パパウPOWPOW!
さて、安里達がネフレン領に入ったその頃……。
「杏寿郎様。服の肩口が破けておりますわ」
「いや、これは失態だな! 俺もまだまだ鍛錬が足りん!」場所はフェニックス領の山岳。
『フェニックスの涙』の原料である泉が凍結した原因を探るため、ライザーやレイヴェルらは調査をしていた。
「れ、レイヴェル! 貴族であるお前がそんなことをするんじゃないっ」
「まあ、お兄様。今時の貴族たるもの裁縫の一つぐらいできなくてはなりませんわよ?」
そう言って、レイヴェルは懐からソーイングセットを取り出し、針に糸を通すと手早く破けた箇所を縫い始める。その手際の良さに思わず見惚れてしまうほどだ。
「はい、終わりましたわ。これでもう大丈夫です」
「うむ、ありがとうレイヴェル嬢! 助かったぞ!!」
礼を言う煉獄に、微笑み返すレイヴェル。しかしライザーはあからさまに不機嫌な様子で二人を遠巻きに見つめていた。
(人間界で妹を助けてくれたとは聞いてはいたが距離が近い! 距離が!)
そう思いながら歯軋りをするライザーだったが、それを察したのか煉獄が話しかけてくる。
「どうしたライザー殿? 腹が痛いのか? ならば俺の持つ丸薬を飲むといい! 胡蝶の調合した特別製だ!」
そう言いながらポケットから取り出した丸薬を差し出す煉獄であったがすげなくライザーは断った。
「いらん!! それより調査を続けよう! こんな所で油を売っている暇はないんだぞ!?」
シスコンの気があるライザーは妹との仲睦まじい様子を見せられる度にイラついてしまい、八つ当たり気味に怒鳴ってしまうのだ。
「貴方、さっきから何をイライラしているんです? まさか妹が他の男に取られたとか思っているわけじゃないでしょうね?」
「そ、それは……」
見かねたジャンヌ・オルタが横から口を挟むと図星だったのだろう。ライザーは言葉に詰まってしまう。だが、ここで引き下がってはいけないと思い直し反論しようとするが……
「ふん、馬鹿らしい。そんな事あるはずがなかろう! そもそもレイヴェルはだな……」
「そうだな! ライザー殿の妹君はまだ幼い子供なのだから、恋愛対象には成り得まい!!」
ライザーの言葉を待たずして煉獄がバサリと快刀乱麻を断つかの如く切り伏せる。
「私はもう大人ですわ!」
「いや、そういう意味ではなくてだな……」
「ではどういう意味ですの?」
「うむ! ライザー殿は妹君の事を心配されているだけだ!!」
「何でもかんでもアンタが答えるんじゃないっての!」
ワイワイガヤガヤ
まるで子供の喧嘩のようなやり取りが続く中、ロスヴァイセが洞窟の入り口を見つけて声を上げる。
「皆さん、ここを見て下さい!」
「これは……氷柱か?」
そこには無数の巨大な氷柱が天井まで伸びていた。そして更に周囲を確認すると、その光景に全員が絶句する。
「何という数だ。これ程の量の泉の水が全て凍らされたというのか!?」
「信じられんが事実を前にしてはな……」
目の前に広がる光景に驚愕する一同。そんな中、煉獄はある事に気づく。
「むぅ……おかしいぞ! 氷の中に何か居るようだ!!」
「……こ、これは!?」
氷柱の中には見張りの衛兵らしき悪魔達が閉じ込められていた。しかし不思議なことに悪魔達の表情は普段通りのもの。
「奇襲を受けたにしては表情に恐怖や驚愕の類が見受けられんな!」
「だから一々大声で叫ぶな!」
ジャンヌ・オルタが煉獄に注意する中ライザー達は炎で氷柱を溶かす作業に入る。数分後、全ての氷柱は溶け去り中に居た衛兵達も解放された。
「はっ! ライザー様とレイヴェル様がいらっしゃったぞ!!」
「おおっ!! ご無事でしたか!!」
衛兵達は皆安堵し喜びの声を上げていたが、その中で一人だけ暗い顔をしている者がいた。
「ライザー様……申し訳ありません。私がいながらこのような事態を招いてしまい……」
「いや、構わん。お前はよくやってくれた。フェニックス家の者として感謝する。その忠義、見事であった」
「あ、ありがとうございますっ!!」
ライザーに褒められ感激する衛兵。
(妹が絡まなきゃ立派に貴族の振る舞いができているんだけどねぇ)
その様子を見ていたジャンヌ・オルタは心の中で呟く。
「それにしても一体誰がこんなことをしたのかしら?」
「ネフレンの仕業なのは明らかだろう、わからんのか?」
ライザーの高飛車な物言いはジャンヌ・オルタを苛立たせたが、ライザーが言うように今回の件は明らかに何者かの意図が働いているとしか思えない。
「そのくらい解るわよチャラ男!
