次の機会は、2週間後に訪れた。
この日も鎮守府内に入る用事をわざと作り用事終わりに執務室前を通りかかった時だった。
執務室の中から粘着質な音がした。
デジカメで撮影を初め中を覗き見ると涼月さんが提督の前に跪いて口淫をしているのが見えた。
「おい、顔上げろ」
提督が呟いた。
涼月さんが行為を中断して顔を上げるとパシンと高い音がした。涼月さんがぶたれたみたいだ。
「もっと上手くできんのか!」
「も、申し訳ございません……」
提督の理不尽な怒鳴り声に涼月さんが震えながら返した。
その後も、提督が彼女に暴力をふるうのを何度も見た。顔だけでなく腹を蹴り飛ばしたり、乳房をつねるといった行為も混じっていた。
依然見たときよりも確実に涼月さんの状態は悪化している。
暴力がエスカレートしていたし、体の傷がかなり増えていた。
二人の行為は進み、背面位で提督が犯す形となった。
裸になった涼月さんの体は青痣だらけだった。痣があるのは服を着ると隠れるところばかりだ。
意図的にやったとしか思えない。加えて何度もたたかれた顔も鼻血が垂れ、潰れたトマトみたいに赤く腫れあがっている。
傷だらけの彼女は普段とは違った意味で美しく見えた。その姿に興奮した自分に罪悪感が沸く。
行為の最中、理不尽な暴力が飛んできても暴言を吐かれても涼月さんは痛がるような様子を見せたり、悲鳴を上げたりしたけど、けど全く抵抗をしなかった。
僕には、彼女が全てを諦めきっているかのようにも見える。
二人の行為が終わると僕は、無言で鎮守府を後にした。涼月さんの状態が気になったけど今の僕にできることは無い。
相変わらず自分の醜い下半身は、痛い程に勃起していたがこの前よりはマシだったと思う。それでも帰ってからの自慰は我慢できそうにないけど……
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「うわっ、これは酷いですね……」
次の日、映像を見ながら明石さんが呟いた。
「証拠になりますか?」
「バッチリですよ。痣の方はまだ戦場での傷と無理やり弁明できなくも無いですが……」
「まだ不十分ですか……」
まだ必要かと思うとため息が出た。またあれを見に行かなければならないと考えると憂鬱になる。
楽しみでないと言うと嘘になるけど辛いことには変わりないし、僕自身が汚れて行ってるような感触がある。
いつか僕自身があの提督のようになってしいそうで怖い。
「そもそも確かな告発先を見つけなきゃですけどね。とはいえ証拠集めとしては大きな進歩だと思います。ところで」
明石さんの突然会話を切るような話し方に悪寒を感じた。
「動画のコピーは取ったんですか?」
やっぱりだ。そんなことを聞いてくるだろうと思った。
どう答えるべきだろうか? 嘘を付きたいのは山々だが多分ばれてる。となると……
「取りましたよ……これでいいんですか?」
「よくできました」
明石さんはニッコリとして言った。
「意地が悪いですね」
「信頼関係を確かめるための確認ですよ。内緒話はこれぐらいにしましょうか。いつもの作業を始めますよ」
それからは、いつもの整備兵としての日課が始まった。仕事上必要なこと以外、雑談一つなしに作業を続ける。
お昼ごろに涼月さんが来た。
「失礼します」
彼女の方を振り向くと顔の昨日、叩かれたと思わしき場所にガーゼが付けられていた。
「涼月さん、大丈夫ですか! ?」
思わず声が出た。
「真琴君……?」
涼月さんが怪訝な顔をした。
まずい、このままだと昨日の盗み見がバレる。涼月さんの顔のガーゼが目についた。
「怪我してるじゃないですか! 何があったんですか?」
「顔の怪我ですか? ちょっと階段で転んでしまって……アハハ……」
涼月さんが力なく笑った。
言われなくとも嘘だと分かった。
しかし、今の僕にはそれを追求する権利はない。ここは納得したふりをしておくのが正解だ。
「そうなんですか……」
「提督にもこれぐらいの怪我は自分で直せって言われちゃいました。階段から落ちたのは私ですから当然ですよね」
見え見えの嘘を付きながら笑う涼月さんを見ていて涙が出そうになった。
「要件は何ですか?」
明石さんが僕が泣き出しそうなのを誤魔化すかのように叫んだ。
普段なら彼女のことを冷たい人だと思ったかもしれないけど、この局面では素直に助かったと思った。
「壊れてしまった装備の修理を依頼したいのですが……」
「いいですよ。えっ? 10cm連装高角砲? これぐらいなら変わりは幾らでも……」
「失礼します」
涼月さんは装備を渡すと逃げるように工廠から出て行った。
10cm連装高角砲は涼月さんのような防空駆逐艦にとってはかなり一般的な装備だ。この鎮守府クラスなら予備は幾らでもあり、直すような必要はないはずだけど……
「なるほど。そういうことですか」
少しして連装砲の中を開いた明石さんが一人で呟いた。
「どうしたんですか?」
「メモが入ってます。真琴君宛てみたいですよ」
メモには夜八時に工廠の裏に来てほしい とだけ書かれていた。
「何か話したいことがあるのかもしれませんね。提督は今日は少し離れたところで会議があるみたいなので罠の可能性は無さそうです。行きますか?」
「当然です」
僕はそう答えた。
