俺の安全を確保するために必要な事は何か。
というよりも、今の俺に足りていないものは何か。
そう考えた場合、やはり「何かやらかした場合」の緊急手段が存在しない事が真っ先に思いつく。
俺の住処はこのダンジョンであり、ここに攻め込まれると逃げ込む場所はない。
取れる手段といえば、戦力を集めて迎撃する事だけだ。
だが、そんな手段はあってないようなものでしかない。攻め込んでくる戦力は、原作知識のある俺からしても推定する事が出来ないのだ。
だから、万が一に備えて取れる手段を増やす必要がある。
大分すると、二つのパターンになるだろうか。
まずは、俺自身が逃げ込める場所を新たに作ること。
そして次に、概念的には核爆弾のような致命的な何かを、脅しの手段として掌握する事だ。
逃げ込む先というのは、正直あまり思いつかない。
一時的に何処かへ逃げ込む事が出来ても、俺の心臓とも言えるダンジョンコアを破壊されてしまえば結局死ぬ。
自身の空間を持つ神格級のモンスターを使役し、そこへ俺とコアを呑み込ませてもいいがーーそうしたところで、どうせその先は存在しない。ただ死なないだけでも儲け物だが、いずれ外に出なくてはいけなくなった時に殺されて終わりだ。
やはり逃げというのは、その後の打開策がないと意味が無い。
その点、本命となるのは後者の案だ。
何かしら致命的な罠をはって、攻め込まれた時にそれを起動させる。
非常に効果的で理想的な方法だがーー単純に、そんなものを用意できるのかという疑問に当たってしまう。
そもそも何が致命的な弱点になるかなんて攻め込んでくる者によるし、どう準備すれば良いか分からない。
いや、全員に共通するする弱点ならあるか。
というより、ここに攻め込んでくる者なら共通するものがある。
それは、この幻想郷という存在だ。
ここに住む者は皆、時代の変遷と共に幻想が薄れていく事を危惧し、この場所を避難所としてやって来た者達だ。
即ち、彼女らは幻想郷以外に行く宛はない。
なら、ここを脅かしてしまえば、幻想郷に住む者への共通の地雷と化す訳だ。
そして幻想郷を脅かすとなれば、何を狙えば良いかも自ずと見えてくる。
そう、幻想郷を幻想郷たらしめているもの、つまり常識と非常識を隔てる境界だ。つまり、それを維持する者達ーー博麗霊夢と八雲紫である。
「……そいつらをどうにかする為の案を考えてたんだけど」
堂々巡りである。
攻め込んでくる恐れの高い、八雲紫と博麗霊夢の対処法を考えていたつもりだったのに、結局彼女らを何とかする事が最も効果的な手段だという結論になってしまった。
ため息をつき、作業の手を止めて口を開いた。
「アリスなら、霊夢や八雲紫を密かに無力化するならどうする?」
「……霊夢と紫?」
「ああ。どんな状況想定でもいいけど、とにかくそれ以外の奴らに出来るだけバレずに済ませる方法とか、思いつくか」
アリスは視線を僅かに落とし、考えを巡らせる。
現在彼女は、自分達と守矢一家の服の修繕を行なっていた。そしてそれに並行し、蟲の産卵作業を俺が行なっている。
とは言えそれなりに刺激が高い為、催眠によって意識は裁縫作業のみに向けるようにしていた。その為下半身はガクガクと痙攣させながらも、顔色は僅かに悪くするだけで普段通り作業を進めている。
アリスは少し黙って作業の手を止めた後、俺に向けてゆっくり口を開いた。
「あなたの言う無力化がどういうものか分からないけれど、幾つかは思いつくわ」
「おお。どうすればいい?」
「まず霊夢について、単純に眠らせるだけなら食事やお酒に薬なりを混ぜればいい。あの子は変に勘が鋭いけど、どんな場合でもって訳ではないわ。宴会とか、だらけている時とか…特に気を許している相手からの行動にまで、特別警戒したりはしないわ。普通の女の子だもの」
「ああ、成る程」
アリスは人形を操る手を再開させながら、手元に視線を向けたまま言葉を紡いでいく。
友人を陥れる策を話しつつも、なんて事ない日常会話の最中のような様子だ。催眠によるものだと俺は理解しているが、かなり異様な光景ではある。
そんなアリスは、霊夢の弱点について話し続ける。
