※この作品はR-18です。

MAR-ナイトランカーズ   作:るしふぇる

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ACT.1 プロローグ「魔女の掟」

おとぎ話、メルヘンの世界

緑が生い茂る森、透き通った川のせせらぎ、石造りの城

人間と共存する狼男や人魚といった亜人、オバケやドラゴンを始めとするモンスター

 

ここはメルヘヴン、子供の頃に思い描いたワクワクが止まらない世界

今回お話しするのは姫を助ける冒険譚でも、悪いドラゴンを退治する勇者の話でもなく...

 

メルヘンの世界の闇

魔女の世界のお話

 

「はぁ...はぁ..」

 

桜色の長い髪を2つの三つ編みで結び、大胆にスリットが入った漆黒のドレスを纏う魔女ドロシーは傷付き、乱れた呼吸を整えていた。

 

魔法の国カルデア

宮殿前 城下町PM8:45

 

空に浮く島国に深い森と石造りの街はファンタジー世界の想像通りだが

街を焼く業火、逃げ惑う民の混乱、崩壊する倫理観、現在この魔法の国は戦火に包まれていた。

 

焔の光がドロシーの顔を妖艶に照らす。

ルビーの様に透き通った紅い瞳、白い肌、長身で整ったスタイルと目鼻立ち。

誰もが絶賛する美女であるが、スリットから覗く脚線美、破れた袖から露出した白い肩には闘いによる擦り傷や打撲痕が刻まれていた。

 

ドロシーと対峙する銀髪の青年が大剣を振り上げる。

彼の名はレイヴン、銀のショートヘアにヴィジュアル系を思わせる鋭い顔立ち。

歳は22で黒いローブに身を包む彼は、カルデアでは処刑人レイヴンと恐れられている魔導士だ。

 

美男美女の魔法使いが相対する決闘に似合わずレイヴンの大剣は異形。

短い柄に剣先が丸められ、ただ首を刎ねる為にだけ存在する得物。

 

本来は武器ではなく処刑道具として歴史を刻んできた執行人の剣

ウェポンARM(アーム) エクスキューショナーソード

 

銀の執行人が剣を振り下ろし、桜色の魔女がバックステップで剣閃を躱す。

 

「相変わらず悪趣味なARMだね。」

 

ドロシーが悪態をつき得物を構える。

そのフォルムは魔女に相応しい銀の箒

西風のネイチャーARM ゼピュロスブルーム

 

「これでもくらいなッ!」

 

ドロシーがゼピュロスブルームで大きく薙ぎ払う。

突風が衝撃波となりレイヴンを襲う。

 

「風属性最強のARM 西風の箒(ゼピュロスブルーム)か。」

 

レイヴンも両手に装着された10の指輪の内、左手薬指の一つを起動させる。

 

ARM。

赤い球、マジックストーンが装飾された銀のアクセサリーで様々な能力が封じ込まれている。

形状は指輪、ブレスレッド、ネックレスと多種多様

ドロシーのゼピュロスブルームの様に発動時にブレスレッドから銀の箒に形状が変化する物も存在する。

そして、レイヴンが発動したARMは...

 

「ガーディアンARM、ファラリス!」

 

ガーディアンARM

発動中はその場から動けず、他のARMも起動できない制約はあるが、強力な召喚獣を従える事ができる。

ファラリスの雄牛も本来は処刑道具の一つ。

 

真鍮製の牛の像に人間を閉じ込め、火で炙り絶命させる謂わば人間オーブンだ。

しかし、レイヴンが呼び出したファラリスは、言うなれば鋼のミノタウロス。

口、目、関節部、手にした巨大な斧から業火を吹き出しドロシーに襲い掛かる。

 

ドロシーもすかさず、ガーディアンで応戦しようとする刹那

 

「うわ、うわあぁぁ!」

 

声の方に目を向けると、逃げ遅れた少年の姿。

建物が倒壊し、その瓦礫が迫る。

ガーディアン発動中は動けない、彼女がとれる行動は一つしかなかった。

ゼピュロスブルームで風を纏い後方に衝撃波を放つ。

最速で少年の元へ...

 

ガシャン!

