久しぶりに晴れたということもあり、俺たちは外でデートをすることにした。
お互いの指を絡ませながら歩いていると、道行く生徒たちからの視線を浴びる。
「……めっちゃ見られてる」
「ふふっ、見られてるね。みんなどうしたんだろう?」
わかっているくせに、知らないふりをして首を傾げる桔梗ちゃん。
今の俺たちは、超がつくレベルの美少女の隣に、特にイケメンでもマッチョでもない男がくっついている状態である。自分を貶めないと決めてはいるが、第三者から見て明らかに釣り合っていないのはどうしようもない事実だろう。仕方がないこととはいえ、複雑な心境だ。
「蒸し暑い。帰ったら一緒にシャワーでも浴びよっか」
「ぶふっ!」
とんでもない発言に吹き出してしまった。外でそれを言うのか……
こんな感じで、今日の桔梗ちゃんは全く遠慮してくれない。
会話の内容が際どいこともあり、俺たちは目立ちに目立ちまくっていた。
桔梗ちゃんの希望により、ケヤキモールへとやってきた。休日であるからか人で溢れかえっており、どの店も大変な混雑となっている。
「みんなここに来るんだな」
「ここ以外で、遊べるようなところは少ないからね」
恋人をエスコートできるほど、俺はこの場所に詳しくない。しばらく歩き回るうちにそれを理解してくれたらしく、桔梗ちゃんが手を引いてくれるようになった。
うーん、自分がかっこ悪くて恥ずかしい。幻滅されてないといいが。
「なんかごめん。今の俺、めっちゃつまらない男だわ」
「……変な心配しないでよ。あなたにそういうのは求めてないから」
フォローしてくれたことで、だいぶ気持ちが楽になった。本当に優しくて感動する。
俺より優れた男はいるかもしれないが、俺以上にこの子を愛している男はいない。こうやって無理やりにでも自信を持つことで、だんだんと周囲の目が気にならなくなってきた。
「大好きだよ、桔梗ちゃん」
「ありがと。こうして一緒に歩いているだけで、私はすごく幸せだから……ね?」
ぎゅっと手を強く握りしめてから、再び歩き始める。ようやく俺も気持ちが乗ってきた。
……デートというのは、お互いプラス思考であることが重要なのかもしれない。
昼食をまだ摂っていなかったため、俺たちは近くのカフェに入った。
俺はアイスコーヒーとサンドイッチを注文してから、空席を探すことにした。
店内をぐるりと見渡すと、見たことのある顔もちらほら。そんな中で、誰も座っていないテーブルを一つ発見した。小走りで向かってそれをどうにか確保する。なかなか大変だ。
「どこも混みすぎだろ、マジで」
「昨日まで、ずーっと雨だったからね。みんな外に出たかったのかも」
人混みに慣れていないからか、どっと疲労感が増してくる。毎日こんな思いをしながら、満員電車で通勤している全国のサラリーマンたちを深く尊敬する。あなた方はすごい。
桔梗ちゃんも食べ物と飲み物を一品ずつ注文し、トレーに乗せてこちらへやってきた。
……テーブルの対面ではなく、あえて隣に密着する形で座った。
「あの、桔梗ちゃん?」
寄り添うように、身体を傾けてきた。可愛らしい横顔を見ると心がドキドキしてしまう。
俺たちは初歩的な恋愛の過程を全てすっ飛ばして、ゴールまで到達してしまっていた。そのため、普通のカップルが日常的に経験するようなイベントでも、どこか新鮮に感じるのだろう。
……なんて理由は後付けで、結局のところ俺が彼女を好きすぎるだけの話だ。
「ふふっ、偶にはこういうのもいいね。はい、あーんして」
「あ、あーん」
口を開けると、フォークに巻いた一口分のスパゲッティが放り込まれる。
醤油ベースの味わいが広がった。和風パスタというやつだろうか。
「もう、動揺しすぎだって。もっと恥ずかしいこと、いっぱいしてきたでしょ?」
「そうだけど……」
俺の照れた表情を見て、桔梗ちゃんは楽しそうに笑う。そんな顔も可愛くて、さらに心拍数が上がってしまう。今の俺は、初めての彼女に舞い上がっている青二才に過ぎなかった。
人とのコミュニケーションという分野において、彼女とは絶望的なほどの差がある。何せ、まともな友人関係すら築いてこなかったのだ。こういう場面で上がってしまうのは必然といえる。
「この後どこ行こうか?私は服が買いたいな~」
それでも、桔梗ちゃんは嫌な顔一つせず俺を引っ張ってくれる。俺が今まで犠牲にしてきたものを、拾い上げてくれる。その気遣いには感謝してもしきれない。
感情の昂ぶりを抑えきれず、肩を抱き寄せてしまった。
「……ずっと一緒にいよう」
「ちょっと、急にどうしたの?……言われなくても、私はどこにも行かないから」
頭の中が彼女のことでいっぱいになる。
混み合う店内で、俺たちは二人の世界に入っていた。
ケヤキモールの中にある、洒落たブティックを訪れた。生まれてこのかた、一度も入ったことがないような雰囲気の店だ。自分が場違いなのではないかと、変な緊張感に襲われる。
来たは良いものの、ポイントに余裕がない。買えるかどうかわからないが……
「これ可愛くない?」
「……桔梗ちゃんだったら、何を着ても可愛いよ」
試着室から出てきた姿を見て、正直な感想が口をつく。
お世辞などではない。全部似合うというか、本人の魅力度が高すぎるのだ。
「ええっ、それじゃ服を選べないよ……そう言ってくれるのは嬉しいけどね」
当然のごとく、ここでも目立っている。カップルで来店している男が桔梗ちゃんを見つめてしまい、彼女にしばかれているのを目撃した。ごめんと心の中で謝っておいた。
俺たちが服を選んでいる間、一人の生徒がこちらを見ていた。ふわっとした長めの髪と、どこぞのアイドルのように可愛らしい顔立ち。モデルのような体形。総じて目立つ容姿をしている少女が、これまた男共の視線を受けつつ近寄ってくる。
「あっ、桔梗ちゃんだ。やっほー」
彼女はとびきり明るい表情で、桔梗ちゃんに声をかけた。一体誰だろう?
