※この作品はR-18です。

東方蟲蔵録   作:玉蹴り男

44 / 51
第四十四話

やる事は単純だ。

既に俺のダンジョンへ攻め込んできてくれた天使群は侵入者達と戦力が拮抗している。

そこへ、モンスター化した元ダンジョンマスターの女とその他の虎の子達を仕掛けてやれば、問題なく鎮圧出来るだろう。

 

と思いたいところだが、それで済む話ではなかった。

現状確認したところ、この女が運営していたダンジョンは俺のダンジョンの戦力のざっと50倍程度。

確かに俺のものとは雲泥の差だが、とは言えそれは元々不可能だった手段を生み出せるような差では無い。精々俺のダンジョンを同時に15程度なら相手取って正面から叩き潰せるだけだ。いや、生産と罠に半ば特化せざるを得なかった俺の戦力は、案外天使群とは相性が悪くないためもっと苦戦するかもしれない。やはり単純な個としての戦力が高い守矢達侵入者組を、余裕をもって相手取るのは難しいだろう。

そもそも天使とは人間種と似た性質を持ち、個ではなく軍隊で力を発揮する種族だ。戦力が豊富だからと言って、一概に数値通りの力が発揮できると考えるべきではない。

 

更に言えば、それらは「今の俺のダンジョン」を相手にしての換算でしかない。

俺が一時的に死んでしまった為、催眠が解けてアリスや射命丸といった重要戦力は失われてしまっている。更に先ほどの抗争でかなり戦力は削れており、半ばヤマメのワンマンチームと化していると言わざるを得ない。

その状態だと、魔理沙や咲夜といった毒の通じる人間組や、人形という戦力の大半が虫に置き換えられているアリスをそれぞれ一人鎮圧して終わりになるだろう。その50倍と言ったって、天使自体の相性の問題も存在する。

そもそも虫や人間種という個々のステータスが劣るモンスターは、多vs 1に秀でたレミリアや神奈子といった相手を苦手とする。その分罠等は効果が見込めるが、生憎とパチュリーという万能の対応策が存在するのが問題だ。

そして対単体については、こと「人間種」の系統樹の先に位置する「天使」は、洩矢諏訪子による祟りの影響を免れる事は出来ない。彼女については逆に数で押すのが有効策になるが、それは現時点で既に行なっていることだ。

 

確かに、現状で侵入者達を全て倒すことは出来る。

だが、それでは先が無い。

問題となるのは、守矢一家とレミリア達を撃退した上で、後顧の憂いを断つ為に攻勢の一手を打つ必要がある事だ。

そしてそれは、単純な戦力の質量差で圧し潰したのでは達成されない問題である。

 

必要となるのは、可能な限り取り返しのつく範囲で傷を留めた上での彼女らの鎮圧。

及び速やかな事情聴取と、そこから考えられる懸念事項の対処だ。

その為にも、現状の天使群をいたずらに消耗させて彼女らを叩き潰すわけにはいかない。

 

さて、どうすればいいか。

単純な話だ。

与し易いものから順番に潰していく。

その為の種は既に植えてある。

声の届く範囲の存在へ指示を出し、俺は再び泥へと沈み込んだ。

 

「ーーー」

 

視界が星空のような暗闇へと埋まっていき、身体が水中にあるように抵抗を無くす。

使う度に腹に移植したデーモンの頭部が熱を持つが、これは能力の酷使によるオーバーヒートだろうか。

確かにあまりにも便利な能力であるし、それを身体の一部だけで使い回すのは無理があったのかもしれない。

だが、どうせあと少しで終わる話だ。

 

「転送、転送、転送ーー」

 

腹部の痛みに耐えつつ、俺はマニュアルを操作して虫を次々に第一層へと送り込む。

これは大した戦闘力を持たない、繁殖用ワームの改造蟲だ。だがこれは例の如く泥デーモンの眷属となっており、時空間追跡能力を引き継いでいる。

それは即ち、こいつらは部屋の移動制限を無視して指定した泥の座標へと移動出来るということ。

これだけでも現在諏訪子達がいる場所への援軍として活用させる事が出来るが、それ以上に有効的な使い道も存在する。

それは、先程転送したような極めて催淫性の高い分泌液を排出する小型の蟲を、あらかじめ泥を塗り込んだ彼女らの体内へと送り込む事だ。

既に第一層でこいしの皮膚を移植したワームを諏訪子の腸内へと送り、第二層の戦闘中に泥経由でワームを侵入させる事に成功していた。魔理沙達のように元々催眠下にあったものは、当然身体中の穴という穴に泥を塗り込んである。また時間停止の際に直ぐ近くへそれなりの時間共に居た咲夜にも、僅かながら泥を仕込んでいた。