……コホン。ちょっと見直したらこれですもの。人の話は最後まで聞きなさいな。それとも焼き鳥頭にふさわしく三歩歩いたら忘れてしまうのかしら?」
「ちょっと貴方! お兄様に対してなんて口を利いているのですか!?」
「ああもううるさいわね! いいからアンタは黙ってなさい!!」
「黙れとはなんですの! この魔女!
ビッチ! アバズレ!」
「れ、レイヴェル……。そんな汚い言葉をどこで覚えたのだ……」
ワイワイギャアギャア
まるで子供の喧嘩のようなやり取りが続く中、煉獄は
(やはり姉妹というのは良いものだな!)
と、微笑ましく眺めているのだった。
そんな中貧乏くじを引いたかのようにロスヴァイセは探知魔法を使い、周囲を調べていた。
すると……。
「何だ、貴様等か……」
「ああ、ボールク様でしたか。
ロキの反乱の際は大変世話になりました」
「礼などいらん。俺はミカエルからの依頼を果たしただけだ」
「そ、そうですか、あはは……」
あまりににべもない返答に思わず苦笑いしてしまうロスヴァイセだったが、ジャンヌ・オルタが気になって仕方がないのか話を切り出す。
「そう言えば貴方、前から気になっていたのですけど最初はレイナーレに雇われていたんですよね? かと思えば悪魔に手を貸したり、ミカエルとも親しいみたいだし……、アンタ何者よ?」
焼けた鉄杭の穂先をボールクに指し示す構えを取り、問い詰めるジャンヌ・オルタだったが、当の本人は気にも留めていない様子だ。ジャンヌは更にそのスカした態度が気に入らないのか更に表情を険しくする。
「アンタ、まさか安里がアンタを兄貴分だとみなして義理立てしてるから、眷属である私達が手を出さないとか思ってないでしょうね? もしそうなら、今ここで……」
フォン、と風を切る音と共に槍の先端がぶれる。次の瞬間にはジャンヌ・オルタの手から槍が消えており、彼女の手には代わりに剣が握られていた。
「好戦的な女だな……」
ピシ、ピシと音をたてて周囲の空気が凍り付く。ボールクの結界が発動したのだろう。緊迫した雰囲気にレイヴェルはたじろぐ。レーティング・ゲームとはまるで別物の雰囲気に飲まれかけていた。
「まあ待てボールク卿! レイヴェル嬢がすっかり怯えてしまっている! 女子供を怯えさせるのは戦士として恥ずべきものだろう!」
「ふん、相変わらず暑苦しい男だ。……だがまあ、いいだろう」
そう言って矛を収めるボールク。どうやら煉獄の言葉を聞き入れてくれたらしい。
「そこの女は殺気が強すぎる。反英雄として在るべき姿ではあるのだろうが、憐れな事だ」
「なっ!?」
「うむ! 確かに君の殺意は凄まじい! 病的な威圧感はそれ自体が暴力というものだな! ボールクも君を心配しているようだ! ありがたいな!」
「有難迷惑なんですけどォ!?」
完全に闘争の空気が弛緩している。ジャンヌ・オルタの怒声が洞窟内に響き渡った。
「……えっと、それで一体どういう経緯でこんな所に居るのでしょうか?」
「アンタまさか、今度はネフレンに雇われてここを凍結させたっていうんじゃないでしょうね?」
「だとしたらどうする?」
「決まっているでしょ? 貴方達が敬愛して止まない御主の様に……裁きを下すだけね」
再び険悪な雰囲気になる二人だ。
やはり秩序を重んじるボールクと混沌と妄想の泥濘より生まれたジャンヌ・オルタでは相容れない存在なのだろうか。
「いや! それはないな! ボールク殿がこの騒動に関わっている可能性は極めて低いと見るべきだ!」
「そうですね……。ボールク様がネフレンに与しているならば、もっと卑劣で残忍な手段を取るはずですわ」
落ち着きを取り戻したいレイヴェルは持ち前の明晰さを発揮して、ボールクがネフレンに加担している可能性が薄いことを告げる。確かに一理ある。
「今の貴方がフリーだというのならば我々に雇われるつもりはないか?」
「悪いが今は先客がいる。二重契約はしない主義でな」
