フーシャ村から少し外れたところにある、一軒の教会らしき建物。
その建物は明らかにフーシャ村で建てたとは思えない豪勢さがあり、教会というよりかは大聖堂と言った方が正しい程の規模を誇っている。
純白な白い壁に、趣のあるステンドグラスや入口付近に設置された噴水等……外から見ただけでも立派である大聖堂は、基本平原しか広がっていないフーシャ村の近辺には明らか不釣り合いな建物だが、そんな大聖堂に今日は多くの人が集まっていた。
「ついに、歌姫が結婚か!待ち遠しいな……!」
「そうだな!あの歌姫が結婚するんだもんな!!」
入り口前の広間でごった返す人だかりが目指すのは大聖堂の中。
目的は今日行われる結婚式を間近で見る為である。
「押すな……っ!押すな……っ!!」
「てめぇこそ押してんじゃねぇ……ッ!」
「んだと……ッ!!やんのか……ッ!?」
式の外では乱闘が行われたり、暴言が飛び交っているものの、驚くことに聖堂の中は足音一つすら響くことがない厳粛な雰囲気で包まれていた。
聖堂の中に並べられたベンチには人が隙間なく詰めかけており、ベンチに座る老若男女問わず様々な人々が聖堂内の中央へと視線を送る。
そこには、主役であろう二人の新郎と新婦が居た。
「ルフィ……やっとだね?」
「おう、やっとだな」
互いに笑みを交わし、手を取り合うのは純白のウエディングドレスに身を包んだ新婦のウタと、真っ赤なスーツを着こなす新郎であるルフィ。
二人のどちらもが式に相応しい服装であったが、特に参列者の目を引いていたのはウタであった。
いつもはツインテールを兎の耳のように結ぶ髪型をしていたウタは、結んでいた髪を全て下ろし、頭に付けていたヘッドセットも外した状態になっている。
その為か、ウタの持つ独特の明るい雰囲気は少し薄れ、まるで別人かと思う程の色香を漂わせる女性へと変貌していた。
「ど、どうかな……?似合ってる?私の髪型」
「似合ってるぞ。なんか、いつものウタじゃねぇみたいで……綺麗だ」
「そっか……なら、良かった!」
ルフィの言葉にとびっきりの笑顔を浮かべて喜ぶと、その笑みのまま参列者の方へと向き直る。
「みんな!今日は、私の結婚式に来てくれてありがとうね!!」
相も変わらずルフィとウタの声が響く程に静まり返っていた聖堂であったものの、ウタが手を振りながら明るい声を聖堂内に響き渡らせた途端、参列者全員がベンチから一斉に立ち上がった――
そして。
『おめでとう!!プリンセス・ウタ――!!』
息を合わせたように参列者全員が声を張り上げ、聖堂内の中心に立つウタと結婚相手であるルフィを拍手喝采で祝う。
「ウタ!おめでとう……!」
「幸せにね!」
「ルフィも幸せに……!」
無数に居る参列者から聞こえる祝いの言葉や、幸せを願う祈りの言葉。
ウタはそんな言葉を聞いて表情を更に明るくすると、再びルフィの方へと向き直った。
「えへへ、こんなにみんなから祝福されるなんて私は幸せだね」
そう言って太陽のように眩しい笑みを見せる花嫁の姿は、ステージに立って歌っていた時とは違った美しさがあった。
ルフィ自身、ウタと共に居た時は特に彼女のことを意識したことがなく、恋愛にも関心が向いていなかったが、いざこうしてドレス姿のウタに瞳を映すと、思わず彼女の姿に見惚れてしまう。
「(ウタって、こんなに綺麗だったんだな……)」
今まで共に過ごしてきた彼女の美しさを再度認識しつつ、ルフィは緩んでいた表情を引き締め、ウタに改めて決意の言葉を発した。
「ウタ。俺は、お前のことが好きだ……だから、これからも一緒に居てくれ」
「うん……もちろんだよ、ルフィ。大好き、愛してる……結婚したら絶対に一人ぼっちになんかしないでね?」
「ああ、絶対に一人なんかにさせねぇよ。俺が傍に居る……ずっとな」
決して揺らぐことでないであろう覚悟と、それを裏付けるような力強い言葉。
自分より年下で、小さい頃は”弟”のように思っていたルフィと結ばれることなど想像すらしなかったが、こうして成長した彼はとても頼もしく、自分好みの男へとなってくれた。
そんな彼と結婚するというのは、ウタにとって夢のように幸せなことだった。
「(ルフィ、ありがとう……私を見捨てないでくれて……)」
目の端にこみ上げてくる熱い何かが視界を邪魔するが、それでもウタはルフィへと精一杯の笑顔を見せる。
――もう、これ以上の幸せなんて要らないや……
自身の中に渦巻いていた恨みや、憎しみの感情を全て打ち消す程に心へと澄み渡っていく安堵感。
それに身を任せるようにして、ウタは唇を重ねようとしていたルフィを受け入れるのだった。