これらを用いれば、彼女らを同時に無力化させる事は不可能ではないだろう。

 

だが、これだけでは詰めが甘い。

催淫性のワームを体内へ送り込んでも、それだけでは彼女らを一時的に無害化させる事しか出来ない。肝心なのは、その隙を突いて催眠下に再度叩き落とす事だ。

その為には、やはり俺自身の手でスプレーを吹き掛ける必要がある。

そしてそこで必要となるのは、スプレーを取り出して顔に吹きかけるというアクション中に、俺が殺されてしまわないだけの更なる隙だ。

 

充分量の虫を転送し終えると、今度はマニュアルから所持する施設とモンスターの欄へと移った。

そこには元の天使ダンジョンから続々と送り込まれる様々なリソースが表示されている。それは現在進行形で天使ダンジョンが消滅しているという事であり、俺がこうして泥の中へと逃げ込んでいる事の理由でもある。

ざっと今俺が保有するものを見て、必要無さそうだと感じたものを片っ端から売却していった。多少勿体なくとも、今後の為でもある為躊躇はしない。

 

そしてそこで得られたDPを多少なり費やし、現在諏訪子達が居る戦闘用大部屋の環境を弄った。

具体的に言うと、所狭しと植えていた植物を急成長させる。

そうする事で起こるのは、急激に爆増した質量による空間の圧排だ。

戦闘用大部屋はレミリア対策に天井を「空」に設定しているが、しっかりと天井は存在している。もともと天井へとツタや葉が触れていた樹木群が、その状態から更に成長すれば当然のように天井へとかなりの面積が押し付けられる事になる。

だが元々そうする為に柔軟な種を植えていた為、決して木が根本から折れたりする事はなく、最終的にはーー天井を殆ど全て埋め尽くした。

これで得られるのは、戦闘用大部屋の瞬く間の暗室化だ。

 

 

「なに、これ…!?」

 

ここを利用して、俺は十六夜咲夜の背中へと現れた。

視界は再び全くの暗闇へと切り替わるが、仕掛け人の俺が対策をしていない筈がない。

「暗視」の権能で素早く周囲を確認すると、大量の天使に囲まれた咲夜の姿が確認出来た。だがそれなりの近さにレミリアも存在しており、咲夜が彼女のカバーも行いながら戦闘していたことが分かる。

間髪入れず、待機させていた大量の蟲群を彼女の体内へと進軍させる。

俺が生えている咲夜の身体が、大きくビクリと痙攣した。

 

「お"、ふッ……!?」

 

喉から絞りあげるような声を漏らし、そして当然吐いた分の息を吸い込もうとした彼女の口元へ、俺が後ろから催眠スプレーを近付ける。

プシュ、と噴出音がする。

そして次の瞬間、俺の視界が今度はモノクロの世界へと一変した。

 

ーー時間停止。

 

だが、俺はこんな指示は出していない。

スプレーの噴出タイミングから考えて、これは催眠後に行われた時間停止であるにも関わらずだ。

つまりこれが意味するのは。

 

ぎこちない動きで、咲夜がこちらへ振り向いた。

それと同時に震える腕でナイフを握り締め、俺へと振るおうとする。

だが背中から生えている俺へ、振り向いての攻撃なんて当たるわけない。

ましてやボトボトとワームを股の間から溢す下半身を庇いながらの攻撃など、戦闘のズブの素人の俺だって見てから避けられる。

 

「ゴ、ぶ」

 

彼女の手首を掴んで捻り上げると、右手で思い切り咲夜の顔を殴り付けた。

鈍い音が響き、咲夜が苦しそうに呻き声を漏らす。

加えて何度か咲夜の頭部を殴打するが、返ってくる反応から俺は一旦打ち止めにした。

 