ライザーの勧誘をあっさり断るボールク。しかしレイヴェルは引き下がらない。
「その先約の方と話をさせてもらえません? 違約金は私のポケットマネーから出しますわ」
「ほう? 俺に交渉を持ちかけるか……」
「はい。私はこう見えてもお兄様の妹なのですから。それに、お兄様はフェニックス家の次期当主となる方です。そんなお兄様に将来の憂いや醜聞が及ぶのは私としても避けたいのです」
レイヴェルは真剣な眼差しでボールクを説得にかかる。その面持ちは貴族令嬢のそれではなく、兄を案じる妹そのもの。
「それはできんな。だが雇い主だけは教えておく。今の雇い主はジオティクスだ」
「!! なん……だと……!?」
ライザーも流石に度肝を抜かれた。まさか先代魔王が非公式ながら自分達とネフレンの諍いに介入するとは……。
「ここからは飽くまで独り言だ。
どうやらジオティクスは貴様らよりネフレンの方が疎ましい様だな。ネフレンは旧魔王派の残党を取りまとめ、更には『フェニックスの涙』の模造品を作る有様だ。旧知とはいえ我慢の限界なのだろうよ」
確かにマンモン家はグレモリー家やバアル家の隆盛に、ムールムール家と共に数百年もの間力を貸した。しかしだからといって旧魔王派を束ねて現政権に牙を剥いた事は許される事ではない。父親としても、一人の悪魔としても、許せるものではなかったのだろう。
「では、この泉を凍結させたのは
貴方ではなくネフレンの手の者か!? 答えてくれ!」
「そうでもある」
ボールクの言い回しは嘘ではないが何かを隠している。レイヴェルは敏感にそれを察したが、ここで追及しても無駄な時間を使うだけだと判断した。
「そうですか、解りました。私達に敵意が無いのであれば、これ以上は何も言いません」
「そうか、では失礼する。だが心しろ。星の届かぬ洞窟だからこそ蠢く影がある事をな……」
「貴方詩人にでもなったら?」
「考えておく」
「ぐぬ……」
ジャンヌ・オルタにすればはぐらかされた事への皮肉のつもりだったが当のボールクは真顔で返答してきた。これにはジャンヌ・オルタも苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるしかなかった。
「では、また会う事もあるだろう」
そう言ってボールクの姿はかき消える。転移魔法を使ったのだろう。僅かな静寂の後、レイヴェルはため息をつく。
「結局何だったのかしら?」
「俺にも解らんが……。とにかく単に泉を解凍すればいいという訳では無いようだ」
「そうだなライザー殿! 凍結した下手人すら定かではない現状、調査を続行するのが得策だろう!」
「ええ、そうですわね。けれどとりあえず戻りましょう。衛兵達がキャンプを張っている筈ですし、情報交換をするべきですわ」
レイヴェルの提案に他のメンバーが賛同するも、ジャンヌ・オルタが難色を示す。
「待って、まだネフレンの手の者が居るかもしれないわ。もう少し調べてからにしましょう」
「だが、ここに長居するのは危険だぞ?」
「ええ、けど何もせずに引き上げるのも嫌よ」
ジャンヌ・オルタの意見も尤もであるが戦力を迂闊に分けるのも危険な行為である。そこでレイヴェルが折衷案を出す事にする。
「ではロスヴァイセ様とジャンヌ様はもう暫く捜索をお願いします。その間、私は衛兵達の所へ趣き、情報交換をして参りますわ」
「それが無難ね」
「分かりました。お任せください」
「うむ! 了解だ!」
ー
「……さて、そろそろ出てきたらどう?」
レイヴェル達を見送るとジャンヌ・オルタは振り向くことなくロスヴァイセ以外の何者かに語りかける。
「えっ? 探知魔法にはなんの反応もありませんよ」
「ええ、探知魔法にはね!」
自分の影に腰から抜いたサーベルを突き刺すとぐにゃぐにゃと形を変えたかと思うと覆面の男が現れた。
体格は凡そイッセーと同じぐらいだろうか?
