思いつきなので、とんでもない駄文となっております。妄想を書き連ねただけです。
また、書きたいところだけ書くので、ここまでの過程などは書く予定がありません。細かい部分は皆さまのご想像にお任せします。
高度育成高等学校。
俺は元主人……坂柳有栖に捨てられて、大した目的もなくこの学校へやってきた。
半年間という約束で、父に促されて入学したのだ。
「晴翔くん、どうしたの?」
俺の顔を覗き込むのは、一之瀬帆波……最近Aクラスとなった、このクラスのリーダーである。ここに至るまでには、いろいろなことがあった。中間テストから始まり、夏休み中に行われた船上試験まで……俺たちはその全てにおいて圧倒的な勝利を収めてきた。
そんな芸当ができたのは、俺が転生者であるからだ。前世の知識をフル活用して立てた戦術を、帆波へと共有した。いわば、チートを使って敵をなぎ倒してきたようなものである。
そこまでして勝とうと思った理由は、自主退学の際になるべく後ろ指をさされないようにするためだ。スムーズに辞めること。それが俺の最大の目的であった。
今日は二学期最初の日。退学の意思はすでに伝えており、書類も提出済みだ。
10月1日付で記入したそれがきちんと受理されれば、ここでの学校生活は終了する。
「おーい、晴翔くん!」
「ああ、すまんすまん。ここを辞めた後どうしよっかなって」
「……えっ?」
帆波が首をかしげる。そういえば、まだ話していなかったな。
「俺は来月頭で退学するんだ」
「ちょっと、そういう冗談はやめてよ~」
まだ信じられないようだ。俺はいたって真面目な顔で、話を続ける。
「いや、嘘でも冗談でもない。星之宮先生とも、夏休み期間中に話し合った。俺の考えを尊重してくれるということで、すでにまとまっている」
「そ、そんな……そんなことって……」
星之宮先生には感謝しかない。生徒の背中を押すことが、先生の役割……退学届を渡したときに聞いたその言葉は心に響くもので、退学後も持っていこうと思った。
固まってしまった帆波をよそに、俺はそそくさと部屋へ戻った。
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夜になった。この部屋に住むのも、あと一か月。思い入れがあるというには短すぎる期間だが、それでも少し寂しさを感じる。なんだかんだ、愛着が湧いていたのかもしれない。
トントン、と扉をノックする音がした。いつものように、彼女が来たのだろう。
「よう、さっきぶり」
言い切る前に、抱きつかれてしまった。
「いなくならないでっ……」
目を腫らして泣いている姿は、学校での彼女からはなかなか想像ができないものだ。寂しがる程度には好かれていたのかと、少し嬉しくなった。
「お前なら大丈夫だって。みんなからの信頼も勝ち取ってるし、実は俺が退学することによるペナルティは発生しないことになった。戦う条件的にはかなり良いはずだ」
「違う、ちがうの。私はあなたがいないと……」
この学校では友達を作らないと決めていた。しかし、帆波だけは例外だった。
彼女は非常に人当たりが良く、素晴らしい人格を持っている。善人中の善人といってもいい存在に、入学直後の俺は強く興味を惹かれた。
当初は、俺が知識として持っている彼女のエピソード……それを脅しの材料に使って、話し相手にでもなってもらおうかと思っていた。だが、持ち前の明るさを曇らせることに抵抗を感じたため、結局その計画は取りやめた。優しさを失った俺の心を動かしてしまうほど、彼女は温かく優しい女性であったのだ。
「よしよし、まだ退学までは時間がある。明日いなくなるとか、そういう話じゃないから」
「ぐすっ、退学なんてやだぁ……私と一緒にいてほしい」
……実際に裏表のない優しさを目の当たりにすると、眩しく感じてしまう。これこそが彼女の最大の魅力であり、誰もが彼女を慕う理由である。
その後は特別試験などを通して、普通の友達関係を築いてきたと思っている。その中で彼女は成長したし、俺としても得られるものはあった。ここまでカリスマ性のある人間と触れ合える機会など、そうそうあることではない。退学の意志は揺るがないとはいえ、この学校に来てよかった、彼女に出会えてよかったと断言できる。
涙を流す帆波をどうにか部屋の中へ連れていって、ベッドの上に座らせた。
「いつも頼ってばかりだから、私のこと嫌いになっちゃったのかな。ごめんね……」
目を伏せて謝りながら、縋りついてきた。さっきからずっと大泣きだ。
どうやら、大きな勘違いをしているようだ。嫌いか好きかと聞かれれば、迷わず好きだと答える程度には気に入っている。ただ、俺は一度決めたことを覆さないというだけの話である。
……長い間、彼女に頼られていたことは事実だ。過去の万引きの話を直接聞いたのは、確か7月のこと。俺はその告白を真剣に聞いた後、大したことではないと励ました。
それ以降も弱さを曝け出せる相談役として、時々部屋へ招いて悩みを吐き出させていた。
「嫌いになんかなってない。帆波は、この学校でたった一人の友達だ」
俺の言葉を聞いて、ようやく泣き止んでくれた。顔を上げると涙がこぼれてきたので、それを指で拭ってやった。すると彼女は優しく微笑んで、気丈に宣言した。
「これから一か月、晴翔くんに残ってもらえるように頑張る。クラスのみんなにもそう言ってあるんだ。今までのお返しになるかはわからないけど、私の想いを受け止めてほしい」
「わかった。それでも、多分気持ちは変わらないと思うが……」
帆波に対して情がないわけではない。だが、俺のあこがれ……普通の高校生活への渇望は、それを上回る。前世からの夢を叶えるためには、この学校に残ることはできないのだ。
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翌日、登校直後に神崎から話しかけられた。
「……高城」
怒っているのか悲しんでいるのかわからないが、普段の冷静な神崎と違うことはすぐわかった。
俺は、彼にとってそこまで大事な存在ではないと思っていたのだが……神崎なりに、何か思うところがあったのだろうか?
