※この作品はR-18です。

東方蟲蔵録   作:玉蹴り男

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第四十一話

幻想郷は人の保全と人外の畏れを両立させる為に、争い事の解決には弾幕ごっこを用いる。

このような取り決めがあったと思うのだが、それにしては彼女らの攻撃は些か以上に殺傷性が高すぎた。

 

「ねえ魔理沙ー、あんまりあんたを殺したくないから手を緩めてよー」

「それは、出来ない、相談だぜ!」

 

逃げ回る私を追ってくる魔理沙に声をかけるも、彼女はニヤッとした不敵な笑みで提案を跳ね除ける。その様子は普段通りではあるのだが、しかし私へ向ける弾幕は彼女らしからぬ「地味」なものだ。

彼女は基本的には星形の弾幕と高火力のマスタースパークを使っているイメージであるが、今の彼女は打って変わって洒落のかけらもない熱弾しか放ってこない。機動力は私を超えている為度々私へそれらが着弾するがーーそうは言っても魔理沙の攻撃で致命的な傷なんて負う筈もない。

だが、それでもそれらの攻撃は非常に嫌らしかった。

 

今も私の側面へと回り込んで弾幕を放ってくる。当たると痛い為カウンターの石弾を放ちながらそれを回避するがーーその先では、アリスの操っているであろう人形が待ち構えていた。

それらは盾を前方へ向けながら大きな突撃槍を構えており、背後からアリスの弾幕が迫る中私へ突撃してくる。

 

「チッ、面倒だ」

 

マグマを周囲へ生成して人形にぶち当てる。それで大半は焼けて墜落していくが、それでも熱耐性が整えられているのだろう、何割かの人形は突破して私へ槍を届かせてくる。同時に一瞬下を確認すると、巨大な顎を持つムカデのような虫が迫ってくるのが見えた。

白蛇を私の周囲にとぐろを巻かせるように出現させ、盾にしてその猛攻を防ぐーーところで、上空から極光が降り注いできた。

咄嗟に頭の上へ巨大な岩を生成し、それを上方へ蹴り飛ばす。そしてそれを隠れ蓑にするように上へ移動しーーマスタースパークを放っている魔理沙へ肉薄した。

私の身体も熱線によって灼かれるが、岩が砕け散るタイミングで魔理沙の真横へ抜け出す事に成功する。驚いたように私を目で捉える魔理沙を見ながら、溜めていた弾幕を彼女に放とうとしーーそこで私の視界がブレた。

真横へと視界がスライドして私の腕が強い痛みを訴えるのを認識し、私はそれが側方からまた横槍を入れられたのだと把握する。

受け身を取りながら其方を見やると、そこに居たのは蜘蛛の巣にぶら下がる金髪の蜘蛛女だった。

 

「アイツ、邪魔だね」

 

巨大な蜘蛛の身体は、鈍重に見えて蜘蛛の巣を縦横無尽に動き回る。

その速度は魔理沙や射命丸のソレとは当然比較にならないが、このように障害物の多い空間では話は別だ。私は蜘蛛の糸に触れるとベタベタして動きが制限されるというのに、彼女は蜘蛛の胴体を駆使して自由に移動しては彼方此方から攻撃してくる。

私はため息をつきながら、服にこびり付いた黒い蜘蛛糸をぶちぶちと引き剥がした。

 

魔理沙だけなら遊んでいればいいのだが、このようにアリスと蜘蛛女が的確に邪魔をしてくる。神奈子は射命丸がずっとマークしているし、何というか、非常にやりづらかった。

私は先程の魔理沙の攻撃で焼け焦げた肌を長い舌で舐め、それが修復していくのを見る。傷は問題なく癒え、元の玉のような白肌が戻った。

つまり先程の一連の攻防で私へのダメージは0となった事を意味する。対してあちらは、それなりの量の人形と虫を消費した筈だ。

私は見せつけるように舌をダラリと垂らし、手をぷらぷらと振りながら彼女らへ向けて言う。

 

「いくらやっても意味無いよ。これでも一国を治めていた神様なんだから」

 

言いながら、チラリと遠くで射命丸と大量の虫、そして合流した蜘蛛女と戦っている神奈子を見遣る。あちらはあちらで窮屈そうに戦っているが、間隙を縫うように叩きつけられる御柱は決して神奈子が劣勢にはなり得ない事を示していた。

その事は魔理沙達ーーその裏にいる黒幕とやらも分かっている筈だ。

 

「神奈子も同じだよ。そりゃー射命丸も強いけど、そもそも天狗達に信仰されている側の私達が負ける道理は無いだろう?自然の摂理ってやつだね」

「……んー」

 

