イリスは現状に混乱していた。
この国の神官であるレイモンドゥスが元凶で、その男が神と崇める異形に親友のセラフィーナが醜く悍ましいモノで犯されそうになり叫んだ。
そんな中で突然城内にいた自分とセラフィーナ、そして、レイモンドゥス以外の全てが凍り付いたと思ったら、一度自分が顔を取り調べをした獣人、氷狼族のハクアがいる。
「(いったい、何がどうなっているのだ……!?)「おい、お姫さん。」っ!?な、なんだ?!」
「そこのエルフの女の人、無事だが速く助けて離れな。」
「っ!分かった、すまない!!」
イリスはハクアに諭され、セラフィーナの下に駆け寄ると、凍り付いた触手を剣で砕いて彼女を抱えて離れる。
「セラ!セラ!!」
「はぁ、はぁ……イリ、ス……。」
「っ!?待たれよ、イリス将軍!?セラフィーナ様は渡しま『ゴオオオオオオッ!!』っ!!!?」
レイモンドゥスは背後から感じた冷たい殺気に、止めようとした動きを止めた。
その隙にイリスはセラフィーナを抱え、ハクアの傍を通り過ぎる。
「……今回の件、必ず相応の礼はする。」
「良いから、早く離れて。話はそれからだ。」
「あぁ、すまない……!」
イリスはハクアに深く頭を下げると、セラフィーナを連れて離れていったが、それを見ていたレイモンドゥスは涙を流していた。
「?なに?泣いてんの?」
「これが、これが泣かずにいられましょうか……!?
あと少し、あと少しで神子が見られるという所で、セラフィーナ様を奪われ、あまつさえ……あまつさえ!!
真なる神に、この様な無礼を働くとは!!?何たる愚かで不信心な“
「……。」
「あなたのような方には分からないでしょうが、今、この世には”真なる神“の存在が必要なのです。
世を正すために神子を授け、この穢れきった世界を清める必要があるのです!!」
「ふぅん……で?」
「は?」
自分の意見を熱弁したレイモンドゥス。
しかし、ハクアから帰ってきたのは、「で?」だけであった事に呆然とする。
「いや熱弁してる所を悪いんだが……あんたの言葉、上っ面ばかりで何一つ心に響かねぇんだ。」
「なっ!?わ、私の言葉が、うう、上っ面ぁ!!?」
ハクアにそう言われ、レイモンドゥスは目を見開くが、ハクアは続ける。
「あぁ。だってお前の言葉矛盾してんだよ。
“世を正すため”?そいつは結構な事だが、そのタコが元凶だろう外に出てきた黒い奴ら。
あれの何処が世の中に必要なんだよ?
それにあんた、あのイリスって姫様にも言ってたけど、人が死んでも、それを“尊い犠牲”なんて言葉で済ます時点で矛盾してんだよ。」
「っ!だ、黙れ黙れ!!獣には解らないであろう!?
この世を正すのには、少しの犠牲も已む無しなのだ!!
それすら解らぬ畜生に、神の声を聞いた私の言葉な理解出来まい!!」
「うん、したくもないね。」
顔を真っ赤にしてハクアを指差して罵倒するが、軽く返された事で、レイモンドゥスは更に顔を赤くして怒りに震える。
「こ、の……っ!!獣如きがあああっ!!
我が真なる神よ!!!その戒めの氷を溶き、あの不信心な獣に神罰をお与え下さい!!」
ピシッ!ピギギッ……バアアアンッ!!
真なる神こと黒いタコの怪物は氷を砕くと、ハクアに向かって襲い掛かる為に迫っていく。
そして触手を伸ばして、叩き潰そうとするが、その瞬間にタコの足はハクアの出した雪嶺によって一閃され、切断された。
ドオオオオンッ!!
「グギイイイイッ!!?」
「なっ!?わ、我が真なる神よぉぉぉっ!?」
「よく見るとグロいな?
