オリエント埠頭から出航して約1時間
ここはサイバネティックエリア
広いカルデアシティで最も近未来化したエリアだ。
街に入ると高層ビル群、飛行船、待ち行くトラックと至る所にある電光掲示板が今日の天気、ニュース、SNSのトピックを表示
空を見上げれば、チューブ状にガラス張りされた高速道路が絡まる摩天楼
まさにSFの世界
「ねぇ、シキとアイリスさんってどういう関係なの?」
ドロシーの問いに俺が答える。
「先輩後輩だよ、俺がチンピラしてた時にちょっと世話になって...」
そこにアイリス先輩が割って入る。
「世話になったというか...斬り掛かってきたのでオシオキしたまでです。」
これにはキサラも驚愕
「し、シキさん!?
何でそんな事をしちゃったんですか!?」
俺の名はシキエル・ヴァレンタイン
皆がシキと呼ぶ、過去に俺を半殺しにしたアイリス先輩、異世界から来た魔女ドロシー、プロゲーマーのシスター キサラと近未来の都市を歩くナイトランカーだ。
会場まで徒歩で2キロ
タクシーですぐの距離なのだが、ドロシーもキサラとの再会を喜んでいることだし
朝食も兼ねて観光を楽しんでいる。
「イラッシャイマセ!」
この売店の店員もロボットだ。
ここではパンやジュース、雑誌に朝刊などが売られているが
お弁当専門や書店、時計やアクセサリーなど、数多くのロボット店員の売店が、この街では点在している。
ドロシーが売店で買ったコーヒーを口にしながら続ける。
「シキが女の子に斬り掛かって押し倒すなんて、信じられないわねぇ...」
「し、シキさん、大胆!!」
俺はレイプ犯かッ!?
「押し倒してはねぇぞ...まぁ、斬り掛かったのは本当だが...」
何て言って良いのか、言葉に詰まった俺に代わりアイリス先輩が続ける
「私がまだ、ナイトランカーで駆け出しだった頃
ブレア様...いえ、ブレアの遺品 妖刀月読で暴れている賊が居ると聞いて
シキエルくんの討伐任務が初対面でしたね。」
「そうそう、あの時はナイトを倒して俺が代わりに、その座に就くことに固執していた。
お互いどうあれ、あの時は本当に申し訳ないと思ってますよ。」
更にアイリス先輩が悪乗り
「そう、私に斬り掛かった後...
彼は私を後ろ手に縛り、嫌がる私の服を...」
「やってねぇよそんなことッ!」
ドロシーがコーヒーを吹き出しかけ、キサラの顔も青ざめる。
誓って言う、マジでそんな事はしてません!
「俺が手も足も出ず、このアイリス先輩にボコボコにされて...
ただ、俺をナイトに推薦してくれた事には感謝してますよ先輩。
あの時、殺されていても文句は言えなかったから。」
そう、この先輩の強さは本物だ。
押し倒して縛るなんて、今の俺でも難しいだろう。
「ヘイ、ラッシャイ!」
屋台の前に通りかかると朝早くから おでん が売られていた。
いかにも、屋台の親父というデザインのロボットにキサラが興味を示す。
「見てください、ドロシーさん!
ロボットおじさんがおでんを売ってます!」
「本当ね、セルフ...サービス!?」
看板に書かれたドロシーには聞き慣れないセルフサービスについては俺が説明
「カップに好きな具を取ると、料金が表示される。
表示された金額をロボットに払うと買えるよ。
有人じゃないからってツンツンするなよ?
カメラ回ってるし、おでんツンツン女ってSNSで炎上するから。」
この手の無人ロボット売店、屋台には防犯カメラが設置されているので悪い事は出来ない。
ドロシーとキサラなら、その心配はないだろうけど
たまにバカをやらかす観光客が居るようだ。
2人で仲良く、おでんを選んでる姿は魔女とシスターと言えど、仲の良い姉妹に見える。
懐かしいな...
俺がこの街に詳しいのは昔、姉貴と来たことがあるからだ。
おでんも、ここと同じ店で姉貴が買ってくれた。
8年前...俺が9つの時か。
屋台の親父ロボットは当時古かったから、今は新しい物になってしまって寂しい...
この先に進むとオモチャ屋があって
左に曲がると、レンタルビデオショップがあって...
公園の場所、美味しいレストランの場所、全部覚えている。
このサイバネティックエリアは近未来な街感もそうだが、イベント運営にも力を入れている。
今回のGRAのようなDスポーツの他、音楽のライブでは立体映像やドローンを使った演出など、このエリアでしかお目にかかれない。
当然、費用も高く、売れたアーティストでないと此処では歌えない大舞台!
歌が上手かった姉貴
いつか、ナイトを辞めて歌手になりたい
いつか、ここで歌いたい
いつか、俺もステージで歌う姉貴を見るのが夢だった。
今となっては果たせなかった夢...
姉貴が死んでから、俺は音楽を聴いてない。
CDを買うこともダウンロードすることもなくなった。
俺は音楽が嫌いになった...