私が諭すように語りかけるのに対し、魔理沙が困ったように首の後ろを掻きながら口籠る。

そして神奈子の方を見た後、眉を垂らしながら私へ顔を向けた。

 

「まあそりゃあそうなんだが、私達は言われた通り戦うだけだしな。実際勝てるかどうかとかはどうでもいいんだ」

「変な事言うね。言っちゃなんだけど、私は祟り神だよ。その気に……勝つ気になれば、人間のアンタは殺しちゃう事になるんだけど、それでもいいの?」

「まあ、うん。そういう指示だからな」

「……こりゃ重症だなぁ」

 

あっけらかんと言う魔理沙に、私はげんなりとした気持ちになる。

まあ見るからにといった感じだが、間違いなく魔理沙達は黒幕とやらに洗脳されている。それも生死の危機に瀕してまで全く影響が無いほど、精神の根底にまで浸透したものだ。

だが実際のところ、魔理沙はおいそれと手加減して打倒できるような存在でもない。流石に弾幕勝負では天性のセンスを発揮するだけあって、このように邪魔をする事に徹されるとやり辛くて仕方がないのだ。

それは神奈子も同様なのだろう。

この先にいるであろう黒幕とやらに面会する為には、誰かは殺す気で倒さないといけない。そうしないと私達にも無視出来ない傷が負わされる程度には、今対面しているお相手は厄介だった。

 

「どうしようかな…」

 

再び私に向かってきた魔理沙達を見ながらボヤいた時だった。

不意に、場にそぐわぬ声が現れた。

 

「ハッハー!ようやく主役が現れてやったわよ!」

「ゲッ」

 

弾幕を放ってくる魔理沙が、そちらを見て嫌そうな顔をする。それは明らかに隙であったが、同時に私もそちらを見てしまった為おあいことなってしまった。

そこに居たのは、紅魔館の主、レミリア・スカーレットだ。

彼女はピンク色のドレスをたなびかせながら、不遜な態度で威張り散らしていた。

 

「遅すぎるでしょ…」

「どこで油売ってたんだお前!?」

 

私と神奈子が呆れて反応する中、レミリアの背後の真っ黒な扉から銀髪のメイドが現れる。続いて紫色の髪の魔女も現れ、扉がゆっくりと閉まった。

なんでこんなに合流が遅かったんだとか言いたい事はあるが、とにかくこれで紅魔館勢は全員集合出来たらしい。

 

「私達以外は全員敵だ!」

 

神奈子が僅かに青筋を立てながらレミリアに叫ぶ。

それを受けたレミリアは、うんうんと満足そうに頷き、バッと芝居がかった動きで右腕を天へと突き上げた。

そして広げられた手のひらの中心に、目が痛くなるような真っ赤なエフェクトが集まっていく。それは渦巻きながら細長くなり、一本の槍を形成した。

その真紅の槍を握りしめ、レミリアは引き絞るようにそれを後ろへ構える。それは今日も何度か見た彼女の槍投げのモーションでありーーその不敵な笑みと赤い瞳は、明らかに私の方へと向けられていた。

それを認識した瞬間、私は背筋に冷たい汗が流れるのを感じる。

 

「やべっ」

「おいおい」

 

私と魔理沙が同時に呟き、示し合わせたかのように全力でその場を離脱した。

次の瞬間、レミリアの楽しそうな声が響き渡る。

 

「くたばれ魔理沙ァーー!」

「どわー!?」

 

真紅の槍が発射された。

それは逃げる魔理沙へと照準が定められていたが、元々近くにいた私にも当然の如く余波が襲ってくる。

高熱と爆風が私の身体へ打ちつけられ、それなりに小柄な私はそのまま吹き飛ばされてしまった。

私はこの騒動が終わったらレミリアをボコボコにする事を決意した。

 

「ハッハハァー!」

「いきなり何すんだレミリア!危ないだろうが!」

「馬鹿ね、先手必勝よ………ん?魔理沙は敵なんだよな?」

「いや、味方だぜ」

「レミリア、魔理沙の言ってる事は嘘よ」

 

魔理沙とレミリアが言い争っているが、私は余波とそれに紛れて接近していた虫を処理するのに手が取られていた。

気味の悪い大きな蜘蛛達を潰し、隙間を縫って接近していた人形を弾幕で牽制する。

そしてレミリアの攻撃で少し熱くなった皮膚をさすりつつ、私も文句を言ってやろうとそちらへ視線を向けた。

 

