レミリアを泥酔させて催眠下に置いた後、咲夜とパチュリーから事情聴取を行った。
そこで分かったことは2つ。
まず、レミリアは守矢一家とは関係なく、魔理沙に対しての警戒体制を敷いていた。
これはレミリアの能力によるものであったり、地霊殿で得たパチュリーの違和感であったりだ。どちらも俺の身に覚えのある理由であり、そもそも俺が紅魔館を警戒していた理由でもあった。
肝心の、何故守矢側と同時にやって来たのかという点だがーーこれは、本当に偶々のようだ。
レミリアが諏訪子と魔理沙への関連を何となくの勘で気付き、その場の流れで共に襲来して来たらしい。
何だそれはと言いたくなるがーー恐らくこれも、レミリアの能力の一環なのだろう。
次に、現状の紅魔館についてだ。
既にレミリアと咲夜、そしてパチュリーを抑えており、残る戦力は殆どフランと美鈴のみ。
その為鎮圧自体は非常に楽なのだが、懸念事項は一つ存在した。
レミリアはフランに対し、「今から魔理沙の家に棲まう邪悪な黒幕を退治しに行ってくる」と自慢していたらしいという事だ。
当然門番である美鈴も知っており、更にそこから口伝いで広まることを考えると、紅魔館に居る存在の殆どがそれを知っていると想定すべきだろう。
そうなると、あまり長時間レミリア達をここへ留めておくのは拙い。いや、何だったら現時点でかなり状態は良くないかもしれない。
レミリア達を紅魔館へ戻したところで、今後の為には彼女らもただ遊ばせておく訳にもいかないため、どこかでフランを始めとした残存戦力を陥落させる必要がある。
その過程で全ての面子を何の疑問も抱かせないままダンジョンへ閉じ込められたらいいが、そうでなかった場合、俺達への不信を紅魔館の外にまで広げてしまう可能性がある。
雇われているメイドは多いし、残るフランは戦闘力と破壊力は幻想郷でもトップクラスだ。仮にダンジョン外で戦闘になった場合、何かしらの物体ーー建物等の損壊は避けられないだろう。それだけで、「紅魔館で何かあった」という情報が周囲へとばら撒かれてしまう。
その場合に最も警戒すべきは、八雲紫のスキマを利用した監視だ。
既に冬が近く冬眠は始まっている可能性は高いが、だとしても騒動が大きくなれば藍が気がつくだろう。そして冬眠がまだだった場合、そもそも既に「魔理沙の家で何かあった」という情報が察知されている可能性すらある。
守矢一家と紅魔館というビッグネームを呼び寄せてしまった時点で、こうしたリスクは無視出来ないものになった。
ここから俺が取れる手段は2つ。
速やかに且つ目立たない状態で紅魔館を鎮圧し、これまで通り周囲の情報を集めつつ潜伏に徹する。
または、考古の憂いを断つためにこちらから攻めの一手を打つかだ。
どちらもすれば良いのだが、これは今後全ての方針というより、「今持っている使い切りの切り札を何に切るか」という話である。
今回ダンジョン戦争で勝利するにあたり、俺が得たものは多岐に渡る。
今まで持っていなかった武力や要求DPの高い施設は、当然筆頭に挙げるべき利益だ。
だがそれらを差し置いても、最も価値のある「切り札」が存在する。
それは、このダンジョンと外界を繋げるゲートの設置権だ。
このダンジョンは現在、魔理沙の家にゲートを設定している。
これと同等のものが、天使ダンジョンから「施設」として俺のダンジョンへ付与された。
天使ダンジョンの初期位置を決める為のゲートであり、俺が魔理沙の家に設定したものと全く同じ性能である。つまり、どんな場所にだって自由に設置する事が可能なのだ。
この有用性は、攻めにも守りにも使える事にある。
より強固な守りを固めるために紅魔館に設置してもいいし、最も厄介な八雲紫を倒す為に彼女の住居へ設置してもいい。
もしくは侵略の範囲を拡大する為に、地獄や魔界、はたまた月に繋げる手だって考えられる。当然リスクは高いが、こちらの戦力に余裕があるなら非常に有効な戦略だ。
「うーん…」
非常に有用な手段であるが故に、そもそも今それを切るべきかという疑問も浮かんでくる。
いや、自分で言っておいてなんだが、紅魔館鎮圧の為に切るべき手段ではないだろう。単純なゲートの増設なら泥やダンジョンの他の手段でも代用出来るし、この有用性は「自力では行けない場所にも設置出来る」という点にある。
そもそも紅魔館を完璧に鎮圧させたとしても、それと関係なく既に問題が発生している可能性がある。その場合、既にゲート設置権を切ってしまっているのは大きな痛手となるだろう。
やはり、使うべきタイミングまで温存しておきたい。
そうなると結局これから俺が取るべき行動は、今までと同様の方針になるか。
紅魔館を速やかに鎮圧し、様子を見ながら不安事項は潰していく。
保有戦力もDPも今までとは比較にならない程増えたし、取れる選択肢の幅も増えた。
それらを利用し、より良い一手を打っていきたい。
そしてその為には、何に於いても情報が大事だ。
「射命丸、研究室に来い」
『分かりました』
スマホ越しの俺の指示に対し、射命丸が即座に返答する。
彼女は、俺が持つ手段の中で最も優秀な情報源だ。幻想郷を高速で移動して情報を集められる彼女は、最早無くてはならない生命線となっている。
先程までは戦力として運用していた為、現在はそれが機能していない状態だ。
