街を焼く焔の音 風の音 森の草木の音
虫の声 月明り 闇 訪れる静寂
カルデア宮殿 城下町PM9:10
竜の鍵を刺し、束の間の静寂を破ったのは赤い空だった。
既にこの世界の空には、昼も夜も存在しないのか...
不気味な赤い天空が世界を包み、黒い雲が流れる風景は、まさにこの世の地獄
ここは天空に浮く島国カルデア
地鳴りと共に、ゆっくりと降下を始める。
コールタールのように黒に染まった海から、それは姿を現した。
鯨一頭なら丸呑みにできるであろう巨大な竜の頭が。
「俺、やっぱ、やめればよかったかな?」
あまりの世界の変貌に弱気なことを言うオズと
「いまさらかーいッ!」
ツッコミを入れるリリス
更に1つ、2つと姿を現す竜の頭
誰もが断言するだろう
3つ、4つ
誰もこいつには敵わない!
5つ、6つ
こいつは誰にも従わない!
7つ、8つ
世界の終わり
大陸を覆わんばかりの対の翼が海面から浮上する。
8つの頭を持つ巨大な竜が、その全貌を露わにした。
その全長は自分達が認識しているドラゴンと比較にならない、空飛ぶ島そのものだ。
竜の頭の内、一つがオズ、レイヴン、リリス、バレット、そして気絶したドロシーを視界にとらえる。
『我の封印を解いた者は誰だ?』
テレパシーなのか竜が眼前の5人の脳に直接語り掛ける。
「うぅ...うぅん..!」
竜の声にドロシーが目を覚ます。
相変わらず身動きが取れないがリアクションに困るほど、凄まじい事になってるのは瞬時に理解した。
刹那
ドロシーの拘束が解かれる。
レイヴンが拘束用のARMを解除したのだ。
「レイヴン?」
「もっと、君と話していれば良かったのかもな。
妹のこと...」
先のオズとドロシーの舌戦で心に変化があったのか。
それはレイヴン自身にも分からない。
ひとつ違わないこと
-この状況に僕は恐怖していた
世に放ってはいけないものを、僕達は放ってしまったのではないか?
今は敵対していてもドロシーの、彼女の優しさ、心強さは知っている。
妹を失い心を閉ざしてきた。
心を閉ざしたまま、罪人の首を飛ばしてきた。
カルデアの誰もが僕を気味悪がっていただろう。
しかし、ドロシーは感情を失った僕を軽蔑することなく、笑わせようと冗談を言ってくれたり
妹のことを思い出し眠れなかった夜も、そばで色んな話を聞かせてくれた
妹のいない世界を憎んだ
情が僕とオズの使命を狂わせてしまったと思い、彼女を傷付けてしまった
しかし、傷だらけになりながらも、彼女は本気で僕達を叱ってくれた
虫のいいだが、今になって縋りたかったのかもしれない-
オズが前に出る
「俺が封印を解いた。
まさか、ここまででっかいガーディアンARMだったとはなぁ。
おい、アンタ、名前はなんて言うんだい?」
再び訪れる静寂
『随分と馴れ馴れしいな、我をガーディアンと?
我こそは神なるぞ!』
「あぁ、そりゃすまない。
俺はこの世界を...」
オズが言い終わる前に
『黙れ!』
「?!」
『貴様に名乗るつもりもなければ、貴様らの世界どうこうなど知ったことではない。』
ドロシーが察した
「皆、逃げるよッ!」
こいつは、ヤバイ!
敵とか、味方とか、誰が悪いとか、わだかまりとか今は関係ない!
こいつは間違いなく、ここにいる全員を殺す
全身が痛い、今にも泣き出しそうなほど痛い
でも、ここで死ぬわけにはいかない!
しかし、島一つに匹敵するスケールの怪物を前に、全員が成す術などなかった。
『死ね』
巨大なアギトに、その場に居た全員が飲み込まれる。
一瞬の出来事だった。
オズ
「嘘だろ...俺の世界、俺の夢、これで終わるのか?
話と違うじゃねぇか...リリス!」
レイヴン
「こんな兄貴でごめんな...すぐ会いに行く..
ありがとう...ドロシー..」
バレット
「これも運命か。」
リリス
「キャハハハ!」
そして、ドロシーも闇に包まれる。
何処までも堕ちていく。
ゼピュロスブルームで風に乗って脱出を...
ARMが起動しない!
もう、オズ達の姿は見えない。
深い、深い、闇の中へ堕ちていく。
(私...死ぬんだ..)
-自分が死ぬことなんて、考えてみれば想像したこともなかった。
いや、恐怖心から逸らしていたのかも知れない。
死は突然やってきて、あっさり私の命を奪っていった。
お姉ちゃんも、そうだったのかな...
お姉ちゃんを殺した時、私は子供の様に泣いた
自分で殺しておいて「起きてよ」と、矛盾もしていた
でも、お姉ちゃんは「あなただけは愛していた」と優しく笑ってくれた
もっと、泣き叫んだり、走馬灯を見たり、死ってそういうものだと思っていた
私の初恋は実らなかった
そうだよね...あんなに小さくて、年下で、異世界から来た英雄だもん
2年前、一緒に闘った仲間達とも距離を置いた
皆には闘いのない世界で幸せになってもらいたかったから
私の国の掟に、巻き込みたくなかったから...
