身体が女になったからって、オレは男だから!ホモじゃねーから!男とヤるとかありえねーから!ち、ちが……♡ やめ……♡ 作:ゲルパンマン♥山崎
◇ ◆ ◇
「おい、いーのか!? マジでいーのか!?」
その日クリスは、豪勢な料理を前によだれを垂らしていた。
「いいんですいいんです! クリスさんには日頃からお世話になってますし、これくらい返させて下さい!」
「へへへ、クリスさんは何も気にせずパーっとやっちゃってくださいよ」
「ま、天下のクリスさんが普段食ってる物より数段下かもしれやせんが、ここは俺達の顔を立ててくだせぇ」
「んなことねえよ! へへっ、おめえらのこと、少し勘違いしてたようだぜ!」
「飲み物はなんにしやす? このワインなんかいかがですかぃ!」
「んなっはっは! 悪いな皆の衆! では頂かせて貰おう!」
クリスは、他の冒険者達に囲まれて接待を受けていた。
クリスが美少女に変貌したという情報は瞬く間に広がった。
始めこそゲラゲラ笑っていた冒険者達だったが、クリスが本気で嫌がった事と、サイラスが鋭い目で睨み付けてくることで、すぐにからかうヤツはいなくなった。
そして今日。
男達は、媚びへつらう顔の裏に下卑た笑みを隠して、口々にクリスをおだて、褒め称える。
目的はもちろん、クリスの身柄である。
いつも隣にいるはずのサイラスは今日はいない。クリスの女体化の件で、古い友人を訪ねてみると言って数日前に一人で出て行ったのだ。
当然、サイラスがいないことを知った上での計画である。
元が
賊どもは考える。
間違いなく高く売れる。
お貴族様の御息女すら霞んで見える可憐さだ。
宝石なんて目じゃない値がつく。
売れるまでは俺達で可愛がってやるのもいい。
いや、処女を散らすのは不味い。価値が下がる。処女だからこそ高値が付くんだよ。
……まだ処女だよな?
などなど、各々様々な思惑を持ちながらも、一先ずクリスを
「んくっ、んくっ、かーーっ! うんめぇ~!」
「おっとグラスが空になってしまいやしたね。おかわり注ぎましょう」
「……はや? ……あえぇ?」
そしてクリスは計画通り、睡眠薬入りのワインを飲んでぐっすり眠ってしまった。
「よし、薬が効いたな。連れてくぞ」
「おい代われ。俺が抱いてく」
「はっ、バカ言うな。ガサツなテメェの腕に抱かれて万が一顔に傷でもつけちまったらどうするんだ。
へへへ……おーよちよち。お兄ちゃんが優しく抱いていきまちゅからねー」
「テメェもう40超えてるくせに、何がお兄ちゃんだバーカ! 同い年の奴らはもう孫抱えてるぜ! 孫!」
「うるせぇ年のこと言うんじゃねえ」
「そもそもテメェ、クッセえんだよ。臭いが移ったらどうする。いいから代われよ」
「おいっ、まてっ、乱暴すんな」
「えっ、ちょっ、うっっっわ、かっる! え!? なにこれ!? 軽すぎだろ!? やばすぎひん!? もっと食べさせてやんねえと! 腹いっぱい食べさせてやんねえと!」
「オメーの発言こそおじいちゃんじゃねーか完全にィ!」
「さっき酒かっくらってたんだぞ、その幼女!」
「しかも飲み干した時に“かーーっ!”つってたぞ!」
「完全にオッサンじゃん」
「そりゃ、中身クリスだし……」
「あー、うん、クリスだもんな……」
「クリスなんだよなぁ……」
「……でも可愛いから許す」
「は? 何お前ホモなの?」
「は? ホモじゃないが? てめーがお熱のアイドルよりずっと可愛いんだが?」
「あ? てめよしみちゃん馬鹿にしたんか? 今。よしみちゃん馬鹿にしたんか? ワレ。あ?」
「お手々シワシワ(笑)」
「戦争じゃあ! おどれぶっ殺したらあ!」
「な、なぁ、別にホモじゃねえよな? こんなに可愛いんだし、別にホモじゃねえよな? 正常だよな?」
「うんうん、ホモじゃない、ホモじゃないよ」
「わかる。こんだけ可愛けりゃ元が男とかどうでも良くなる」
「ここまでくるとオチンチンついてても許せるよね」
「いやそれはない」
「完全にホモ」
「ちちちちげぇし、ホモじゃないし」
「この料理食っていい? 腹減ってんだよね」
「おいその酒飲むな! それ薬入り!」
「なんでお前ブラしてんの?」
「ブラじゃないよ。これは大胸筋矯正サポーターだよ」
「ヘッブシッ!!」
「きったねえな! 手で覆えよ! 口を!」
「でへへ、わりわり」
もはやただの烏合の衆だった。
それも致し方ない。酒場の店主も含めて、ここにいるのは全員が関係者。クリスが眠った時点で作戦はほぼ完了なのである。
ザワザワと好き勝手に騒ぐ男衆に、一つの声がかかる。
「なんか楽しそうなことやってんじゃねーか。俺も混ぜろよ」
「んだテメ、ンッッッ!!」
「ヒッ!」
ギィコギィコと、斜めに揺れる椅子が不穏な音を立てる。
「……サ、サイラス……」
ニヤニヤと笑うサイラスがそこにいた。
いつから、どの瞬間からそこにいたのか、誰一人として気付いた者はいなかった。
「おいおい、な~に驚いてんだ? 俺がいたらなんかまずいか? ん?」
「いいいいやぁ、んなことねぇよ。いひ、いひひ」
「そそそそうだ、お、お前んとこの相棒が、よ、酔い潰れちまったんだ」
「そうそう。それで今からアンタんとこに連れてってやろうと思ってた所でさァ。へ……へへへ、決して邪な事など考えてねぇ。神に誓って!」
「おー、そっかそっか、面倒かけたな。じゃあそいつはその辺に寝そべらせて、お前ら全員そのまま帰れ」
「……」
烏合の衆に剣呑な空気が立ちこめる。
用意した料理も薬もタダではない。相手はサイラスただ一人。対してこちらは十人以上。やるなら今しかない。
そろりそろりと一人の男が背後に迫る。
それに気付いた様子もなく、サイラスが口を開く。
「お前らさぁ……」
サイラスが、ゆらりと立ち上がる。
「まさかその人数で……」
ゾクリ!
不意に男たちの背中に冷たいものが走る。
「俺に勝てるなどと、考えちゃいないだろうなァ……?」
バタリ。
サイラスの背後から近づいていた男が、唐突に崩れ落ちた。
サイラスが攻撃した様子は一切なかった。
今倒れた男が一体何をされたのか、目の前で見ていたにもかかわらず全くわからない。
空気が冷える。
不安が押し寄せる。
悪寒が走る。
冷や汗が流れる。
本能が危険信号を発する。
逃げたい。だが、足が動かない。
膝が震える。
歯がカチカチと打ち合う。
サイラスから目が離せない。
怖い。見たくない。見たくないが、見なくてはならない。
目を離したら、その瞬間に終わると直感が囁く。
悪寒と汗が止まらない。
小便が漏れそうだ。
明確な死の予感が頭から離れない。
逃げたい。逃げたい。逃げたい。
「もう一度だけ言うぞ。クリスを置いて、全員帰れ」
揺らめく闇を纏い、眼だけが怪しく輝く悪鬼がそこに居た。
賊は一目散に逃げだした。
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