……前世の記憶を辿って、どうにかその名を思い出した。
一之瀬帆波。Bクラスのリーダー格である生徒だ。俺とは全く面識のない人間であるが……
「帆波ちゃん、来てたんだ」
当然のように、友達として扱っている桔梗ちゃん。入学してから3ヶ月程度で、ここまで交友関係を広げられるのはすごいの一言である。
「そうそう……二人はデート中かな。ごめんね、お邪魔して」
俺の姿を認識した途端、申し訳なさそうにする一之瀬。この言葉が建前ではないことは、すぐにわかった。さっそく彼女の人間性が出ている。
「彼氏さんは初めましてだね。一之瀬帆波ですっ、よろしくね!」
「ああ、高城晴翔だ。よろしく頼むよ」
彼女は他クラスの生徒だ。九月末までの間に、絡む機会が多いとは思えないが……こうして笑顔で元気に挨拶してこられると、返さざるを得ない。
一之瀬は、俺が今まで出会ったことのないタイプの人間だ。
裏表のない善人。表面的な振る舞いは桔梗ちゃんと似ているが、その内面は百八十度異なる。
これが「素」であるというのは、俺からするとかなり奇妙に感じる。少し不気味といってもいいかもしれない。桔梗ちゃんの性格に慣れているからだろうか?
「私たちは、そろそろ行くから……またね」
「うん。また学校で」
突然、桔梗ちゃんは俺の手を引いて、足早にその場から立ち去った。
察するに、一之瀬とはあまり長話をしたくなかったのだろう。彼女がこういう対応をするのは非常に珍しいことであるため、こちらとしても多少驚いた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
いくつか買い物をした後、俺たちは部屋へ戻った。
歩き回っていた時間が長かったこともあり、すでに夕方となっている。
俺は手荷物をテーブルの横に置いてから、ベッドへと腰掛けた。さすがに足の疲労感が強い。
桔梗ちゃんも疲れた様子で座った後、大きなため息をついた。
「……あの女には、あんまり会わせたくなかったんだけどなあ」
苦笑い。やはり、あの行動は一之瀬から距離を置くためのものだったようだ。
そこに関しては思っていた通りだが、ちょっと気になる言い回しである。「会いたくない」ではなく、「会わせたくない」とはどういうことだろう?
「あいつと俺の組み合わせが、嫌だったの?」
「嫌ってほどじゃないんだけど……あの子って、可愛いじゃない?」
「ああ……変な気は起こさないよ。そもそも、桔梗ちゃんの方がもっと可愛いし」
一之瀬の事情は、知識として知っている。とはいえ所詮は他人だ。肩入れするつもりなど一切ないし、桔梗ちゃんが望まない関係を構築する気もない。
「ありがとう、その言葉は本当に嬉しい。変なこと言ってごめんね」
こちらの回答に納得したのか、桔梗ちゃんは笑った。
この子以外に気持ちが向くことなんて、絶対にありえない。
「俺はお前のことしか考えてないから、心配しないでくれ。他の女に走るなんて、一生起きることはないイベントだ。もしできるのなら心の中を見せてあげたいぐらい」
「そうだよね……わかってるはずなんだけど。こんなに自分が嫉妬深いなんて思わなかった」
自嘲的にそう語ってから、彼女は部屋の天井を見上げた。
嫉妬深い。それは深い愛情の裏返しであるため、俺にとっては嬉しくもある。
思い返してみると、そういうことなのかもしれない。元主人に対する態度も、恵ちゃんを自立させる方針も、一之瀬を引き離したのも……全部、俺に目を向けさせないため?
「……可愛い。なんで、桔梗ちゃんってそんなに可愛いの?」
「えっ?」
「あー、やばい。早くシャワーを浴びよう。いろいろと我慢ができなくなってきた」
だんだん語彙力も無くなってきた。頭に可愛い以外の単語が出てこない。
そんなことまでして独占したいって、どれだけ愛されてるんだ俺は。
「はぁ……なんか、悩んでた私がバカみたい」
桔梗ちゃんは呆れた顔をして、風呂場へと向かう。
照れているのが丸わかりだ。そういう意外と単純なところも、またこの子の魅力で……
(いくつになっても、こういう関係でいたいな)
暑い夏。それに負けないぐらい、俺の恋心は熱くなっていた。
一之瀬さん初登場です。
次回はえっちなシーンが入るかもしれません。需要があるかはわかりません。
あちらもお待たせしていますが、週末には更新できそうです。
実は、あの子と本質的に相性が良くないのは両作品で共通した設定です。すれ違ってばかりな感じが、あの作品で描写できているかはわかりませんが……蛇足でした。