身体が女になったからって、オレは男だから!ホモじゃねーから!男とヤるとかありえねーから!ち、ちが……♡ やめ……♡ 作:ゲルパンマン♥山崎
◇ ◆ ◇
「ふっ! ふっ! はあっ!」
「ぬっ! くっ! ふっ!」
二人は素手での戦闘訓練をしていた。
クリスは元々前衛寄りの立ち回りが主な役割だったが、今の肉体で前と同じ役割が全うできるとは思えない。
今の身体でどこまでの事が出来るのかの確認も兼ねて、二人は拳を重ねる。
それは、サイラスの一方的な展開だった。
当然だ。体格差があまりにも大きく、筋肉量も手足の長さも違う上、クリスは慣れない身体を操っている。
今までの実力が発揮できるはずもない。
が、しばらくすればクリスがサイラスを翻弄し始めた。
肉体に慣れ始め、戦い方を理解してきたのだ。
小さな身体と、男にはないしなやかさを巧みに使い、クリスはサイラスの視界から一瞬消える。
1on1の、お互い対面した状況下。普通ならば目を離すはずがない。敵から目を離すなど、ナメプでなければ自殺行為に他ならない。
にも関わらず、クリスはサイラスの視界から外れる。
それも一度だけではなく、何度も。
そして明後日の方向から蹴りが飛んでくるのである。
このような戦い方をサイラスは知らない。
クリスが以前から習得していたとも思えない。
クリスとは長い付き合いだが、どのような局面でもこんな戦い方はしていなかった。
学習したのだ。今この瞬間に。
現状では、今までと同じやり方は通用しないと確信し、それまで培ってきたスタイルを捨て去り、新たなスタイルを編み出したのだ。今この瞬間に。
サイラスは自然と笑みを浮かべていた。
そうだ。これだ。これがクリスだ。
どんな不利な状況下であっても、必ず勝ち筋を見出す。
まるで勝ち目のない戦闘が、いつの間にか蜘蛛の糸の如き希望が見え始めるのだ。
そしてそれは、時間と共にどんどん太く成長していく。
霞を掴むかのようなその希望の糸は、たぐればたぐるほどに明確な勝利の気配を感じさせてくる。
そして気がつけば、まるで勝ち目の無かった相手に打ち勝っているのである。
それも一度や二度では無い。
あの魔族も強かったが、死んでもおかしくない場面……いや、クリス以外とその場にいたら、間違いなく死んでいたであろう場面は幾度もある。
ただ“勘が鋭い”や“才能がある”などという言葉では片付けられない、クリスの特性。
例えるなら、“勝利の女神に愛されている”。そのような類いのものではないだろうか。
味方ならば心強いが、敵に回すと本当に恐ろしい。
もしクリスと本気で敵対するのならば、初手から過剰すぎる戦力をぶつけて押し切る以外の手はないと、サイラスは考えている。
一方で、有利をとっているはずのクリスは焦っていた。
何度も良い蹴りが入ったはずだが、サイラスには大したダメージが入っていない。
単純に、軽すぎるのである。
読者諸君はプロボクシングの階級を御存知だろうか。
あれは体重によってとても細かく階級分けされており、男子は17種、女子では18種にも及ぶ。
軽い階級ほど小刻みの傾向はあるものの、一部を除いて、隣の階級との重量差はおよそ2~3kg程度である。
ほんの2~3kg。
ボクシングという競技において、この程度の重さの違いが、決定的な戦力差になる。当然、重いほどパンチの威力は上がる。
この階級の分け方には、もちろん
それほど、近接戦闘において、こと格闘戦において、ウェイトは重要な意味を持つ。
今のクリスの体重は約30kg。対してサイラスは90kgを超える。三倍の体重差は、もはや絶望的と言って差し支えない。
もちろん、何でもありの実戦ならば、体重差がどれだけあろうとも致命傷を与える武器や手段はいくらでもある。だが、格闘に限定した訓練において、この格差を埋める手段は、魔法という不条理がまかり通るこの世界であってもほぼ存在しない。
“ほぼ”存在しない。
クリスは、その常識を覆す人間である。
『後ろから蹴ればいいじゃん』
そのあまりにも単純明快な答えは、確かに有効だ。実現できれば、の話だが。
クリスは、それを実現させる。
急停止、急加速、フェイントを混ぜた縦横無尽な移動でサイラスを撹乱、その視線を誘導すれば、
そこに合わせて全体重を乗せて蹴れば良い。
事実、クリスは何度もサイラスの無防備な背後から蹴りをかましてやった。
だが、戦況は一向に好転しない。
クリスが一流であるのと同様に、サイラスもまた一流なのである。
クリスは苛立ちを募らせる。
まさしく理不尽。理不尽が過ぎる。これがサイラスだ。
全身でビリビリと感じる闘志。全く本気では無いはずだが、気を抜くと恐怖を感じてしまいそうだ。
前から思っていたが、サイラスはヤバい。肉体的な話ではない。サイラスが持つ、特異な能力だ。
形容するならば、“察知”、もしくは“認識”。
今さっきオレは、勝利を確信してしまうほど無防備な瞬間に蹴りを入れた。入れたはずなのだ。
しかし、防がれている。対処されている。
所詮子供の体重。威力が足らない。それは理解している。
だが、それでも30kgはあるのだ。30kgの棍棒で殴られるような衝撃を、そうも易々といなすか?