 

建物が崩れ、間一髪の所で少年を抱き難を逃れる。

 

「ドロシー様...怖いよぉ..」

 

涙に震える少年

 

「もう、大丈夫だよ、悪者は私がやっつけてあげるから。」

 

闘いの疲労と傷の痛みを堪え満開の笑みでドロシーは少年に応える。

しかし、一難去ってまた一難、ガーディアンファラリスが少年とドロシーに迫る。

今ゼピュロスブルームを使えば少年も巻き添えになりかねない。

 

恐怖する少年にドロシーが続ける。

「逃げな」よりも意志の強い言葉

 

「走れるよね?ここは私に任せて、キミは避難した皆を守ってあげて。」

 

昨日までの平穏が壊され、突然の戦火、身近に感じる死に少年の精神は限界を迎えていた。

守ってあげて?そんなことが子供の僕にできるのだろうか?そう考えるのも無理はなかった。

 

 

「キミなら出来るよ、大丈夫♪」

 

 

穏やかな笑みと優しい言葉に、その不安はかき消される。

立ち上がらなきゃ!少年の決意の刹那、ファラリスが燃え盛る斧を振り上げる。

 

「うおおおおぉぉぉぉ!」

 

ドロシーも叫び、その剛腕をゼピュロスブルームで受け止める!

 

華奢な身体で怪物の一撃を受け止めるビジョンは少年にとって想像すら出来なかった。

優しく、温かく、そして強く、今目の前に居るのは、魔女ではなく心強いお姉さんに感じられた。

お姉さんが守ってくれてるのに、男の僕は...

 

少年の心に小さな火が灯る。

目前の激しい金属音、地鳴り、衝撃は気が付けば少年の恐怖心を遥か彼方へ吹き飛ばしていた。

勇気という名の火が炎となり少年を奮い立たせる!

 

僕も立ち上がるんだ!

 

「ドロシー様!」

 

叫び立ち上がる初年と

 

「こんな牛、ボッコボコにしてやるよ!

キミもやるべきことをやりなッ!」

 

「うん!」と頷き少年が走り去る。

その表情には怯えはなく信念に満ちていた。

少年がひとつ、大人になった瞬間でもあるが...

 

(やっべぇ~、腕いったなこれ...)

 

鋼の怪物の一撃を生身の女が受け止め無事であるはずがない。

骨にヒビが入ったのか、腱が切れたのか、既にゼピュロスブルームを握る力さえなくカランと音を立て銀の箒が地面を転がる。

 

ブォォオオオ!

 

ファラリスが雄叫びを上げ燃え盛る斧を振り下ろす。

ゼピュロスブルームをブレスレッドに戻し、かろうじで動く脚に鞭打ってステップで躱すも

 

「ちょ、噓でしょ!」

 

思いがけない俊敏さで第二撃の拳がドロシーに襲い掛かる。

 

直撃

 

鋼で肉を打つ衝撃、骨が軋む音

凄まじいスピードで一直線に吹き飛ばされる。

 

「あうぅッ!」

 

壁に大の字に叩き付けられ、ドロシーの身体が大きく跳ね返り、そのまま地面にうつ伏せに倒れる。

 

「あが...ゴフッ!」

(身体が...動かない、ヤバイ!)

 

血を吐きながら立ち上がろうとするも、身体がいうことを聞かない。

 

更に...

 

ドスンッ!

 

跳躍したファラリスが全体重をかけ、ドロシーの背中を両足で踏みつける。

 

「うぁああぁッ!」

 

堪らず悲鳴を上げるドロシー。

巨大なクレーターがその破壊力を物語る。

ファラリスは意識が朦朧とするドロシーの右足首を掴み逆さ吊りで持ち上げる。

 

「うぅッ!」

 

ドロシーが呻く。

無防備なミゾオチへ斧による打突

 

「がふッ! あぁッ! ぐッ!」

 

2発、3発とお腹、顔、胸と斧で突かれ口と鼻から鮮血が飛び散る。

完全に虫の息となるドロシーにレイヴンが続ける。

 

「ドロシー、君は僕の理解者だと思っていたよ。

何故、こんなクソみたいな国の掟に今も従うんだい?」

 

その刹那、白い男がレイヴンの背後から姿を現す。

 

「レイ、首尾はどうだ?って、もうボロボロじゃないかドロシー。

仲間だっていうのに容赦ないな。」

 

「ははは」と笑う長い白髪を一本結びにした長身の男がレイヴンの隣に並ぶ。

褐色の肌にメガネ、190センチはある細身の長身に白いコートが街を焼く熱風になびく。

 

「オズ...」

 

逆さ吊りのままドロシーが名を口にすると「生きてんのこれ?」と軽い反応をするオズ

続けて

 

「こっちも終わったで~、宮殿の守りは全滅や!」

 

甲高い関西弁の少女が姿を現す。

身長145センチと小柄でボサボサの茶髪を後ろで二つに縛り、場違いにも程があるグルグルの瓶底メガネ

 

「リリス!」

 

「うちらに逆らうと、逆さ吊りになるんやでドロシーちゃん

なんつって、キャハハハハ!」

 