紅魔館へレミリア達を向かわせる前にも、事前に周囲の情報を得る必要がある為、射命丸は他の者より優先して身支度を整えさせていた。
「どうかされました?」
「ああ、こっち来てくれ」
身支度というのは、端的に身体を洗って綺麗な服に着替えるという意味に加え、金策用の蟲をセットするという作業も含まれる。
だが今回はそれに加え、新しく得たものを活用したい。
俺の傍に駆け寄って来た射命丸が、直ぐそばに存在するものを見て怪訝そうな顔をした。
「……なんです?これ」
「コピーロボット」
俺の回答を聞いた射命丸は、それでも尚首を傾げる。
これ以上無い程分かりやすい説明をしたと思うが、駄目だったようだ。ジェネレーションギャップーーそれも、俺の方が未来すぎるという稀有な例だろうか。
俺の目の前に置かれているのは、射命丸の胸くらいまでの大きさの白い物体だ。
のっぺらぼうのツルツルとした硬質の人型であり、見かけはマネキンと言う以外の何物でもない。
「……わっ、あったかいし…柔らかい?」
「まあ、生きてるしな」
「……え!?生きてるんですか、これ!?」
だが、これは紛れもなくモンスターだ。
つまり、生物である。
その意味では、コピーロボットという例えは極めて不適切だったかもしれない。だが、この性質を説明するにはこの上なく適切だ。
「これはメタ○ンだ」
「……何です?」
「いや、やっぱりいい。そりゃ分からんよな」
「???」
このモンスターの正式名称は、『ダルプライム・ドッペル』。そしてそれを天使ダンジョンにて軽く改造した後の、強化されたのか弱体化されたのかよく分からない個体だ。
「射命丸、服脱いでそこの浴槽の中に入れ」
「へ?あ、はい」
射命丸がいそいそと服を脱ぎ、裸のまま水色の液体で満たされた浴槽の中に入る。
水位は彼女の頭の上まであるが、モンスター化の際と同様に呼吸は可能だ。ただそれを知らない射命丸は、水を飲み込むまいと頑張っている。
この浴槽は、中に満たされた液体へ触れたもののデータを読み取る装置だ。
身体の状態、精神の傾向、能力の詳細等、多岐にわたる個人情報を総浚いしてくれる。そしてそれらのデータはマニュアルへと送信され、俺が確認出来るようになるという訳だ。
まあ、有用ではあるが、そこまで必要性が高い代物ではない。モンスター化すればそのくらいの情報は手に入るし、そもそも俺が欲しいような詳細なデータは取得出来ない。
だが、それは俺にとっての話だ。こうした個人情報から大きな利益を得るものは存在する。
その中の一つが、俺の目の前にいる白いマネキンーードッペルゲンガーという種族のモンスターだ。
「ほい」
手元のマニュアルを操作し、得たデータをマネキンへと送信する。
そうすると、白いマネキンがぐにゃりと姿を崩しーー次の瞬間には、その場に射命丸文が立っていた。
「ーー!?」
浴槽の中にいる射命丸が、マネキンが自分の姿となった事に驚愕し声を上げる。
そのタイミングで水を飲み込んでしまい、慌てて手で口を抑えているが、直ぐに息が苦しくない事に気が付いて不思議そうな顔をした。そして、水を飲み込んだ事で射命丸のデータ収集が終了する。
そのデータもマネキンへと送信しーーこれにて、劣化版射命丸が完成した。
「喋ってみろ」
「初めまして!毎度お馴染み射命丸文です」
「え、私が喋ってる。うーん、可愛いですね」
このドッペル射命丸は、性能としては本家に遠く及ばない。
外見は完璧だし、喋り方や記憶の模倣もある程度違和感を抱かれない程度には再現出来ている。ただ、その能力ーー戦力は、本家の半分の出力にも満たないだろう。
本来のドッペルゲンガーという種族は、もう少し再現度を高めることが出来る。
だが、このドッペルは少し特殊な種類であり、更に魔改造が施された個体だ。
再現度が高くなくても、それを補って余りある有用性がある。
目の前で互いにセクシーポーズを取り合っている射命丸2人ーーその内服を着ている方に指示を出した。
「うわっ……あれ、こいしさん?」
「そうだよー」
次に変化したのは、古明地こいしだ。
外見や立ち振る舞い、そして本家には劣るもののその存在感の無さも含め、本物に迫る完成度で再現されている。
だが、一つだけ明確に異なる点がある。
それは、背中から生える濡羽色の両翼だ。
「それ、私の翼ですか?」
「そうだねー」
このドッペルゲンガーは、外見と性格以外は中途半端にしか能力を再現出来ない。
だが、2人分の模倣を同時に行う事が出来る。
これを利用すれば、「古明地こいしの無意識の能力」を用いた状態で、「射命丸の機動力」を以て情報の収集を行う事が出来るのだ。
更に本家古明地こいしの皮でも移植すれば、その存在感の無さは更に再現度を上げる事が出来るだろう。そうすると、当にステルス索敵機だ。
古明地こいしは殆ど周囲へ出すつもりも無いし、創作にあるようなドッペルゲンガー問題も発生し辛い筈だ。
俺のダンジョンは蟲主体の為、そう多く動員出来る手段ではないが、活用法は他にも幾らでも思いつく。
「よし、お前は先に紅魔館周辺を偵察しに行け。射命丸は妖怪の山に戻って、いつも通り暇を見て全体……特に博麗神社辺りを見ててくれ」
「はーい」
「わかりました」
出来ることを一歩ずつ。
まずは、紅魔館を完全に俺の支配下に置こう。