「俺がいなくなった後、帆波のことを頼むぞ」
「断る」
俺の話を食い気味に否定した。やはり、いつもとは様子が異なる。
なかなか次の言葉が思い浮かばない。口を噤んだ俺を見て、神崎は一度ため息をついた。
「昨日お前が出ていった後、一之瀬はどんな顔をしていたと思う?」
ギロリと俺の顔を睨みつけて、そう問いかけてきた。回答に窮してしまい、黙って首を横に振った。この時、俺は神崎の中に怒りの感情が生まれていることを察した。
「……絶望的な表情だった。放っておいたら一人で死んでしまうのではないかと思うぐらい、酷いものだった。それを聞いても、お前はまだ何も感じないのか?」
そこまで話した後、星之宮先生が教室に入ってきた。ホームルームの時間になったことを理解して、神崎を含めた生徒たちが自席に戻る。圧力から解放された俺は、椅子にへたりと座り込む。
……本気で怒っていた。まさか、こんなことになるとは思わなかった。
数分遅刻して、帆波が登校してきた。先生は特に責めることもせず、着席を促した。
俺は何かを間違えたのかもしれないと、天を仰いだ。
昼休み。俺はお気に入りの場所である、屋上の日陰に寝転ぶ。
落ち着かない午前中だった。神崎とのやりとり以降、俺を非難する者は現れなかったが、暗い雰囲気がずっと教室を支配していた。俺が生み出してしまった暗雲は、クラス全員の心に負担をかけるものであった。このまま退学したら……Aクラスは崩壊するだろう。
沈む気分をどうにかできないものかと思っていたところ、快活な声が聞こえた。
「あっ、晴翔くん!」
帆波だった。朝に話せなかったということもあり、少し気まずく感じる。しかし彼女は明るく、俺が退学を切り出す前と変わらない態度で話しかけてきた。救われたような思いだ。
「おう、来てくれたのか」
「あのね、今日はお弁当作ってきたよ!」
……えっ?
突然の申し出に戸惑っている間に、帆波はてきぱきと準備を進める。
広げられた弁当の豪華さに驚きながら、俺は困惑していた。
今日は天気が良く、気温も暑すぎずちょうどいい。
帆波の手作り弁当を、二人で食べる。こんな日が来るとは思わなかった。白波あたりに知られたら殺されそうな気はするが、それでも嬉しいものは嬉しい。
「……めっちゃ美味しい。ありがとう」
「えへへ、よかった」
味はもちろん、これは相当に手間がかかっているものだ。一時間や二時間でできるものではない……まさか、帆波はそのために遅刻してきたのか。だとすれば、とんでもないことだと思う。
どうして、俺なんかにそこまでするんだ。どれだけ考えてもわからない。いくらクラスに貢献していたとしても、これほどの苦労をしてまで引き止める価値はないはずだ。
「ねえ、ぎゅってしてもいいかな?」
「……うん。でも、ここにいていいのか?教室で帆波を待ってる奴もいるだろ」
「いいの。晴翔くんのいない教室に、行く意味はないから」
持ち前の極端な優しさが、そうさせるのだろうか?
俺は帆波の体温を感じながら、答えの出ない問いを考え続けていた。
放課後、帆波は俺の部屋まで一緒についてきた。なんでも、一か月間うちに泊まり続けるらしい。利便性を考慮したのか、いつの間にか合鍵も作られていた。それはちょっと怖い。
「今日から、晴翔くんは私のご主人さまです!」
「……はい?」
「何もしなくていいからね。掃除も洗濯も、家事は全部私がやる。他にも、してほしいことがあったら言ってほしい。ご飯も食べさせてあげるし、それに……」
そこから先を言おうとして、顔を赤くした。
そして自然な動きで、お互いの手を重ねてくる。鼻腔をくすぐる微かな香水の匂いと、恥じらうような艶めかしい表情に、俺の心臓はドキドキと鼓動を早くする。
一体この感情はなんだろうと思っているうちに、手を離されてしまった。俺の口から「あっ」と小さな声が漏れる。それから、心が大きく動揺していることに気づいた。
……この子が俺をどうしたいのか、さっぱりわからない。
言葉に違わず、帆波は俺が普段やっている家事を全てこなしてくれた。手料理も振る舞ってもらい、これだけ見るとまるで幸せな夫婦の一ページのようだ。
お風呂が沸いたというので、俺はお言葉に甘えて先に入らせてもらうことにした。タオルや下着もすでに準備されており、本当に何もすることがない。
服を脱いで浴場に入った後、シャワーから出る水がお湯に変わるのを待つ。その瞬間、ガチャリと音がした。まさかと思いドアの方を向くと、生まれたままの姿になった帆波がいた。
「か、からだを洗ってあげなきゃって」
茹でたタコのように真っ赤な顔。綺麗な素肌と、芸術品のように美しいボディライン。
さすがにこれを見せられて何も感じないわけがなく、男の欲望が渦巻き始める。
そして、鈍すぎる俺はようやく全てを理解した。同時に、己の愚かさを恥じた。
いったい半年間何を見ていたんだ。帆波の想いを、今まで何一つわかっていなかった。
普通の友達?そう思っていたのは俺だけだ。彼女はきっと……
「……鈍感男で、ごめん」
俺の謝罪の言葉が、浴場に小さく響いた。
多分3話完結です。