「ご名答、よく分かったな」
「……癪だけど、
話の途中だが俯いて肩を落として洞窟の壁に手をついて反省のポーズを取るロスヴァイセにツッコミを入れるジャンヌ・オルタであった。
「……成程。一点物のアンタらは戦い前だってのに余裕だな。所詮名前も持てない俺とは格が違うぜ……」
しかし闘争の空気は揺るがない。自嘲する覆面男に、ジャンヌ・オルタはハッと鼻で笑う。
「アンタも『悪名は無名に勝る』とか信じているクチ? 傍から見たらそうかもしれないけどね、当事者としてはいい面の皮よ? 『裏切られ、穢されて尚誰も憎まない聖女なんてあり得る訳がない。自分達凡人と同じく誰かを憎み、世界を怨むものであって欲しい』っていう下衆な願いから生まれた竜の魔女なんてね」
「ジャンヌさん……」
ロスヴァイセはジャンヌ・オルタの独白と懊悩に胸を痛めた。彼女は存在理由からして歪み、狂っている。
「まあそんな事より今はコイツよ。この覆面男が今回の騒動の黒幕よ。多分ネフレンの配下でしょうね」
「ふ、ははははは! 懺悔じみた啖呵には感心したがまるで見当違いだ。俺はネフレンの部下ではないし、騒動の黒幕というわけでもない。『アレ』の行動を誘導する様に指示を出しただけだ」
「『アレ』? 『アレ』とは何ですか!?」
「その答えが知りたければ俺を倒す事だな……反英雄に戦乙女。
だが……
覆面の男は静かに見得を切る。
数多の屍山血河を駆け抜けてきたであろう男の眼光が二人に突き刺さった。夜空に煌々と輝く昴星の様な。
「全く……コイツやボールクのせいかしら? 詩人臭い言い回しは私の趣味じゃないっていうのに!!」
頭に浮かんだフレーズを振り払うようにジャンヌ・オルタは叫ぶ。
ー
そして時同じ頃。洞窟入口に戻ったレイヴェル、ライザー、煉獄の三人であったが……。
「こ、これは……!?」
「どういう事ですの!?」
「むう……! 何とも異様な!」
三人が目にしたのはまたしても凍結している衛兵達と凍りついたテント、更には薪と炎であった。しかも衛兵達は談笑している間に一瞬で凍りついてしまったのか皆笑顔のまま固まっているではないか。
「あ、あり得ん……! 理解不能だ! 一体何が起こっているのだ!?」
ライザーは取り憑かれたかの様に叫ぶが無理もない。今目の前で起きている現象は常軌を逸している。レイヴェルも同感だ。出来る事ならば一目散に逃げ去りたい位だ。だが、それはフェニックス家にある者として許されるものではない。ライザーもまた、同じ気持ちなのか、歯ぎしりする音が聞こえる。逃げ出したい気持ちを堪え、ライザーはふーっ、と深呼吸する。
「うーむ……。この足跡は水かき……? 河童でも現れたのか?」
一方煉獄は冷静に分析していた。
大した肝っ玉であるがどこかズレている。
「全く、貴様と言うやつは……」
しかし今のライザーには煉獄の冗談とも本気ともつかない鷹揚さがありがたかった。落ち着きを取り戻した二人は状況の確認を始める。
「この足跡は魔族のものではなさそうだが……」
「それにサイズも私達よりも巨大ね」
「ああ、俺達より遥かに巨大だ!
まるで雪男と河童の間の子みたいな奴だな!」
「い、幾ら何でもそれは……」
「そうか! 思った事を口に出しただけだが間違っていたならば謝ろう! すまん!」
「そ、そうか……」
二人が煉獄の天衣無縫ぶりに呆れ返っているとどこかから衛兵の悲鳴が聞こえてきた。
「うわああああああ!!
来るな! 来るな! このバケモノがあ! わあああああ!?」
『ひゅおぉぉぉぉ』
吹き抜ける風の様な声が響いた後に静寂が訪れた。三人で背中を庇い合いながら確認に向かうとそこには恐怖の表情で槍を構えながら凍てつく衛兵の姿があった。
「ど、どうなっているのですの?」
レイヴェルは動揺の余り日本語が少々おかしくなっていた。
「こ、これではどうしようもないな! 焼き払うしかない! 焼却! 焼却するしかない!! 償却! 消却! ハハハハハハ!」
ライザーに至っては狂気に駆られた様に笑い出す始末である。
「はっ!? 俺とした事が……!
すまん、今のは忘れてくれ」
「あい分かった! 忘れよう!」
二人のやり取りのさなか、
レイヴェルは再び足跡を確認する。
そのことからレイヴェルはいくつかの推理を立てて二人に話す。
①怪物は理解の外にあるもの
②足跡があることから瞬間移動の類は使用していないこと
③衛兵の構えた槍に血がついていないと言う事は遠距離から凍結させられるということ
④談笑している間の一瞬で凍結させられるが瞬間移動が使えないということは不可視の存在であるという事
「成程……確かにその可能性は高いな」
「見事だレイヴェル嬢! 俺では及びもつかない見識の高さだな! まさに才色兼備とは君の事を言うのだろう!」
「ど、どうも……。それはそれとして不可視の存在をどう炙り出しましょう」
「さっきはその場の勢いで焼き払うとは言ったがなレイヴェル……。危険が大きすぎるぞ」
「ええ、分かっていますわ。ここは慎重にいきましょう」
「そうだな! 所で俺に一つ良い案があるのだが協力してくれるか!?」
「勿論ですわ」
「いいだろう」
煉獄の申し出に二人は快諾した。
ライザー、不定の狂気に入り過ぎィ!
原作でもメンタル弱いし……。
真面目な話短いけど投稿頻度は早い方がいい?
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早い方がいい
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遅いけど長いほうがいい