「ーーん?」

 

最初、見間違えかと思った。

レミリアはまだ魔理沙と言い争いながら弾幕を撃ち合っており、そこへ周囲から横槍を入れる虫は銀髪のメイドがナイフを投げて処理している。

それらを視界に収めーーそして、あまりにも自然な「異物」に気が付いた。

 

レミリアの近くで控える銀髪のメイド。

その背中から、黒い2つの腕が生えていた。

 

それは両手を真っ直ぐ前方へ突き出すように生えており、その光景はまるでメイドの背中から黒い人間が出てこようとしているみたいだった。

そしてそれは、実際のところ間違いではなかった。

その黒い腕は背中から真っ直ぐ伸ばされ、そしてその「付け根」も背中から抜け出してきた。それは丸い何かであり、どう見ても真っ黒な人間の頭部である。

それは音も立てずに、ごく自然で当然であるように、腕から頭、頭から胸、そして上半身全体を背中から出現させた。

 

「ーーえ、は…?」

 

その光景を見届けてしまったのは何故だろう。

何故かその真っ黒な腕は「どうしようもなく悍ましい何か」だと本能が訴えているのに、それを踏まえて尚それがごく自然な存在であるように、私は呆けたまま眺めていた。

ただ呆然と、木偶の坊のようにその黒い腕と上半身がメイドから生えるのを眺めている。

その硬直が解けたのは、その黒い何かがこちらを向いた時ーーその顔を目にした時だった。

 

ーーあれが黒幕だ。

 

限りなく確信めいた直感だった。

その黒い存在が私達が討伐しにきた存在であり、恋焦がれるような陰鬱な黒幕であると、私の生存本能が告げていた。

 

「?」

 

私の様子がおかしい事に気が付いたのだろう。ほぼ同時に神奈子とパチュリーが私を不思議そうに見て、そして同時にレミリアは私の視線の先へと顔を向けた。

つまりメイドの方を見て、レミリアはその背中から生える真っ黒な黒幕の姿を目にする事となる。

 

「ーー咲夜ァッ!?」

 

先程までのおちゃらけた様子とは違う、切迫した叫び声だった。

それに反応したメイドは、声に応じてレミリアの方へ振り向くーー事すらなく、次の瞬間その場から消えた。

それは恐らくメイドの能力である『時間停止』を行なったのだろう。まばたきをした直後にはメイドの姿は元に位置にはなく、その少し下の場所へ浮かんでいた。

だが、おかしい。

 

メイドの背中には、上半身だけを出した黒い人型の何かが依然として存在していた。

そして肝心のメイドだがーー微動だにしていない。

レミリアもその状況に違和感と嫌な予感を覚えたのだろう、直ぐに怒号を吐きながらメイドの背中の黒幕へと襲い掛かろうとしーー。

 

「時を止めろ」

 

その黒い何かが言葉を発した途端、再びメイドが違う場所へ出現する。

当然のようにその背中には黒幕が生え、そしてーーレミリアが停止した。

掌に溜めていた力も霧散し、怒りに歪めていた顔もストンと無表情となる。それは今のメイドの表情とも重なるような異様な「無」であり、私を何度も邪魔してきた蜘蛛女の表情とも似たものであった。

そして、この瞬間起きた変化はそれだけではなかった。

 

「ーーゔっ!?」

 

私に襲い掛かったのは、言うなれば「衝撃」だ。

下半身が急激に重くなり、お尻の穴に味わった事のないような感覚が襲い掛かる。

それは大量の何かが私のお腹の中で暴れ回っているような感覚であり、大きな便を排泄する時の感覚を何度も味わっているような衝撃でありーーそれらがもたらす、異様な快感であった。

 

何が尻の中にある。

どうやってそこへ。

様々な疑問が浮かびそうになるが、それは暴れ狂う快楽によって塗り潰された。

私は思わず変な声が漏れそうになるのを必死に抑え、足と腰がガクガクと震え倒れ込んでしまいそうになるのを耐える。

そして意識が飛びそうになるのを意志の力で押さえ込み、メイドとその背中にいる黒幕へ視線を戻しーー

 

目の前にいた。

 

次の瞬間、顔の表面に霧吹き状の水滴のようなものが触れるのを認識した。

必死に込み上げる快感を耐えていた私は、それを認識していたにも関わらず吸い込んでしまう。

 

 

ーー。

ーーー。

 

 

私は幸せになった。

 

 




いつも読んで頂きありがとうございます。
感想も有難く拝読しております。
そろそろ書き溜めが潰えてきたのでゆっくり更新していきます。
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