――眩しい……
意識もまだはっきりしない中で自分が最初に思ったのはそんな感想。
次に思ったのは、ただ”眠い”という感情だった。
「(あ……れ?俺、なんか大事な事忘れてる気がするな……)」
別に特段、やらなきゃいけない事など無いはずなのに、ふと自分の心に芽生えてくる使命感。
そして、胸に穴が空いてしまったと錯覚する程の喪失感が身体全体を駆け巡る。
目はいつの間にか覚醒し、部屋の白い天井を見上げていたが、ずっと思考はもやもやとしたままで気持ちが悪い。
「(確か、俺は……たし、か……)」
思い出す程に痛くなっていく頭を我慢し、今までの事を思い出そうとした時。
不意に、勢いよく部屋の扉が開いた――
「おはよー!ルフィ……!よく眠れた?」
太陽のように明るい声が聞こえると共に部屋へ入ってきたのは、可愛らしいピンクのエプロンを着けた自分の幼馴染みの少女であるウタ。
その姿を見た途端、すぐにぼんやりしていた記憶が一瞬で蘇ってきた。
「ああ、よく眠れた。昨日は悪かったな、花畑に連れてってやれなくてよ」
「ううん大丈夫……昨日は色々あったし、今日の方が天気良さそうだからさ!」
「そっか、なら飯食ってすぐに行くか!」
「うん!」
そうだ。経緯は忘れてしまったが、自分とウタはフーシャ村で結婚したのだ。
正直言って、結婚したから何かが劇的に変化したわけではないものの、ウタが幸せそうに笑っているだけで満足だった。
今こうして彼女が自分の傍に居てくれることが嬉しい……
「(昔はいきなり別れちまったけど、これからはずっと一緒だもんな)」
その事実を改めて噛み締め、ベッドから飛び起きると、妻であるウタの手を包み込むようにして握った。
「っ……!ルフィ?」
「ウタ。ずっと一緒にいような」
「もう!前からずっと一緒でしょ?ルフィ……」
ふくれっ面になって怒るウタの顔に愛らしさを覚えていると、気付けば自然に彼女の唇へ自身の唇を重ねていた。
最初は少し驚いた様子であったウタだったが、すぐに接吻を受け入れて目を閉じ、握っていた手を握り返す。
そして、数秒間か数分間……いや数時間とも錯覚してしまう程に濃厚な接吻を交わした後、ウタと共に笑い合った。
あの頃に戻ったように――
寝室でウタと唇を合わせた後、ルフィはウタの手に引かれて部屋のリビングまで足を進めた。
元からここへ住んでいたはずであるが、不思議なことに部屋がどこへあるのかが分からず、ウタに手を引かれるままに足を進めるしかない。
記憶には、この家でウタと共に過ごした思い出がしっかりと刻まれているが、それでも実感としては全くと言っていい程に湧いてこなかった。
やっぱり、何かおかしい気がする……ルフィの顔が少し怪訝そうになるのも束の間、ウタが不意に足を止めて自慢げな顔で振り向く。
「ルフィ、ちょっと目瞑ってて」
「え?何でだ?」
「いいから、いいから。とりあえず瞑って」
視界を両手で塞ぐ程に目を瞑らせようとするウタに渋々従い目を瞑ると、ウタは繋いだ手を引っ張って、やや強引にルフィを椅子へと座らせる。
何か面白いものでも見せてくれるんだろうか?ルフィがそんな疑問を抱きつつ大人しく待っていると、テーブルらしき所に皿が置かれる音がした。
「よし、準備OK!ルフィ、目を開けていいよ!」
弾んだ声で目を開けるように促すウタの声に従い、素直に目を開けた瞬間、ルフィは顔を驚かせた。
「じゃじゃーん!これ、私が自分で作ったんだよ!」
ウタが胸を張って指を指し示す方へあったのは、テーブル一杯に乗せられた骨付き肉やおにぎりにパスタといった様々な御馳走。
並の人間では食べきれない量の料理が、そこにあった。
「すげぇな!お前、料理もできたのかよ!」
「うん、ここに来てから練習してたんだ。最初は失敗してばっかだったけど、今はルフィの前に出しても恥ずかしくないぐらいには上達できた」
「そうか!ありがとな、ウタ!」
思わず嬉しくなってウタの頭をわしわしと撫で、屈託の無い笑顔を向けるルフィ。
そんなルフィに頬を赤く染めると、ウタはそれを誤魔化すようにして手を叩いて話を切り替える。
「よし、とりあえず食べよ?せっかくの料理も冷めちゃうしさ!」
「おう!それじゃ、食うか!」
「はい、召し上がれ!」
ウタがそう言うと、ルフィは早速骨付き肉を口いっぱいに頬張り、更には他にテーブルへ置いてあったサラダやおにぎりも全て口へと入れた。
相変わらずの姿に苦笑しつつ、ウタもルフィの対面にある席へと座り、骨付き肉を齧り始める。
すっかりルフィは、自身の心にあった違和感を忘れ、ただひたすらに食べ物を咀嚼し味わうことに集中していた。
「んん……!んっ!」
「ルフィ、ちゃんと飲み込んでから喋って」
「んっ!」
ジト目でウタが喋ろうとするルフィを注意すると、素直にルフィは頷き、急いで口の中の物を噛んで飲み込む。
当然ながら何も飲まずに口にあった物を飲み込もうとしたため、途中で喉が詰まりそうになるが、気を利かせたウタが水を咄嗟にルフィへ手渡して事なきを得た。
「ふぅ……最高にうめぇな、ウタの飯は!」
「ふふ、良かった。ルフィがそう言ってくれるだけで、苦労して作った甲斐があったよ」
純粋なルフィの感想を聞き、ウタも心の底から嬉しそうに微笑む。
――ああ、夫婦っていうのはこんなものなのか……
いまいち、というより全くもって恋愛事に無知だったルフィにとって、ウタの笑顔を見るだけで彼女が自分の妻であることを再認識させてくれる。
もう幼馴染みの関係ではないことも――
「さぁ、もっと食べてね?いっぱい食べたら、今日こそは花畑に連れて行ってもらうんだから!」