※この作品はR-18です。

東方蟲蔵録   作:玉蹴り男

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第三十九話

魔理沙の家のセンサーが反応した。

 

「来たか」

 

意外と遅かったな。

俺はそんな感想を抱きつつ、研究室から外に出る。

センサーが反応したという事は、魔理沙の家に近付いてくる存在が現れたという事だ。

こいしを捕まえてから魔理沙と射命丸を常にここへ置いていたし、このタイミングでの接近は守矢一家と見ていいだろう。

魔理沙に弾幕ごっこにて対処させる事も考えたが、既にこの場所へ違和感を持つ存在を野放しには出来ない。こちらから攻め入る勝算は低い為、下手に危機感を抱かせて撤退される訳にはいかず、どちらにせよここで迎撃するしかない。

 

一旦ダンジョンに入られれば入り口を封鎖出来る為、魔理沙の家にはセンサーとカメラのみを残して罠は全て機能を停止させていた。

俺はそれらの映像を見る為、ボス部屋へ戻ってカメラを確認する。

 

「…は?」

 

そして、我が目を疑った。

 

そこに居たのは、カエル帽子の金髪幼女と、青い髪に注連縄を背負った女二人。

初めて見るが、原作知識から洩矢諏訪子と八坂神奈子だと推測出来る。東風谷早苗は見えないが、推測通り守矢一家がやって来たようだ。

そこはいい。

非常に強力な相手だが、これは予想通りなのだから。

 

問題は、その近くにいる女三人だ。

一人は白いドアノブカバーのような帽子に銀色のフワフワとした髪、そして何より目立つ背中の蝙蝠のような羽を持つ少女。

そしてその傍で日傘を持っているのは、メイド服を着た銀髪の女。

最後は、パジャマのような装いに長い紫色の髪を持つ少女。

姿を見た事は無いがーー原作知識からして、どう見てもレミリア・スカーレットと十六夜咲夜、そしてパチュリー・ノーレッジである。

 

「なんで、紅魔館勢が一緒にいるんだ…?」

 

呆然と呟く。

そして彼女らが魔理沙の家へ入ってきた事で、そんな暇が無い事に気が付いた。

カメラの中の五人は、そこまで緊迫した様子はなく家の中に踏み込んでくる。まるで友達の家にやって来ましたという様子だが、一度声を掛けて即座に扉をぶち破った時点で、そんな用件でない事は明白だ。

間違いなく、こいつら全員ここへ攻め込んで来ている。

 

「紅魔館もいるってことは、他にも伝えてたのか?いや、守矢側が協力を要請した?でもなんで霊夢じゃないんだ、どうなってる…」

 

こいしが他にもこの場所の事を話した可能性は勿論あった。だが地上での記憶は山の神以外残っておらず、こいしが心綺楼に参戦してからは、霊夢はおろか紅魔館勢とも一度も接触していない筈だ。また妖怪の森を拠点とする射命丸へ何も情報が無かったことから、守矢側が信仰されていて仲の良い天狗達へ周知しているという可能性も低い。

他に誰かいるなら地底の者だと思っていたが、送り込んだパルスィからは山の神がやって来たという報告は得ていない。

その為誰か他にいたとしても、それぞれで協力するといった事態は殆ど無いーーもしくは居たとしても天狗のかなり上役や、最悪八雲紫のみだと想定していた。

だが結局読みは外れ、紅魔館のほぼ最大戦力が仲良く揃い踏みだ。

これは、気付いていない内にかなり事態は悪化している可能性がある。

 

「クソ、やばいな」

 

山の神と紅魔館。

どちらかでも非常に分が悪いのに、共に協力されたのではただの理不尽だ。

俺が今まで仮想敵を定めていたのは、そもそもそのラインに戦力が達していないからに他ならない。

これは弱気だからで片付けられる話ではなく、単純な数値の問題だ。

 

「これ、俺死ぬかな」

 

やれる事をやるしかない。

死ぬ気で頑張ろう。

 

 

◇

 

 

「魔理沙にしては結界の技術が高すぎるわ。やっぱり変ね」

「ふーん。じゃああの変な妖怪が言ってた通り、魔理沙は何か変なことしてるのかな?くんくん、異変の匂いだね」

 

私には分からないが、紅魔館のパジャマが言うにはそうらしい。魔理沙は人間にしてはえらく火力の高い弾幕を撃ってくるし、結界くらい張ってたところでそんなもんかなとしか思わないが、餅は餅屋だ。本職が言うならそうなんだろう。

一週間ほど前に山へやって来た認識の出来ない変な妖怪曰く、今起きている人里の異変とはまた別口のようだがーーだからこそ、先んじて解決してしまえば我々の宣伝にもなるだろう。

 

「恋焦がれるような陰鬱な黒幕、だったかな?楽しみだね神奈子」

「そうねぇ。我々の威光を知らしめる良い機会だわ。そこの吸血鬼も来たのは想定外だったけど」

 

神奈子は私の言葉に頷きつつ、顎で後ろを示した。

そこに居るのは紅魔館の吸血鬼達。

私もコイツらとこの件に関わるつもりは無かったが、向こうからやって来たので仕方がない。

『貴女達、魔理沙について何か知ってるんじゃない?』

という、いかにも事情を知っていますよという風に来たから、最初はコイツにもあの変な妖怪が話をしていたのかと思ったものだ。実際は何となくで私に話しかけていたらしいが、それでこのように一緒に魔理沙の秘密とやらを調べに来ているのだから面白い。

 

