話はニトクリスがハーゲンの協力を以てしてルイーナを助け出した後のこと。
「成程!それは大変だったな!」
工場の顛末を安里から直接聞いた煉獄ははきはきと大声で相槌を打つ。
(いや、煉獄さんも大概大変だったと聞いたけどなあ……。手と目を潰されて半死の状態だったのに救助活動に参加したって……)
内心でそんなことを考える安里だが、決して口には出さない。何故なら、煉獄杏寿郎はそういう人間だと既に知っているからだ。それはともかく、今後のネフレンへの対応をどうしていくのかと言う事に話は移っていく。
「フェニックス領に対する侵略と麻薬密売か。証拠が揃っているのだからやっぱりサーゼクス様に引き渡すべきじゃないスか?」
まず、ミッテルトがそう提案した。しかしこれに待ったをかけたのが、意外にもレイナーレだ。
「多分サーゼクスは動かないわ。いえ、動けないと言い換えるべきね」
彼女の言葉に安里は何故だと言いたげに視線を送ると、彼女はここが自分の売り所とばかりに説明を始める。
「サーゼクス、ジオティクス……。
確かに最高の魔王ではあるけれど決して綺麗事だけで魔王として物事を進められるわけではないのは安里様にもお分かりでしょう? ルイーナさんの実家であるムールムール家の様にマンモン家は様々な非合法活動をジオティクスやサーゼクスの治める秩序の維持のために行っています。例えば反対派の鎮圧のみならず扇動や紛争の激発も含めて、ね」
カテレアはレイナーレの説明に爪を噛む様な仕草を見せる中で安里は若干興奮気味に彼女に尋ねる。
「じゃあ、カテレア達はサーゼクス様達が正当である証のために当て馬にされたっていうのか!?」
「そこまでは言いませんが、反対派を炙り出すためにネフレンが彼女やシャルバに力を貸した、というのは
あり得る話ですわ」
(なんてこった。つまりカテレア達は初めからネフレンに騙されていたってのか!?)
衝撃的な事実に安里は思わず目を見開くと共にカテレアを憐れに思う。
『ちょっと安里!』
するとその時、冥界の通信がレイヴェルより入った。
『どうした?』
『どうしたもこうしたもありませんわよ!テレビをご覧なさいな!!』
レイヴェルは激しく動揺しているらしく、声色が少し荒くなっている。
その言葉に従って彼女が見ているというテレビ番組を見るべくチャンネルを合わせると、そこには驚くべき光景があった。
「なっ!? ドラグ・ソボール新シーズン放映決定!?」
場にいるほぼ全員がずっこけた。
「ほう!『あにめ』か!俺には解らんが皆が喜んでいるのならば吉報なのだろう!よもやよもやだ!」
そしてこの杏寿郎である。
『煉獄様!安里!ふざけている場合ではありませんわよ!』
『落ちつきなさいレイヴェル。
ごめんなさいね、九頭竜さん。
娘が言っているのは冥界のテレビの事ですの。とはいえ貴方達のいる地上では電波が届きませんから、こちらをご覧なさい』
リゼがレイヴェルを宥め、更に映像を送ってきた。
そしてそこには……。
『ご覧ください、ネフレン領の新薬工場を破壊するテロリストの姿です!』
アナウンサーの言葉とともに、映し出されたのは安里と機械兵が戦う様子であった。
『何でもこのテロリスト
【九頭竜 安里】は魔列車を爆破し一部VIP達を殺害するに留まらず旧魔王であるカテレア・レヴィアタンともども国家転覆を図っているとか……』
(で、デタラメにも程がある……!)