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時間よりも十分程前に着いたが涼月さんは既に来ていた。
「こんな時間に呼び出してしまい申し訳ありません」
「いえ……気にしないでください。でも、なんでこんな時間に呼んだのですか?」
涼月さんが言うか迷ったような様子を見せたがすぐに決断をしたように口を開いた。
「千円でいいんです。お金を貸してほしいんです」
思いもよらぬ言葉にポカンとした。
「いいですけど…何かあったんですか?」
「実は昨日の夜から何も食べれて無いんです。恥ずかしい話ですが給料を使い切ってしまって……」
涼月さんが給料を使い切る。そんな話があるのだろうか? 鎮守府内の食堂は確かに有料だけど格安で食べるのに困るなんてことはまずないはずだ。
何か急にお金が必要になるトラブルでもあったのだろうか? それに今日を凌いだとしても給料日まではまだ日があり、その場凌ぎにしかならないはずだ。千円なんかじゃ足りないだろう。
カッコつけという意味もあるけど、ここは思い切って……
「分かりました。お貸ししますね」
僕は財布から1万円を取り出して涼月さんに渡した。
「えっ? 真琴君、紙幣を間違えていませんか?」
「今日、何か食べれたとしてもその場凌ぎにしかなりません。それならこのお金で給料日まで頑張ってください」
「本当に……良いのですか?」
「困った人を助けるのは当たり前のことですから!」
嘘はついて無かったけど見えを張ったと思うと少し恥ずかしく感じた。
「ありがとう……ございます……この御恩は必ず…」
涼月さんの瞳からポロポロと涙がこぼれた。
「なんで泣いているんですか?」
「目にゴミが入っただけです!」
涼月さんはそれだけ言うと夜道を走っていった。
あの涙はいったい何だったのだろうか……?
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次の日、明石さんにあったことを工廠の奥で報告すると顔を歪められた。
「まずい兆候かもしれませんね…」
「どうしてですか?」
「それぐらい察して下さいよ。いいですか? 秘書艦って給料が結構いいんですよ。幾ら秋月さんの世話をしているからって自分の飯を食う金ぐらい確保できると思いません?」
「たしかに変だとは思いましたけど……でも急にお金が必要になるときってありません?」
「確かにそれがないとは言えません。だけど涼月さんはしっかりしているのでこれまでの貯金ぐらいあるはずです。それが使えないって事は何でかわかりますか?」
「えーと……」
考えてみたが合いそうな答えが出てこない。貯金が吹き飛ぶほどの額のお金が突然必要になったのかそれとも貯金そのものが使えなくなったのか……
「勘が悪いですねぇ」
明石さんがため息をついた。
「いいですか? 涼月さんは提督に絶対に逆らえない状態なんですよ。提督に財布を握られているとか考えないんですか?」
「あっ……」
言われてみて納得してしまった。
たしかに涼月さんの財布が握られているとなれば話に整合性がつく。お金が無ければ何も食べれないし誰かに泣きつくしかない。その対象が僕だったただそれだけの話だ。
「大分エスカレートしてるみたいですね。もしかしたら、涼月さんの言った昨日の夜からというのも嘘で二日前や三日前からかもしれないですし……直接言いに来なかったのも理由があるのかもしれません。例えば、監視でもされていたとか……」
明石さんがコーヒーを入れながら呟いた。
「明石はdvの専門家ではありませんがそんな感じがします。もしかしたら真琴君にも飛び火するかもしれませんよ」
自分にも飛び火するかもしれないと聞いて背筋がゾッとした。
「貸した額が額ですしバレたら絶対に問い詰められますよ。恐らくですが俺の女に手を出すんじゃねぇ ぐらいは言われるんじゃないでしょうか?」
「どうすれば……」
「ひとまずは、素直に認めて謝るべきだと思います。地べたに顔を引っ付けて謝れば多分、許してもらえますよ。理不尽な話ですがね」
「そうですか……」
頭を下げるしかない……か。目を付けられるだろうし理不尽でしかないけどここは耐えるしかなさそうだ。正しいと思ったことをやっただけなのに気が狂いそうになる。
ふと、涼月さんが泣いていたことを思い出した。
「そういえば、涼月さんは何で泣いていたんだと思いますか?」
「明石なりの憶測がありますがちょっと話せないですね」
「何でですか?」
「涼月さんの名誉に関わるからです。ヒントを出すのであれば真琴君が以前、涼月さんに馬鹿 と言われた時がありましたよね? 多分、それと同じですよ」
僕に罵声を飛ばした時の涼月さんを思い出した。あの時の彼女は普段とは別人のように見えた。
まるで、僕のことを心配するように……あきれたように……そんな感じだった。あの時と何か共通点があるようには思えないけど……
「どうしても……ですか?」
「ダメですね。どうしても聞きたいのであれば涼月さん自身の口から聞いて下さい。今は、どう足掻いても無理だと思いますがね……あっ、コーヒー飲みますか?」
「お願いします……」
明石さんに入れてもらったコーヒーはやけに苦く感じた。
この日も工廠に来た涼月さん(相変わらず傷だらけだった)を見る機会はあったが話す事は無かった。