 

パルスィは気味悪そうに顔を歪めるが、俺は構わず次の個体を手元に喚んだ。

現れるのは外見に何の変化もないカタツムリーー36号だ。だが、中に入っているものが違う。

それも同様に光に透かし、中にいる細長いウニョウニョとした虫を示す。

 

「これは俺の世界には無い種の線虫だ。こいつは本来カタツムリを中間宿主とはしないが、そもそもここで繁殖する訳でもないからな。これは次にマウスや鳩に喰われたら胎盤へ移行し、そこで垂直感染する。で、そこで宿主に対し脳炎を起こす」

「ちょ、ちょっと待ってよ。何、なんなの?」

「ん?なにって…ああ、魔法的な……呪術的な?基点を作るんだ。脳炎は炎症部位のシナプス伝達を邪魔するだろ、その脳波を頂くって流れらしい。俺の常識ではそれで何でいけたのか分からないけど……まあお前も分かんないだろ。元ネタを言えば、小動物を式神にしてた陰陽師の真似事だよ。言っとくけど俺は高いDP払って研究室手に入れたから出来るだけで、お前には再現出来ないぞ」

「……つらつらと、楽しそうで妬ましいわ。学んだ事を話したくて仕方ないの?私はそんな事聞いてないわ」

「うん?…あ、それを聞きたかったんじゃないのか」

 

じゃあ何を疑問に、と俺が視線でパルスィに問い掛ける。

彼女はそれに噛みつくように返答した。

 

「なんで、そんな事を私に話してるのかってことよ!」

「んん?」

 

それは、だいぶ今更な話だな。

最初に「これから新しい仕事をしてもらう」と伝えたのだが、それと虫の説明が繋がっていないのだろうか。

 

「今日の朝から、お前の身体でのワームの孵化を止めてるだろ」

「っ、それが何…!」

 

俺は目の前で手枷に拘束されているパルスィに近付き、その白く綺麗な肢体を眺める。蟲による汚れは殆どなく、現在彼女の身体の中も同様に綺麗にしてある。

何の為にそうしているかは言う迄もない事だと思っていたがーー説明した方がいいのか。

 

「コイツらを今からお前の身体に仕込むんだよ」

 

唖然、とした表情をパルスィは浮かべる。

俺の手元のカタツムリを目だけで捉え、目尻を引き攣らせた。

 

「中に入ってるのが普通の幼虫とか卵ならいいけど、寄生虫なら次の宿主に食わせないといけないだろ。だからそれぞれ説明してる。続けていいか?」

「いっ…いい訳ないでしょ、なんで私がそんな事しなきゃいけないのよ!?」

「そりゃ、適任だからな」

「はぁ!?」

 

パルスィは36号から顔を背けつつ、俺に怒号を飛ばす。なかなか器用な真似だとは思うが、会話をするには多少元気が良すぎるか。

ただ、催眠は出来るだけしたくないし仕方がない。

 

「コイツらを地底に送り込んで、そこの生き物の中で繁殖させる。そしてそいつらを偵察機とすれば、多少データは粗くても数で補えるようになるだろう」

「だから私じゃなくていいでしょ!?それにそんな複雑なこと…上手くいく訳ないじゃない!」

「ああ、机上の空論に近いな。だけど出来るよ」

「なっ…おめでたくて妬ましい頭ね、そんな事の為に私を巻き込まないで」

 

調整した蟲を地底に送り込む。確かに様々な障害はあるがーー俺は出来ると信じてみる事にした。

 

「そうか?出来ない理由は無いと思うけど」

「あるわよ!そもそも…それを私に寄生させるなら、どうやって他の生き物に食わせるっていうのよ、その時点で無理じゃない」

「このカタツムリの体組織と分泌液は、それぞれ唾液から小腸の消化液に至るまで、順に溶けていくようになってる。カプセル型の薬と同じ方式だよ、この説明でいいか?」

「っ!?じゃ、じゃあ外に出すって、その」

「うんこだな。今のお前の大腸の調子は良いはずだから、問題なく固形の便は出るだろ。それをお前が手ずから指定した奴らに食わせてやればいい」

「はっ…はぁ!?」

 

俺の説明を聞き、パルスィが顔を真っ赤にして口をパクパクと開く。

まあ自分の大便を使うっていうのが恥ずかしいみたいだが、大学の実習でも似たような事をする場合だってある。蟲に体内で産卵させるより余程一般的な筈だがーー逆にそれらは慣れてしまったのだろうか。

少し面白いが、そろそろ次の話に進めたい。言葉を発さないパルスィを置いておいて、俺は勝手にーー少し迂遠に話し始める事にした。

 

「話は変わるけどさ、この世界の魔法なり妖怪の使う術って面白いよな。訳の分からない理屈で、訳の分からない結果になるんだ」

「……急になによ」

「魔法とかアリスから理屈を聞くけど、小難しくて取っ付きづらいんだよ。その点、呪いっていうのは分かりやすい。誰かを殺して、みたいに願えばそれでいいんだろう、簡単な仕組みだ」