「戦闘状態の彼女につけ込むのはかなり難しいわね。だから大事なのは、彼女をルールで縛ってしまうことよ。弾幕ごっこの範疇で戦ってしまえば、彼女の無敵に制限が出来る」
「そうだな。そう出来れば楽だけど…」
「そう出来ないなら、空間自体を有毒化させれば効くと思うわ。耐性を付けた人外のみに絞って当たらせるなりすれば、人間の彼女だけが被害を被ることになるもの」
「ふむ」
「残念ながら、それくらいしか対処法はないかもね。あの子はちょっとおかしいから」
まあ、尤もな話だ。
挙げられた対処法は効果的だが、特別新しい情報というわけでもない。霊夢について俺より遥かに詳しい彼女からしても、特別効果的な攻略法は思いつかないようだ。
「八雲紫についてだけど、正直私にはよくわからないわ。普段の生態も、住んでるところすらも知らないもの。聞くなら、彼女に詳しい人にした方がいいわ」
「…そんなの居るか?」
「いるでしょ、古株なら流石に。あとは、ご友人の西行寺幽々子とかね」
「ああ…」
確かに、そうかもしれない。
誰にでも効く初見殺しなら兎も角、搦手なんてのはその相手について情報を知っていてなんぼのものだ。
地底で実験を進めてはいるが、情報収集の為の蟲開発に本腰を入れる必要があるかもしれない。
なら、八雲紫についてはまた後だ。
霊夢を抑える事が彼女への切り札になるし、まずは霊夢の攻略について考えよう。
少し悩みながら、作業の手を再開する。
新しく蟲を呼び出した。
出てきたのは、緑色の半透明な胴体を持つミミズだ。これは子宮体部を超えて卵管へと進み、そこから卵巣へと触手を侵食させる生態を持つ。目的は繁殖だが、こうする事でより母体の遺伝子情報を反映した個体を生み出す事が出来る種らしい。
どうせ生まれるのはミミズだし、ちょっと突然変異し易く卵管を活用出来る種というだけなのだが、これらを人形の脳部の材料にすればアリスの魔力との親和性が高い事が分かった。その為、各種蟲開発の材料として他の母体にも仕込んで産ませている。
うぞうぞと胴体を膣部に潜り込む様子をぼんやり眺めながら、黙々と裁縫をしているアリスに話しかけた。
「今、人里の住民を利用した活動を始めてるんだけど、どの程度彼らの動向が八雲紫に把握されてるかわかるか?」
「…いや、場合によるとしか…?どういう事を想定してるの?」
「そうだな……例えば、住民をクローンと入れ替えるとかはどうだ」
俺の発言に、アリスは少し顔を顰めてから考え込む。
そして数秒の後に、記憶を探り探りといった様子で口を開いた。
「恐らくだけど、それは大丈夫でしょうね」
「なんで?」
「そこまでの興味は無いからよ。彼女は根本的に妖怪だもの」
「餌としてしか見てないと?」
「いや、そこまでは言ってないけど……。少なくとも、人が多少消えたり死んだりしたところで、まず騒ぐのは彼ら自身。次に霊夢が呼ばれて、そこから異常があるなら彼女も重い腰を上げるという程度の筈よ。ある程度確認はしているかもしれないけど、直接的に幻想郷の維持に影響がある訳ではないのに、彼女から解決に乗り出したところを見た記憶が無いわ」
「そんなものか」
相槌を打ちながら、白濁液と彼女自身の分泌物でドロドロになった股を布で拭く。膝あたりに引っ掛かっていた下着を掴み、引き上げて履かせた。
産卵作業によって下半身の力が抜けているのか、ある程度俺が支えてやらないと腰砕けになりそうな状態だ。腰を掴んで椅子に座らせると、俺も腰を上げて立ち上がる。
「じゃあ、明日お前は村に人形劇をしに行ってくれ」
「いいけど、どうして?」
「夢魔を送り込むくらいは出来ても、人1人を連れ帰るだけの人員は無い。それなら最初から人形に擬態させたドッペルゲンガーを連れて行く」
「分かったわ」
夜に射命丸なりに攫わせてもいいが、その様子を見られでもしたら一発アウトだ。
俺の保有するドッペルゲンガーの数はあと僅かだが、そいつらは擬態精度が高い純正の個体だ。
多少DPは掛かるが、飲み込んだものを異空間に送り込む妖怪なりをコピーさせておけば、人里に送り込んでから人攫いが出来るだろう。
ある程度方針は決まったが、やってみないと効果があるかも分からない。
紅魔館も守矢神社も片付いていないし、気を配らないといけない事は多い。
まだ暫く気が抜けないな。