「ねぇ、シキってばッ!」
「シキさーん!」
おでんのカップを持ったドロシーとキサラに呼ばれていたらしい。
いつからだ?
「すまない、ちょっと考え事を...」
「早く何か食べないと朝食、食べ損ねるよ?」
「やっぱり、ムラマサ社は武士は食わねど高楊枝ですか?」
キサラも難しい言葉知ってるな...
昔の感傷に浸かっても仕方ない。
2人には関係のない事。
せっかくの楽しい雰囲気を壊しては申し訳ない!
「俺も、おでん買おうかな!」
「じゃあ、私がよそったげる!」
この屋台で、8年前は姉貴がよそって買ってくれたおでんを
今はドロシーがよそって買ってくれた。
デート代は俺持ちって約束だったんだけど
俺の表情で察したのだろう。
しかし...
「こんなに食えねぇよッ!」
ドロシー、よそりすぎ!
公園に移動し休憩所のテーブルで、この近未来都市でおでんパーティというカオスな行事を楽しみ
食べきれない分はアイリス先輩が手伝ってくれた。
おでんを食べるのは8年ぶりだが、しばらくは食いたくない!
時刻は午前9時
アイリス先輩が切り出す
「それでは、私はキサラさんと会場入りし、打ち合わせの予定があるのでお先に。
ドロシーさんとシキエルくんは、開場後に受付を済ませてから私に連絡してください。
関係者席へ案内します。」
アイリス先輩からスマホの番号とメールアドレス
ツイートブック(SNS)とニコチューブ(動画配信サイト)のアカウントが書かれたメモを渡される。
連絡前にフォローとチャンネル登録もお願いします...?
マメだな先輩も...
タクシーを捕まえ、一足先に会場へ向かうキサラとアイリス先輩
キサラは今日の主役だ。
一緒に闘ってやることは出来ないがエールくらいは送ろう。
「頑張れよキサラ!
優勝したら飯奢ってやる約束、忘れてねーぞ!」
が...キサラには特殊な癖があるらしい
キサラフィルター
『頑張れよキサラ!
優勝したらお持ち帰りの約束、忘れられない夜にしよう!』
とイケボで聞こえてしまってるらしいのだが...
それを俺が知る由もない。
「が、ががががが、頑張るますッ!」
顔を真っ赤にしてタクシーに乗り込むキサラを見送り...
「大丈夫?」
ドロシーが声を掛けてくれた。
何が...?と返したい所だったが、ドロシーの事だからお見通しだろう。
俺は続けた。
「昔、ここに姉貴と来たことが何度かあってさ。
さっきのおでんも昔、姉貴が買ってくれたんだ。
嫌な事を思い出したり、悲しい気持ちになってたわけじゃないんだ。
正直、こんな用事でもなければ、ここに来たいなんて思わなかったよ。
昔を思い出すこと、もう二度と姉貴が戻ってこないことを実感するのが怖かったから。
でもさ...
今の俺にはドロシーが近くに居てくれる。
だから、何処にだって行けるし、姉貴との楽しかった思い出も大切にしなきゃって思ってる!」
刹那...
ドロシーが静かに抱きしめて、背中を摩ってくれた...
今にして思えば、今日のドロシーはいつもより優しかった。
今日の俺の仕事は...
姉貴を殺したスターク・アルバーンの手掛かりを掴むこと。
そいつが憎い!
俺が思いつく限り、一番ひでぇやり方でぶっ殺してやりたい!
でも、姉貴が勝てなかった相手...闘うのは正直怖かった。
殺意も恐怖も...ドロシーの近くに居れば忘れられた。
きっと、この街ではドロシー無しでは平常心で居られなかっただろう。
怒ると恐いけど、俺の気持ちを一番理解してくれているのは...
間違いなく彼女だ。
「無理しないでね。」
ドロシーの優しい声
温かい腕の中、柔らかい感触、落ち着く香り...
「無理なんてしてねーよ、今の気持ちは本心。
まだ、時間もあるし、行きたいところがあれば案内するよ。
ただ...もう少し、このままで居てくれないか?」
少し、甘えたくなった。
「良いよ。
ねぇシキ、ちょっとかがんで。」
ドロシーに言われるまま、少し膝を落とす。
丁度、胸の前で顔を抱かれる形で、優しく頭を撫でてくれた。
「よしよし。
私が付いてるから、大丈夫だからね。」
こんな姿、とてもキサラとアイリス先輩には見せられねぇな。
時刻は午前10:00
サイバネティックシティ Dアリーナ
ガンレイズアリーナ決勝大会会場
開場時間にはギリギリ間に合ったッ!
あの後何してたって?
ドロシーがクレーンゲームにハマって3500円を散財!
お目当ての灰色狼のマスコットが、お気に入りのガーディアンARMにそっくりなんだって。
レインドッグ...だったか。
無事ゲットしたが、近くのリサイクルショップで500円で売られてるのを見かけて...
「まぁ、気にすんなよドロシー!