「づっ」

 

俺の拳も、相応に傷が出来ていた。

恐らくだが、これは簡易的な風の結界だ。

スプレーによる催眠を何度も見てきた魔理沙や射命丸あたりが、こうすれば弾けると周知したのだろう。実際射命丸には一度昏睡スプレーを弾かれているし、当然これくらいは想定されて然るべきだ。

結界を掛けたのはパチュリーだろう。咲夜自体を傷付けず、敵対者を害するように繊細な設定がされている。

殴ったり触れたりするのは可能だが、スプレーを吹き掛けて吸い込ませるには邪魔だ。口の中へスプレーの口を突っ込んで吹き掛けようにも、まず風の抵抗を押し退けた上で咲夜の口を無理矢理こじ開ける必要がある。不可能ではないが、時間も手間もかかるな。

 

「あなたが、黒幕ね…!?」

 

右腕を封じられて顔面を強打されたにも関わらず、咲夜は直ぐに持ち直し怒気を帯びた声で俺へと話しかけてくる。

可動域の問題で俺の顔は見えていないが、状況から見て察したのだろう。前回もそうだったが、気配を極限まで消している筈の俺への対応が非常に早い。

極めて厄介で、だからこそ優秀な駒だ。

 

「ここで排じ、っゥおえ"ぇっ!?」

 

咲夜が左手の指先でナイフを俺へ投げようとし、その途中で嘔吐いた。指で挟んでいたナイフも零れ落ち、しかし咲夜はそれに意識が向く様子はない。

 

「やっとか」

 

俺は少し胸を撫で下ろしつつ、咲夜の左手も拘束した。

これで彼女は両腕を上へと吊り上げられ、胸を反らして顔が俺から見えるようになる。彼女は身を震わせ、頬を膨らませて必死に何かを吐き出すのを堪えている様子だ。

現在、彼女の口内には大量の虫が溜まっている。これは、肛門から口側へと虫が逆流した為起こった事だ。

前回咲夜を催眠下に置いた時、肛門側には泥生成用の虫を侵入させていた。それらは気付かれないように体内を移動し、口側へと進みつつ泥を塗りたくっていたのだ。最初から口へ入れてもいいのだが、時間の問題と侵襲性の問題から気付かれそうだった為やめた。

だがこうして、咲夜の口内を泥に満たす事が出来た。

 

「ん"、んブッ、むゔ!?」

 

咲夜の口内の泥へ、時空間追跡を用いて俺の指先だけを侵入させる。

こうすればいくら風の結界を張っていようが関係ない。

そして俺の手の地肌と、その上に重ねられるこいしの肌の隙間にストローを通した。

移植している為肌同士が引き剥がされて激痛が走るが、こうしないと異物を時空間追跡経由で送り込めない為仕方がない。

そしてストローの先に催眠スプレーの口を繋げ、指先で咲夜の喉の奥を無理矢理押し広げた。

 

「ん"ん"っ、ゴボッ」

 

スプレーを噴出した。

中の薬品が俺の手の皮膚の間を通るストローを経由し、咲夜の体内へと注ぎ込まれる。

咲夜は身動きの取れない上半身をよじり、足をバタバタと暴れさせた。

股の間から大量の液体とワームがボトボトと零れ落ちるが、彼女はそこから叩き込まれる快楽よりも苦しさが優っているらしい。

それはそうだ。強引に肺へと気体と泥が注がれるのだから、端的に言えば溺水と同じ状態である。

だが、泥は眷属化の為に極めて粘性は高くしている。多少流れ込んで苦しいかもしれないが、それらも主気管支までで留まるだろう。短時間なら苦しいだけで済む。

そしてそもそも、これで咲夜の催眠が完了した。

こうなってしまえば、彼女が苦しむも苦しまないも俺の指示によって決まる事だ。

 

ーー咲夜、撃破。

 

スン、咲夜の目から意思が消えた。

暴れていた身体の力が抜け、俺も感覚として催眠が効いた事を認識する。

そしてその証左として、咲夜が止めていた時間が動き始めた。

 

 

「なんだ、急に暗くなったぞ!?」

「ーーッ!?咲夜、大丈夫!?」

 