一緒に旅をした故郷の仲間とも、気持ちがすれ違ってしまった
辛い過去を、無理に聞き出そうなんてできないよ...
でも、いつか私にだけは、心を許して全部話して欲しかった
私の人生、上手くいかない事ばっかりだったな
でも、楽しかったなぁ...
あれ?...私も出るんだ..涙
お姉ちゃん、私...頑張ったよ..
・・・
・・
・
光と騒音にドロシーが目を覚ます。
「ちょっと待って!何ここ!?」
思わず声を上げる、私は死んだはず。
堕ちた先が首の竜の腹の中なのか、あの世なのか、地獄なのか、天国なのか...
月と星が彩る夜空
高層ビルが立ち並び、街のネオンが煌びやかに世界を照らしていた。
自動車のクラクションと電車の騒音、道行く人の喧騒、そこはメルヘンの世界とは程遠い近未来の都市
目の前の世界を五感で感じる、さっきまでの闘い、拷問の痛みも熱もまだ残っている
「私...生きてるッ!?」
ドロシーは涙を拭い、覚悟を決めた。
あの竜の怪物には、何か秘密がある。
オズ達もきっと死んでない、まだ終わってない。
「ったく、面倒なことしやがってあいつら!
この世界で見つけて、引っ叩いて説教してやるからな!」
ドロシーの新たな決意
だが、この高さで落下すれば即死は免れない。
最後の力を振り絞りゼピュロスブルームを発動。
銀の箒に腰掛け風に乗る。
「魔力が足りないか...」
しかし、負傷し消耗した彼女が、いつものように自由に飛び回るのは困難だ。
せいぜい目の前で倉庫が並ぶ埠頭に、安全に着陸するだけが精いっぱいだろう。
・・・
カルデアシティ
オリエントタウン倉庫
PM9:30
「ムラマサの刺客だ!撃てぇ!撃ち殺せッ!」
黒いスーツを着た小太りマフィアの怒声に、同じ黒スーツが一世にマシンガンを放つ!
標的は黒のパーカーでラフな格好の茶髪の少年
身長は170センチ、瞳の色は血のようなダークレッド、色素の薄い中性的で17歳相応の顔立ち。
しかし、彼の手に握られているのは漆黒の鞘に納められた刀
黒の使巻き、その間から覗く瞳と同じ血色の下地
漆黒とダークレッドの色合いが妖艶で美しくも、不気味な存在感を放っていた。
「マシンガンで俺がやれるかよ、ランカーなめんなよ?」
彼が言うと同時に抜刀
凝固した血のような赤黒い刀身が妖艶な光を放つ。
まさに、血の妖刀だ。
「術式、刻死界牢。」
その刹那、ネガフィルムの様に色が反転した空間が周囲に広がる。
反転した世界では時間そのものがゆっくりと流れる。
放たれた銃弾が、蠅が止まるような速度に失速し、彼を傷付けることなく通過する。
20数名のマフィア達がマシンガンやピストルをぶっ放しながら何か叫んでるが
スローモーションの世界で聞き取るのは困難だ
その世界で、彼だけが空間を支配し、自由に動けていた
術式の名の通り、その世界は時の牢獄。
血の妖刀を手にした少年は、お目当てのアタッシュケースの前で立ち止まる。
左手に刀、右手に鞘、両手が塞がってはアタッシュケースが拾えない。
まず、ここにいる全員を肉片に変えてから、このケースは回収しよう。
「術式、屍山血河」
血の刀身を一閃し、彼はカチッと音を立て刀を鞘に納める。
ネガの世界が消滅し、時は動き出す。
同時に遅れて発生する、空間を裂く無数の斬撃
「ぎゃあぁぁぁ!」
マフィア達の断末魔
切断された無数の手、足、首、胴が血しぶきと共に飛び散る。
金属でできた銃器も例外なく刻まれ、ここにいる20数名のマフィア全員が巨大ミキサーの中にぶち込まれたかのようにバラバラに切り刻まれ惨殺。
肉片が散らかり、血の雨が滴る阿鼻地獄
窓から覗く赤い月が彼のシルエットを映す
これが彼の力
この世界のナイトクラスの実力
刀剣製造老舗
巨大企業 ムラマサ社所属
ナイトランク7位
彼の名は シキエル・ヴァレンタイン
刀の名は闇の妖刀 月読
夜を司る神の名を冠する血の妖刀
カルデアシティ
ナイトランク
巨大企業
マフィア
アタッシュケースの中身
この話は、また次回
そして、この少年シキエルと魔女ドロシーの出会いが、2つの世界を大きく変える物語となる
今日までの話は序章にすぎない
これはメルヘンの世界とは違うお話
決して英雄として称賛されることもなく、表で語り継がれることもない
魔法を巡り欲望がうごめく裏社会の物語
MAR-ナイトランカーズ