クレーンゲームって、獲る過程を楽しむものだから!」
「うるさいッ!」
涙目で睨まれました、この通りご機嫌斜めだ。
しかも、泣くことねーだろ!
意外に涙脆いんだよなぁ...
優しいドロシーも嬉しかったけど、どうやら平常運転の怖いドロシーに戻ったらしい。
この先、この方が気も使わないし良いのかもしれない。
アイリス先輩に連絡し、関係者席へ移動!
「二人とも、どうしたのですか?
喧嘩でもしたのでしょうか?」
「あぁ、クレーンゲームで、うげぇッ!」
言い終わる前にドロシーの肘打ちが俺のミゾオチに炸裂!
「プイッ!」
プイッ!じゃねーよッ!
あぁ、もう少し公園で甘えておけば良かった...
Dアリーナの設備
観客はアリーナ席で大会の様子をモニター観戦
更にステージ上ではキルスコア...倒した人数が多いプレイヤーの様子が3Dホログラムで上映される。
最前列に近ければ近いほど、戦場を体感できるんだ。
そして、選手達は個室に通される。
楽屋兼用でモニターとロッカーがあり身支度を整えた後、ドアと反対側にあるゲート前に待機。
スタートと同時に、ゲートから仮想世界に入り試合が始まる!
ゲートを潜れるのは選手だけで、当然ARMの持ち込みは厳禁!
負けた場合、この個室に強制送還され、その時は大会終了まで観戦だ。
さて、俺とドロシーだが...
キサラの関係者と言うことで、キサラと同じ個室に通される。
ここのモニターで、キサラにフォーカスを当てた試合を観戦できるということだ。
まさか、こんなに早く再会することになるとはな...
「待ってましたよシキさん、ドロシーさん!」
いつもなら、嬉しそうにはしゃぐキサラだが
今朝の様子と違い試合前で緊張しているのか何処か落ち着いている。
ここまで真剣な表情を見るのは初めてだ。
そして、手にした得物を見て俺とドロシーも驚愕した!
キサラの身の丈を越す全長150cmはあるだろう。
ストックは様々な調整が出来そうな可変式
大型のスコープにバイポッド
大口径のバレルの先端には厳ついマズルブレーキ
対物狙撃ライフル
竜さえも撃ち落とすキサラの得物の名は「Gram-50」
別名、竜殺しのグラム
こんな大きいライフル持って走れるの?
人体に影響を与えないレイズガンと言っても重量や反動は本物のソレと同じだぞ?
だが、キサラも精神統一中で、此方に話しかけようとせず
対物狙撃銃グラムを念入りにチェックしている。
邪魔するのも悪いのでタイムスケジュールをドロシーと確認
午前の部は11時~12時
予選を勝ち抜いた参加者100人によるサバイバルで上位20人になるまで撃ち合う。
ステージは広大なフィールドだが、時間経過と共にエリア外が迫る。
当然、エリア外に出れば失格!
昼休憩は12時~14時と長め
この時、GRAで使うメインウェポン、レイズガンの変更も認められる。
13時からはスペシャルステージがあり
アーティストがGRAのイメージソングを歌唱!
その後もトークショーで様々なコンテンツ紹介があるらしい。
この辺は興味ないが...
14時から上位20人による本戦!
最後の一人がGRA決勝大会の優勝者となる!
その賞金、なんと8000万円!
そして、時刻は午前10:59
「よっこいしょッ!」
キサラが得物を背負い立ち上がる!
身の丈程の対物ライフルが、より大きく見える。
そして、表情も落ち着き、自身と決意に満ちていた。
いつもの緊張しがちで、慌てやすくて、子供っぽい表情ではなく...
俺とドロシーなら分かる。
今のキサラの顔は戦士の顔だ!
「頑張ってね、キサラちゃん!」とドロシー
「全員、ぶっ飛ばしてこい!」と俺も続く
そしてキサラも満開の笑顔で答える。
「行ってきます!
2人とも、大好きですよ。」
午前11:00
ブザーと同時にゲートの光の中へキサラが飛び出す!
ガンレイズアリーナ 決勝ステージ開幕!
キサラの装備
Gram-50
実銃モデル マクミランTAC-50
大口径の対物ライフルです。
この世界では希少種ですがドラゴンも存在します。
主に大型のリーパーやガーディアンに用いられるタイプの大型ライフルですが、ドラゴンさえも撃ち落とすその威力は「竜殺し」としても名の知れた設定です。
キサラはもう一つライフルを愛用していますが、それは後程。
キサラの設定
キサラ・アルスカーのアルスカーはスェーデン語で愛を意味しています。
他にも銃の名前など、キサラとスレイプニル社は北欧神話から参考にした物が多いです。
次回、キサラの実力が発揮されます!
そして、思わぬ形でスタークの正体を知るシキ
ドロシーも、史上最悪の敵と戦う運命にあります!
ガンレイズアリーナ編
色々と考察をお楽しみください!
作者 Twitterでも随時裏話を投稿しています。
@Lucifer_doa