近くから少女2人の声が聞こえてくる。

その内の1人は恐らくパチュリーのもので、彼女は咲夜の身に起きた異変に気が付いたようだ。

レミリアは吸血鬼なのだから暗視程度は出来るだろうし、彼女も異変に気付いて此方を見れば俺が見られてしまう。

だが、文字通り遅い。

ここからは、文字通り時間を止めるような速度が無ければ追いつけない。

 

「時を止めろ」

 

視界がモノクロへと変わった。

俺は再び指示し、急いで彼女を指定した場所へと飛行させる。

咲夜の時間停止自体に制限は無いーーというより原作準拠なら時を止めて昼寝をしているようなのでかなり長時間の筈だが、彼女自体の体力はかなり限界に近付いている。

時を止めての鎮圧作業に頼ってばかりはいられない。

 

眷属化した虫は兎も角、新たに入手した天使モンスターをこの部屋への援軍に呼ぼうにも、扉伝いに移動させるしかない。

そうなると侵入者達に逃げられる可能性がある為、現状ゲートを通じて予め送り込まれていた天使モンスター達と俺の元々の戦力のみで対処する必要がある。

そいつらに命令し、全ての戦力をレミリアと神奈子、そして諏訪子とパチュリーへと集中させる。

急激な視界の悪化と戦力の増加は、彼女らにとっても一筋縄ではいかない筈だ。

あわよくばそれだけで数人程度は鎮圧していて欲しいが、それでリソースが削られすぎると意味がない為、無理をさせずに時間稼ぎを目的として設定しておく。

そして残ったアリス達についてだがーー全く問題はない。

 

再びマニュアルを操作し、止まった時の中で悠々と射命丸、アリス、魔理沙の体内へ数秒ズラして順に大量の蟲を送り込んだ。

全てワームを進化させた催淫作用特化の個体であり、度重なる孵化作業でそもそも耐性が下げられた彼女らにとっては致命的な一撃となるだろう。

 

まだ暗闇で周囲の異変は殆ど気付かれていない筈だ。咲夜の悲鳴は聞こえているかもしれないが、それが何故起こったものかは把握出来ない。

加えて泥に染まったこいしの皮を被って暗闇に紛れている俺は、二重の効果で透明人間に近くなっている。

そこへ更に念を入れて時間停止を挟めばーー急に射命丸の目の前に現れても、俺が何も出来ないまま瞬殺されるという可能性は極めて低くなる。

射命丸の正面に移動したところで、咲夜に指示した。

 

「時を戻せ」

 

視界が色を取り戻した。

それと同時に、射命丸は目の前に突如として現れた俺を見て驚愕に目を見開き、慌てて何かしらの反撃をしようとしてーー全身を縦に貫く激烈な衝動に悲鳴を上げた。

 

「あ"ェえ"え"ィい"いい!??」

 

身体を海老反りにさせて嬌声を上げ、俺へと放ち掛けていた風撃を霧散させる。

その隙に俺は射命丸の服を持ち上げ、その下の臍に留められているピアスへ指で触れた。

それだけで、彼女の目から抵抗の意思が消え失せる。

今は快感に襲われて思考もままならない状態だが、それが収まると普段通りの様子で俺へと従い始めるだろう。

何故なら、一度俺が死んでしまった事で切断されていた催眠アイテムとの接続を修復したからだ。それによって前まで設定していた催眠の内容が復元され、射命丸は再び俺の支配下へと陥落した。

 

ーー射命丸、撃破。

 

一番危険だった射命丸を落とせば、後はアリスと魔理沙を落とせば良いだけだ。

改造の仕様の関係で眷属化が間に合わなかった虫へ指示を出し、その後咲夜に指示を出した。

 

「時を止めろ」

 

視界がモノクロになる。

咲夜は苦しそうに痰混じりの咳をしているが、まだ動けはする。

アリスの目の前へと移動させると、そこで時間停止を解除させた。

 

「ーーッ!?」

 

アリスは目の前へ現れた俺へ驚愕した表情を浮かべ、射命丸同様多少出遅れながらも反撃しようとする。

いや、射命丸よりも反応はむしろ早いか。

アリスは虫が体内へ送り込まれるよりも先に、俺へと憤怒の形相で攻撃しようと試みた。まるで予めある程度俺の行動パターンを読んでいたような反応速度であり、きっと彼女が万全の状態ならそのまま俺は殺されていたのだろう。