当てる直前までクリーンヒットを確信した攻撃を、素手で完璧に捌く?
笑えない。全くもって、笑えない冗談だ。
“察知”と形容したサイラスの特性は、むしろコンビネーションにこそ、その真価を見せる。
いつもいつも、理想の場所から、理想のタイミングで、理想の支援が来るのだ。
もちろん事前にコンビネーションの練習はしているが、基本的にオレが仕掛けて、アイツが合わせる。オレはあまり位置取りやタイミングを考えていない。
千差万別、千変万化の戦況において、こいつはいつも打ち合わせ通りの……いや、打ち合わせ以上に完璧な、理想的なコンビネーションを実現させるのだ。
味方ならば心強いが、敵に回すと本当に恐ろしい。
もしサイラスと本気で敵対するのならば、あらゆる作戦はすでに知られている前提として、味方すらも巻き添えにした自爆戦術をもって殺しきる以外の手はないと、クリスは考えている。
突破する方法が皆無と言う訳ではない。
だがそれは、“手段を選ばなければ”と付け加えなければならない手だ。
具体的には、目潰しや金的、自らの膝を壊す覚悟の膝蹴りなど、双方に致命的な負傷を残しかねない手段である。
訓練でやるようなものではない。
(二人にとって、背後から後頭部を狙うキックは比較的安全な方に分類されるよ!蛮族!)
結局、クリスは負けた。
隙を伺うために縦横無尽に跳び回った結果、スタミナを使い切ってバテバテになったクリスをサイラスが羽交い締めにしてゲームセットだ。
「っはあーー! 負けた負けたー! ちくしょー。いい線行ってると思ったんだけどなぁ」
「ああ、始めてとは思えない動きだったぞ。問題は瞬間火力、決め手だな」
「うっせーわかってんだよ、そんくらいよぉ。なんか考えねえとなぁ……」
「まぁそれは追々だな……」
「オイオイオイ」
「死ぬわアイツ」
「たいしたものですね」
「さて、汗拭いたら買い物に行くか」
「あ? なんか急いで買う物あったっけ?」
「お前の服と装備」
サイラスがピッと指差し、クリスが自分の格好を確認する。
男物のシャツと短パン。紐で縛ってずり落ちてくる事は無いが、サイズはまったく合っていない。
「あー……うん、まぁ、そうだな」
「ぶかぶかだろ。それじゃまともな戦闘はできん。今までの装備も使えないな」
「ここでまた余計な出費か。はー、やだやだ。いくら稼いでも金は簡単に飛んでいく」
「だからと言ってそのままじゃ死にに行くようなもんだろ。嘆いてもしゃーねえよ」
「ま、命には代えられんしな。いつまで使うかわからんが、買わない訳にもいかないか……」
(使わせてやるさ! いつまでもな! でもこんなラフな格好も悪くないんだよなァ……ガード甘すぎて、シャツの隙間からチラチラ、短パンからチラチラ見えるし、なんかいい匂いするしよぉ……こんの、クリスがよぉ……! わからせてぇ……!)
そうして二人は、武器防具衣服が全て揃う大型店舗へと赴いたのだった。
これから30分おきに投稿します。