※この作品はR-18です。

東方蟲蔵録   作:玉蹴り男

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第四十九話

『宴会してるよー。赤い服と金髪の子は見えないね』

「いいね、子機含めてバレてる素振りはある?」

『うーん、わかんない』

「そうか、じゃあまだいいかな」

 

ドッペルこいしの通話越しの声に返し、今度はレミリアの持つスマホへ指示を出した。

 

「じゃあ、言った通りに」

『任せろ』

 

自信満々な少女の声が返ってくる。

逆に不安になってくるが、パチュリーも咲夜もついているし大丈夫だろう。

 

現在、こいしと射命丸を複合させたドッペルゲンガーを偵察機として先に出している。

加えて、センサーの様な役割を果たす羽虫も外へとばら撒いていた。

知性レベルは低い為細かい指示は出せないが、一定範囲の知性体を察知する為の子機でしかないため、それで何の支障もない。親機はレミリアとドッペルゲンガーの体内それぞれに埋め込んでおり、そこから一定範囲内の羽虫達が集めた情報は俺に飛ばされるという寸法だ。

それによると、現在紅魔館周辺に特別強力な反応はない。そして博麗神社ではおそらく異変解決の宴会が開かれており、有力な者達がそこへ集まっているかたちだ。

そこへレミリアや守矢達が参加していないことは訝しまれるかもしれないが、どうしようもないので一旦気にしない事にする。

 

レミリア達が紅魔館へと向かっていく。

そうでなくては困るが、現状何の問題もないようだ。

彼女らは戦闘による疲労が完全に抜け切ってはいないものの、ボロボロの服等はある程度直してある。それぞれを完全に催眠下に置き直しているし、仮に解けた場合の保険も装備させた。

彼女らについての不安要素は、現時点では特に無い。

 

『着いたぞ。言われた通り、いつも通り振る舞えばいいんだな?』

「いいよ。それが一番怪しまれないだろ」

『フフ、怪しいのが吸血鬼の生業なのだがな』

 

紅魔館の鎮圧に関しては、殆どレミリア達に任せる事にした。

と言うより、大まかな方針は俺が決め、それを恙無く進めるのを彼女らに任せた。普段の振る舞いや各キャラへの対処など、事前に知っておかなくてはならない情報が多すぎる。わざわざ俺が全て関わる必要もない。

 

そもそも、方針自体が単純なものだ。

怪しまれるまでは、普通に過ごしてもらう。

それがいつまでになるか分からないが、可能ならその期間でダンジョンと紅魔館の直通ゲートを建設する。

パチュリーに聞いたところ、凡そ2日もあれば何不自由ないものが作れるとのことだ。

その間、メイド等は全て何かしら口実をつけて紅魔館へ拘束する。殆どいないだろうが、客も基本的には締め出しだ。

それまでにフランなどが何か勘づいて暴れ出したなら、それは頑張って鎮圧するしかない。

まあ、そこも含めて彼女らに任せよう。

今手が空いた俺には別にやる事がある。

 

「射命丸、妖怪の山はどうだ?」

『特に変わりはありませんね。仕事サボってたのを叱られたくらいです。まあ、稀によくある事ですよ』

「ああそう。守矢神社周辺は?中に入れそうか」

『大丈夫です。早苗さんは宴会にいるんですよね?』

『いるよー』

「よし」

 

これから同時進行で守矢神社の陥落も行う。

神々を催眠下に置けない以上、時間が経てば経つほど不利になるのは俺だ。

幸い相手は東風谷早苗だけだし、戦力的にも先延ばしに必要性は無い。それに折角守矢神社という優秀な土壌があるのだから、試してみたい事もある。

準備する期限は、彼女が宴会から帰ってくるまでの数時間だ。

さっさと取り掛かろう。

 

 

◇

 

 

「うぷ、飲みすぎたかも…」

 

久し振りにお酒を飲んだからか、今日はかなり酔いが回るのが早かった気がする。

いや、今回の異変に大きく参加していたのもあり、普段より他の人妖から絡まれたというのもあるだろうか。

とにかく、今の私は酔っていた。

 

「えっと、大丈夫ですか?まだ酔い覚ましありますけど、もうひとつ飲んでおきます?」

「あっ、ごめんなさい、大丈夫です!酔いはかなり抜けたんですけど、まだ気分が悪くて…」

 

横から心配そうに掛けられた声に、私は慌てて言葉を返す。

つい気を抜いて独り言を言ってしまったが、現在私は介抱されて自宅へ帰っている途中だったのだ。肩を貸してくれているのは、永遠亭の鈴仙・優曇華院・イナバさん。べろんべろんの私を気遣って既に一度酔い覚ましまで貰っており、私は現在進行形で彼女に大迷惑を掛けている最中だった。

そんな彼女は、私の言葉に「あー」と相槌を打つ。

 

「私もよく姫様達に酔い潰されるので、その気持ち分かります。もう最悪ですよね」

「うわあ、大変ですね…」

「一回吐いちゃえば楽になりますけど、そうしてみます?」

「い、いやー、流石にそこまでご迷惑になる訳には…」

「そうですか」

 

