2通りの意味で。
「……!?」
突然の事にニトクリスは目を白黒させるしかなかった。諸事情あって安里の眷属になった身であるが
まさか安里に女として求められるとは夢にも
思っていなかった。
「お、お待ちなさい我が盟約者!
この様なふしだらな行為に耽ってはなりません!不敬ですよ!あぁっ!」
首筋を舐められ、手首を掴まれる。ニトクリスの制止も聞かず、安里は手際よく彼女の裸体を弄っていく。
「あ、あなたという人は……っ! 何時か天罰を下されますよ?」
顔を真っ赤にして抗議するニトクリスだが、その瞳には怒りの色はまるで、ちっとも無かった。
むしろ快楽に蕩けそうなほど潤んでいる。そして……。
「うわーんっ! やめて下さい~!!」
安里は思考がタスクオーバーに至り泣き叫ぶニトクリスをそっと抱き寄せた。その目は優しかった。
「大丈夫だよ。安心して良いんだ。俺達は何も悪い事はしていない。ただ一緒に気持ち良くなるだけなんだから……」
そう言いながら優しく頭を撫でてやる。するとニトクリスは、すすり上げながらも安里の胸に顔を埋めてきた。
「本当ですか?本当に私達は愛し合っても良いのでしょうか?私は兄弟を守れず、神官を謀殺した挙げ句ファラオの果たすべき務めを放棄した女です。そんな私が今更誰かを愛しても許されるのでしょうか?」
身体のみでなく心も剥かれていく。そんな感覚を覚えながらニトクリスは震える声で問いかけた。
「…………」
安里は無言のまま彼女を強く抱きしめると、その唇を奪った。どちらからともなく舌を差し込み絡ませ合い唾液を交換する。
(ああ……頭が、ぼうっとする……♥)
やがて二人はゆっくりと唇を離すと、名残惜しげに銀糸を引いた。
「いいかいニトクリスさん。君はとても魅力的な女性だし、それに君はもう充分苦しんできたじゃないか。だからもう自分を許してあげよう?」
心なしか声も顔つきも普段の彼とは別人の様に穏やかになっている。そしてそれは同時に、今までの彼が決して見せなかった一面でもあった。
「あっ……♥」
耳元で囁かれる言葉だけでニトクリスは甘い吐息を漏らしてしまう。
そして気付けば彼女は曝け出すかの様に身を預けていた。安里はその様子を確認すると、再びベッドに押し倒した。
「あぁっ♥ だめぇ……そこは弱いのですぅ♥」
「へぇ……じゃあ、ここは?」
「はうぅっ♥」
どこを触れられても感じてしまう。ニトクリスはその度に甘く喘ぎ続けた。
乳首や尻は当然、
臍、耳たぶ、背中、腋の下などあらゆる部位が性感帯となってしまっているのだ。
(ああ……♥自分を曝け出す事がこんなにも心地好いなんて……)
全身くまなく愛撫された事でニトクリスは完全に出来上がっていた。
褐色肌は汗ばみ、瞳は潤みを帯びていく。
(いや……そうではなくて、
受け入れる事がこんなに幸せだなんて知らなかったのです。私の中に渦巻いていた悲しみや後悔が全て溶け出していく様です……)
ニトクリスの心の檻が瓦解していく中でそして、遂にその時が来た。
「ひゃうん♥」
股間に指を入れられ、かき回される。ニトクリスの秘所からは大量の蜜が溢れ出し安里を指をふやかす。
「凄いな……。大洪水だぞ?これならもう挿れても大丈夫かな?」
「え……? 」
どくん、どくんと心臓が高鳴る。
期待なのか不安なのか、自分でもよく分からない感情に支配されたニトクリスは、次の瞬間目を見開いた。
ちゅん、ちゅんと小鳥のさえずりが聞こえてくるだけでなく、自分の顔を覗いてくる顔があったからだ。
「ホラ、早く起きやがってください
ニトクリスさん。メシの時間ですよ?」
「ナイア……?」
目を擦って辺りを見回すと、そこにはいつもの漆黒のシスター服を纏うナイアの姿があるではないか。
と、言う事は……。
(あ、あれは夢……!?な、な、なんと破廉恥で浅ましい夢を見るなどと……!歴代のファラオに対し不敬極まりない!!)
「何です、青くなったり赤くなったり信号機ですかアンタは」
「う、煩いですよ!ファラオの寝床
に無断で入るとはどういう了見ですか!」
「仕方ねーでしょう。安里がここに来たらニトクリスさんに襲い掛かっちまうかもしれないから、私が代わりに様子を見てこいって言われたんですから」
「な……!?」
思わず絶句するニトクリスだが、
ナイアは馬鹿にするように舌を出す。
「な、ワケねーでしょうが!どうせアンタの事だから、安里の奴を押し倒して既成事実を作ろうとか企んでたんじゃないですか?この淫乱ファラオが」
「そ、そんな事ありませんよっ!」
口では否定するが
果たしてそうだろうか?