しかし権威ある国営放送とあっては冥界の庶民は恐らくこの報道を鵜呑みにするに違いない。こういった搦め手を使うとすれば恐らくはネフレンとヘパイストスからフェニックスの涙を横流ししてもらったあの男、曹操に違いない。だが、曹操の思惑通りにはいかないぞと意気込む安里だったが、事態は彼の予想を上回る方向に進んでしまう。
『しかもこの凶悪な面構えのこの男の交友関係ですが、何と!かのおっぱいドラゴンと親交が深いとの事ですよ!』
スタジオが騒然と化していた。何せおっぱいドラゴンはグレモリー領ではイナンナから領民達を救った英雄の中の英雄である。
スキャンダルここに極まれり、といったところだ。
「……やってくれたぜあの野郎」
安里は言葉を失う。まさかここまで露骨にやってくるとは思わなかったのだ。
「いや〜、どうですクソ虫安里くん? 不良少年からテロリストにランクアップした気分は?」
「まるで嬉しくねえな」
ナイアが漸く喋ったかと思えば
嫌味たっぷりに言ってきたので、安里は不機嫌そうに返す。しかしナイアにキレた所で状況が好転するわけでもないため、彼は溜め息をつくと気持ちを切り替えて次の手を考える。
「サーゼクス様に直訴しに行くか?」
「それはなりません安里様」
安里の提案にカテレアは首を横に振り理由を話し始めた。
「貴方は堕天使総督であるアザゼルの懐刀という立場でもあり、私も貴方に忠誠を捧げている身なのは事実です。で、あれば私の首を差し出さねばサーゼクス様にお会いする事など叶わないでしょう」
サーゼクスに面会を求めるならまずは彼女の言う通り自分の命を差し出す必要がある、と彼女は言うのだ。
それが政治というものだし、カテレアにも覚悟はあった。
「そんなバカな真似が出来るか!」
「俺も安里と同意見だ!」
だが、安里と煉獄はカテレアの言葉を真っ向から否定する。
「俺は仲間は売らねえ!」
きっぱりと言い切る安里に煉獄は満足げに頷く。継子、とは少し違うが彼にすれば安里は弟子の様なものであったからその啖呵に好感を抱いたのだろう。
そして安里はカテレアの方へ向き直ると、真剣に語りかける。
「カテレア、お前がどんな事情を抱えていようとも 俺はお前を見捨てたりはしない。だからお前の命をサーゼクス様に差し出す必要は無いんだ」
「でもよ坊主。お前、レイヴェルをネフレンに差し出そうとはしたよな?身内はダメで、他人は平気って考えか?」
ランサーの言葉は寸鉄人を刺す。確かにその考え方は安里自身も認めざるを得ない所である。
自分は決して公明正大、清廉潔白、品行方正な人間ではない。卑怯な手も使うし、目的のためならば手段を選ばない一面も曹操と変わらないのだろう。
だが、いやだからこそカテレアを見捨てるワケにはいかないのだ。
「それは否定できねえ。けど、ランサーさん。俺はカテレアを見捨てたくねえ。後ろ暗い所があろうと身勝手だろうと、な」
本心から出た言葉だった。
するとランサーはフッ、と笑った。
しかし嘲笑ではない。まるで昔の己を見るかのような懐かしさと寂しさが混じったような表情だ。
「いいんじゃねえか。そういう奴は嫌いじゃねえよ。人間、なんもかんも取っ払ったら最後に残るのは好きが嫌いかだ」
ランサーはそう言いながら安里の肩をポンと叩く。
「囲った女のために貴族とやり合うってのも面白そうだな。まあ、頑張れよ」
「ありがとうございます、ランサーさん」
「礼を言うのはまだ早いぜ。まだ何も解決してねーんだからよ」
「ええ、分かってます……」
かくなる上は、ネフレンを討ち取るしかない。安里はそう決意を固めていた。短絡的と言えばそうだが、事がここに至ればそれ以外に選択肢はない。討伐は不可能だが、暗殺自体は決して不可能ではない。
「穏やかじゃねえ話だな……」
「すいません。けど今の俺にはこれしか思い浮かばかったんです」
「バカ。誰が反対だって言った。おい、ナイア。
ゲイトの能力なら何人までにネフレンの邸宅に侵入できるんだ? 俺も行くぜ」
不敵な笑みを浮かべてそう問うてくるランサーに、ナイアはやれやれと言わんばかりに肩をすくめる。
「ならば私も共をしよう。破壊活動ならばそれなりに訓練を受けている」
「オイラも忘れてもらっちゃ
困るぜ兄ちゃん!」
更にセルベリア、アフメドまで名乗り出ると安里は思わず目頭が熱くなった。
「みんな……! 本当にありがとうございます!!」