だが、そうはならない。

 

アリスが動かそうとした人形は彼女の命令に全く従わず、むしろアリスの身体を羽交締めにし始めた。

それを全く予想していなかっただろう彼女は、人形によって身体を拘束されて無防備に肢体を晒す。

その事態に至り、アリスは信じられないといった表情で人形達を見つめーー理由を察したのか、一瞬で顔を絶望に染め上げた。

そして時を同じくして、彼女の体内へとワームが送り込まれ始める。

 

「お"、ゔゔゥウ!?」

 

アリスは苦しそうに身体をジタバタとくねらせるが、人形によって殆ど全ての動きが抑えつけられる。

それは彼女の身体に与えられる快楽の逃げ場を無くし、同時に美貌の魔法使いから抵抗の余裕を失わせた。

いや、元々そんなものは無かったと言ったほうがいいか。

アリスは扱う人形の大半を虫製へと変更しており、扱える戦力は大幅に削られている。特に自動防御や上海等の近くで用いるものは念入りに入れ替えられており、現在の彼女は俺にとって殆ど丸腰で最も害の無い存在と言っても過言ではない。

 

絶望、恐怖、諦観。様々な感情の入り混じった表情で涙を浮かべるアリスへ近付き、彼女の服を捲り上げた。

そして白く陶器のような腹部を露出させ、臍に挿されているピアスへ触れる。

その瞬間、俺は彼女が再び俺の支配下に置かれた事を認識した。

 

ーーアリス、撃破。

 

「……次」

 

これで咲夜、射命丸、アリスを催眠下に置き直した。

残るイージーキルは、人間で最も非力な抵抗の手段の無い少女、霧雨魔理沙だ。

彼女にも同様に腸内へ泥を仕込んでおり、臍には永続の催眠用ピアスを装備させている。

時間停止して近付き、虫によって無力化した上でピアスに触れて終わりだ。

 

「咲夜、時間を止めろ」

「……ゼェ、フッ、ごふっ」

「……ん?」

 

視界がモノクロにならない。

視界を下に向けてみると、咲夜が辛そうに肩を震わせていた。どうやら俺の声は殆ど届いておらず、体調を整えるので精一杯のようだ。

いくら腸から虫を逆流させ腸内細菌と共に肺へと泥を多少誤嚥させたとしても、それによる肺炎が起こるには早すぎる。恐らく単純な身体の疲労から、先程の強引な催眠スプレーの注入が最後の一押しとなってしまったのだろう。

流石に無理をさせ過ぎたようだ。

 

仕方ない、俺だけでやろう。

全身を咲夜の背中へと沈め、泥で出来た星空の中へと戻った。

予め設定した時間差だと、今魔理沙の身体へと虫が転送されているタイミングだろうか。

快感に僅かでも慣れてしまう前に急いで催眠を掛け直そう。

魔理沙を示す光源へと近付き、彼女の背中側へ現れるように身体を潜らせる。

そして、魔理沙の背中から上半身を出した。

 

 

目の前に、八角形の何かがあった。

顔の肌が焦げるような熱を感じる。

いや、何かじゃない、これは八卦炉ーー

 

咄嗟に顔を泥へと沈め直した。

それでも俺の左耳が焼かれ、一瞬の鋭い痛みと共に左側の音が聞こえなくなった。

その衝撃によって僅かな間前後不覚となった俺は、誤って入るつもりじゃなかった光源へと身体を入れてしまう。

身体が空中へと放り出され、どこかの太い樹木の上へと転がった。

節々の痛みを堪えつつ状況を把握しようと必死に周囲を確認する俺の右耳に、聞き慣れた声が届く。

 

「よお、こうして話すのは、久しぶり、だな」

 

それは気の強さが透けて見えるような、本来なら快活な少女の声。

日常的に耳にし、そして同時に殆ど聞いたことのない彼女本来の声だ。

白黒の魔法使い、霧雨魔理沙。

彼女が、俺の視界の先で箒に跨って宙へ浮かんでいた。

 

「ブッ殺してやる」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。