あんなふしだらな夢を見るという事は、 そういう願望が自分にあるからではないのか?生真面目故か、ニトクリスはナイアの前で悶々と悩み始める。ナイアはそんなニトクリスの純情さを鼻で笑うと何時もの調子に戻ってこう告げた。
「とにかく、安里が起きたら呼べと言われてるんですよ。さっさと来てください」
「む、分かりました……」
「それと、あんまし一人で抱え込まない方が良いんじゃないですか?」
「……?」
「神官達を謀殺した罪悪感や兄弟を失った悲しみは確かに大きいかもしれませんけど、 それで安里まで失う事になったりしたら、それこそ本末転倒ってもんだと思いますよ?」
「……」
ニトクリスは押し黙ったまま、しばらく考え込むと、
「ありがとうございます」
と言ってベットから起き上がるなり
着替をするためか足早に立ち去っていった。
ー
「……よし!」
何故か洗顔を終え、髪を整えた後のニトクリスは気合いを入れると
台所へと向かう。
「お待たせしました我が盟約者。朝食の準備を始め……」
努めて冷静を装いながら台所に入ったニトクリスは、そこで言葉を止めた。
何故なら、既に安里がテーブルにて左右から給餌を受けている。
二匹……いや二人とも背中の烏羽を見るに堕天使だろう。
片方はレイナーレ、もう一人はミッテルトと名乗る女性だ。
そしてそんな彼女達が甲斐甲斐しく安里の世話をしている。
「あ、あ、朝から何をしているのですあなた達はっ!!」
「あぁっ♥ 安里様ぁ♥」
「安里サマ♥ウチにも♥」
くねくねと身体を揺すりながら、二人は同時に懇願している。
まるで雛鳥の様に口を開けて食事を待つ姿はとても愛らしい。
が、当の安里は困り果てた様子で頬を掻いていた。
「いや、自分で食えよ……」
「そ、そんな……!安里様、もう私達の事なんて嫌いになってしまったんですか?」
「ひ、ヒドいッス! 身も心も弄んで自分色に染めたら紙屑の様に捨てるだなんて!」
ニトクリスは辛うじて目眩を抑えたが、 両者の言い分を聞く限り、 どうやら彼に対する恋愛感情は本物である様だ。
(しかし、あの男……一体何人の女を手玉に取れば気が済むのでしょうか?)
ニトクリスは呆れた表情を浮かべると、ため息をつく。
すると、それに反応する様に二人の視線が向けられた。
「うふふ、おはようございますニトクリス様」
「おはようッス!」
愛想を振りまいているように見えて、その実ニトクリスを警戒する様に睨み付ける。
「……随分と仲が良いのですね?」
ニトクリスも負けじと微笑み返すが、内心穏やかではない。
「はい♪実は昨晩、私の部屋に安里さんが来てくださって……。その時からずっと一緒です」
「なっ……!?」
「まあ、当番制スからね……」
惚気けるレイナーレに対してミッテルトは肩をすくめる。
「ウチらは夜通し見張りをしてた訳ですし、 安里サマの身の回りのお世話をする権利はあると思うんすよ」
「そうですよぉ。だから、 ニトクリス様はどうぞごゆっくりして下さい」
(え、ええ。そうですとも。安里とて年頃の男です。兵頭一誠と同じく、性欲を持て余しているのでしょう)
ニトクリスは己にそう言い聞かせるが、 どうしてもモヤモヤとした感情が湧き上がってくる。
(い、いえ、これは嫉妬などではありません!)