安里は深く頭を下げる。皆の協力が得られる事がこれほど頼もしい事だとは思わなかった。だが、これで決まった。ネフレンを強襲し、その悪行を白日の元に晒した所で捕縛し投獄する。という作戦が。
切り込むメンバーは安里、ランサー、セルベリア、ナイア、アフメド。
アフメドは置いていくつもりだったがどうしてもついていくといって聞かなかったのだ。
作戦の決行は明日。今夜は英気を養うためにも休息を取る事にした。
そしてその夜のこと……。
ー
安里は自室のベッドにてぼんやりと天井を見つめていた。(カテレアの件は何とかなりそうだけど、問題はネフレンの野郎だ)
ネフレンの実力は未知数。
恐らくカテレアより強いであろう事は想像に難くないが、それでも油断は出来ない。それに、あの曹操が絡んでいる以上、何かしらの罠を仕掛けている可能性も否定できないのだ。
(わからん事をくよくよ考えても仕方がねえ。とにかく、今は休んでおかないとな)
ネフレンを討つにせよ、討たぬにせよ、 明日は決戦なのだ。
今宵はゆっくりと休むべきだろう。
そう思って目を閉じかけた時、部屋の扉がノックされた。
「はい、誰ですか?」
安里はうたた寝しかけた所で尋ねる。すると、鈴が鳴る様な声が返ってきた。
「えっと、今、いいかな?」
「ルイーナ!?」
安里は驚きのあまり飛び起きる。
「ああ、悪い。ちょっと待ってくれ!」
慌ててドアを開けるとそこにはパジャマ姿のルイーナがいた。風呂上がりなのか髪が濡れており、頬もほんのりと紅潮している。
「ど、どうしたんだこんな時間に」
「うん、ちょっと眠れなくて。
良かったら一緒にお話ししたいなって思ったんだけど、迷惑だった?」
「い、いやそんなことないさ。
むしろ嬉しいくらいだよ」
「本当? それじゃあ、入ってもいい?」
「あ、ああ。構わないよ」
「ありがとう。
じゃあ、失礼します」
そう言ってしずしずと部屋に入ってくると彼女は窓際の椅子に腰掛ける。
「今日は月が出てないんだね。
なんだか寂しくなっちゃうな」
「お、おう。そうだな」
安里は言った側から自身の語彙力の無さに絶望していた。だが、そんな彼に構わず、ルイーナは続ける。
「でも、こうしてると昔を思い出すね。子供の頃、よくお星様を見て手を伸ばしていたんだ」
すらりとした白魚の様な手を夜空に向けて伸ばす彼女。その仕草はどこか幻想的で、神秘的な美しさを放っていた。
「星か……」
ふと、安里は幼い頃を思い出していた。彼もまた、星に手を伸ばす子供であった。何かに焦がれ、暗闇に煌めく光を求め続けるのは生物の本能なのか、あるいは理知を得た者の宿痾なのか。それはわからない。
解らないがはっきりしていることもある。今の安里にはルイーナこそ闇夜を照らす月か極星の様に輝いて見えるということだ。
「どうかしたの?」
「綺麗だな、と思ってな」
「えっ……」
「あ、その……変な意味じゃねえぞ! その、お前がすごく魅力的だと思ったから……」
「そっか、ありがと」
恥ずかしげに笑う彼女の笑顔に安里の心臓の鼓動は高鳴る。彼女のためならば世界を敵に回しても構わないと思うほどに愛しい。巡り会えた事は自分にとってこの上ない幸運だ。
「なあ、ルイーナ。
もし俺達が出会った事が運命だって言うなら……俺はその運命を信じたい。そして、その先もずっと、 俺の隣で笑ってて欲しいんだ」
ルイーナは言葉ではなくほほ笑みをもって答えた。安里にはそれで十分だった。と、
「ねぇ、安里。明日の戦いだけど
私もついていくね」
「はぁ!?」
突然の言葉に思わず頓狂な声を上げる。だが、ルイーナは真剣な表情のまま続けた。
「私も戦います。私だってもう守られるだけの存在じゃないんだよ? だから、私も貴方と一緒に戦う」
安里は僅かに躊躇った。果たしてネフレンを相手にして彼女を守りきれるのかと。だが、ここで彼女を拒絶する事は出来なかった。周りに流され、言うなりのままにしかなる事しかできなかったルイーナが勇気を振り絞って告げたのだ。ならば、男として、いや恋人としての自分がすべきことはただ一つである。
「分かったよ。けど、無理だけはするなよ」
「うん、ありがとう」
嬉しそうに微笑む彼女に安里は決意を新たにする。
今度こそ必ず守り抜いてみせると。
ー
そして翌日だが少々トラブルが起こった。といってもルイーナが急遽同行することになったということではない。
「ゲイトさんがいない!?」
「いやぁ、そうなんですよぉ。
全くあの人は色々自由な
人ですから困ったものですよ」
と、いうのはナイアである。
