オリエントタウン 埠頭倉庫
AM.0:05
ドロシーVSスクリーチ
その闘いに乱入する金のミディアムショートにスーツの青年。
紫のドレッドヘアを揺らしながらスクリーチが食って掛かる。
「おうおう、メルテクのナイト様がどういったご用件で?」
金髪の青年が応える。
満月を背に夜風で靡くスーツと、歩み寄る革靴の音
そして、その場の誰もを硬直させる異質なオーラを放ち...
「用があるのは、そこに居る彼女とシキエル君だ。
ここは、どうか私の顔を立てて貰えないだろうか?
スクリーチ・アーバインさん。」
「チッ!」と舌打ちをし、スクリーチが建御雷神を鞘に納める。
「あ~やめだ、やめ!
興が醒めたわ。
だが、ヨハン...いつかテメェをぶち殺して地位も財産も俺が頂く!」
彼の捨て台詞にヨハンと呼ばれる金髪が余裕の笑みを浮かべ
「その時は、どうかお手柔らかに頼むよ。」
不満げな表情で、その場を去るスクリーチ
闘いの終わりを予感し、ドロシーがレインドッグ・トトをARMに戻す。
正確には直感していた。
もし、このヨハンと呼ばれる男と闘うとしたら...
ドロシー、シキ、スクリーチ、アイリーンが万全で四人がかりでも...
この男には絶対に勝てないと。
あのスクリーチがあっさりと引き下がる相手だ。
闘いの終わり以前に、勝負にすらならないと悟っていた。
ドロシーに出来る事
傷付き倒れたシキを抱き起しヨハンを警戒する。
シキだけは、これ以上、傷付けさせない。
それだけは、相手が誰であろうとドロシーは譲れなかった。
連戦による深手
アイリーンの散弾、スクリーチの袈裟斬り、既にシキの呼吸、鼓動はいつ消えてもおかしくない程微かで...
「シキ、大丈夫だよ...
今度は私が守るから。」
シキの抱きしめながらホーリーARM 癒しの天使で回復させる。
闘いで消耗したドロシーの魔力では上手く傷が塞がらない。
その刹那、警戒の主、乱入者のヨハンがドロシーとシキに歩み寄る。
「驚かせてすまない!
私はヨハン・ハーミット。
メルテクノロジー社所属のナイトランカーだ。
闘いの意思はない、ドロシーさん。」
ヨハンからは先程のオーラは消えていた。
ドロシーが応える。
「私の名前を知ってる...あんた何者?
私に用事って、ナンパの雰囲気じゃなさそうだけど。」
ドロシーの応えに「ははは」と笑顔を見せる。
「さっきの闘い、見事だったよ。
特にシキエル君の『俺のドロシーに触るんじゃねぇよ』には関心を持っていかれた。
私ごときがナンパなんて恐れ多い。」
私ごときと自虐しているが、このヨハンという男
ルックスはドロシーも認めるほど正直イケメンだ。
そして、スクリーチを追い返すほどの、あの威圧感...
全てにおいて自分達を上回っての、この物腰の低さが
また不気味に感じられた
自分を謙遜する男ほど、何かを隠し持っているからだ。
ヨハンが続ける。
「闘いに水を差してしまったお詫びだ。
私に君達を治療させて欲しい。
そのホーリーARMを貸しては貰えないか?」
今のドロシーにどうする事もできないのは事実。
しかし、警戒は解いてもよさそうだ。
癒しの天使を手渡すドロシーと、「ありがとう」と丁重に受け取るヨハン。
彼が癒しの天使を発動させると、周囲が温かい光に包まれ...
「何よ、この魔力!」
ドロシーも息を呑んだ。
その光量は、暗い倉庫内を覆うほどに。
自身の傷だけじゃなく、重症だったシキの傷も見る見る塞がっていく。
癒しの天使は、使用者の魔力によって回復速度に差が出る。
ドロシー自身も、シキの命の鼓動が消える前に傷を治せるか不安だった。
当然、自分の傷を治療する余力なんて考えてもない。
だが、このヨハンは二人同時に治療をしてしまった。
この時点で、ほぼ傷が塞がっている程、規格外の魔力で。
「傷は塞いだが、疲労や魔力までは回復していないだろう。
ドロシーさん、君に色々と話したいことがあるのだが、私の店に来て貰えないだろうか?