ニトクリスは頭を振って雑念を追い払うと深呼吸をして心を落ち着けた。
「ええ、そう致します。致しますとも」
何やら自分に言い聞かせる様に呟くニトクリスは食事をするものの、全く味がしなかった。
そんな折に、ナイアがわざわざ隣に座ってきた。
「どうしたんですか?そんな不機嫌そうな顔をして」
「別に、何でもありませんよ」
「ふーん、まあいいんですけどね」
ナイアはそう言うなり、ニトクリスの耳元で囁いた。
「アンタがどんな夢を見てたかは知りませんけど、あんまり気にし過ぎない方が良いんじゃねーですか?今のアンタはファラオでもなければ女王でもない。一人の女の子なんですよ」
「っ!?」
ニトクリスの鼓動が大きく跳ね上がり、顔中に熱が集まる。
あってはならないことだ。と言い聞かせてはいるのだが、ニトクリスの心の奥底では、ある思いが芽生えつつあった。
「……はい」
ニトクリスは小声で返事をする。
「おや、素直になりましたねぇ?」
「わ、私はファラオですから!いつまでもメソメソしていてはいけません!」
「ファラオじゃなくて女のコだって言ったでしょ? アンタ人の話聞いていた?」
「ぐぬぅ……!」
何とも騒がしい食卓風景だが、それでも安里は嫌がる素振りを見せなかった。むしろどこか嬉しそうだ。
「ハーレム最高とか思ってます?このムッツリスケベはどうしようもねーですね」
「ハーレムってお前な、俺はただ皆仲良くしてくれたら良いなって……」
「へー、そーなんすかー。つまりは自分を敬い、傅けと?」
「なんでそうなるんだよ……」
安里は疲れた様子を見せるが、 そのやり取りを見ていたレイナーレ達は頬を紅潮させて目を輝かせていた。
「まあ、敬ってほしいなら任務を果たして甲斐性の一つも見せてくれねーと。触手プレイだけじゃ女は満足できねーっつー事ですよ」
「しょ、しょくしゅぷれい……」
ニトクリスはあまりの衝撃に言葉を失った。彼女の常識の中に、そのような卑猥なものは存在しないからだ。
「あ、あのな……。今日はドライグの秘宝を探しに行くんだから、そういう話は無しだ!」安里は慌てて否定するが、 レイナーレは妖艶に微笑む。
「あら、私達に飽きてしまったんですか?」
「いや、違うって……」
「そうッスよね!ウチらみたいな可愛い子ちゃん達を放っておいて他の子とエッチするなんて、安里サマには無理ッス!」
ミッテルトの言葉にレイナーレも同意を示す。
「そうです。私達の身体に溺れさせれば良いんです!」
二人の息のあったコンビネーションに安里は思わずたじろぎ、ニトクリスは一時の気の迷いだったのだと自分に言い聞かせる。
そんなこんなで、食事を終えた一同は出立の準備を始めるのであった。
………………
場所は冥界の一角にある湖畔。
「うわ、マジですか。私は水に弱いんですけど」
到着するなりナイアがげんなりとした表情を浮かべた。
「いや、水の中に入るわけじゃねーからさ、安心しろって」
「でも、水辺を歩くだけで体力を消費しちゃいますからねぇ」
(何か嘘くせーな……)
心の中で毒づく安里であるが、 ここで反論しても意味が無いのは理解していた。
「大丈夫ですよ。もし、万が一の事があっても私が何とかしますから」
ニトクリスがふふん、と得意げな笑みを見せた。その様子はファラオというよりかは、年相応の少女に見えた。
「ありがとうございますホント。これで心置きなく無茶が出来ますよ」
そして湖の中をレイナーレとミッテルト、湖畔を安里とニトクリスが調査する事となった。
因みにナイアはベースキャンプがどうのこうのと言ってはいたが要はサボりである。
ー
「……」
「……」
(気まずい……)
湖畔の暗がりを捜索するニトクリスと安里の間に会話は無い。そう言えば、杏寿郎やランサーと組む事は多かったが安里と二人で行動するのは初めてかもしれない。
増して昨夜の淫夢の一件もある。
ニトクリスは気恥ずかしさを誤魔化す為に口を開いた。
「あの、安里」
「はい?」
「昨晩はよく眠れましたか?」
「ええ、まあ」
「それは良かった」
再び沈黙が訪れる。
しかし、先程よりも少しばかり空気が和らいだ気がした。
(これでミッテルトやレイナーレ、或いはナイア、ニグラに囲まれて眠れなくてさぁ、等と
ほざいたらどうしてくれようかと思いました。って、私が何故安里の男女関係に口出しする必要があるのですか!? 個人の勝手というものです! いえ、それにしても杏寿郎ではありませんが妻が多すぎます!
妻ではありませんけれど!全く不敬です!)