これは煮ても焼いても食え無さそうだ。」
神(タコの足)を2本も切り落とされ、それを見たレイモンドゥスは恐れ慄くが、ハクアは興味なさげであった。
「き、きき、貴様なんたる事を!!?
真なる神の足を切り落とすなど!!!」
「いや知らねぇよ。んで、もう終わり?」
「ひっ!?か、かか、神よ!?どうかあの獣に神罰をおおっ!!」
タコはハクアに向かって突進していき、巨大なタコ足を振り上げて襲い掛かるが、ハクアはそれを躱しながら、距離を取ると自分の前に3つの氷で出来た狼の頭を作り出す。
「氷狼の牙。行けっ!」
ゴオオオオオッ!!!
ガブッ!ガブッ!!ガブッ!!!
「〜〜っ!!?」
「なっ?!か、かか、神よおおおおっ!?」
ハクアの放った3体の氷の狼の牙、それはタコの身体に深々と突き刺さり、今度は身体の芯まで凍結させていくと、タコは完全に動かなくなる。
その光景を信じられないとばかり震えるレイモンドゥス、しかし、そんな彼に対してハクアはただ一瞥すると、雪嶺を鞘に納めて後ろを向く。
「な、ど、どこに行く!?」
「帰る。あんたみたいなのに割く時間が勿体ない。
あとは姫さんに処罰なりなんなりされるんだな。
俺はあんたに興味は無いし。」
「な、何だと……?!私が、裁かれる……?
この、私が……!!?」
この後自分に訪れる結末を知ったレイモンドゥスは、震えながら自身に背を向けて歩いているハクアを見ながら、懐に隠していた短剣を取り出すと、背後からハクアを刺そうとする。
「分かった。どうやら……死にたいらしいな。」
「〜〜っ!!!?う、うわあああああああああっ!!?」
レイモンドゥスはその時、ハクアの眼を甲高い悲鳴を挙げた。
その後、セラフィーナを自身の部屋に避難させたイリスが部下の騎士団員を連れて、ハクアの下へと向かう。
すると、そこには氷の牢獄に閉じ込められたレイモンドゥスと、それを見ながら立っているハクアがいた。
「ハクア殿!?これは、レイモンドゥスはどうなったのだ!?」
「これは“絶氷牢”。この氷の檻に閉じ込められた者は命を搾り取られながら、ゆっくりと死んでいく。
氷は俺が解除しない限り溶けない。」
「そうなのか……?それは、凄いな。」
「とりあえず城の氷だけ溶かしておく。」
ハクアは城の氷を溶かすと、兵士や騎士達は驚いていたが、イリスの咳ばらいでハッとして片付けを始めた……。
2日後、ハクアはイリスに連れられて、アウレリア王国の彼女の自室へと向かっていた。
そこで彼に会わせたい人物がいるとのことだ。
「(会わせたい人って誰だろ?個人的には、そことなく何か……。)」
「ここだ……セラフィーナ様、件の人物を連れて参りました。入ります。」
「えぇ。お願いします、イリス。」
「……ハクア殿。これから会う人物には失礼の無いように頼む。」
「?あぁ、分かった。」
イリスが扉を開けると、そこには1人の“裸のハイエルフ”が立っていた。
「お初にお目にかかります。白き狼の戦士、ハクア殿。私はセラフィーナ・レナトゥス。
この度はアウレリア王国を助けてくださり、感謝いたします。」
「……。」
「?あの、どうかなさいましたか?」
「ハクア殿?」
「ぶはっ!!?」
「「なっ!?」」
ハクアは鼻血を吹き出し、そんな彼を見てイリスとセラフィーナは戸惑ってしまう。
ハクア、ラドミラに会って以来、2度目の出血である。(いい加減に慣れろよ。)
「(な、何でラドミラさんといい、この人といい、極端な人が多いんだ…?)」
「は、ハクア殿?どうかなさいましたか!?」
「え!?あ、い、いえ!大丈夫、です……!!」
心配しながら近づいて来るセラフィーナに、ハクアは大丈夫と言いながら顔を背けている。
この男、女に早く慣れればいいのに……。
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