何でもニグラ、トゥー共々アザゼルと共にどこかへ出掛けているようだ。どうやら何かの会合があるらしいが、それがどこなのかまでは分からない。
「まあ、代わりと言う事でこの方に
来て頂いたワケなんですよ」
と、安里の困惑をよそにナイアの紹介で現れたのはシュタークである。
「やぁ安里クン。すっかり有名人みたいじゃあないカ」
くっく、と笑って見せるシュタークにルイーナは訝しげな視線を送る。
「ハハハ、そんなに心配しなくても
実力は確かだヨ、ボクは。それとも安里クンを取られるかもなんて心配しているのかナ?」
「べ、別にそんなんじゃありません!」
顔を真っ赤にして否定するが説得力はない。だが、そんなルイーナの反応を楽しむようにシュタークは更に続けた。
「安心し給え。君が嫌がる事はしないサ。何せ、安里クンが悲しむ顔は見たくないんでネ」
そう言ってウインクする様は悪女というかなんというか。ルイーナは少しばかり頬を膨らませるが、
シュタークは妹でも相手をするかの様に目を細めていた。
「おやおや、これはまた可愛らしい反応をするものだネ」
「か、可愛いとか言わないでください!」
「いやいや、褒め言葉さ」
そう言いながら肩を抱く様は益々姉妹の様である。そんな二人を安里はどこか安堵したような気持ちで眺めていた。
(ルイーナは長い間一人ぼっちだったというし、こういう風に誰かと触れ合うのもいい傾向だよな)
そんな事を考えていると不意にセルベリアは声をかけてきた。だが、彼女にしては珍しいというか耳打ちするかのような小さな声で。
『安里、私は奴の事はよく知らないが信用できるのか?』
『勿論。何度か危ない所を助けてもらったし、実力も相当だ』
安里の本心であったがセルベリアは僅かに眉根を寄せた。
『そうか、詰まらん事を言った。お前がそこまで言うならばな』
それだけ言うと彼女は離れて行った。安里は首を傾げるが、すぐに思い直してルイーナ達の方へと意識を向ける。
「それじゃあ、ネフレンの邸宅で符術でワープすればいいんだネ?」「ああ、頼むぜ」
「任せておき給エ」
シュタークは呪符を数枚取り出し、地面に放り投げる。するとそれらは地面の上で溶けて混ざると一つの魔法陣を描き出した。
「よし、これでOKだネ。じゃあ行くとしようカ」
「……(フリーにしては随分仕切りたがる女だな)」
ランサーが僅かに視線を鋭くする中シュタークの音頭に従って皆は転移陣に乗る。そして転移陣が発動したのだが……。
ー
「……!? ここは!?」
場所は庭先から一変し、安里は見知らぬ屋敷の中にいた。しかし周囲にはルイーナの姿しかない。
「無事か?ルイーナ」
「う、うん。けれど他の皆は?」
バラバラに転送したのか、それともネフレンが何らかの手段を用いたのか。安里は思考を回転させるが、今はそれよりも目の前の状況に対処しなければならない。合流するべきか、或は敵の襲撃に備えるべきなのかと思案していると、ふと、声が聞こえた。
「いよぅ、相変わらずアツアツだなお二人さん」
聞き慣れた声と共に銃声が響いた。
だが、安里が咄嗟に腕を触手化させて盾にする事で弾丸を防ぐ。
「テメェは……!」
安里の表情が憤怒に染まった。そこに立っていたのはルイーナを失いかけた元凶であるあの男。
「久しぶりだなァ安里」
そう言って男はニヤリと笑う。その笑みは安里にとっては全身の血が沸き立つ程に憎たらしいものだった。
「相変わらず趣味の悪いサングラスしてんな」
「おいおい、そう睨むなよ。
せっかく再会できたんだ。もっと楽しくいこうぜェ?」
安里の言葉にハーゲンは愉快げに笑った。まるで旧友との再会を喜ぶかのようである。だが、安里は警戒を解かない。
「テメェの目的はなんだ? ルイーナを殺そうとしたと思えば助けたり……どういうつもりだ? まさか人をいたぶるのが大好きなサイコ野郎なんてオチはねえだろうな?」
「ハハハ、そうかもな。俺も正直楽しんでやっている所もある」
安里の殺気に物怖じもせずに答えたハーゲンは視線を安里に向ける。それは値踏みするような目であった。
もう敵は二人くらいナレ死でいいんじゃねえかな。
真面目な話短いけど投稿頻度は早い方がいい?
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早い方がいい
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遅いけど長いほうがいい