ニトクリスは心の内で葛藤し、
一人煩悶していた。完全な一人相撲ではあるが、 それでもこの感情を抑え込むのは難しい。
「あの、ニトクリスさん?」
「はいっ!?」
突然声をかけられて、ニトクリスは飛び上がる。
「あ、いや、なんか考え事をしているみたいでしたから」
「い、いいえ!お構いなく!私はファラオですから!」
「はあ……。でもつまんねー事でも相談して下さいよ。俺達、盟約を結んだ仲間じゃないですか」
「つ、つまらない事ではありません!不敬な!」
「お、おう……」
思わず大声で否定してしまい、安里は面食らい、後ずさった。
が、それがいけなかった。
ボゴオッ、と音が響くと同時にニトクリスの足元の地面が陥没したのだ。
「きゃあっ!?」
「ニトクリスさんっ!!」
安里は咄嵯にニトクリスの腕を掴むと、己の胸元へと引き寄せた。
「うおおおおっ!」
安里のもう片方の腕が触手からフックに変化させ、樹木へと巻き付けると宙ぶらりんの状態で停止する。
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして」
ニトクリスは顔を真っ赤にして俯きながら礼を言う。
(ああ、もう……。どうしてこんなにドキドキするんでしょうか?)
安里の鼓動を感じていると、不思議と落ち着きを取り戻していく。
それと同時に、この時間がもう少し続けば良いのに。とさえ思ってしまった。
(何を考えているんですか私は!これではまるで恋する乙女ではないですか!)
ニトクリスは必死で頭を振って邪念を振り払う。
「いつまで触っているのですか!
降り立ちますよ!」
「は、はい」
(そんなに怒らなくても)
(何も怒る事はありませんでした。我ながら何と未熟な……)
何とも渦巻く感情を処理しきれず、 ニトクリスは安里の死角でそっと拳を握った。
とは言え、ニトクリスはファラオでありエジプトの秘術を収めた魔術師でもある。メジェドの法衣をばっと広げるとパラシュートの様に広げ、そのまま滑空して着地する。
「ふう」
「ニトクリスさん、大丈夫ですか? 足とか捻ったりしてません?」
「問題ありません。安里こそ、私の体重を支えていた腕は平気ですか?」
「全然。ナイアに比べたらまるで羽根ですよ」
「……。それはどういう意味です?」
「へ?」
ニトクリスはジト目になって安里を見つめた。安里には何故ニトクリスが怒っているのかが解らない。
(何でだ? ナイアの方が体重が重いって言ったのに……)
「あの、ニトクリスさん。何か怒ってます?」
「いいえ。別に」
「あ、いや、何かごめんなさい」
「何故謝るんです?」
まるで蜘蛛の糸が絡まるかの様に
諍いが拗れていく。
「いや、だってニトクリスさんが凄く怖い顔しているから……」
「私はいつも通りです。貴方が気にする必要はありません」
「え、ええ……」
安里は気まずそうに頬を掻くと、 ニトクリスもそれ以上は何も言わずに湖畔を歩き始めた。
(うーむ……)
安里はニトクリスの背中を眺めつつ考える。
先程までは会話もあったし、特に険悪な雰囲気では無かった筈なのだが。
(ナイアの方が重いという事は彼女を抱いたという事ではありませんか!姉弟の様な顔をしていながら陰では男女の仲になっていたなどと! いえ、これは決して嫉妬ではありません。ファラオとして盟約者である安里を導く為にも知るべき事なのです! )
ニトクリスは一人悶々としていた。
吊り橋効果、というものにしても余りにも意識し過ぎである。
「安里」
「はい」
「貴方は今まで何人の女性を手籠
めにしたのです?」
「ぶふぅっ!?」
安里は盛大に噴き出した。
そして慌てて口を拭う。
「な、なな、何を言っているんです!?」
「誤魔化さないで下さい。私は知っているんですよ。ファラオたる私の目を誤魔化せるなどと思わない事です」
分かっているのなら聞かなくてもよいのではないか、と安里の頭の中に疑問符が浮かぶ。
だがニトクリスは真剣だった。
その表情を見て安里は観念した様に口を開く。
「ええと……。ニグラさんに、ナイアに……レイナーレ、ミッテルト。
カテレアに、スコグルさんに……あとは、ヤンリマも……」
「幾らなんでも多すぎます!!
この色魔!不敬です! 不潔です! 破廉恥です!!」
ニトクリスは顔を真っ赤にして叫ぶ。
流石にこの反応は予想外であった。
しかし、ニトクリスは至極真面目な様子で安里を睨みつけている。
「そう言われると一言も言い返せませんが……」
「ならば改めなさい! いいですね!?」
「は、はい」
ニトクリスの勢いに圧倒されて安里は思わず首を縦に振る。
するとニトクリスは満足げに微笑んだ。
「分かれば良いのです。これからは盟約者である私を大切にする事。いいですか?」
「わ、分かりました」
「よろしい」
ファラオではなく年相応の少女の顔を見せるニトクリスに安里は思わず苦笑する。
同時に、彼女の言葉が突き刺さる。
(大切に、か)
心に思い浮かべるのは今まで並べ立てた女性でもなく、ニトクリスでもなくルイーナの笑顔だった。
今はどうしているのか?