 

リリスと呼ばれる少女は高らかに笑う。

更にもう一人の影が奥から姿を現す。

 

「決闘の場で人族の少年に気を取られたのが不運だったか。

悪名高きカルデアの魔女も堕ちたものだ。」

 

少年を助けたドロシーを厳しく指摘する男。

正確には、青み掛かった毛並みにライトブラウンの瞳、鋭い耳に生えそろった牙。

彼は狼男、ワーウルフ族

 

「バレット。」

 

逆さ吊りのドロシー、黒の処刑人レイヴン、白いコートのオズ、関西弁少女のリリス、人狼バレットの5人がここに集う。

かつて、カルデアの最強戦力と言われたメンツ

オズが続ける。

 

「カルデアの掟...

俺は両親を処刑され、レイは妹を失い、バレットは15年も幽閉された。

そしてドロシー、お前は実の姉をその手で殺した。

こんな国、この世界に何の未練がある?

ディアナが持ち出したARMも全て俺達と回収した。

一緒に旅をして、ケジメを付けた仲だろ。」

 

 

これは一つ昔の話

 

ディアナ

ドロシーの実姉、このメルヘヴンを侵略した組織「チェスの駒」のクイーンにしてカルデア最強の魔女

身内の罪は身内で清算せねばならないカルデアの掟

 

ウォーゲーム 第二次メルヘヴン大戦

2年前の戦争でドロシーは異界から来た小さな英雄とその仲間達でMAR(メル)という組織を設立し共にチェスを打倒、このメルヘヴンに再び平和が訪れた。

その戦争の際、ドロシーは実の姉、クイーンディアナを殺害。

 

カルデアの掟

ドロシーの使命は姉の殺害だけでは終わらなかった。

世界に散らばったディアナが持ち出したARMの回収

 

「なぁ、俺達と一緒にやろうぜ!」

 

闘いの束の間、使命に疲れていたドロシーに声を掛けたのがオズだった。

オズ、レイヴン、バレット、同じ国の掟で心に傷を負ったもの同士

旅の途中で加わったムードメイカーのリリス

 

孤独感を埋めたかったのか、寂しかったのか

気が付けば心を許していた仲間

 

しかし、最後のARMを手にした旅の終わり、ドロシーと仲間達に亀裂が生じた。

 

カルデア宮殿 城下町 PM8:30

 

「よし、次はこのカルデアをぶっ壊そうぜ!」

 

オズの何気ない一言にリリスが続けた。

 

「カルデア宮殿の最深部に眠る伝説のARM"竜の鍵"

世界を滅ぼす力があるらしいで!」

 

理解が追い付かないドロシー

 

「ちょっと待ってよ!

この国を亡ぼすって...冗談でしょ!?」

 

レイヴンが間に入る

 

「冗談なものか、僕の妹を殺しやがって。

今更、やめてなんて言わないよなドロシー。

竜の鍵でカルデアを消滅させる、この世界もぶっ壊す。

バレット、お前の意見も聞きたい。」

 

「オズに出会うまで15年、俺も妻子と引き離された。

ただ、家族を守るためにディアナに従った、そのせいで俺は家族との時間を失ったんだ!」

 

言葉に行き詰まるドロシー

掟により皆が大切なものを失い、その拠り所を求めたからこそ繋がった仲間だと思っていた。

自分はカルデアの為に、魔女としての誇りの為に闘ってきた。

彼らは、カルデアの掟を憎み闘ってきた。

 

誇りと憎悪、何故、気付けなかったのか。

オズが立ち上がる。

 

「はい、じゃあカルデアは消滅決定~!」

 

「そんなことさせないッ!」

 

制止するドロシーの間に立ったのはレイヴンだった。

 

「僕がドロシーを足止めする、オズはカルデア宮殿の竜の鍵を。

バレットはオズの護衛、大爺が出てきたら殺して構わない。

リリス、君は街を焼いてくれ、陽動して兵を分散させる。」

 

※大爺 カルデアの最長老にして最高権力者

 

的確な侵略指示を出すレイヴン。

このチームのリーダー格はオズだが、頭のキレるレイヴンがこうして今まで指示を出してきた。

レイヴンがエクスキューショナーソードを手にドロシーと向き合う。

 

「僕はもう、後戻りは出来ない。

ドロシー、君が自分の信念を貫くというのなら、僕を妹のいる所へ送ってくれ!」

 

「レイヴン...」

 

「僕は死ぬのも、この世界が壊れるのも怖くない。

だって...」

 

もう、失うものがないのだから!

 

感情なき男が初めて不気味に笑った!

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