勿論、シキエル君も一緒に。」
シキの呼吸も落ち着いたが、起こしてどうするか相談するのも野暮だろう。
ドロシーが続ける。
「ドロシーでいいわ
助けてくれたことには感謝する、ありがとう。
貴方を信用しても、良いってことかしら?」
「君のことは大体、推察は出来ている。
この時代の人間でないことも。
そして、君にとって有益な情報も提供するつもりだよ。
君をこの時代に誘った"竜の鍵"について...聞いて損はないはずだ。」
「どうして...そのことを!?」
このヨハンという男...
何故、ドロシーの世界や、オズ達を反逆させた竜の鍵の事を知っている?
カルデアの魔女であったドロシーすら知らなかった世界最悪のARM 竜の鍵
この世界ですべきこと。
今のドロシーも正直、混乱していたところだ。
オズ達の行方や動向も気になる。
彼らが生きていたとして、この世界で何をしようというのか...
自分自身もどうやって元の時代に帰れるのか...
この世界に飛ばされた後の自分の世界、メルヘヴンはどうなったのか...
ヨハンが続ける
「あの鍵は、本来この世界で作られたARMだ。
1000年前、世界人口の9割が死に、魔法の時代を亡ぼしたとされる厄災
竜の鍵はその伝承として伝えられてきたが、空想ではなく事実であるなら
近い未来、この世界でも同じ事が起こりえるだろう。
ドロシー、この世界を救う為にも君の世界の話、メルヘヴンについて聞かせて貰えないだろうか?」
カルデアシティ
どうやら、飛ばされてきたこの世界も平和というわけでもなさそうだ。
しかし、このヨハンという男の話、今後の行動の指針の為にも聞く価値は十分にある。
ドロシーが応える。
「わかったわ、貴方の厚意に甘えさせてもらう、ヨハンさん。
でも、私の事を話すのはシキが起きてからにして。
この子は、自分の使命よりも、私の為に闘ってくれた。
助けてもらってワガママばかりなのはわかってる。
だけど、私の事はシキに一番に話したい...信じて貰えるか分からないけど。」
「確かに、命を賭して格上のスクリーチに立ち向かったシキエル君には
君の話を第一に聞く資格があるな。
きっと、信じて貰えるはずだ。
私の事もヨハンで良い、君達とは対等な立場でありたいからね。
改めて歓迎しよう...カルデアの魔女ドロシー。」
カルデア埠頭でのナイトの決闘は静かに幕を閉じた。
ムラマサ社所属
ナイトランク7位
シキエル・ヴァレンタイン
VS
エンペラーハーブ製薬所属
ナイトランク9位
アイリーン・ブラックダリア
シキエルの勝利
アイリーンは右腕を欠損し逃亡
魔法の国カルデア出身
ナイトランク推定6位
ドロシー
VS
カルデア東都電力所属
ナイトランク4位
スクリーチ・アーバイン
メルテクノロジー社所属ナイト、ヨハンの乱入により引き分け
ドロシーの推定ランクはヨハンの見識によるもの。
日付は変わり
ここはカルデアシティ
トウキョウエリア
車と鉄道の騒音、通勤通学で行き交う人々
高層ビルの立ち並ぶオフィス街は、何処か異世界の島国を彷彿させる。
オフィス街から外れた住宅街、公園から車道を挟んだ向かいにその店はあった。
Trick or treat!
トリック・オア・トリート!
ハロウィーンで親しまれる「いたずらか、おもてなしか」を意味する名
雰囲気も何処か、その秋の収穫祭を連想させるカボチャの看板とランタン
赤いレンガ作りの二階建てに洋風のドアと窓。
一階は木の床にジュークボックス、壁に掛けられたダーツ、バーカウンターと酒場を連想させるが、メニューにあるのは主にハンバーガー
ここがヨハンの城
トウキョウエリア
バーガーショップ「Trick or treat!」
AM.7:35
どれくらい眠っていただろう。
シキはスクリーチ戦で途中から意識を失い混乱していた。
気が付くとベッドの上である事は背中の感触で理解した。
枕にしている後頭部からは柔らかい感触と甘い香り
目をゆっくり開けると...