囚われの身で辛い思いをしていないだろうか? そんな考えが頭を過った。
「どうしたのです?私と地底湖を
調査するのではなかったのですか?」
「あ、ああ。すいません」
ニトクリスの声に我に返り、安里達は地底湖へと歩みを進める。
「んん? この水は……」
ニトクリスは水面に手を入れて感触を確かめる。
「この水の成分は……聖水に近いですね」
「聖水?」
「ええ。この湖の水が何らかの力によって霊的に清められている様に感じます」
「なるほど……」
ニトクリスの言葉に安里は頷く。
と、なると悪魔であるイッセーや
水の力に弱い自分やナイアでは手の出しようがない。だがニトクリスは別だ。彼女はこの世の存在ではないが聖水によってダメージを受ける訳ではない。
「ニトクリスさん、お願いできますか?」
「ええ。お任せください」
ニトクリスはメジェドの法衣を纏うなり地底湖の中へと揚々と飛び込んでいく。
その様子を見て安里はふと思う。
(ニトクリスさんが着ていた法衣ってどう見ても白水着だよなあ……)
ー
「……ぷはっ!」
地底湖に潜る事数分。ニトクリスは無事に潜行を終えて水面から顔を出した。 すると水の滴る宝玉が目に入る。恐らくあの宝玉が水源なのだろう。目を凝らすと、宝玉の側に見慣れぬ男性の姿があった。
どうやら彼も異変の調査に来た様だがニトクリスにすれば問題だ。
「お待ちなさい!それは我々が先に見つけたものですよ」
ニトクリスはそう言って宝玉を手に取ろうとする男を制する。
「……面倒くさいからパス」
などと言い出したその不健康そうな男はニトクリスの制止を聞かずして宝玉を鷲掴みにして持ち去ろうとする。
「ちょ、ちょっと貴方!人の話を聞いていたのですか!?」
ニトクリスは慌てて男の手を掴む。
「いや、だってネフレン様からこれを持って来いって言われたからさあ」
「ネフレン様?」
名前に聞き覚えがあった。
レイヴェルを無理矢理側妻にしようとした人面獣心の男、ネフレン・カ・マンモン。
その男が何故こんな場所にいるのであろうか。
「貴女達こそ、僕達の邪魔をしないでくれるかな?」
「い、いえ。これは正当な所有権を持つ我々の物です」
「そんなの知らないよ。僕は命令されただけだし」
「そ、それでも……」
「面倒くさいなあ……。殺していい?いいよね、うん」
「なっ!?」
ニトクリスは眼前の男の豹変振りに絶句すると同時に男の姿が大鰐と巨人の性質を併せ持つ魚人へと変貌していく。
「あ、貴方は何者なのですか!?」
「ああ、自己紹介がまだだったね。僕の名はセベク。ネフレン様の側近で『万魔喰らいの大鰐』さ」
「万魔、喰らい……!?」
ニトクリスは息を飲む。
その名には聞き覚えがある。
自分達の世界では軍神とされる鰐の神と同一の存在であろうか。
「悪いんだけど、この姿になると
色々と抑えが効かなくなるんだ」
風を切る音よりも先に尾撃がニトクリスに直撃した。
「ぐぅッ!?」
ニトクリスは為す術も無く吹き飛ばされて地底湖に沈む。
(水の中は……!拙い!)
水中では鰐の化身であるセベクは圧倒的に有利であった。
ニトクリスは必死に足掻くが、水の流れがそれを許さない。
「がぼぉッ!!」
肺の中の空気を全て吐き出してしまい、ニトクリスは意識を失いかける。
(駄目です!このままでは……)
だがその時、一筋の光が差し込んだ。
(この光は……?)
ニトクリスは薄れゆく視界の中で空を見上げる。
(全く……!貴方という男は……!
いつもここぞという時に
現れてくれますね)
そう思うと自然と笑みが零れた。
そして、ニトクリスの身体は錨に巻き付かれて引き寄せられた。
「ゲホッ!ゴホォッ!」
水面から引き上げられたニトクリスはくずおれつつ水を吐く。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます」
ニトクリスは礼を言うが、
反応する余裕は安里にはない。
視線は地底湖の黒い影へと向けられていた。
(ドサクサに紛れて逃してはくれねえか……引きずりこまれたら
その時点で終わりだな)
背筋に冷や汗を掻きながら安里はゆっくりと片腕を砲塔に変化。
照準を黒い影へと定めた。
ニト×カマいいよね……(7章話)
真面目な話短いけど投稿頻度は早い方がいい?
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早い方がいい
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遅いけど長いほうがいい