「フフフ、やはり魔理沙には何かあったようだな。そうだな、パチュリー?」

「レミィ、あんたよく分かってないなら、あまり知ったかぶって喋らないほうがいいわよ」

「失礼なやつだな。魔理沙の家で何か大きな事が起きそうな運命が見えていたのよ。前の異変とは違ったから、それならこれに決まっているわ!」

「お嬢様、あまり興奮すると転んでしまいますよ」

「咲夜、子ども扱いすんな!」

「年寄り扱いでしょ」

「なにおう!?」

 

あちらは随分緊張感が無いようだ。

この家に蔓延るーーそれこそ陰鬱な気が感じられないのだろうか。例えるなら、洞窟の奥で外界とは異なる生態系が形成されているような。何かどんよりとして、私好みの空気が漂っているというのに。

 

「諏訪子、ここは何か変だね」

「んー?どこも変だよ。ほら、お風呂とか特に陰気な感じだ。私もここでシャワー浴びたいなあ」

「いや、そんなレベルじゃなくて」

 

こっち来い、と廊下の奥の神奈子が私に手招きをする。

お風呂でキャッキャしていた私は、それに従って駆け寄った。そして神奈子の正面の開かれた扉の向こうを見て、彼女が何を変だと言っていたのか悟る。

 

「およよ?真っ黒だ」

「こっちから何も見えないけど、向こうにはいけそうだよ。入ってみるか?」

「うーん、どうしよっか」

 

扉の向こうは、何があるのか全く見えない完全な暗闇だった。

光が入らないから暗いとかそんなレベルではなく、純粋な黒。いかにもここから何か違う世界にいけますよ、といった佇まいである。

私はそこに入ってみるか考え、振り向いて吸血鬼達に声を掛けることにした。

 

「レミリアー。こっちから行けるみたいだよー」

「えっ、どこに?……なんだこれ。面白」

 

私の手招きに懐疑的な顔で近付いてきたレミリアだったが、扉の向こうの黒を見た瞬間、新しいおもちゃを見つけた子どものような表情を浮かべる。

そして近寄って匂いを嗅ぎ、それにツンツンと指で触ろうとして、何の抵抗もなく指がすり抜ける事を確認する。

 

「ふむ。これはどうやら、彼方はまた別の世界となっているようね。となると……咲夜、パチュリー!」

「はい、お嬢様」

「なに?」

「私達が一番乗りだ!ゆくぞ!」

「かしこまりました」

「ええ…」

 

レミリアが勢いよく飛び込んでいった。

続いてメイドも中へと入っていき、パジャマ魔女はーー困惑して突っ立っている。

彼女は二人が消えていった後の暗闇を見て、ゆっくりとこちらへ振り向いた。

 

「……今更だけど、これって危険とか無いのかしら」

「さあ…」

 

それを調べる為にレミリアを呼んだんだけど、とは言いづらく私はちょっと口籠る。

そして微妙な空気が流れる中、内側からにゅっと白い帽子を被った銀髪の頭が突き出てきた。

 

「何してるのパチュリー!早く来なさい!ここ暑いから魔法でさっさと冷やして!」

 

言うだけ言うと、また勢いよく頭が暗闇の向こうへと消えていく。

どうやら、向こう側は暑いらしい。ただあの様子だと、行った瞬間死ぬとかそういうわけでもなさそうだ。

 

「よし、じゃ私達も行こっか」

「そうだな。パチュリーとやら、あの向こう見ずさはどうかと思うが、結局行く事に変わりはない」

「……まあ、それもそうね」

 

神奈子の言葉にパチュリーは頷く。

先遣隊として良い働きをしてくれたレミリアに感謝をしつつ、私は扉の向こう側へとくぐり抜けた。

 

「おお?」

 

そこは、じめじめとしたーーそれでいて強い陽射しの降り注ぐ、例えるならジャングルのような場所だった。

左右には植物で出来た高い壁がそそり立っており、少し飛べば越えていけそうである。私は周囲がどうなっているのか見ようと飛び上がりーーレミリアから静止された。

 

「その壁の向こうにはいけないわよ。見えないけど天井があるみたいなの」

「へぇ」

 

ゆっくりと上がってみたところ、確かに壁を越えそうなところで見えない天井に手が触れた。

レミリアの言う事は合っていそうだと彼女の方を見遣りーー彼女の身体からプスプスと煙が出ているのに気付く。

そういえば、陽の光は吸血鬼の弱点だったな。

 

「……帰ったほうがいいんじゃない?」

「嫌だ。こんなに面白そうなのに」

 

日傘の下に隠れながら、レミリアは不服そうに言い返してくる。

その後ろで、神奈子に続いて紅魔館の魔女が入ってきた。

彼女は空から注ぐ強い日差しに目を細め、次にレミリアの方を見て呆れたような表情をする。言わんこっちゃない、という台詞が聞こえてきそうだ。

しかし黙ってご要望通り氷の魔法でレミリアの周囲を冷やし始め、それに従いレミリアの元気が復活する。

 

「よし、では行くか!」

ーーバタン。

 

号令をかけた瞬間、レミリアの背後の扉が閉まった。

彼女はゆっくりと後ろへ振り返り、フワフワと扉へと飛んで近付く。そしてドアノブを回したり押したりしようとして、全く動かない事を確認した。

なるほど、これはーー閉じ込められたか。

これまたゆっくりと私達の方へ向き直り、レミリアは眉をハの字にして言った。

 

「……私のせいかな?」

「流石に違うでしょ」

「それもそうだな!」

 

パチュリーの否定に、レミリアは機嫌良く胸を張って頷く。

その不遜な態度はどうかと思うが、私も彼女のせいではないと思う。私達全員がここへ入った後に閉まったのだから、それはきっと悪意を持って閉じ込められたのだ。

何はともあれ、先に進むしかない。

少しだけ高揚した気分のまま、誰に向けるでもなく呟いた。

 

「よし、じゃあ黒幕退治に出発だ」

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