「おはよう、シキ!」
窓から覗く朝日に照らされた、女神のような笑顔がそこにはあった。
長い桜色の髪を下ろしていて、一瞬誰なのか混乱したが間違いなくドロシーだろう。
しかし、混乱の原因は他にある。
ドロシーの格好が正直エロイ!
丈の短いデニムのホットパンツから伸びた脚線美
剥き出しになった健康的な太もも
赤のタンクトップの上からピッチリと突っ張ったボリュームのある胸
今にも零れそうな谷間と、お腹の隙間から覗く綺麗なおへそ
これ、裸よりエロイんじゃないか?
「お...おはよう!」
ここは、天国なのか?!
そんなエッチなお姉さんに膝枕をされている状況で、朝のまどろみなど秒で消し飛んだ。
下からタンクトップの隙間を覗くと、下着を着けていない2つの南半球...
昨日まで、ろくに女性と話したこともないシキにとって目の保養どころではない刺激!
このまま直視していれば心臓が持たない!
横向けになり、南半球から視線を逸らすも...
ドロシー側に顔を向けてしまい、目の前にあるのはドロシーのおへそ
大きな胸に反し、細身でありながらプニプニと柔らかそうなお腹
顔を横にした事で、頬から感じるドロシーの太ももの感触
白いスベスベの肌、ムチムチなもも肉、心地が良い体温
ここが天国なら死ぬのも悪くないとさえ思えた。
ドロシーの手が横になったシキの頭を撫でる。
「約束だったからね...膝枕。
気持ち良いかな?」
「そういえば、アイリーンと闘ってる時、そんな約束してたかも。
俺、生きてるの?」
ドロシーの撫でる手がまた気持ち良い
尻尾が付いていれば全力で振っていただろう。
「馬鹿ね、生きてるからこうしているんでしょ?
お望みなら、また死にかけてみる?」
「この状況で?」
「そうね、足で絞めてあげようか?」
つまり、ドロシーの太ももに顔を挟まれて圧死...?
「お願いしますッ!」
シキ、即答!
だが...
「調子に乗らないの!」
ドロシーに頬をつねられる。
「はひ、しゅみましぇん...」
膝枕をしてもらいながら、気を失ってからの一部始終を聞く。
ヨハンの乱入によりスクリーチと引き分け、ここに来た事。
そして
「シキ、私が...この時代と別の時代
ううん、この世界と別の世界から来たって言ったら信じてくれる?」
「また、とんでもない話だな。
なんで、こんな治安の悪い世界を選んだんだ?」
落ち着いた声で、ドロシーが続けた。
闘いの時の力強さはなく、か弱い少女のような声で
「あっちの世界でね。
仲間と気持ちがすれ違っちゃって。
私ね、魔女の国の掟の中で生きてきたの。
掟で闘えと言われれば闘ってきた。
掟を破れば、身内であっても殺さなきゃならなかった。
それが正しい事、それが皆の平和や笑顔を守る事って信じてきたんだけど...
気が付いたら皆、掟に従って家族を失ってた。
皆が掟を恨んで国を滅ぼそうとして、それを止めたくて闘ったけど...
私の力じゃ敵わなくって。
シキが昨日、話してくれたよね?
1000年前の竜の怪物、私それに食べられちゃったんだ。」
「竜の怪物に食われて死んだと思ったら、ここに来ていたと。
だから、あんなに傷だらけだったのか。」
自分で話していても疑わしいおとぎ話だ。
魔女の国で竜の怪物に食われて、気が付いたらこの世界に転生してました。
こんな話誰が...
「信じるよ、ドロシーの話。」
シキはあっさり信じた。
「だって、嘘を付くメリットなんてねーし。
俺なんて任務さえ、上手くいかねーことあるし。
昨日もそうだったろ?
俺が魔女の国の住人だったら、間違いなく処刑されてるだろうな。」
「ごめんね、私がアイリーンに捕まったせいで...」
声を震わせるドロシーにシキが応える
「いいよ、任務は失敗でも、こうして膝枕してくれるし。
むしろ、こっちの方が俺は嬉しい!