彼女は永遠亭の薬を売りに人里へと時々赴いており、そこで人々の健康上の相談なども受ける事があるらしい。

私を介抱する際も出際が良かったし、酔っ払いの相手に慣れているのかもしれない。

とは言え、流石に乙女としてゲーゲー吐く様を周囲に見せびらかす訳にもいくまい。直ぐにでも横たわってしまいたい身体の重さを堪え、早く自宅ーー守矢神社へ帰る事が、鈴仙さんへの一番の恩返しになるだろう。

後日お礼は別にするけど。

 

「あっ、見えました。あそこです」

「…あっ、あれか。へー、大きいですね。えーと、神様達はあそこに居るんですか?」

「うーん…いや、神奈子様と諏訪子様はまだ戻られてないと思います」

 

あの2人の性格からして、用事とやらが終わったらそのまま宴会に参加していそうだ。

何をしているのかは知らないが、まだ帰っていないと考える方が自然だろう。

事実、守矢神社の全景が見える位置に着いて尚、明かりは全く見えない。

 

「……ん?」

 

直ぐ隣で、鈴仙さんが怪訝そうな声を出した。

其方を見ると、眉を顰めて神社を見つめる彼女の姿が目に入る。

 

「どうかしたんですか?」

「あ、いや……大丈夫、気のせいだと思います」

「?はあ…」

 

何に違和感を覚えたのかはわからないが、いつも住んでいる私から見て、守矢神社に特に異変は見受けられない。

鈴仙さんも気の所為だと言っているし、特に気にする事でもないか。私が言うのもなんだが、彼女もお酒を飲んでいる。何も無い場所に何かが見えるなんて、お酒を飲んだ夜にはありがちな話だ。

神社の境内に着地し、彼女にあらためて向き直った。

 

「ここまでで結構です。わざわざ介抱して頂いてありがとうございました」

「そう?まだフラついてますし、そこまで送りますよ」

「いえ!お陰様でかなり楽になりました。全く問題ありまーーいたっ!?」

 

むん、と力こぶを作って見せようとしたところで、足元がおぼつかずこけてしまった。

酔っているせいで受け身も取れず、左手を右腕に添えた間抜けな姿勢で倒れ込んでしまう。

 

「……」

「……やっぱり、寝るところまでは送りますよ」

「………はい…すみません…」

 

恥ずかしい。

鈴仙さんの子どもを見るような視線が肌に突き刺さる。

大人しく彼女の肩に再び捕まり、共に神社へ向けて歩みを進める事にした。

 

「普段から神社で生活してるんですか?」

「はい、そうです。…あ、こっちです」

 

神社の戸を開け、靴を脱いで中に入る。

寝室は直ぐそこなので、そこまではお言葉に甘えて鈴仙さんに付き添ってもらう事にした。本当に頭が上がらない。今度菓子折りを持っていこう。

 

「布団はこれですか?敷いておきますね」

「うっ…すみません何から何まで…」

 

今日はもう眠くて仕方がないし、お酒も回っている為お風呂はまた明日にするが、顔を洗って歯は磨いておきたい。私が寝るまでは念の為居てくれるとのことで、寝支度を整えている間に布団を敷いてくれることになった。

頭が上がらなさすぎる。

ぺこぺこと頭を下げつつ、顔を洗う事にした。

 

 

「ーー」

「……ん?」

 

洗顔を終えて歯を磨いていると、鈴仙さんの声が聞こえた気がした。

歯ブラシを動かすのを止めて耳を澄ますが、特に声は聞こえない。気の所為だったのだろうかと思いつつ、口の中にあったものを吐き出し、水で口を濯いだ。

もしかすると、布団を敷いた事を私に知らせてくれたのかもしれない。

少しだけ急いで物を片付け、寝室に駆け足で戻った。

 

「……あれ?鈴仙さん?」

 

寝室に戻ると、そこには床に敷かれた布団一式のみがあった。

他には何も無い。つまり、これを敷いてくれた鈴仙さんも居ない。

 

「…あっ、さっきのは『帰るよ』っていう声掛けだったのかな」

 

何となしに思いついた事を口にすると、それがとても尤もらしい気がした。私が寝るまで確認すると言ったのは鈴仙さんだが、具体的にどこまで確認すると言ったわけではない。

布団を敷いて準備までしてくれたのだ。寝床を確保して、自分の役目が終わったと判断し帰ったのだろう。

私はそう納得し、しっかりと感謝の言葉を伝えられなかった事を少し残念に思った。尚のこと、近いうちに彼女へお礼を言いに行かなくてはならないだろう。

私は心の中でとても親切な彼女へ感謝をしつつ、布団の中に潜り込んだ。

 

「うーん…ねむい」

 

入った瞬間、必死に押し留めていた眠気が堰を切ったように押し寄せてくる。

先程までは帰路の途中だったし、介抱してくれている鈴仙さんにこれ以上迷惑を掛けられないという理由もあって、気力を絞って眠気に抗っていた。

だが、もう我慢する必要はない。

私は速やかに意識を手放し、眠りの渦へと身を沈めていった。

 

 

そして私は夢を見た。

それは、人里の皆さんに代わる代わる犯され嬲られる夢。

今の私に知る由もないが、私はこれから毎晩同じ夢を見ることになる。

この日を境に、私の日常が悪夢に侵食され始めた。




このあたりから人によっては苦手要素があるかもしれません。
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