※この作品はR-18です。

二人だけの新時代   作:若杉優太(テト/teto)

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 お待たせして申し訳ない!


堕ちた歌姫

 恐怖、絶望、悲しみ……そんな負の感情を一度に味わうのは何時ぶりだろうか? 

 少なくとも、この二年間の間では一度も経験していない。

 自分の中で記憶があるのは頂上戦争の時に味わった死への負の感情だが、まさかそれを超える感情を味わうことになるとは思いもしなかった。

 

 

 

「はぁ……っ!はぁ……ッ!もう、駄目……か……」

 

 多くの民家が立ち並んでいたであろう通りに倒れ伏し、地を這うピンク髪にバンダナをした青年コビー。

 彼が無念の表情で前を見つめる先には無数の海賊や海軍を含めた猛者たちが、死屍累々と折り重なっており、その全員が完全に意識を無くしてしまっている。

 何も知らずにこの光景だけを見てしまえば不可思議に思うが、周りにある民家が全て倒壊し、残骸が少しだけ残る状況を見れば、壮絶な戦いがあった後だと予想は付く。

 それを引き起こしたのは――

 

「あれー?まだ意識があるんだ……すごいね」

 

 場違いな明るい声が聞こえたかと思うと、奥にあった民家の残骸である壁が崩れ落ち、一人の少女が姿を見せる。

 その少女の名前はウタ。

 世界中で愛され”歌姫”と呼ばれる彼女であったが、今の彼女は世界を破滅させようとする”悪魔”と言っていい存在へと変貌していた。

 

「ウタさん……ッ!もう止めてください!何の為にこんなことするんです……ッ!?こんなことしても、みんなは幸せになんかなりませんよ……ッ!!」

「うるさいな。私はみんなに言われたから、この世界を創って招待してあげたの……なのに、みんな文句ばっかり言って感謝一つすらしてくれない。だから、自業自得だと思わない?」

「……ッ!ウタさん……貴方という人は――ッ!!」

 

 真面目に訴えかけたコビーの神経を逆撫でするような言いぐさをし、彼を嘲笑うウタの姿。

 少し前までは自身のファンに向けて笑顔で手を振り、ウタを披露していたとは思えない程の悪辣さを見せる彼女に、コビーは怒りで目の前が真っ赤になってしまいそうだった。

 

「あははははは……っ!そんな怒らないでよ。別に現実では死んじゃうかもしれないけど、ここではちゃんと生きていけるから。まぁ、生きれるって言っても”物”としてだけどね?」

 

 怒気の籠ったコビーの視線を受け流しつつ、楽しそうに笑うウタ。

 どこまでも話の通じない彼女に再度言葉を掛けようとした時……不意に、彼女の視線がコビーから対面にあった民家の瓦礫へと移る。

 すると、そこにあったのは先程と同じような民家の白い壁。

 一見すれば誰も居ないように思えた壁の残骸の影から現れたのは、コビーがよく知る人であった。

 

「ふぅ、少々手間取ったな……」

 

 自身の肩を片手で揉みつつ、もう片方の手で金髪の青年の首根っこを掴んで引きずり回す青年の名はルフィ。

 コビーが海軍に所属し、大将という名の高みを目指せているのは全てルフィのおかげ。

 そう言っても過言ではない程の大恩人であるが、今はそんな大恩人がコビーにとって憎悪すべき敵となっている。

 何故なら、この地獄絵図のような状況を引き起こしたのは紛れもなくルフィであるからだ。

 

「……ヘルメッポ、さん……ッ!?しっかりしてください……ッ!!」

 

 自身の身体もボロボロであることにも関わらず、コビーは必死にルフィに掴まれたままのヘルメッポへと呼び掛ける。

 だが、既に彼の意識はなく、頭から大量に流れる血や粉々に破壊されたサングラスを見れば、生きているかどうかさえ怪しいとも思えてしまった。

 

「ルフィ、そいつで最後?」

「ああ。終わりだ……わりぃな、時間かけちまって」

「ううん、大丈夫!ありがとうルフィ♪」

 

 絶望するコビーを蚊帳の外にし、仲睦まじく会話をするルフィとウタ。

 相も変わらず明るい声と表情を保ったままのウタに対し、ルフィの表情はこれまで見たことのない程に真剣で憎悪に染まった顔で掴んでいたヘルメッポを無造作に放り投げ、倒れるコビーへ見下すような目線を送る。

 

「ルフィさん……ッ!正気に戻ってください!貴方は、海賊王になる男でしょう……ッ!?こんな所で止まる男じゃないはずです……ッ!!」

「……?何言ってんだ、俺が海賊?そんなわけねぇだろ。俺はお前みたいな奴からウタを守る為に、この村にずっと居た……俺を海賊なんかと一緒にするな」

「――ッ!?」

 

 必死に訴えかけるコビーに返ってきたのは、更なる怒りと軽蔑を感じさせる瞳。

 ――きっと操られているんだ。

 本心ではそう思いたかったが、ルフィの瞳はしっかりと意思を宿しており、とても操られているようには思えない。

 いや、ウタに何かはされているだろうが、戻す手段がないと言った方が正しいだろう。

 

「(たとえ、その方法が分かったとしても、ルフィさんとウタさんを止めれる戦力は……ない)」

 

 再度倒れる海賊達やヘルメッポを見つめ、ピクリとも動かない自身の身体を情けなく思うと、コビーは残酷な現実に打ちひしがれるしかなかった。

 

「それじゃ、ルフィは先に行ってて。この人は私一人で十分だから」

「おう。待ってるからな」

 

 そう一言だけ言い残し、ルフィはコビーが呼び止める間もなく、この場から走り去ってしまった。

 ウタは走り去っていくルフィの背中が見えなくなるまで見つめた後、不意にコビーの方へと向き直ったかと思うと、そのまま倒れたままのコビーの元へと足を運んだ。

 力無くコビーが顔を上げて彼女の顔を見れば、やはり楽しそうな顔をしている。

 

「ふふ、待たせたね。まずは貴方から身体を変えてあげる……嬉しいでしょ?」

「……」

「貴方はどんな物にしてあげようか?リクエストがあるなら聞いてあげてもいいよ、花かな?木かな?それとも椅子?ぬいぐるみでも、おもちゃでも……なりたい物があるなら言ってね♪」

 

 無邪気な笑顔に狂気を映し出し、コビーへと笑いかける歌姫。

 ライブ会場で見ていた時の彼女の笑顔は可愛らしく、裏表のない笑みだったはず。

 だが、どうしてだろう?今の彼女の笑みや瞳は、獲物をじわじわと絞め殺す蛇のように恐ろしく見えてしまう。

 海軍将校となってから、いかなる相手に対峙してもアルビダの船に居た時の臆病な恐れは一切なくなったと思っていたが、それはただの勘違いだったと思い知らされる。

 

「あ――あ、ああ……ッ!!」

 

 ――恐ろしい、恐ろしい、怖い……怖い……!

 身体の震えも、湧き上がる恐怖心も抑えれず、半狂乱に陥るコビー。

 死にたくない。物になんか変えられたくない。

 今まで表に出さなかった感情を出し、情けなく涙を流すが、無情にもウタの手はコビーの額へと触れられてしまう。

 

「じゃあ、さようなら。これからは、この世界の一部として幸せに生きてね……私とルフィだけの世界で♪」

 

 そんなウタの弾んだ声が響くと、次の瞬間に辺りは静かになっていた――

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