「…何が言いたいの」

「お前、橋姫だろ。呪いならお手の物じゃないか」

 

俺の言葉が、何かパルスィの気に障ったのだろうか。

元々白い顔を更に色を薄め、緑色の瞳で俺を睨み付けてくる。表情こそ無いが、般若のお面を見ているようだ。

 

「だから、なによ。…なめてるなら殺すぞ」

「褒めてるよ。嫉妬と怨みで人から鬼に変化したんだ、普通出来る事じゃない。言ってしまえば偉業だ」

 

俺はカタツムリをパルスィの目の前に持ってきて、彼女の赤い唇へ近付けた。

 

「やれる事はやったし、この方法なら地底の情報収集が出来るって俺は信じてるぞ。信じれば上手くいくなんて、よく聞くお話じゃないか。呪いも同じ理屈だろ?」

「勝手に信じてればいい、私は関係ーー」

「関係あるぞ」

 

カタツムリを顔の前から動かし、パルスィの腹部へ向けて移動させる。

喉から左胸へ、そして肋骨を抜けた辺りで少し右へ。その通過する場所は、彼女の消化管が存在する位置だ。

 

「このカタツムリの中身はお前の便になって外に出るし、身体自体はお前の腸から吸収される。つまりコイツらは、未来のお前自身と言っていいんじゃないか」

「なっ…そんな…」

「それならさ、お前が願えばコイツらはより目的を達成出来るようになると思わないか?コイツらなら出来るって、純粋に信じて、呪ってくれれば良いんだ」

「何を…そんな都合のいい」

「だってお前、橋姫だろ?思い込みの天才じゃないか」

 

再び彼女は睨めつけるように此方を見つめてくる。

しかし先程の怒りは薄れーー僅かに恐怖も目から見えていた。

俺がどのように彼女の事を認識し、どのように活用するつもりか察したのだろうか。

 

「ただ、俺も本当にそれだけで呪いとして成立するとは思ってない。だから実験みたいなもんだ、ちょっとでも蟲の機能が強化されれば儲けものってだけ」

「な、なら」

「ああ、だから色んな事を試してみようと思う」

 

パルスィの震える声に俺は頷きを返し、マニュアルを弄ってとある虫を召喚する。

それはミミズのような外見でありーーそれらが無数に生えたクラゲのような虫だ。

そのミミズが生える中心部にカタツムリを噛み付かせ、俺はミミズをある程度纏めて掴んだ。

 

「これには、カタツムリに何かしら変化が起きたか認識するようプログラムしてる」

 

話しながら、その根本をパルスィの口の中に捩じ込んだ。そして俺は手を離しーー次の瞬間、ミミズ達に変化が訪れる。

 

「ん"ん"!?ゔぶ、む"ゥ!?」

 

ミミズが暴れ始めた。

どんどんパルスィの口の奥へと根元が進み、口から外のミミズは彼女の身体へと纏わり付き始める。

このまま根元は胃袋へ移動し、口から出るミミズは彼女の身体を好き勝手蹂躙してくれる。ワームを参考にした簡易催淫液を分泌する為、パルスィにはいずれ全身への刺激が快楽へと変換されていく筈だ。

 

「それは、カタツムリに変化があればある程大人しくなる。言ってる意味が分かるか?」

「ン"ん"ん!む"ぅー!?」

「そうだな。『そのカタツムリは優秀だ』と信じてくれ。そう願えば、お前も楽になるよ」

「ふゔ、ん"ンー!」

 

唸るパルスィの顔は既に見えない。

口から伸びる大量のミミズが、どんどん身体を伸ばして全身へと巻き付いていた。このペースなら、そう時間が経たずとも彼女の全身を覆い尽くすだろう。そしてミミズに身体を埋もれさせながら、全身の皮膚と粘膜を嬲られる事になる。

ワームでもあれだけ苦しんでいたのだ、この拷問用に作ったミミズならさぞかし辛いだろう。

そこから逃れたければ、カタツムリを強化するしかない。それはもう必死に願いーーそして元凶の俺を呪ってくれる筈だ。

それは今回の情報収集の為に、そしてパルスィ自体の強化にも有益だ。激しい呪いの発露は、感情の化け物であるパルスィには良い薬となってくれるだろう。

勿論俺も自分が呪われる事に恐怖を感じない訳ではないがーーダンジョンマスターは他者から嫌悪を撒き散らすという性質上、そうした遠隔のデバフには強い耐性があるらしい。ダンジョン産の催眠スプレーとかは例外になるらしいが、多少強く呪われた程度なら問題にはならないだろう。

俺は胸辺りまでミミズに包まれ始めているパルスィに近付き、一言声を掛けた。

 

「じゃ、頑張って呪ってくれ」




読み直してみるとエロが少ない…
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