ドロシーの太もも、超気持ち良い!」
流石に、今のは引っ叩かれると思った。
ヤバイ!とシキが覚悟を決めるも
「ねぇ、シキ...私がもし、実の姉を殺したことがあるって言ったらどうする?
今から、この世界に来た私の仲間を...殺そうとしていたら、どう思う?」
ドロシーの重い言葉
「もしかして俺も、殺されるの!?
やめてくれよマジで!」
「違うわよッ!
あいつらは、私の故郷を焼いた。
掟について私も思う事あるけど、これは許せない!」
「あるじゃん、自分の意思が。」
ドロシーの憎悪にシキが応える。
「国の掟の言い成りだったら、つまんねー人生だなって思うけどさ。
姉貴の事も、そうしなきゃいけない理由があったんだろ?
掟とかじゃなくて、ドロシーの中でさ、沢山悩んで考えた結果だったと思う。
仲間の事だって、俺にとっては他人事だから偉そうに言えねーけど。
でも、もう一回、闘ってみれば何か分かるかも知れねーじゃん。
その時に、またどうすれば良いか決断すりゃ良い。
どんな決断をしても、俺はドロシーを信じるからさ。
何でも俺に話してくれ。
でも、俺の事は殺さねーでくれよ?」
刹那
シキの頬に雫が落ちた。
頭を仰向けにすると
「あ、ごめん、ドロシー!
適当な事言ったかも...悪気はないんだッ!」
必死に弁解するシキ
ドロシーは泣いていた。
きっと話していた事、全てが真実なのだろう。
今まで、一人で辛い決断をしてきたのだろう。
その涙が、今までのドロシーの感情を物語っている気がした。
「ゴメンネ...シキ、足が痺れちゃって..」
「あぁ、ごめん、膝枕ありがとう。」
シキが身体を起こした刹那
「...!?」
ドロシーがシキを抱きしめる。
シキの顔がドロシーの胸に埋もれる。
「バカ、ほんとにバカ、シキのバカ!
何で、私なんかの話を簡単に信じるのよッ!
私は、悪名高い魔女で、実の姉を殺した、最低な人間で...
どうして、私の事を軽蔑しないの!?」
ドロシーの脳裏を過るあっちの世界での嘲笑
『あいつ、悪名高い魔女なんだって』
『こえ~近寄らないようにしようぜ!?』
『魔女が来たぞーッ!?』
『お願い、命だけは取らないで!?』
でも、シキは違った。
全てを話すのが怖かった。
掟の事、殺してしまった姉の事、全てを話したのに...
笑ってくれた、受け入れてくれた。
シキが抱きしめ返すようにドロシーの背中を摩る。
「辛かったな...大丈夫..
もし、ドロシーが間違った決断をした時は、俺が止めてやる。
例え、いつか俺と闘うことになっても俺は死なねーし
全部受け止めてやるから。」
「うるさいッ!
バカシキ、今すぐ、殺してやるんだからッ!
うわぁぁぁん!」
子供のように声を上げて泣くドロシー
ずっと感情を殺してきたのだろう。
仲間といても、何処か孤独を感じていたのだろう。
AM.8:30
ドロシーも泣き疲れ、気が付いたらシキと二人でベッドに横になっていた。
(このままセックスしてぇ~)
欲望を自制するので精一杯なシキ
冷静になり、気恥ずかしさに戸惑うドロシー
二人で向き合うわけでも、背を向けるわけでもなく、仰向けに並ぶ。
「なぁ、ドロシー...好きな男性のタイプとか居ますか?」
何故か敬語
「シキみたいに生意気言わない人
女の子を泣かさない人」
即答
「俺、好感度だだ下がりやんッ!
何がいけなかったんだッ!?
ショックで自決するぞ!?」
「優しすぎる所かな?
私の事泣かせた責任、取ってくれるまで許さないんだからッ!
死ぬなんて絶対にダメだからね!?」
男女としての関係はシキにとって複雑な心境
キスやセックスまでの道程は、まだ遠いだろう。
だが、お互いの信頼関係はより深まった気がした。
こうして、二人で手を繋ぐ事とが出来るのだから。